第四話
~アニメ『おでんの恋は煮詰まった』のあらすじ~
それは、おでんの具達が住む世界、通称『ダシ地獄』での物語。
皆さんは今、おでんくんのようなほのぼの系のアニメを想像したかもしれないが、その想像はすぐに頭の中から消去してもらいたい。この『ダシ地獄』に住む住人の顔はやけにリアルに描かれている。ゴルゴ13の顔が、大根やちくわに描かれている画を想像してもらいたい。
そんな、少しリアルなおでんの具達の心の葛藤を描いたアニメ、それが『おでんの恋は煮詰まった』なのである。
さて、この物語を説明する上で、一つ重要なことがある。それは、このアニメの世界には一つの残酷なルールが定められているということだ。そのルールとは、
【“煮詰まった”おでんは食べごろなので、人間に食べられなければいけない】
というものである。
そう、この『ダシ地獄』では、“煮詰まった”具は人間に食べられてしまうのだ。そして、この世界で言う“煮詰まった”状態というのは、恋を実らせたり、夢を成し遂げたり、自分の心の葛藤に決着をつけたりした状態のこと。目標に向かって一生懸命生きて、その目標を達成した状態のこと。それを、“煮詰まった”状態と呼ぶのだ。
だから、『ダシ地獄』の住人達は皆、ちゃらんぽらんで、無責任な遊び人ばかりであった。なぜなら、そうやってテキトウに生きていれば“煮詰まる”こともなく、人間に食べられなくてすむから。自分の気持ちから逃げて生きていれば、死なずにすむから。
それでも、中には、答えを求めて日々葛藤するおろかなおでんの具もいた。たとえ人間に食われて死ぬとしても、成し遂げたい夢、手に入れたい恋があったから、自ら死を選ぶ具もいた。そして、このアニメの一番の見所はそこにあった。死に対する恐怖と、それでも夢や恋を追いかけたいと願う、おでんの具たちの心の葛藤。それが毎回視聴者の涙を誘った。
さて、そんな過酷な『ダシ地獄』に生まれた一人の男『ガンモドキ』。彼もまた、人間に食われる恐怖から逃れるために、ちゃらんぽらんな遊び人を装っていた。しかし、そんな彼の前に、一人の女性が現れる。
「こんにちは、ガンモドキさん」
彼女の名前は『エッグ』。肌の白い、美しい卵女だった。ガンモドキは一目で恋に落ちた。そして、その日からガンモドキの心の葛藤が始まった。ガンモドキは死の恐怖に怯えながらも、エッグのことをどんどん好きになって行った。そしてある日、彼は決意する。
【エッグのために、この命捧げよう】
そう決意してから、ガンモドキはエッグのために生きるようになった。エッグの相談に親身になって答え、エッグがピンチの時は必ず駆けつけた。そして、エッグが一人になりたいときは遠くからやさしく見守った。ガンモドキなりの愛情を、せいっぱい表現した。
でも、エッグが選んだのは別の具だった。
「私、糸こんにゃくさんの事がスキ!」
「僕もだよ、エッグちゃん…………あぁ、僕達はもう直ぐ人間に食べられてしまうね。でも、僕はこの気持ちに嘘はつけないんだ。エッグちゃん、一緒に人間に食べられよう。二人一緒なら、怖くないよ」
こうして、エッグと糸こんにゃくの恋は成就した。そして、それを見届けた人間は巨大な箸でエッグと糸こんにゃくをつかみ、食べようとした。そのとき、ガンモドキはあることに気がついた。
「エッグ……君はいつの間に…………」
そう、出会った頃はあんなに白くて美しかったエッグの体が、ダシに浸かって黒くなっていたのだ。このとき、ガンモドキは思った。
【私は、彼女の本質を見ていなかった。彼女は少しずつ、少しずつ変わっていたのに、その変化を見ない振りしていた。そして、出会った頃の真っ白なエッグだけを愛し続けていたんだ。そんな俺に比べて糸こんにゃく君はきっと、今の黒いエッグを愛していたんだ……】
「うおおおおおおおおお!!!」
ガンモドキは箸につかまれて宙に浮いているエッグと糸こんにゃく君に向かって飛んだ。そして、二人を箸の魔の手から見事に救い出した。
「二人ともいつまでも幸せにね……」
しかし、この世界のルールはそんなに甘くなかった。ガンモドキは二人の代わりに、人間に捕まり、食べられた。
―――これが、アニメ『おでんの恋は煮詰まった』のあらすじだ。