絶対強者級
遺跡のゴーレムは絶対強者級だった。
いやまず絶対強者級ってなに?
「絶対強者級…?」
少年はその単語がわからずに首をかしげるが静紅は知っているらしく、その単語を聞いてビクリと震えた
「…強さには三段階あるわ…一般級、反則級、絶対強者級。一般級は魔力が扱えないいわば雑魚、反則級は一般級と絶対強者級の中間、絶対強者級は…」
一旦静紅の言葉が途切れる
一度口を閉じて息を吐く
「気まぐれで世界を滅ぼすことができる強さ…」
「…」
静紅の言葉に少年は黙りこむ
「説明の手間が省けたかな?礼を言う」
アギトは爽やかに微笑む
感じる圧力は変わらない
「一旦引きましょう…私達じゃ勝てないわ…」
静紅は8歳にして引き際を心得ていた
生きていれば勝ち
それが静紅の考えであった
「そうはいかない…殺してほしいんだ」
《地華砕蓮・閉》
アギトは魔法を発動
降りてきた穴が土で塞がれる
逃げ道は完全に無くなった
「…あは…」
ずっと黙っていた少年の口が開く
その笑みは災厄の笑み
狂喜の笑みを浮かべた
全魔力を開放
その総量はアギトより劣る
だが
「あは…あははは!!あははははははは!!」
《炎舞》
少年は笑いながら魔法を構築
炎を腕に宿らせてアギトに接近する
「ちょっと…!!?」
静紅もその行動は予想外であり、反応が遅れる
《地華砕蓮・壁》
少年の炎を纏った拳
アギトに向かって放たれたそれは空気中に出現した土の壁で防がれる
「あははは!!」
防がれたが少年の笑いは止まらない
高く跳躍し壁を乗り越えて再び突っ込む
《地華砕蓮・槍》
アギトは槍を生成し射出
巨大な土の槍が少年に放たれる
「あはは!」
少年は空中で右腕の炎を勢いよく燃え上がらせる
ジェット噴射の要領で少年は一回転
そのまま槍を横殴りにする
軌道を逸らし回避した少年は再びジェット噴射の要領でアギトに急接近
「やるね…逸らしたか」
《地華砕蓮・両手》
アギトは両手を合わす
瞬間、少年の行く手を塞ぐように巨大な土の手が出現
少年の背後にも同じ物が現れて避ける間もなく押し潰す
《完全領域》
「…私を忘れちゃ困るわ」
ぎりぎりの所で静紅が追い付き少年を護るために防御壁を展開
円形の防御壁である静紅の完全領域は全方位関係なく防ぐ
「あははは!!」
「っ!!?」
少年が笑うと同時に静紅は完全領域を解除
すぐさま距離を離す
静紅がいた空間に拳が放たれていた
「敵味方関係なしだな…」
その様子を見ていたアギトの感想
だがそれは間違いである
少年にとっては敵味方は無く全てが殺す対象になっているだけである
《炎舞》
少年は槍を生成しアギトに射出
《地華砕蓮・壁》
炎の槍は土の壁によって防がれる
「あははは!!」
「速いな…」
その一瞬でアギトの背後まで移動
目眩ましに放ったため防がれることは予想していた少年
そのまま手刀を放つ
「だが残念」
ひらりと横にずれて回避しお返しにと蹴りを当てる
防ぐこともできずに弾丸のように吹き飛ぶ少年
「!!?」
静紅は少年を受け止めようとするが、殺意のこもった視線を感じてとどまる
少年から目を放しアギトへと向かう
壁に直撃する少年だが、静紅の判断は正しい。あの場で少年を受け止めていたらその少年の手刀で静紅は殺されていた
静紅は両手を手刀の形にしてナイフのようにアギトに斬りかかる
恐ろしく速い静紅の攻撃を全て無駄の無い動きで避けているアギト
「速いね…」
余裕の笑みを浮かべるアギト
「あははは!!死ね死ね死ね死ね死ね!!」
笑い声
《炎舞》
アギトと静紅が少年に意識を向けるとすでに槍が放たれていた
アギトは静紅に腹部に掌底を放ち、地面に叩きつけて後ろに跳躍
「ぐっ!!」
地面に叩きつけられた静紅は避ける術がない
《地華砕蓮・隕石》
《完全領域》
アギトと静紅は同時に魔法を発動
静紅へと追い討ちに土の隕石を放つアギトと少年の槍と隕石を防ぐために防御壁を展開する静紅
「…ま…ず!!」
静紅の完全領域の防御は絶対ではない
炎の槍を防いだが隕石までは防ぐことができずに破壊される
一瞬だけ食い止めたことにより、静紅は逃げる時間ができた
隕石が防御壁を破壊して静紅へと迫る僅かな時間
一瞬ともいえるそのタイムラグ
《完全領域》
静紅は全力で後ろに跳躍して魔法を発動
衝撃波を防ぎきる
「はぁ…はぁ」
