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第十二話

 まるで、試合に負けた日の帰り道のようだった。誰もしゃべらず、うつむいたまま、トボトボと歩いていた。



 ゲルダーツさんの復讐失敗後、僕らは再びガンモドキさんの大豪邸に集まった。


「…………えっと、みなさん、とりあえずお疲れさまでした」


 沈黙が渦巻く中、ガンモドキさんが“代表”という責任感にかられて言葉を発した。


「…………」


 誰も反応しない。それでもガンモドキさんは負けじと、少し大きな声の独り言をしゃべった。


「えっと……、まぁ、その、皆さんの気持ちは分かります。でもね、このまま解散というのも、どうかと思うんですよね…………。とにかく、今回の復讐は失敗に終わりましたが、みなさん気持ちを切り替えましょうよ。次の復讐に向けて―――」


「ちょっと待って!」


 突如、ガンモドキさんの言葉をさえぎる様にキャンディーさんが声を上げた。ガンモドキさんを含め、会場にいる全員が「何事だ!?」という表情でキャンディーさんに注目した。


「もしかして、ゲルダーツさんの復讐をこれで終わりにしよう、って言うんじゃないでしょうね?」


「え……でも、これ以上どうしようもないじゃないですか。それに、ゲルダーツさん自身がこれ以上の復讐を望んでいませんし……」


 ガンモドキさんの頼りない声の言葉を聞いてから、キャンディーさんはゲルダーツさんの方を向いた。そして、強い瞳でゲルダーツさんの目を見つめて、言葉を発した。


「ゲルダーツさん、ほんとうにもういいの? あきらめたの?」


「…………」


 ゲルダーツさんはキャンディーさんの強くて純粋な瞳から視線をそらし、沈黙していた。


「ゲルダーツさん、何も答えないということは、まだ心の中ではあきらめられていないんじゃないの?」


「…………」


 キャンディーさんの鋭い瞳は一度もゲルダーツさんの目からそれることなく、ただ一点を強く射抜いている。そんなキャンディーさんの、雲間からこぼれる太陽の光の様な純粋な眼光に、僕はずっと見惚れていた。


「ゲルダーツさん! 黙っていないで気持ちを話してちょうだい! 残念だけど、今この状況じゃ私達は何もできないの。あなたが望んでくれないと、これ以上あなたの力になることができないのよ! 私はあなたの力になりたいの!! だから、『あきらめたくない!』と言ってよ!!」


「私は…………私は……」


 ゲルダーツさんは小さな声で、小さな思いを呟こうとした。でも、小さくて聞こえない。弱すぎて届かない。


「ゲルダーツさん、私は嫌なのよ。目の前に苦しんでいる人がいるのに何もできない自分と向き合うのが、すごく嫌なの。だから、もっと大きい声で、言ってちょうだい!! もう一度、私達に助けを求めてよ!! 大きな声で!!」


 僕はこの時、“彼女”のことを思い出していた。“物語”の中で、ずっと好きだった彼女のことを。そして、彼女が苦しんでいるときに、何もできなかった自分のことも、思い出した。胸が苦しくなった。そういえば、僕は彼女が苦しんでいるときはいつも、ただそばにいるだけの木偶の坊だった。


「私は! 私はクラリスのことが好きで好きでたまらない!! もう、あきらめたくない! 自分の幸せだけを考えて生きたい! でも、でも……それは、できません。私の望むものは彼女の幸せであり、その幸せは残念ながら私では与えられない……。私の望みをかなえるためには、私は身を引くしかないんです」


 ゲルダーツさんの表情はどこかさびしげだった。それでも、その瞳は先ほどよりも強く輝いていて、キャンディーさんの鋭い瞳をしかと見据えていた。


「それでも、私はクラリスともう一度二人きりで会いたい。この気持ちは消えてくれないし、消す気もありません。みなさん、どうかもう一度力を貸してください。やっぱり私は、あきらめられません。表面上では綺麗事ばかりですが、心ではいつもクラリスを求めて求めて止みません。一生あきらめきれません。私は、わがままになりたい。この『あきらめられない』という気持ちを、どうにか表現しながら生きたい。もう……もう、心の奥底にこの感情を沈めだまば生ぎるのは、ずらいんでずぅう!! いやばんでずぅうう!!」


 ゲルダーツさんは、泣いていた。泣きながら、言葉を必死に紡いでいた。目から口から汚い汁を垂れ流しながら、必死に「あきらめたくない」という気持ちと「あきらめなければいけない」という気持ちの葛藤を表現していた。


「みなさん、もう一度考えましょう。もう一度、ゲルダーツさんの復讐を行いましょう」


 ずっと黙っていた池さんがやさしい口調でそう言うと、会場のみんなは大きく頷いた。そして、再びゲルダーツさんの復讐を果たすべく、作戦会議を始めた。



すいません、かなり誤字があったので訂正しました。本当に申し訳ない。

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