エリア
たった一話のエリア編です
これがエリアで
これがお父様です
リックスの子供
セリエが60歳となり、息子のガイルが30歳の時である
ガイルとその妃との間に子が生まれ、その子供、エリアが三歳の時である
城の広い廊下
そこに二人の王がいた
「…ガイルが死んだ?」
「…そうらしい…その現場を見ていた行商人が言うには、馬車の荷台に乗っていた二人がっ…前日の悪天候で地盤が緩くなったらしい崖から大岩が落下して…夫婦共に即死だそうじゃ」
セリエからそれを伝えられた飛影
信じられない、その思いだけが飛影の頭に反響する
「恐らくじゃが…お前から暗殺に対しての危機感は備わっておったガイルじゃ…少しでも殺気を感じれば反応しておったが…今回の事故は殺気も敵意すらない自然の災害じゃ…反応できなかったんじゃろ…」
メリアの王族は血筋によって全て反則級の中位以上の実力はある
もちろん、全力であれば大岩など避けることも砕くことも可能であったが今回は無防備な状態で奇襲を食らったのと同義である
反応できなかったのも無理はない
今まで飛影が住み着いてから寿命でしか死ぬことが無かった
「…はぁ…なにやってんだか…」
飛影はため息を吐いて俯く
実の父親であるセリエと同じような憤りの無さを感じていた
「問題は…エリアだな」
「どうしたのおにいさま?」
飛影のコートの裾を掴む三歳児
セリエと飛影の会話が難しくて理解していない
栄えるような金の髪が肩まで伸びている
その小動物のような可愛らしいエリアを優しく撫でる飛影
「儂が育てよう…馬鹿共が残していった唯一の宝じゃ」
軽く目頭を抑えるセリエ
しゃがんでエリアと同じ目線に合わせる
「エリア…儂が今日から父親じゃ」
「?おじいさまが?」
何を言っているか理解できていないエリアは可愛らしく首を傾げる
それでも飛影のコートの裾を放さないエリアはすでに飛影になついていた
「それか…俺がエリアの父親になるのとどっちが良い?」
セツネの代から飛影は王族の名付け親になっている
飛影は、相手によって親にも兄弟にも親友にもなれる
エリアを育てる気持ちは実の祖父であるセリエよりも強い
セリエが酷いのではなく飛影が異常なだけである
「おにいさまとおじいさま?」
三歳児が考えることではない
しかし、今までの飛影が関わった王族の中で一番大人しく賢いのはエリアであり、何よりも自分の意思を優先させることを大事にするメリアの王族の血筋
このような時でも自分の意思を尊重させる
少し考えるように小首を傾げながらお祖父様であるセリエとお兄様の飛影を見比べる
飛影のコートの裾を掴む力が強まる
「おにいさまがいい」
太陽のようにまぶしい純粋な笑顔
「ぬ…!!?」
「ふっふ…!!」
ショックでセリエはその場に手をついた
飛影は笑いながらエリアを抱っこして肩に乗せる
「たかい!!おとうさまたかいよ!!」
身長が小さい飛影でも三歳児にとっては高い景色である
飛影の頭にしがみつくエリア
「じゃあ、遊びいくぞ~」
「グゥ…ショックじゃ…」
これが、魔王の娘となるエリアの始まりである
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「えぇ!?」
いの一番にそのことを知った椿
背中におぶさって寝ているエリアを見て、おんぶしている飛影を見る
その表情は驚愕と焦りで形成されていた
「ちちちち血迷ったの飛影!!!!?」
飛影の襟首を掴んで揺らす椿
しかし、寝ているエリアのために少し抵抗している飛影はびくともしない
「失礼だな…ちゃんと考えてるよ」
「大丈夫!?ちゃんと良い子に育てられる!?戦闘狂とか嫌だよ!!?」
「ひ…ひでぇ言いぐさだな…」
だが、飛影ならやりそうであるとしか椿は思っていない
「ちゃんとやるさ!!ガイル達の宝で俺の家族だからな」
椿の頭を軽く叩いて飛影はエリアをベッドに降ろす
「ん…うぇ…」
暖かな温もりが無くなったエリアはすぐに目を覚まして泣き出しそうになる
「じゃあおやすみ!!」
飛影は急いでエリアを抱きしめるとそのまま眠る
「…大丈夫かな…エリアちゃん」
「僕としてはなんか…どうなるか楽しみだな」
刀である黒鋼
人間形態に変形していつも無表情な黒鋼が僅かに頬を上げた
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「え!!?娘!?…だ…誰との!!!!?」
小さな図書館
そこに60歳になるコトハがいた
姿形は少し成長して17歳の少女である
いつも通り本の山を築き上げていた
そして変わらない集中力で本を読んでいたコトハだが初めて読書を中断して頭を上げる
「誰との?相手はいないぞ」
「え?…って噂の悲劇のお姫様じゃない…なるほどね…理解したわ…ひ~くんが父親になったのね…良かったわ…本当に…」
