言葉の解放
いや…ほんと遅くなりました
コトハ編はあと三話で終了します
翌日の早朝
飛影とミリアはメリアの街を散歩していた
会話の話題は昨日の続きである
「とりあえず、お兄さんなら~気を付けなきゃいけない殺し屋の数はたかがしれてるの~」
絶対強者級である飛影を殺すには、少なくとも絶対強者級に近い実力を持っていなければ攻撃は通らない
朝御飯として出店に売っていたホットドックを食べながら説明を始めるミリア
飛影も食べながら聞いていた
飛影も黙って聞きながら食べる
「気をつけるのは三人くらい…最近頭角を表してるやつ…名前は隠者と、昔ながらの実力者…ワイドバイパーと、今のところのNo.1の足し算したい」
「…は!!?……すまん、もう一回」
「気をつけるのは三人くらい…最近頭角を表してるやつ…名前は隠者と、昔ながらの実力者…ワイドバイパーと、今のところのNo.1の足し算したい」
そのまま、復唱するミリア
飛影としては二人目までは良かったのだが、最後の一人は聞き間違いだと思っていた
しかし、気のせいではなかった
「最後のやつはなんなんだ!?」
「足し算したい?」
「それだよ」
「実力はあるんだけど、馬鹿すぎてダメなの~一人殺せばいいのに足し算ができないから皆殺しにするやつなの~」
やれやれと首を振るミリア
そんな馬鹿がいるのかと飛影は殺し屋の業界に勉学を取り寄せようかと考えてしまっていた
「ちなみに絶対強者級は?」
「いないの~」
「え!!?」
その反応にミリアは少し引きながら飛影を白い目で見る
「お兄さん…絶対強者級はそんなにポンポンいないの…」
「…そうなのか…」
身近に絶対強者級が多い飛影としては、業界ごとに一人はいるかと考えていたのであるがそんなことは無かった
「そもそも気まぐれで世界を壊せる絶対強者級がそんなに多かったらとっくに滅んでるの~」
ミリアの意見は正論であった
最後の一口を頬張り幸せそうな笑顔になるミリア
逆に絶対強者級がいないことに肩を落とす飛影
そして目的地に到着する
普通の中学校
コトハが通っている中学校である
「じゃあちょっと行ってくる」
「待ってるの~」
飛影は敷地内に入り、ミリアは校門で待機する
あることを告げるためであった
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コトハはいつも通り出席を取るために着席していた
先日と状態は変わっていないが、それでもコトハの精神を蝕んでいる
(嫌な時間…早く過ぎれば良いのに)
いつも通りの最悪なニ分間
コトハには無限にも感じるニ分間である
(あの人の言う通りだと昨日、私は何かの魔法を使った…その魔法が何だったのか思い出さなきゃ…)
気絶から起き上がった時に飛影がコトハに告げたことである
コトハは魔法を使いたいと願望は持っていた
魔法使いになればこんなちっぽけな苛めを気にすることもなく、自分らしく生きることができると思っていた
歯車がはまったきっかけは魔法の本を読んだこと
歯車を回し続けたのは飛影と出会い過ごしたこと
人間としての枠からは大きく外れているコトハだが、魔法使いではない自分自身を戒める
(魔法は願望…何が私の願望んだ魔法はなに…?)
