転校初日
ようやく学校に通うことになった飛影
異常は普通に馴染めるのか…
「眠い…」
東東高校の二年のある教室にある少年はいた
朝に弱いのか欠伸を噛みしめて、椅子に座り机に頬杖をついている
ブレザーをキチンと着ており、170㎝と平均的な身長で別に部活動をしているわけでもないが、痩せても太ってもおらず平均的なガタイである
黒髪のショートで顔立ちは整っている
名字は安倍川
名前は彗
彗はホームルームまでの時間をぼぉ…、としているのが基本型である
まだ新しいクラスになって一月しか経っていないがクラスの友人達もそのことは認識しており彗が話しかけられるのはホームルーム後というのが定例である
「おい、安倍川」
「ん?」
だがそんな安倍川に話しかける友人の一人
「今日は転校生が来るんだってよ!!」
5月という珍しい月に転校生がやってくるとのことで、クラス全体の活気がある
彗にも言うほどである
「あ~」
興奮気味な友人と違い彗は軽く流していた
興味は引かれるが、何より頭が回転しないのだ
「つれないな~まぁ安倍川だし…しょうがないか」
半ば予想はしていたため、友人も気を悪くしないで席に着く
教室のドアが開かれて、担任の教師が入ってくるとクラスが騒がしくなる
その後ろには誰もいない
「今日は珍しい時期だが、転校生がやってくる!!ってこの騒がしさ的に知っていたか…」
教師の報告などは周知のことなので生徒にとってはどうでもいいことである
複数の足音と共に教室に入ってきた
「おう!!元気かガキ共」
この学校の理事長であった
20代前半にしか見えない彼は理事長とは思えないほどの若さである
一部の女子が騒がしくなる
誰もが羨むモデル体型にイケメンな面
性格や、朝礼の挨拶が恐ろしく短いことにより人気は高い
だが、正体は人間界の魔王のダドマである
名前は最古神龍
もはや隠す気が感じられない名前である
「理事長!!?なにやっているんですか?お珍しい」
基本的に理事長室にいる理事長が教室まで入ることは珍しいことである
教師が思わず聞いてしまっていた
「転校生の案内だ、おい飛影」
理事長の後ろに無表情で立っている少年がいた
学校指定の制服ではなく私服に黒のコートを着ている
「おい…つまらん…面白いやつがいそうに無いぞ」
理事長相手にタメ口の少年
女子達は転校生の少年の評価に入っていた
「厄介ごとは起こすなよ…」
さすがにまた、そうだ京都行こうのノリで皆殺しをされては困るとダドマは釘を刺す
「…椿からも言われた」
だが刺す空間はすでに潰されていた
それなら一安心とダドマは安堵の溜め息を吐く
ダドマに背中を叩かれて強制的に教卓の前に立たされる
教室を黙ったまま眺めて生徒一人一人を確認している飛影
(ん?)
彗の所でとまり飛影がニヤリと笑っていた
飛影のその笑顔は面白いものを発見した時の笑みである
「自己紹介!!…俺は市原飛影だ!!好きなものは…ころし」
「そぉい!!」
いきなり無表情からテンションが上がっており、意気揚々と何かを言いかけた飛影の頭を思いきり叩いたダドマ
そのまま教卓に頭を押し付ける
「おま…」
「落ち着け…お前にはこの紙をやろう」
臨戦態勢に入ろうとした瞬間にダドマは飛影を離し、一枚の紙を渡す
いきなりの暴力沙汰にクラスが騒がしくなるが飛影はあまり気にしておらず、すぐに起き上がり紙を見る
「え~と…俺の名前は市原飛影だ、趣味は散歩、運動神経は良い方だが、頭は悪い…身長も」
言いかけた飛影は裏拳をダドマの顔面に放つ
「ほぶっ!!」
これ以上ないほどのクリーンヒット
ダドマの額に直撃して黒板に後頭部をぶつけた
「よぉし…殺されたいんだなこの野郎!!」
満面の笑みでダドマにゆらりと接近する
(この距離はまずい!!)
接近戦タイプの飛影と喧嘩するにしてもこの零距離はダドマにとっては危険な距離である
「いや、冗談だ冗談!!軽い冗談だ!!今ここでお前と殺る気は無い」
飛影とダドマの二人は存分楽しそうであるが、目の前で起きる暴力沙汰
特に教師が慌てていた
「次…やったら殺す」
身長の話しになると本気で切れる飛影
ダドマは一つ学習した
「最後によろしく」
この握りしめた拳をどこに向けようかと考えながら飛影は紙の最後に書いてあった台詞を棒読み気味に吐き捨てる
丁度良いタイミングでチャイムが鳴り響き、ホームルームが終了する
拍手も何も無く、不良としか思われていなかった
「じゃあ飛影頑張れよ、騒ぎは起こすな」
「あ~」
ダドマは見たいテレビが始まったことを思いだし、そそくさと退室する
あとに残ったのは、生徒達と教師、そして飛影である
理事長に手をあげる問題児をどうしようかと教師は悩む
「とりあえず…市原君はあそこの空いている席に」
授業を始めるためにも、まずは飛影を座らせる必要があるため教師は事前に用意していた空き机を指差す
「…」
『…』
沈黙
飛影は教師を睨み付けるかのように観察する
(やっぱりただの人間か…)
それきり興味を失う
今の飛影、教師が言った言葉は記憶していなかった
手持ち無沙汰であったため、空き机に座る飛影
だが、飛影が座ったのは確かに誰も座っていないがたまたま欠席した生徒の席だった
「よろしく!!」
理由は簡単であった
「あ…あぁよろしく」
面白そうな人間がいたからである
彗は飛影の雰囲気がまるで変わり、別人のようになっているのに戸惑うが飛影の出した握手のための手を握る
「…安倍川彗だ」
「そうか!!彗だな、よろしく!!飛影だ」
(いきなりファーストネーム!!?)
