第十一話
まるで、葬式の様だった。誰も口を開こうとしない。ゲルダーツさんの復讐は、見事に失敗したのだ。
今から3日前、僕らはガンモドキさんの大邸宅に再び集い、復讐の作戦会議を行った。
「―――私の望みは一つです。私は彼女と……クラリスと二人きりでもう一度、話をしたい。そのためには、“あの男”と彼女を引き離す必要があります。二人はいつも一緒ですから……」
ゲルダーツさんはとても“復讐”とは呼べない様なささやかな望みを、壇上でぼそりと呟いた。それを聞いた僕らいい人集団は、その望みを叶えてあげたいと思い、一丸となって作戦会議を始めた。
「とりあず、そのグラントという男とクラリスさんを引き離せばいいわけでしょ?」
「そうですね」
「それなら、みんなで協力して力ずくで取り押さえましょう」
「それは難しいかもしれません」
「どうしてですか?」
「グラントは非常に強い戦士です。しかも、魔王を倒してすぐ、この『ぶっくおふ』に生まれましたから、レベルがとても高い状態です。ここにいる皆さんが束になってもかなわないかもしれません」
「そうか……。それなら、お願いしてみましょうか? 力づくが無理なら、言葉でお願いするしかないでしょう」
「それもどうでしょうか……。二人はきっと、『一瞬でも離れたくない』と言うでしょう。二人の意識の中には、『クエスト×クエスト』での最後の言葉が深く刻まれています。二人は世界の平和という重圧を抱えながら、愛し合っているのです」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「…………」
会議は行き詰まり、みんなは沈黙してしまった。僕も特にいい案を考えることができず、無力な自分に少し落ち込みながら沈黙していた。
「ねぇ、ゲルダーツさん。グラントに弱点とかないの?」
そんな沈黙を、キャンディーさんはいとも簡単に破って見せた。キャンディーさんだけは他のいい人と違って、あまり大人しい性格ではなく、自己主張が強かった。世の中にはいろんなやさしさがある。キャンディーさんを見ていると、見た目のやさしさだけが全てじゃないと思えた。
「あ、そう言えば、グラントは魔法に弱いです。特に炎の魔法が弱点でした」
「それなら俺に任せて! 俺、『ファンタジー小説』出身だから魔法使えるよ」
大きな声でそう言ったのは、ファンタジー小説出身の『マライ』さんだった。マライさんは大きなガウンを羽織っていて、右手にはいつも豪華な杖を持っていた。頭には黒い帽子をかぶっていて、まさに絵にかいたような“魔法使い”の姿をしていた。
「それじゃあ、マライさんにお願いしましょう。マライさんの魔法でグラントを攻撃して、ひるんだところをみんなで襲い、クラリスさんと引き離しましょう」
こうして、僕らいい人集団は最終的に『魔法の力を使って力づくで二人を引き離す』という、字面だけみると何とも暴力的で冴えない作戦を決行することにした。その結果は……冒頭で言った通り、大失敗だった。