別れ
さて魔王とは何か?の説明です
「う~ん…」
二日後
静紅は目を覚ました
一度伸びをして辺りを見渡す
「あの子はまだ寝てるのね…」
身体の調子を確認しあまり問題がないことを確認する
「なにかしら?」
そこでようやく本を発見する
「あの子に読んであげて…え~と、魔王の説明書」
少年が寝ていて暇だった静紅は本を開く
「ふ~ん」
一度読み終えて本を閉じる
(この子にとっては重石にはならなそうね…)
少年はまだ起きる気配は無くもう一度読み始める
「…」
二度目を読み終えた静紅
ようやく少年が起き上がる
「おはよ~身体は大丈夫?」
片腕の骨が粉砕された少年
だが、一度両手を握り開く
「…問題ない」
「そう…良かったわ…それで知ってほしいことがあるのだけど…いいかしら?」
「知ってほしいこと?」
聞く気はあるようで、静紅は本を見せる
「そう…魔王について」
「…文字は読めない」
少年ら会話を聞く環境にはあったが、文字を読む環境にはいなかった
必然的に文字を読む機会はなく、喋ることはまだできるが文字を読むことはできない
(だから…読んであげてって書いてあったのかしら…)
読めないことも確かに理由の一つに入るがそれ以上に少年は本を読まない
これを手に取ったのが静紅でなく少年の場合は確実に燃やしていた
「じゃあ簡潔に話すと…あなたは魔王と呼ばれる簡単にいえば魔法使いの王になったみたいね…それでその魔王の仕事は世界を守ること…それ以外は無いみたい、魔王を辞める方法は一つで魔王という称号をかけて戦いに負けること…はい、何か質問はあるかしら?」
他にもゴチャゴチャ何か書いてあったが不要だと判断して静紅は切り捨てた
知っておくべきだろうことを静紅は少年に教える
「…魔王になった…理由がわからない」
「…多分だけどあのアギトが魔王だったのだと思うわ…それであなたが殺したからそれでだと思うのだけど」
静紅の予想は当たっていた
「…世界を守ること?」
守るという言葉は少年にとって一番縁の無い言葉である
自分の命ですら守ろうと思ったことすらない
「…何かこの世界の危険があったらわかるみたいよ。まぁ多分だけど相手が絶対強者級で気まぐれで世界を滅ぼそうとしたらわかるのだと思うわ」
それも合っていた
世界が滅ぶ理由は絶対強者級の気まぐれで世界を滅ぼそうとした時ぐらいである
「あいつみたいに強いやつと殺し合える…か?」
「そうみたいよ…」
「なら…なんでもいい」
災厄と呼ばれようとガキと呼ばれようとも全く気にしない少年にとって殺せるならばなんでもいい
今までは宝で獲物を釣っていたがそれに魔王という称号が追加されただけである
「それじゃあ、これ渡すわね。読めるようになったら読むと良いわ」
《炎舞》
「ちょ…!!?」
渡した瞬間に少年の手から炎が本を包み込んで燃やした
「荷物はいらない」
所詮荷物である
少年は動きやすいように荷物は持たない主義である
今まで遺跡攻略して得た宝は全て放置して一番魔力が高くて貴重そうな小型の物だけを盗った
しかしそれも餌が釣れたら捨てるを繰り返していた
「…あなた、ちょっとそこで座ってて」
「…?」
盗賊として静紅はそれを許容するわけにはいかない
静紅は少年を観察し着物の袖から黒い布を取り出し座る
そして裁縫道具を取り出した
30分後
「はい、できた!!着てみて~」
静紅は物が完成すると少年に渡す
《炎舞》
そして渡した瞬間に本と同じように燃やす
「…燃えない?」
本と違うのはその物が燃えなかったことだ
「ふふ~結構レアな布でね、色々な攻撃に耐性があるのよ…拡げてみて?」
黒い布切れ
少年の考えていた印象はただ一つで拡げてもそれがフード付きのコートであっても変わらない
「まずね…突っ込まなかったけど…格好が汚いからそれに着替えて」
少年の格好は盗賊から剥ぎ取ったボロボロのズボンに布切れとしか言えないシャツにこれまた布切れとしか言えない外套である
今回のアギトとの戦いで更にボロボロになっていた
言うが早いか静紅は外套とシャツを剥ぎ取る
「…う~ん、手持ちであったかしら…?」
少年は何の抵抗もしない
実際にもはや邪魔だったからである
またてきとうに餌から巻き上げようと考えていた
静紅は着物の裾に手を突っ込んでガサゴソと何かを探している
五分後
「できたわ!!」
黒いズボンに白い袖がないシャツに黒いコートを着た少年が発見された
「うん!!これでよし!!とりあえず、そのコート以外はただの服だけどそのコートは役に立つわよ!!まずそこらの鎧より軽くて丈夫、身体に合わせて大きくなるし、何より内ポケットにはポケットのサイズ内なら何でも入るし、荷物にもならないわ!!」
