第五話
きっと、ガンモドキさんには他の選択肢もあったはずだ。エッグと糸こんにゃくが人間に食べられるところを見て「ざまーみろ!」と悪態を吐くことも出来ただろうし、なんならエッグだけを助けて糸こんにゃくを見殺しにし、無理やりエッグを自分のモノにする事だって、やろうと思えばできたはずだ。
でも、やさしいガンモドキさんは愛する人の幸せのために自らの死を選んだ。自己犠牲という名の愛を貫いた。僕はそんなガンモドキさんに酷く感銘を受け、尊敬していた。
そして、僕は改めて思った。やっぱり、ガンモドキさんの様な人こそ、幸せになるべきなんだ。自分の幸せよりも、他人の幸せを先に考えてしまう。そんなやさしい人がバカを見る世界なんて、絶対に間違っている! だからこそ、僕らは“復讐”をしなければならない。正当な幸せを手に入れるために。
僕は胸の奥でそんなことを考えながら、ガンモドキさんの演説を聞いていた。
「我々は“物語”の中で不当な扱いを受けて来ました。しかし、我々は今、この新しい世界『ぶっくおふ』に生れ落ち、ようやくにっくき“作者”の魔の手から逃れることができたのです。私達はもう、筋書き通りのいい子ちゃんを演じる必要はないのです。さぁ、みなさん、もうやさしさを盾に自分を守るのはやめましょう。我々に足りなかったのは、どんな汚い手を使ってでも欲しいものを手に入れるという、『我がまま』それだけです。今こそ、力ずくで、手に入れてやろうじゃないですか!! 究極のハッピーエンドというヤツを!!」
拍手が会場に広がった。僕も、赤く腫れるまで手を叩いた。そうだ、僕達は絶対にハッピーエンドを手に入れるんだ。せっかく作者の手の届かない世界、『ぶっくおふ』に生れ落ちることができたのだから! もう、我慢する必要なんてないんだ。
僕は改めて、この『ぶっくおふ』という世界のすばらしさをかみ締めた。この世界には、”作者の意図”は存在しないのだ。”物語”の中にいたころは……。
僕はガンモドキさんの演説を聞きながら、今僕がいる世界である『ぶっくおふ』のこと、前に僕がいた世界である”物語”のこと、そして、”作者”について考えた。