魔剣
魔剣がちょっと揃います
飛影が天国に行っている最終日のことである
約六日の間、飛影は帰ってきていない
そんな事実に耐えきれない者がいた
椿ではない、椿は飛影が少しの間程度姿を消すのはもはや馴れている
10年間は伊達ではない
「あ~仕事ダルい~」
ダル王ことセツネ
つい先日までのやる気溢れる姿は息を潜め、再びダル王が見参していた
仕事自体は一応行っているが生産性がかなり下がっている
「セツネ様!!とりあえず起きてください!!お客様がいらしているんですよ!?」
仕事用の机に寝そべっているセツネをなんとか起こそうと必死な従者
「また賄賂だろ?てきと~に受け取って無視だ無視」
それはさすがに酷すぎる応対である
メリアは今、様々な分野で世界一を確立しまだまだ伸びる
そんなメリアと友好国になろうと、他国が様々な物を貢いでくるのである
ようは、これやるから仲良くしろということである
色々とレアなものや高価なものしかなく、それも一応は世界一への布石にもなっている
しかし、今のセツネにとっては恐ろしくどうでも良かった
「くっ!!こうなったら最終手段です」
動き出す気配がまるで無いセツネに、従者の女性は指を鳴らす
《浮楽》
フワリとセツネの身体が浮く
「そこまでして、私を働かせたいか!?」
「当たり前です!!」
浮楽は音を使う魔法で、その音の分、浮遊させる力にする
隠れ護衛のため、あまりおおっぴらに魔法を使いたくなかったのだが、しょうがないと割り切った従者の女性であった
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「あ~護衛とはいえ、緊張するな…」
「ふーん、まぁ僕は興味ないからいいや」
来客用の部屋に豪勢な品物の数々と二人の男がセツネを待っていた
一人は甲冑に身を包んで腰に刀を帯刀している
もう一人の男は、豪勢な衣装に身を包んでいる
豪勢な衣装に身を包んでいる男はセツネへの交渉役である国の重鎮で
甲冑に身を包んでいる男はその護衛役である
今会話したのは重鎮と護衛ではない
「とりあえず、お前は黙れよ魔剣」
「僕に命令をするな…まぁ聞くけどさ」
この会話は護衛と帯刀している刀の会話である
人性の魔剣
人のように意思を持ち、人のように話すことができる特性を持つ
ガチャと扉が開く
重鎮や護衛に緊張が走る
相手は一世で世界一にまで上り詰めた王である
「あ~だるい…」
しかし玉座に座ったのはダルそうな表情で肘を付きながら威圧感すら感じる眼で重鎮と護衛を見ている女性であった
どう見ても、敏腕には見えない
「ようこそメリアへ…よく来たな。して、今日は何用かな?」
(クッソお前らさえ来なければ私は寝れていたのに…どう落とし前をつけさせようか…)
これが一人の国の上に立つ女王の本音と建前である
「本日は」
「あ~御託はいらん」
重鎮が笑みを浮かべごますりしながら、セツネに挨拶しようとするが一瞬で切り捨てる
この御託だけで30分を超える時もあり、セツネとしてはうんざりするほどである
早く終わらせて寝たい
ただそれだけがセツネの行動の基準である
重鎮はセツネの態度にも眉一つ動かすこと無く笑顔で説明に入る
そしてセツネの睡魔との戦いが始まった
開始30分後
セツネは睡魔に負けそうであった
さすがに、客人の前で寝るのだけは駄目だと意思はあるのだが、あまりにも品物がつまらなすぎるため、このまま寝ようと意思が挫けそうになった時である
「こちらが最後の品です」
重鎮が細長い包みを取り出す
「こちらはメリア国においては特に意味のあるものかと…」
思わせ振りな言葉を放ち包みから取り出したのは一本の刀であった
黒く黒い刀
魔剣の一刀である
「…それは?」
どこかで見たことがあると、セツネの意識が少し覚醒する
「魔剣です。世界一の刀とも呼ばれるこの魔剣であれば、世界一に君臨しているメリア国に有益だと思うのですが?」
(てめぇ!!それ僕のだぞ!!何勝手に渡そうとしてくれとんじゃあ!!)