人懐っこそうな笑みを浮かべている飛影
基本的にその者を顕す名前で呼ぶ飛影の感覚は少し浮いていた
普通の人間であった彗と
気まぐれで世界を滅ぼす飛影の初邂逅であった
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午前の授業が終わり、彗はかなり戸惑っていた
午前の授業は数学、英語、歴史
教科書どころか筆記用具すら持っていない飛影は即座に授業をエスケープしてサボっていた
転校初日からすることではない
そして更に彗を困惑させるのは飛影のなつき具合である
飛影は午前が終わり、会話したのは彗だけである
不良と思われている飛影だが、彗と会話していると普通であるため他の生徒が話しかけていたが、少し観察してから完全に無視を繰り返していた
(俺…なんかやったっけ?どっかで会ったとか!?)
いくら考えても全く心当たりが無い彗
それも、当然で今日が初対面である
「何故俺の机で飯を食うんだ!?」
「堅いこというなよ彗!!」
あっはっは、と笑う飛影
彗の机に弁当を置いて食べていた
「お前な…」
よくわからない馬鹿
それが彗が感じた飛影への印象である
「なんか…お前の弁当やけに旨そうだな…」
飛影が食べている弁当
中身はただの唐揚げや卵焼きといわゆる普通の弁当であるが、何故か彗の眼には旨そうに見えていた
「母親が作ったのか?」
「ん?…いや優希、えっと従者だ」
最近できた家族の一員
ダドマが建てた屋敷が大きく、飛影と黒鋼と椿だけで暮らすには広すぎると、従者のバイトを募集して応募者100名を越える中から飛影が面白いと感じた唯一の人物である
「従者!?なにお前金持ちか!!?」
従者なんて言葉を聞いたことが無かった彗
ただのよくわからない馬鹿から更に金持ちのボンボンという印象が追加されてかなり悪い心象であった
「さぁ?」
金銭感覚がもちろん狂っている飛影
一般的には国すら買える金持ちの飛影であるが、お金にあまり興味がわかない飛影にとってはどうでもいいものであった
(…親が金持ちの坊っちゃんかよ)
飛影のアプローチも虚しく彗には悪印象しか与えられていなかった
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最後の授業は体育
理事長の意向で器械体操などのダドマ的につまらない競技は授業に存在しなかった
主に球技である
その日はバスケであった
当然ながらジャージや体操着を持っていない飛影は私服に靴下で授業を受けていた
といってもバスケを知らない飛影はルールを覚えるために観察しながら片手でボールを弄っていた
器用にボールを回転させて遊んでいた
そして開始30分後
転校生が一人でいることに気付いた教師が飛影を負けている方のチームのメンバーを交換する
それん完全に無視していた飛影だが交代要因が彗であり、何とか交代することができた
勝っているチームにはバスケ部が二人
経験者と素人の戦いでは当然差が出て、16点差の残り五分
飛影はゴールの前で立ち止まっていた
同じチームの四人が前線にボールを運んでいるのをただ眺めていた
あっさりとボールを奪われてバスケ部の少年がゴールを守っているように見える飛影を少し小馬鹿にしたような笑みを作り、動かない飛影をあっさりと抜いてシュートを放つ
ドン!!、と大きな音を立ててボールはゴールに入った
バスケ部所属の方に
『は?』
何が起きたか理解できないバスケ部の少年と
今のが理解できた彗の放った言葉は同じであった
飛影はただボールだけを殴り飛ばして、ボールをゴールに叩きつけたのである
「あれ?彗!これって負けてんだよな?」
バスケのルールはボールをゴールに入れることだと理解できた飛影だが、試合の勝ち負けはわかっていない
「負けてるよ、13点差だ」
「わかった」
飛影は頷いて大きく伸びをする
「さて、と…」
何事にも負けることが嫌いな飛影は少しだけやる気を出した
そして五分後
(ありえねぇ…)
絶句としか言いようが無かった
彗は点差を見て飛影を見る
16点差
合計で32点を五分間でたった一人で取ったのである
どのシュートもバスケではなく、ただてきとうに投げたり殴ったり地面に叩きつけたりとふざけているものであったが、100%の精度で全てゴールしていた
汗も掻いておらず、息も切れていない
(よ…よくわからねぇ!!)
さっぱり飛影のことが理解できない彗であった
はい、いつでもどこでも変わらない飛影でした
彗君からの印象は最悪ではないですが良くはないです。