呼吸が乱れる静紅
掌底のダメージはでかい
この戦いで一番静紅が不利であった
アギトは少年と静紅を攻撃する
少年はアギトと静紅を攻撃する
だが静紅はアギトへは攻撃するが少年にはアギトを倒すためにも攻撃はできない
その攻撃対象の差はでかい
もしアギトに攻撃されて吹き飛んだ先が少年の場合は手刀で串刺しにされる
「…」
理性が無い少年と共に戦うには理性が邪魔であった
災厄と共闘できるのは化物だけである
(…嫌なのだけど…仕方ないわね)
静紅は目を閉じる
無理矢理化物である自分を引っ張り出す
目を閉じて、記憶を遡る
化物と呼ばれて蔑まされた記憶まで遡る
生まれる前から化物と呼ばれて、殺意や敵意を受け続け
生まれてきたことで化物と呼ばれて道端に放置され何かある度に石や刃物を投げつけられ傷つけられ、気持ち悪がれた記憶
静紅は少年と違い一族皆殺しまで3年の月日があった
その忌まわしき三年間を思い出す
理性をとばして化物になるために、普段は言葉一つ言われれば吹き飛ぶもの
しかし、自分で化物になるためには記憶が必要であった
そして、強い憎悪をもって化物と言った母親の顔を思い出した瞬間
「ふ…ふふ」
化物が口を開いた
「あははははははははははは!!強い強い!!殺す殺す皆殺しだ!!」
「これは…!!」
少年の笑いが更に増すと同時に動きが速くなる
アギトは少年の攻撃を距離を離して回避
静紅の雰囲気が変化したことに気付く
「ふふふ…さぁ殺してあげるわ…」
静紅は少年と同じ狂喜の笑みを浮かべていた
化物は災厄と同じで敵味方など関係はない
災厄と化物と絶対強者級の殺し合いが始まる
「なるほど…これがあの少女が言ったことか…」
意味深なことを呟くアギト
《炎舞》
だが二人は気にせずにアギトへと突っ込む
目標が同じな理由はアギトが一番強いからだ
強い者との殺しあいを望んでいる災厄と化物は協調性の欠片も見せずに各々が攻撃を放つ
「あははは!!」
炎が少年の身体を包み込み一直線にアギトへと突撃する
炎を纏った体当たり
《地華砕蓮・壁》
アギトは土の壁を少年の体当たりの軌道に構築する
「ふふ…」
その隙に静紅が間合いに入った
先程と同じような静紅の手刀を避けるアギト
いや避けたはずであった
「…はや…い!?」
先程よりも遥かに速い手刀を放ちアギトの肩を掠めた
油断ではない、ただ静紅の最大速だと記憶してしまったアギトは予想よりも速い静紅の手刀をかわしきれなかったのである
仕切り直しに一度静紅から距離をとろうとするアギトの背後
「あははは!!」
土の壁が壊れた
少年が力ずくで破壊したのだ
「っ!!?」
「あははははははは!!ちぎれろぉ!!」
少年からすれば壁を壊したら獲物が自分に接近していたのだ
身体を包んでいた炎を右腕に集中し拳を握りしめて放つ
《地華砕蓮・杭》
地面から土の杭が飛び出て少年の右腕の骨を砕く
軌道を剃らすことに成功して、アギトは少年が防御ができない右腕の方向から蹴りを放つ
「あははは!!」
しかし、少年は折れた右腕で無理矢理蹴りを防ぐ
「な!!?」
少年自体は蹴りで吹き飛ばしたが、本来なら確実に首が吹き飛ぶはずであった
そして蹴りの隙
「ふふ…ねぇ…早く血を魅せて」
妖艶に微笑む静紅がアギトの左腕を掴んだ
そしてそのまま左腕は切り落とされる
「ぐっ!!」
製作者の亡霊でゴーレムの役割をもつアギトは静紅の望み通りに血はでない
「ふふふ…まだ出ないの?」
(…まずい!!)
静紅の笑みに嫌な気配を感じ取ったアギト
《地華砕蓮・浮上》
土が静紅の足下に出現し爆発的に増殖する
「…が!!」
頭から天井に叩きつけられそのまま土が静紅を押し潰す
(一人…!!)
そして残るは少年のみ
左腕は無くなったがそれでも少年を驚異とは感じない
(君はただの猪突猛進だ…そして攻撃力が足りない)
少年の右腕自体はアギトと同じで完全に使えない
条件は同じ
《炎舞》
《地華砕蓮・連槍》
アギトは地面から無数の土の槍を放つ
一本一本が5メートル程の巨大な槍
50メートル四方の空間を埋め尽くし避け道が無い
1~2本までなら少年でも相殺できるが後は原形を止めずに貫かれるだけである
「あははは!!もっと強く!!」
そして少年は赤色の槍
ではなく緑色の炎の槍を生成
量より質を表すかのように巨大な槍を放った
(…まずい!!)
