第一話
「ここかぁ……」
僕は交互に地図と巨大な建物を見て、目的地が間違っていないことを何度も確かめた。
「ピンポーン」
そして、おそるおそる呼び鈴を鳴らした。
「こんにちは。香川タカシくん……ですね?」
四十代くらいのスーツ姿の男性が出迎えてくれた。
「はい。そうです。よろしくお願いします」
僕は深々と頭を下げて挨拶をした。
「わたくし、池亀と申します。みなさんからは『池さん』と呼ばれています。タカシ君もそう呼んでください。それでは、会場に案内しますのでどうぞお入りください」
“紳士的”、この言葉が良く似合う人だと僕は思った。物腰が穏やかで、しゃべり方も速すぎず遅すぎず、独特な間を持っている。顔立ちも端正で、背も高く、人柄の良さも雰囲気から感じ取れた。
こんなに素敵な人でも、“結末”はダメだったのか……。そう思うとなんだか腹が立ったし、悲しくなった。何で“主人公”はこんなに素敵な人を選ばなかったのだろう? 何で……
「さぁ、会場に着きましたよ」
僕がゴチャゴチャ考えているうちに会場に到着した。会場にはすでに三十人近くの人が集まっており、そこら中で雑談をしていたため、ガヤガヤしていた。
「もうすぐ“代表”の話が始まりますから、お好きな所で聞いてください」
そう言うと、池さんは会場の奥にあるステージ裏へと姿を消した。僕は池さんに「ありがとうございました」と会釈をした後、居心地の良さそうな空きスペースを探してそこに座り、一息ついた。
「ハロウ!」
僕が一息ついて数分経った頃、一人の女性に声をかけられた。
「私『キャンディー』っていうの。あんた名前は?」
キャンディーと名乗る若い女性。年は20前後で髪は金髪。おそらくハーフであろうその風貌は鼻筋が綺麗に通っていて、美人だった。身に着けているものは派手で、高価そうなものばかりだった。その身なりから、かなり裕福な家庭のお嬢さんであることが見て取れた。ただ、態度がでかく、威圧的であり、プライドが高そうな印象を僕は受けた。
……あれ? この人どこかで見たことあるような……もしかして……。
「香川タカシです。よろしくお願いします。ところで、キャンディーさんはもしかして、『茨の鎖』のキャンディーさんですか?」
僕はキャンディーさんの機嫌を損なわないように、少し丁寧な言葉で質問した。
「そうよ。私は『茨の鎖』出身よ」
「やっぱり! 僕見ていましたよ。やっぱり『茨の鎖』のキャンディーさんだ! いやー、こんな有名人に会えるなんて、光栄です」
『茨の鎖』、少し前に話題になった午後一時三十分、通称”昼ドラ枠“に放送されていたドラマだ。その内容は、こんな感じだ―――