何かに安堵したコトハは再び読書を再開する
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エリア七歳
「私大きくなったらお父様と結婚する!!」
結婚という意味を侍女から聞いたエリア
すぐ傍にいる飛影を見上げて笑いながら宣言する
「可愛い!!なんだこの可愛さは!?」
飛影はすぐさま抱き締めて回りはじめる
親バカとファザコン
それが周知された事件であった
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エリア10歳
初めての舞踏会
エリアの誕生日に開かれた場であった
貴賓席にはセリエとエリア
そして飛影が座っていた
飛影の膝の上にはエリアが座っている
「はい、お父様…あ~ん」
「あ~ん…いや~エリアからもらうと唯でさえ美味しいのに格段に美味しくなるな!!」
「本当ですか!?…嬉しいです!!」
まぶしい純粋な笑顔
「可愛いぃ!!」
ガバッと抱きしめる飛影
他の国の王とエリアと同じ年ぐらいの王子が近付いているが二人は全く気にしない
「あの…本日は招待頂きありがとうございます」
やることは決めていた二人
王がセリエに挨拶して王子がエリアと踊って交流を深める
凛々しい服で少し背伸びしている服を着てエリアに話しかける王子
「…なんですか?」
お父様との触れ合いを邪魔されたエリアは一瞬にして機嫌が悪くなっていた
「…」
それは当然ながら飛影も同じであり、ただ少し睨み付ける
「ご…ごめ…さい…」
それだけで王子の思考が停止して泣き出し始めた
「王子!!いかがしましたか!?」
王子が泣き出したため、護衛が集まりだして会場が騒がしくなる
そのことに気付いたセリエが宥めようとして騒ぎの中心に飛影がいることを確認して諦めた
護衛の強面集団が王子とそして原因だと考えている飛影を睨む
「…うぇ…」
飛影の膝に座っているエリアも同じように見られていると勘違いしたエリアは飛影に抱き付いて震えていた
「…ころ」
「殺すなぁ!!!!」
「す」
《炎舞・本当は殺したいけどセリエが止めやがったからしょうがないけど気絶する程度の炎》
ギリギリ間に合ったセリエ
止めなければ普通に殺していただろう
そしてその魔法によって、飛影が魔王であること、そしてエリアが飛影の娘であることが各国に知れ渡った
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エリア13歳
その日は新しく雇った従者が実際に城での業務を始める日であった
「あっ…お父様!!」
何故か飛影が率先して従者達へ城を案内していた時である
一番城のことを知っているし、面接したのも飛影のため一番適任ではあるのだが、他の従者達が死に物狂いで止めようとしたが無駄であった
「おぉ…エリア!!」
飛影を見かけた瞬間、エリアは最高の笑顔で飛影に抱き付く
もはや他の従者にとっては、慣れた光景
しかし新人である従者達にとっては驚異であった
ただでさえ、魔王が案内という状況に更に王女が追加されたのである
「あっそうだエリア!!今回の新人の中にエリアと歳が近いのがいてな…コレット」
「ひゃひゃひゃい!?」
新人として入ったコレット
14歳とエリアと一個しか離れていない
物凄く緊張しながらおずおずと前に出る
「歳が近いのですか!?私は13歳です!!」
中々歳が近いものが城にいないのが現状である
エリアは少し興奮しながらコレットに詰め寄る
「じゅ…じゅじゅじゅう…よんです」
真っ青になりながら答えるコレット
「これからよろしくな~」
飛影が笑いながら手を振った
「はぅ!!」
一瞬で緊張メーターが振り切れて気絶するコレット
「あら…しょうがない」
さすがに野放しにはできないのでおぶる飛影
これが、新人達へ恒例のサプライズとなった日である
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エリア16歳
「お父様はどこですか!?」
「ひ…姫!落ち着いてください!!」
すっかり成長して綺麗になったエリア
お父様である飛影が一週間ほど黙っていなくなったのだ
今まではそんなことは無かったのである
詰め寄られているコレットはどうどうとエリアを宥める
「飛影さんなら人間界ですよ。しばらく泊まってくる~たまには戻るぜって」
「え…」
この世の全てに絶望したかのような表情で固まっていた
「…」
「ひ…姫?…立ったまま気絶してますね…しょうがないです」
エリアをおんぶして部屋まで送るコレット
その後、エリアは一日ほど寝込んでいたという
しかし、お父様が用意した教育のためのカリキュラムをこなすため次の日から復活した
エリア編終了
次話は、ちょっと特別編
リクエストの話でカガリさん登場です
61話から飛影が人間界に参上します