これは人性の刀の思考である
一応は喋るなという命令を聞いている+声だけ出しても意味がないことを知っている刀は思うだけにしている
とりあえず、場所がわかっているので良しという考えである
「…」
少しずつ意識がハッキリとしていくセツネ
(…確か…飛影が集めてたな…ふ~む…これがあれば飛影で遊べそうな気がする)
《方舟》
「ただいま~」
一瞬で飛影が表れる
丁度セツネと重鎮の間に移動した飛影
「おぉ飛影!!」
飛影の姿を視認したセツネ
ガバッと立ち上がる
「会いたかったぞ~セツネ!!」
「こっちもだ!!」
久々に会ったかのように抱き合う飛影とセツネ
「ってあらら?客がいるのか…俺は部屋に行ってるよ」
ようやく重鎮と護衛に気付いた飛影
セツネとの抱擁を止める
「あぁ今回はお前にも見せたいものがあってな…ちょっといてくれ…さて、続きを頼むよ」
ポカンとその様子を見ていた重鎮はハっと我に返る
「はい、この魔剣で」
「魔剣だと!!?」
重鎮が言い終わる前に飛影が遮る
「驚いたか飛影!!」
飛影は重鎮が持っている魔剣を注視する
本物かどうか
「本物だな」
「欲しいか?」
ニヤリと笑みを浮かべるセツネ
「欲しい!!」
そして自分に素直な飛影は即答する
「いや~けどこれは、受領した後は博物館か鍛冶屋の街に贈るつもりだったんだがな~」
ニヤニヤと笑うセツネ
それだけでセツネが何を言いたいのかは理解できた
「何が望みだぁ!!?」
「いや、特に無い。飛影から国に何かあれば丁度いいんだがな」
あくまでも飛影とセツネの取引ではない
国と飛影の取引になる
正確にはまだ受領しているわけではないが、受領した体で話を進めている
「…俺からか?…難しいな…そうだな…滅んだ国の蔵書なんてどうだ?量はあるから量の世界一も狙えるし何より古いが状態は良いしもう手に入らないぞ」
飛影はコートのポケットの中に様々な国の蔵書がある
魔法がかかってある蔵書や
飛影が滅ぼした蔵書や
遺跡で発見した蔵書
数だけなら100万冊はあるのではないかという程である
「なんか普通に良い条件だな…」
飛影をからかうつもりが、予想以上の対価に素直に頷いてしまう
「ってなわけで契約成立!!もらうぜ!!」
重鎮の手から魔剣を奪う
『あ!!?』
あまりの暴挙に声を出したのは重鎮と
(それ僕のだぁぁぁ!!)
魔剣である
飛影自身は特に気にする様子も無く、自分の持っている魔剣を抜く
「なんの魔剣だかわかんねぇけど」
融性の魔剣の力を使う
魔剣同士が重なり合い一つになる
「ようやく半分か…」
「マスターァァァァァァァア!!?」
その様子を見た人性の魔剣は思わず叫んでしまった
今の持ち主の命令などもはやどうでもいい
「ん!?」
飛影が声のした方を向くと男が一人
「こっちこっち!!ちょっとそこのマスター!!僕を使わないか!!?」
と腰に喋る刀
「なっ!!?お前の持ち主は俺だぞ!?」
「うっさい…持ってるやつと使い手じゃ格が違うんだよ!!」
「へ~!!それいいな!!貰い受ける」
「どうぞどうぞ!是非是非」
ここまではしゃぐ魔剣を見るのは初めての護衛
「よし!!じゃあ勝負だ!!勝った方が魔剣総取りな!!」
勝手に話が進んでしまう
大国の王の前だが関係ない
護衛は魔剣を抜く
魔剣の所持者である護衛はそれなりの実力は持っている
剣技だけなら十本の指に入るが、
「少し暴れたかったんだけどな~」
飛影は笑いながら、魔剣を抜刀する
「役不足だよ」
飛影はその場から動かずに、腕を振る
確実に届かない位置からの攻撃
「っ!!?」
僅かに油断した護衛の首を狩るように刀が延びる
咄嗟の反射でギリギリ防ぐ
「おぉ…融性に硬性に伸性に熱性とあの剣は変性か」
魔剣と魔剣がぶつかり合う
ぶつかり合った瞬間に人性の魔剣は飛影の所持している魔剣の種類と数を理解する
「城を壊すわけにはいかないから、地味に倒すからな」
力を込める飛影
「ぐぅ!?」
飛影の片腕、しかも剣が伸びていて力がいれにくい状態と
護衛の両腕を使った全力の状態とで力が拮抗する
しかも余力を残している飛影と余力が無い護衛
飛影の徐々に込められる力に次第に拮抗が崩れていく
首もとまで押した飛影は刀の向きを変える
「膝まづけ」
上からの力に脚が崩れ落ちる護衛
「はい、終わり」
飛影は少しだけ刀を上げて降り下ろす
ただそれだけの動作で護衛は刀を弾き飛ばされ後頭部に峰が直撃する
技を見せること無くただ純粋な力によって何もできずに敗北する護衛
「さすがの強さだなお前は…」
なかなかの実力はあるかと感じたセツネであったが、飛影にとっては赤子以下である
「イェイ…さぁマスター僕を使ってくれ」
急かすように早く早くと呟く人性の魔剣
飛影は人性の魔剣を手に取り、手早く融性の力を使って融合させる
ポカンとしているのは、目玉であった魔剣を奪われて護衛を倒された重鎮である
「おっけい…変性がいて丁度良かった」
刀を握っていた飛影だが、いきなり手透きになる
「これからよろしくマスター」
飛影の目の前にいるのは無表情な褐色の肌が特徴の少年であった
魔剣の人性見参!!