初めての恐怖
盗賊の少女の静紅とSランクの遺跡に向かう少年
そこで待ち受ける恐怖とは…
災厄と化物の壮絶な殺し合いから三日間
ずっと気絶していた少年と静紅
誰からも襲われなかったのは奇跡に近いのではなく
襲ってきたが寝ていても充分殺せるレベルしかいなかったためである
幸いにも腕がちぎれることもなく
内臓破裂や複雑骨折程度の怪我ですんでいて、三日寝れば代々身体は動くようになった
災厄と化物としての再生力の賜物である
「ん~よく寝たわ~」
大きく伸びをする静紅
「…」
少年は身体を軽く動かし状態を確認する
「ふふ…私の予想通り死ななかったわね」
微笑みを浮かべる静紅
少年にとっても自分より強い存在は初めてで
静紅にとっても互角に戦える存在は初めてである
静紅の場合は孤独が癒えた
同属を見つけて内心も表情も喜びを隠せない
「殺し合い…殺せなかったのは最初だ」
「最初って言うよりも初めてって言った方が適当よ?」
どうしても少年の話し言葉は盗賊達のを聞いたりして覚えているためおかしい
「まぁ…いいわ…それよりも遺跡~」
スキップでもしそうな静紅
傷も大体は癒えたため、目的の遺跡に向かう
「逆」
少年はこの遺跡の森で五年間過ごしてきた
遺跡の大体の箇所はわかっている
静紅が向かおうとした方向と目的の遺跡がある方向は真逆であった
「…」
ピタリと足が止まる静紅
「や…や~ね~試したのよ~」
歳上のお姉さんとして不甲斐ないところは見せたくない静紅
少しの冷や汗と強がりを言って反転し
「あら…?」
着物の裾を踏んづけた
ぐらりと揺れる静紅
簡単にいえばずっこける静紅
「へぶ!!?」
そのまま木に頭から激突
鈍い音が響く
若木とはいえ20年は経っているものをただそれだけでへし折る
ゆっくりと倒れる若木
「…」
「…や…ちょっとしか触っていないのに折れるなんて…この木が弱いのよ!!」
歳上のお姉さんとして威厳が崩れた
もともと少年は感じていなかったが静紅はなんとか誤魔化そうとする
「いやほら…あれよあれ!!こんなところに罠があるとは思ってなかったのよ!!」
罠も何も自分で自分の裾を踏んづけただけである
「ほらあなたもそう思わ…いないわ!!」
少年は静紅が転けても言い訳を連発しても気にせずに遺跡へ進んでいた
静紅は急いで追い付こうとする
幸いにも少年は普通に歩いていたのですぐ追い付けた
「先に行くなんてひどぶ!!」
追い付けた途端に凄まじい勢いで転ける
少年にぶつかる勢いだが少年は背後からの足下に目掛けて放たれた突進を少しだけ跳躍して避ける
「…」
進行方向を塞がれた少年は顔面からスライディングして倒れている静紅を避けて進もうとする
「ふわぁぁぁん!!もういやぁぁ!!」
起き上がり泣き始めた静紅
しかし少年は無反応
「ちょっとは気にかけてよぉ!!」
駄々をこねる子供のように静紅は腕を振り回す
「!!?」
当然ただの子供とは次元が違う静紅のそれは衝撃波となって少年に襲い掛かる
転がるように避ける少年
「殺る気…か?」
臨戦態勢へと移行する少年
「殺る殺らないじゃなくて気にかけてよぉ!!」
理不尽であった
「…」
少年は臨戦態勢を解く
「お前を気にかける意味が…ある…か?」
理不尽に対して少年がとった行動は正論である
少年よりも強い実力を持つ静紅が転けてもダメージは無い
何度もアホのようにずっこけるという精神的なダメージはあるが少年には理解ができない
しかし、少年の言い方では
お前程度気にかける存在ではないわ!!このゴミ虫が
と静紅には捉えられた
「ふ…ふわぁぁぁん!!」
更に精神的なダメージを受けた静紅
そして静紅の思考は
