第三話
ドラマ『茨の鎖』の中でキャンディーさんが言った最後のセリフは、強がっているのがヒシヒシと伝わってくる名台詞だった。再放送のドラマを見ていたとき、僕は主人公よりもキャンディーさんの方に感情移入していたことを覚えている。
「タカシの出身は?」
「僕は……」
キャンディーさんに聞かれたので、僕が自分の出身を話そうとしたとき、
「みなさんお待たせしました。それでは、“復讐の会”を始めたいと思います」
ステージの幕があがり、池さんが現れて司会進行を始めた。僕とキャンディーさんは話を中断し、ステージに目線を移した。
「まず初めに代表からごあいさつをいただきます」
池さんがそう言うと、ステージの脇から一人の男性が現れた。
「諸君、こんにちは。今日はよく集まってくれた。私は“復讐の会”代表の『ガンモドキ』だ。よろしく」
“復讐の会”の代表は、知らない人は恐らくいないであろう超有名人、ガンモドキさんだった。ガンモドキさんと言えば、当時視聴率80パーセントを超えた伝説のアニメ、『おでんの恋は煮詰まった』出身であり、そのアニメの中でも主要メンバーの一人であった。
「僕、アニメ出身の人、初めて見ました」
「私もよ。なんか、テレビ越しに見たのと違って、気持ち悪いわね」
この“世界”では、いろんな物語の出身者がいる。僕やキャンディーさんのような『ドラマ』出身者もいれば、ガンモドキさんのように『アニメ』出身者もいるし、『ゲーム』出身者も『小説』出身者もいる。
「確かに、少し変な感じがしますよね。手の生えている所とか、足の長さとか、明らかに物理の法則を無視していますよ」
ガンモドキさんの見た目は、アニメ出身ということもあり、とてもユニークだった。卵に手と足が生えているような体型をしており、頭らしきものがないのだ。頭がない代わりに、その卵のような胴体に顔がある。わかりにくい人はハンプティーダンプティーを想像してもらいたい。だいたいあんな感じだ。
「でも、私ガンモドキさんのこと好きよ。あのアニメはすごくよかった」
「僕も同感です。ガンモドキさんの役所はすごくよかった。ヒロインの相談に乗ったり、ヒロインのために影で行動したり、とにかくけな気で、すごく良いキャラクターでしたよね」
僕はキャンディーさんとそんな雑談をしながら、アニメ『おでんの恋は煮詰まった』の内容を思い返した。