目付きが物凄い悪いがそれを除けば普通の少年の格好に見える
「…もらう」
黒いコートを見ている少年
今まで宝の持ち運びがダルくて一つしか持たなかったがこれさえあれば宝を無尽蔵に入れることができる
つまり餌が多い分獲物の食い付きが多い
断る理由などはなかった
「さて…それじゃ宝の山分けをしましょ?」
最初の目的へと戻る静紅
「わかった」
二人は宝が格納されているであろう扉を開く
『…』
開いたが二人とも言葉は発しない
宝が無かったわけでも貴重なものばかりで声が出せないのではない
魔力のこもった貴重なものや金銭的な価値がある宝石でその部屋は埋め尽くされているが
静紅は一つの宝のみ盗りたいだけで他には目もくれず
少年はとりあえず片っ端からコートのポケットに詰めるだけである
「あったわ~!!」
目的の物を見つけた静紅
目がキラキラと輝いてとびきりの笑顔を見せる
静紅が手にしているものはナイフであった
だがただのナイフではなく、歪な形をしたナイフであった
そのナイフは絶対強者級であり、一流の鍛冶職人であるデスパラという男が作成したナイフ
デスパラはナイフしか造らない。また、そのナイフは奇妙な形をしていながらも切れ味は海をも切り裂くとまで言われて いる
デスパラシリーズとも呼ばれている
静紅がそれを狙っていた理由として格好いいからである
嬉しそうに年相応の子供のようにはしゃぐ
少年はそんな静紅を完全に無視してポケットにどんどん詰め込んでいく
「…」
少年が掴んだのは一本の刀
黒く黒いどこまでも黒い刀であった
鞘も鍔も握りも刀身も全てが黒い刀
《炎舞》
とりあえず燃やすことにした少年
普通の刀であれば焼失するはずだが変形もしていない
「…」
少しだけ気に入った少年は脱がされた服を無事な部分だけ引き裂いて刀を背中にくくりつけるための紐にする
そして再び宝をポケットに詰め込む作業を再開する
その間静紅は地面を転げ回りながら喜んでいる
「…」
再び少年の手が止まる
その手にはビンがあった
中には白い光の球体がゆらゆらと揺れている
躊躇いなくビンを握り潰して割る
すると光の球体はゆらゆらと揺れながら消えていった
「…わからないな」
割ったら封印されていた凄い強い何かが現れると考えていたがそんなことはなく、一体なんだったのか理解できないまま少年は次の宝をポケットに入れていく
ようやくポケットの口に入りきる全ての宝を収納した少年の表情は満足気である
「これからどうするの?」
「これから?」
「私はもうここに用は無いから次の宝を探しにこの森をでるのだけど…一緒に行きましょ?」
静紅の目的はあくまでもデスパラシリーズである
もう遺跡の森には無い
盗賊としてつるむのは好きではないが、それはつるんだ者が死ぬからであり少年ならばその心配もない
そして何より面白かったのだ
「…行かない」
「えぇ!!?」
しかし、少年の返答はNO
理由としてはここには獲物が来るからである
世界を知らない
国を知らない
街を知らない
そんな世間知らずの少年にとってこの場所は良い狩場であり、遺跡もあり退屈はしない
「そう…残念…じゃあ契約はこれで終わりね」
静紅はデスパラシリーズを集めたい盗賊である
少年にも少年なりの目的があってとどまると解釈した
理由を知れば狩場ならもっとあることを教えることができたのだか静紅は色々と生まれた場所なので事情があるのだろうと考えてすぐに諦める
本当に残念そうな静紅
「じゃあまたね」
「またね?」
別れの挨拶を知らない少年
少年が知っている別れの挨拶は死ねである
「再び会いましょうって意味」
静紅の笑みは少しだけ悲しそうな笑みであった
「…そうか…再び会うかはわからないが、またね」
またねと言われたのでその言葉通りに記憶した少年
違和感に笑ってしまう静紅
「ふふ…絶対また会うわよ…だって私とあなたは似てるもの…次会うときまでには名前を決めておいてね」
「わかった」
災厄と化物の共闘
一週間にも満たない時間だが、それぞれにとって価値のある出逢いだった
静紅は手を振って跳躍して消えていった
出逢いは唐突で別れも味気ないことだった
「…」
そして少年はそのまま今まで攻略した遺跡へと戻り宝をポケットへと入れた
静紅と別れた少年
静紅から黒いコートをもらった少年はとりあえず片っ端から宝を集めます。
少年にとってかなり便利な物でこれから活用していきます
ようやく序章が終わります。
これまでの話は少年がどんな人物か?を理解していただくための話です。
ここからが本編です