考えるが思考が上手く働かない
そしていつも通りに教師が入ってくる
「出席を取るぞ」
「そしてオレ参上!!」
『は?』
教師の後ろにピタリとくっついていた飛影
教師が振り向いて確認し生徒達と同時にハモった
もちろんコトハも例外ではない
「コォトォハァ!!おはよう」
生徒達は目の前の少年が誰であるかはわからない
だが、唯一教師だけがニコニコと笑う飛影の正体を理解した
「ま…ままままままままままままままま」
教師が笑えるほど慌てている
「お…はよう…ってここ学校よ!?」
あまりの出来事にコトハも一瞬思考が停止した
「知ってるよん!!ただ時間ねぇからな」
「ままままままままままままままま」
慌てる教師を完全に無視している飛影
「ちょっと戦い方を教えさせてくれ!!」
「ままま魔王様ぁぁぁぁあ!!」
『えぇ!?』
教師が一瞬にして地に伏せる
遅れて生徒達も驚きながらも頭を垂れる
「へ?」
「いやいやいやいや、本当にそういうのいらないから!!」
「…魔王?」
慌てて頭を上げさせる飛影
その様子はただのアホな馬鹿である
そんな馬鹿をコトハは指を指す
「イエッス!!魔王!!」
馬鹿は親指をたてて頷いた
本来であれば信じるに値しないものであるが、何故か信じれてしまう
「魔界の魔王飛影だ!!」
「え…うん、いきなりなんで?」
今までずっと知らなかったし教えられてもいなかったコトハ
飛影の行動になんの法則性も見つからない
「コトハを強くしてみたい!!そのためには嘘言うのはおかしいからな!!こういう態度になると思ったから隠してたのさ!!」
教室内にいる者はコトハと飛影の会話を邪魔しないように口を紡いで、姿勢を正していた
飛影としてはうんざりである
「…ふふ…あははは!!…貴方って本当に掴み所が無いわね」
飛影を見ていると、クラスから苛められていたことがちっぽけな事にしか思えなくなってしまった
「いいわ…私を強くして」
笑顔になるコトハ
憑き物が取れた気がした
「おうとも!!じゃあミッション…城まで辿り着くこと!!」
飛影はコトハの頭を撫でると窓から顔を出す
「ミリア~三人だ~!!」
気配や殺気
僅かな日常の変化を感じ取った飛影
校門前で待機しているミリアに声を掛ける
「三人~?お兄さん警戒範囲どのくらいなの~?」
「200メートルってとこかな!!」
「もっと広く取らなきゃダメなの~」
《ワイドバイパー・魔弾》
「撃たれちゃうから」
二キロ先
殺し屋、ワイドバイパーがライフルから魔法の弾を射出する
魔力も解放しておらず完全に隙だらけの飛影の頭を貫く
「っぁぶね!!」
寸前に首を捻って回避
避けた先にはニ発目が眼前に迫っていた
「ち…」
ニ撃目は直撃
大きく仰け反る飛影へと三撃目が襲い掛かる
避けることができない飛影へ合計10発が直撃する
巨大な攻撃ではないが貫通力が強化されている魔法の弾
「…」
驚くこともせずに圧倒されているコトハ
いきなりの飛影集中攻撃でもない
今の状況を冷静に分析していたために知った強さにある
《ワイドバイパー・魔弾》
ピクリとも動かない飛影へもう一度発射する
殺し屋としてのヘマはやらかさない
確実にターゲットの頭を弾き飛ばすまでは安心ができないからである
事実、飛影の頭は血だらけではあるが健在である
ライフルのスコープを覗いて飛影の最後を見届けようとして飛影の指先が僅かに動いたことを視認したワイドバイパー
《炎無・やられたからやり返す》
飛影の指が闇色に染まったと見えた瞬間である
魔弾が飛影に直撃するよりも早く
二キロ先のワイドバイパーに無炎の線が額を貫通していた
攻撃を受けたと感じる暇も無く身体が焼失する
「ちょう痛い!!」
ゆっくりと起き上がる飛影の顔面は血だらけになっていた
「あっぶね~普通に死にかけたわ!!」
「そうね…かなり無茶してたわよ」
観察していたコトハは飛影が何をやったのかをその目で見ていた
飛影の傷は最初に直撃した弾のみであった
最初の一発目を避けて、ニ発目が直撃する瞬間に飛影は避けれないと判断して魔力を集めて頭突きで相殺したのである
瞬時に魔力を解放して防ぎきった
正面衝突することで自身にかかる負荷が上昇することは常識である
飛影は防御という概念を捨てて攻撃に転じたことで間に合った
「まぁ結果オーライだ!!行くぞコトハ!!」
飛影は血だらけのままコトハの首根っこを掴み窓から飛び出す
「あはは!!お兄さん怪我してるの~」
「うっさい!!」
飛影を見て心配するのではなく、笑い出すミリア
「警戒範囲を拡げないからなの~せめて10キロぐらいはしておくべきなの~」
(10キロ!?)
