第十話
~RPGゲーム『クエスト×クエスト』のあらすじ~
それは、魔王が君臨する世界のお話。主人公である『クラリス』はとある王国のお姫様。そんなクラリスは魔王を倒すための旅に出る。そして、旅を進めるうちに多くの仲間と出合い、パーティーを組んで魔物との戦いに挑んでいた。そのパーティーの中には、白魔法使いである『ゲルダーツ』がいた。そして、そのゲルダーツの恋敵となる戦士『グラント』という男もまた、パーティーの一員だった。
「ふん、王の寵愛を一身に受けてぬくぬく育ったお姫様に、俺達平民の何がわかるというんだ?」
グラントという男は、屈強な肉体と精神をもつ戦士であった。
「下がっていろ! このへっぽこ姫さんよ! 邪魔なんだよ!」
しかし、ガサツで口が悪く、粗暴な男であった。
「そんなこともできないのか? 王の教育もたかが知れているな」
しかも、何かにつけてクラリスに悪態を吐き、ひどい扱いをしていた。王女という身分に生まれ、恵まれていたクラリスのことが憎かったのだ。それに比べて、貧困層に生まれた自分がみじめに思えて、悔しかったのだ。
「何よ! バカにして」
そんなグラントに対して、クラリスも初めのうちは嫌悪感を持っていた。
「痛い!」
「バカ野郎! だから無茶はするなと言っただろう!!」
「……ごめん、ありがと」
「ったく、非力なくせに出しゃばるなよな」
しかし、旅を進めるうちに、少しずつ、二人の距離は縮まっていく。
「クラリス、大丈夫? グラントさん、ちょっと言いすぎだよ」
一方、白魔法使いのゲルダーツは、旅の初めからずっとクラリスの側にいた、少し年上の神官であった。クラリスにとってゲルダーツは“お兄ちゃん”という存在であったが、ゲルダーツにとってクラリスは、出合ったころからずっと慕っていた、意中の女であった。
「クラリス、またケガをして……。ほら、回復魔法をかけてあげるかね。お願いだから無茶はしないでおくれよ……」
ただの女の子であるクラリスが長い旅の道中、無事に過ごすことができたのは、ゲルダーツの存在があったからだ。クラリスは全く知らなかったが、ゲルダーツの強力な防護魔法によって常に守られていたのだ。そして、ゲルダーツはそれをクラリスに教えようとはしなかった。いつでも言葉足らずの、与えるだけの愛でクラリスを見守っていた。
「魔王ゼゼス! お前はここで終わりだ!」
「ぐあぁ!! ……くくく、私が死のうとも、いつか私の代わりが現れることだろう……人間よ、つかの間の幸せを噛みしめるがいい!!」
魔王がいなくなり、世界に平和が訪れた。その瞬間、クラリスの隣にいたのは、ゲルダーツではなくグラントだった。クラリスが選んだのは、いつも自分を影で支えてくれる無償の愛ではなく、荒々しくてドキドキに満ちた、危険な恋であった。
「クラリス…………幸せにね」
心の底から望み続けた愛しい場所。魔王が倒れた今、そこに立つ権利を持っているのは、グラントただ一人。世界の平和の訪れとともに、一人の男の居場所は消えた。
“あぁ、私がクラリスの側にいられる唯一の理由が……なくなってしまったなぁ”
そう思ったゲルダーツはただ一人、作り笑いで平和を喜んだ。
これが、RPGゲーム『クエスト×クエスト』のあらすじである。
そして、物語の最後はこう締めくくられる―――
【お姫様と戦士は手をつなぎ、二人きりで歩いて行きました。二人の手は平和が続く限り、二度と離れることはないでしょう。二人の愛は平和の象徴だから―――きっとずっと、離れることはないでしょう】