自然の摂理
うぅ…この話だけは投稿したくなかったです…
あれからしばらくの月日が経っていた
セツネと同じようにリラコも他の国に訪問中に一目惚れした
しかも二人してである
血筋だなぁと飛影もセツネも笑いながら話していた
更にリラコも子を授かる
二子で男の子と女の子
男の子はリックス
女の子はクド
両方とも飛影が名付ける
飛影と椿がメリア城に居着いて早60年
リックスが5歳でクドが3歳の時である
飛影は相変わらず普通ではない人間にしか興味を示さず
セツネ
リラコ
リックス
クド
の4人としか会話がない
飛影は嫁や婿にも興味を示さなかった
「おいセツネ」
「なんだ?飛影か」
婿である人間も他界し
セツネは80歳になっていた
よぼよぼでシワもあるが凛とした雰囲気は薄れておらず
ニヤニヤとした表情は変わらず元気そうな表情である
だが最近はベッドから降りることはなく寝たきりである
本人は
「めんどくさい」
の一言である
それは元来面倒が嫌いなセツネらしいと言えばセツネらしい物言いであり、どこまでが嘘でどこまでが本当か判断が付かないほどである
いつものように飛影が机に乗りながら遊びに来る
「全くお前は変わらんな」
少々呆れたようにセツネは呟く
飛影の魔王としての特徴で飛影は60年前と何ら変わらない姿であった
「身長のことは言うなぁ!!」
セツネは昔を懐かしむように言ったのだが飛影にとっては
変わらない=身長伸びてない
なのである
「馬鹿さも変わらんな」
「お前もだろうが、身体は老いても変わってないよ」
飛影はぶっちゃけ外見はどうでもいい
中身が面白いかだけなのだ
「はっ!!ありがとな!」
嬉しそうに笑うセツネと飛影
毎日がそんなである
飛影がいきなりこの国を世界一にしようと言い始め
そのためにセツネは面白そうだからと飛影と共に活動していた
結果60年経ってようやく完全に何でも世界一の大国メリアへとなったのだ
後半らへんは他にどんなジャンルがあるか考える方に時間がかかっていた
「さて飛影」
「ん?」
退屈そうに最近会得した風の魔法《風華》で浮いて転がって遊んでいた飛影にセツネは声をかける
「お前まだ普通に興味がないのか?」
「?当たり前だろ?」
何食わぬ顔で即答する飛影
あまりにも予想通りすぎて溜め息をつく
「お前怖がられてるぞ」
60年飛影は城にいるが
全て無視
魔王だということは知られているので従者も兵士も怖がっていた
人を殺すことも国を滅ぼすことも躊躇いがないので余計にである
「どうでもよくね?」
「相変わらずの馬鹿だな」
どうしようもない飛影
溜め息を再び吐きながらセツネはよぼよぼになった腕で飛影の頬を引っ張る
「にゃんふぁよ」
ただのほっぺ
魔王とは思えないただの子供のような肌
「お前と会ってから退屈しなかったぞ」
愛おしそうに飛影の頬を引っ張るのを止め頭を撫でる
「俺もだ」
飛影は空中で胡座をかいてセツネと向き合うように浮いている
「お前が戦争を止めに来た時…本当に驚いたぞ」
「戦争ってかセツネを守るためにだな」
飛影にとってはあの戦争の双方合わせ120万強の人間よりもセツネ一人の方が価値があった
「お前はつくづく馬鹿でアホだ」
「セツネはアホで馬鹿だな」
笑いあう
「他にもこの国を世界一にしようとか言い出して」
「面白いことしたいじゃん」
呆れ笑いのセツネと心底笑っている飛影
「まぁ息子も生まれて孫も二人生まれ、国王としては最高の仕事をしたと思ってるよ」
心底楽しい笑み
80歳のセツネだがその笑みはとても美しいものだった
「その通りだな。お前を馬鹿にするやつは必ず殺してやる」
ポンポンと頭を叩く飛影
「国王として…親としては仕事を果たした!!」
飛影の腕を掴み老体に鞭をうち起き上がる
「んあ?」
楽になるように飛影は風華を使いセツネを支える
「だが最後に大仕事がある。寝る暇はない!!飛影手伝ってくれるか?」