無視されて先に進まれるのは嫌
↓
両足を折って動けないようにしよう
と変わった
泣きながら立ち上がり静紅はゆらゆらと少年に近づく
「!!?」
今まで感じたことの無い嫌な気配に少年は動物のように身体を屈めて臨戦態勢へと移行する
その構図はまるでライオンVSシマウマであった
シマウマはどちらか
ライオンはどちらかなど聞くまでもない
静紅はゆらゆらと接近
「…」
後退りする少年
初めて恐怖を感じた瞬間であった
「殺す!!」
しかし謝罪も知らない
恐怖も知らない少年にとっては理解できないものである
《炎舞》
殺らなきゃ殺られる
そのことは理解した
そして再び殺し合いが始まる
「遺跡まで…長そう…だ」
ポツリと感想を洩らす少年
「あら?そうよ遺跡よ…両足を折ったら時間かかっちゃう」
思い出したかのような静紅
少年を包んでいた恐怖が消える
「殺し合い…か?」
少年としても殺し合いは楽しいが目的まで逸れるのは面倒らしくすぐに矛を納める
「いえ遺跡に行きましょ~」
再び逆方向に歩き出す静紅を放置して少年は遺跡に向かう
遺跡には二種類あり上に進む塔のような遺跡と
下に進む穴のような遺跡である
今回の遺跡は後者の下に進む遺跡であり、森のなかで見つけにくい遺跡になる
しかし、すでに遺跡の森は庭のようなものである少年は迷うことなく入口に向かう
深い森の中で方向がわからなくなるのは当然だが、静紅のアホも足されて悲惨な状況である
「着いた…ぞ」
「あら…ここがそうなの?」
着いたところは大木であった
静紅は周囲を見渡すが入口のようなものは見つけられない
「上」
少年は大木の上を指差す
「あらあら…」
そこには穴があった
大木の中が入口
言われなければ気付かない
「よく知ってるわね…」
「魔力が強い…だからわかる」
大木が息を吐いているかのように穴から魔力が漏れ出ている
意識しなければ静紅にはわからなかった
少年は少しでも魔力を探知すると向かい、人間なら殺す、他の物なら放置を繰り返していて見つけたものだ
少年は跳躍して器用に穴へと入り込む
「…」
しかし静紅は頭をぶつける予感がした
自分が入ろうとした瞬間に枝が折れ大木に頭をぶつける
そんなイメージができてしまった
「…どうしよう…」
少し考えたのち静紅が行った行動
「…そうだわ♪」
それは穴を拡げようと手に力を込めることである
手刀の形を作り全力で薙ぐ
1,000年は越えていそうな巨大な樹
静紅の頭をぶつけたくないからという理由で消し飛ばされた
「ふふ…これでよし」
入口の樹が消し飛ばされて底が見えないほどの大きな穴が現れた
「さぁ…Sランクの遺跡…楽しめそうだわ~」
鼻唄混じりに楽しそうに穴に入ろうとして
「あら!!?」
静紅は再び裾を踏んづけて頭から穴にダイブした
「ひぃやぁぁあ!!?」
絶叫をあげながらSランクの遺跡に突入
「…?」
少年の真上に落下コースだったが気配を感じていた少年は受け止めずに避けた
「へぶ!?」
顔面から着地する静紅
しかしダメージはあまりない
少年と静紅がいる場所は岩や土で舗装された穴蔵ではなく木々が茂げ、光も地上のように明るかい場所であった
名前 静紅
種族 化物の子供
所属 盗賊
武器 なし
魔法 完全領域
人の想いによって化物となった少女
少年と出会うまでは孤独だった
災厄という仲間に会えて孤独が癒える
静紅が遺跡の森にいったのは遺跡の宝と災厄の少年に会うためでもある
近距離が得意な間合いで手刀と完全領域による防御壁で攻守共にバランスが良い
キレるスイッチ 化物と言われること
力 A
器用 A+
魔力 S
魔法 S
素早さ A+
近距離 S
中距離 B+
遠距離 B