緑色の炎の槍
見かけ倒しではない
感じ取れる魔力の量の桁が違った
(…進化した…この短期間で!!?)
魔法は進化する
本人が望むままに、より強力になる
だが生まれて五年の少年が戦いの最中に進化させた
本来であれば一生をかけて進化するかしないかといった次元である
アギトですら20年はかかったのである
常識が打ち破られ驚愕しそして動揺となって隙を作る
少年の槍は無数の土の槍を全て相殺した
「あははは!!」
槍を放つと同時に突っ込んでいた少年
その手には緑色の剣が握られている
「…ちっ!!?」
アギトは少年と距離を離そうと後ろに跳躍する
魔法が進化していても猪突猛進は変わらず距離を離して魔法を浴びせ続ければすぐに倒せると判断した
「ふふ…惜しかったわね」
《完全領域》
「なっ!!?」
跳躍したアギトは完全領域内
防御壁に自分からぶつかりに行く
少年の槍
それは土に拘束されていた静紅を開放していた
圧力により一瞬だけ気絶していた静紅は正気に戻っていた
「あははは!!」
そして少年も完全領域内
笑いながら純粋に楽しそうに嬉しそうに笑いながらアギトを切り裂いた
「ぐっ!!」
少年の一撃はアギトの両足を切り裂いた
「あははは!!燃えろ消えろ死ね殺す!!壊す砕く灰になれ!!灰も残らず塵になれ!!塵も残さず焼失しろぉ!!あははは!!」
少年の炎の剣に込めていた魔力が更に増大
《完全領域》
「…予言通りか…」
静紅は一度魔法を解除して再発動
自分だけを守るように発動
巨大すぎる火柱が50メートル四方の災厄と化物と絶対強者級の戦いでも壊れなかった壁を粉砕、二層目、一層目を突き破り空高くまで昇る
当然ながらアギトの姿は塵も残していない
「あははははは…は…」
そして魔力を使い果たした少年は笑いながら気絶する
「…あらあら…」
その様子を見て微笑む静紅
「けど…私も…限界ね…」
アギトを倒すためと自分を護るために使った完全領域
全身の骨が最低でもヒビが入っていた静紅はその二回で限界がきていた
少年と同じようにその場で気絶する静紅
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そして一人の白い翼をもった少女が少年と静紅が気絶している遺跡に降り立った
「やぁ、何十年ぶりかな?」
「…」
そんな少女を出迎えたのはアギトであった
14才ほどの外見で眠そうな目をしており、小動物のような可愛さが溢れている身長は150cmと小柄な少女は無表情に無言で返事をする
「しかし…死んで確かに10分の1まで弱くなったとはいえ、本当に私が殺されるとは思わなかったよ」
微笑むアギト
彼は今魂だけでこの場にいる
必要な事が終えるまでは消えることはできない
「…」
少女はずっと無言
その瞳は少年にだけ注がれている
「まぁいいか…それでこの少年が次の魔王でいいんだね?」
「…」
こくりと僅かに頷く少女
「それで面倒な手続きは全部やってくれるんだよね?」
「…」
再びこくりと僅かに頷く少女
「良かった…やっと死ねるよ」
本当に嬉しそうに微笑みながら消えるアギト
「…お疲れ」
最後の最後に少女は口を開いた
「…神ってのはわからないね…」
その言葉を聞いて最後の最後に苦笑に変わった
残った少女
やはり少年から視線を外さない
「…魔王…大変…頑張る…ひ…お前…死ぬ…やだ」
ぽつりぽつりと少女は単語を紡ぐ
何かを言いかけたが我慢していた
「…」
少女は屈んで少年の頭を不器用に撫でる
少年は気絶しながらも反射的に手刀を繰り出すがまるでわかっていたように手を引っ込めて回避する
「…270年…会う…楽しみ」
少女は少しだけ微笑みながら翼を羽ばたかせて浮上する
「…」
しかしすぐに、再び降り立つ
懐から一冊の本を静紅の近くに置いてその上に紙を置く
今度こそ役目が終えたのか満足そうに帰っていった
本のタイトルは『魔王の説明書』
置かれた紙には『その子に読んであげて』と記載されていた
災厄の少年の運命が大きく変わった日であった
名前 アギト
種族 ゴーレム
所属 魔界の魔王
武器 なし
魔法 地華砕蓮
生前は絶対強者級で魔王だった青年
しかし、食中毒で他界した
魔王を誰かに引き継いでもらわなければ成仏できなかったため、遺跡でまだかまだかと待っていたが、神の少女によって成仏できる日を教えてもらってからは大爆睡していた
中距離が得意な間合いで土の壁と槍で敵の動きを制限しながら戦うのが得意
キレるスイッチ 死因となったキノコ
力 S(SS)
器用 S+ (SS)
魔力 SS(SSS)
魔法 SS(SS+)
素早さ S (S+)
近距離 S (S+)
中距離 S+ (SS+)
遠距離 S(SS)
()内は生前時のステータス