「当たり前だろうが」
セツネの本気の眼に飛影も本気て頷く
ニヤリとその瞬間セツネは意地悪い笑いをする
「言ったな!!ようし約束だぁ!!せめてメリア国の人間に対しては私と同じように接しろ!!」
約束は破らない
ある意味で有言実行する
その二つを絶対に守る飛影をセツネは知っている
「は?…はぁぁぁあ!?ちょっと取り消せ!!」
「アハハハ!!馬鹿者が!!」
アホみたいに笑うセツネ
その顔は60年前に戻っていた
「ちょっと待てぇぇ!!」
「約束は守れよ飛影…親友からの最後の約束だ」
笑っていたセツネが急に真面目な表情になっていた
「…わかったよ親友」
しょうがないと首を縦に振る飛影
「さてと!!やることもなくなったし!!」
飛影の眼には若かりし頃のセツネが映っていた
「じゃあな親友」
「あぁ親友」
二人して60年前のように笑い合う
「うん良い人生だ」
笑いながらセツネは逝った
「…」
飛影はセツネの髪を優しく撫でる
「……こっちこそ良い60年だったぞ…」
二人以外誰もいない部屋に小さな呟きが響いた
それからしばらく飛影はセツネを見続けた
しっかりと記憶に焼き付けるように
二時間ほど飛影はそうしていて、最後にもう一度頭を撫でると部屋から出る
「飛影…母上は!?」
大人になったリラコ
王の姿ではなくセツネの息子の姿であった
その隣にリラコの妻がいて、リラコにしがみつくようにリラコの面影がある少年リックスと妻に似た可愛らしい容姿のクド
その後ろに椿がいて、周りを囲むように城の者が総出で集まっていた
セツネの死期が近いことは誰もが知っていて、そしてリラコの命令でセツネの最後を看とるのは飛影だけと決まった
「笑いながら逝ったよ」
飛影はリラコに笑いかける
『…っ!?』
知ってはいたが、信じられない
リラコは天井を見上げる
その場に崩れ落ちる者や泣き出す者が後を断たない
「…」
椿はフラフラとおぼつかない足取りで飛影に抱き付いた
「っ…」
身体が震え嗚咽をもらす椿を優しく抱き締めて頭を撫でる
「なんでお前が泣くんだか…」
「…ひ…飛影が泣かないから私が代わりに泣いてるの…」
災厄である飛影に涙は無い
どんなに悲しくても涙は流せない
飛影のリラコへの笑みには隠しきれない哀しみが現れていた
「…ありがとう椿」
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次の日
国の総出でセツネの葬式が行われていた
「ねぇ飛影、葬式に出なくていいの??」
城は一日だけ一般に解放され人が溢れていた
葬式を行い、最後の別れを行うべきタイミング
飛影は城の屋根に黒鋼といた
「俺はもう別れは済ましたからな…リラコ達に譲るよ」
「ふ~ん」
こんなときでも黒鋼の無表情は変わらない
「さて…と…黒鋼、ちょっと5日間くらい俺はてきとうにふらつくから」
「わかった」
黒鋼は無表情に頷くと飛び降りる
「さて…と思い出を巡りに行くかな」
大きく伸びをした後飛影は放浪を始めた
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一週間後
放浪の旅から飛影が帰ってきて城の廊下を歩いていた時であった
目の前には自分の身体よりも大きく積み重なっている荷物を危なげな足取りで運んでいる侍女がいた
飛影が見てる間にその侍女はずっこける
「おい」
「へ?は?ひゃ!?」
新人の侍女は荷物も自分も床についていないことに驚いて飛影に話しかけられたことに更に驚いた
「危なかしいから運んでやる。どこまで運べばいいんだ?」
飛影は風華の風で荷物も侍女も浮かばせたまま問う
「えぇ!?えっと!!倉庫です!!」
「あいよぉ」
飛影はそのまま運ぶ
これが飛影がメリア国の人間に話しかけた最初の一人である
本当にこの話はやりたくなかったですが、先に進むには避けては通れない壁です
次話はキャッキャウフフの青春物語