そのぐらいと軽く言うミリア
警戒範囲自体はコトハでも知っている
魔力探知に殺気や敵意も察知できるようにしただけである
コトハも飛影から習っていて一キロは展開できるが、目の前の二人はその十倍をぐらいで言えるほど遠い
「いやぁ無理!!ほら、今って俺に対しての殺意MAXじゃん!?だから200メートルが限界かな…恥ずかしいことに、大量の殺気を感じると興奮して我を忘れる!!」
あはは!!と笑う飛影
「さて…ミリア肩借りるぞ…」
「ん~いいけど服に血はつけないでほしいの~」
「任せろ!!さぁ釣るぞ!!コトハは遊撃隊だ!!」
飛影はミリアの肩に手を回し、俯きながら脚をふらつかせる
軽くミリアに風を纏わせて血をつけないようにしていた
「?」
そして、校門から出る
状況が飲み込めないコトハ
「魔王のお兄さんしっかりするのぉ!!!」
涙目になりながら、意識を失いかけている飛影を重そうに担ぎながら、必死に声をかけはじめるミリア
「…ぁ…ぅぁ…」
飛影の頭から血が滴り落ち地面を赤く染めながらミリアに引きずられるように進む
苦しそうな呻き声をあげて、身体中が時折痙攣する
「ガハ…!!」
血を吐き出す飛影
「魔王のお兄さぁん!!死んじゃいやなのぉ!!もうすぐ城について治療できるの!!」
大粒の涙を流しながら飛影を励ますミリア
だがその表情からは飛影の身体はもう治療しても遅いとわかるほどに絶望している
『魔王様!?』
『魔王さんだと!!?』
ミリアの悲鳴に似た声に、周囲の者が反応しはじめる
(なにこの茶番…っていうか演技上手すぎでしょ!?)
コトハは唖然としていた
目の前で繰り広げられる茶番劇
プロ顔負けの演技に軽く引いていた
「あぁ!!」
ついに飛影を支えきれずに地面に膝をつくミリア
飛影は頭から地面に落下するが、呻きも身体を動かすこともしない
「あ…魔王のお兄さん!!」
(…遊撃隊ってそういうことね)
わざとらしく魔王のお兄さんと、魔王を強調して魔王の居場所を知らせて
その魔王自身も虫の息という餌
一般市民に紛れて飛影達に近付く殺し屋が数名
あまりにも美味しそうな餌に気配を絶つこともせずに近付いていた
コトハも一般市民に紛れて殺し屋に接近
拳に魔力を込めて無造作に殴り付ける
「!!?」
コトハとしては軽く気絶させる程度に殴ったつもりであるが、結果は人体破裂
殺し屋の身体が肉片と化した
(…えぇ!!?…強すぎたのかしら…ちょっと弱めてみるかな…それにしても人を殺したのになんでこんな冷静に分析できるんだろう…)
考えながらも拳に込める魔力を弱めて攻撃するが、結果は全殺し
心は冷めたままである
ふとミリアと飛影の方を見ると
周りからバレないようにおやゆびを立てていた
餌に釣られた殺し屋数名を全殺しにしたコトハ
(あ~わかった…関係ないからだ…私の世界とは関係無いからどうでもいいんだ…)
頭の回転の早さゆえにすぐに気付いたコトハ
自分の身近にいるものでないからどうでもいいと考えていた
「う…ぁ…」
「あ!!お兄さん!!しっかり!!もうちょっとだから」
周りを一掃したため場所を変える飛影とミリア
移動を開始する
(こ…この人達は…)
いや~ミリアがやりやすいキャラでたすかりますね。