寄生者
この話で長かった椿編が終わりです。
椿の正体が明らかに!!
世界を壊すモノを殺してから一ヶ月後
カガリの死体はカガリの住んでいた家の前に埋めて墓を建てた
飛影はそのまま火葬しようとしたが、椿が提案したのだ
死体漁りなどにあわぬように、墓から半径10メートル近づいた瞬間に近づいた者を燃やし尽くす魔法をかけた
そしてこの一ヶ月飛影と椿が行っていたのは近くの街の宿を借りて話していただけである
「やることなくなったね~」
ベットに寝転がっている椿
「そうだな…そろそろ旅に出るか俺は友達ってのを探したいし」
やることもない飛影はトレーニングをしている
「うわ~飛影にとってそれは厳しそうだね~」
「うっさい!俺も自覚してるからいいんだ!!」
感情豊かになっている飛影
カガリの最後の願いを叶えていた
しかし、感情豊かになっていても飛影の度が過ぎるほどの人間に無関心は治る気配が無い
むしろ悪化している
宿の女将とのやりとりは全て椿が行っていた
「あ~その前にアイステンペストに行きたい~飛影と合流したら一回戻るって約束したし!!」
「あ~?了解…んじゃあ行くか!!」
思い立ったらすぐ行動
もともと宿には余分に金を払っているため、いつでも出ることができる
荷物も二人して無いに等しい
飛影は立ち上がると椿の首根っこを掴む
「え?これマジでやってる…?」
「大マジだ!!」
飛影はとにかくテンションが高くなっている
ときどき椿でも引くぐらいである
楽しいときは良く笑う
そして窓に脚をかけて飛び立った
「くそばかぁ!!?」
「聞こえないな~」
《炎舞・加速》
飛影は背中に炎の羽を構築し羽ばたく
良く笑い、わざわざ羽を構築する
まるでカガリの真似をするようにである
「速いからぁぁぁ!!私が死ぬぅぅ!!?」
ぎゃあぎゃあと高度100メートルほどの所で騒いでいる飛影と椿
一時間程飛行していると飛影の眼に人間の大群が見える
「なんだ…あれ?」
「戦争の帰りとかじゃないかな?活気が良いし」
万を越える人
カガリと出会う前なら突っ込んで魔法使いを皆殺しにしたであろう飛影だが
そんな気は起きない
スルーしようとした飛影
《氷輝・アイス》
先頭を歩いていた魔法使いが空を飛ぶ飛影に向けて氷の礫を放つ
「うわわ!?」
慌てる椿だが飛影は炎の羽を羽ばたかせ何事もないように蹴散らす
「…殺す」
舐められたと認識した飛影
臨戦態勢に入ろうとする
「飛影!!無視!!先行こうよ先」
それを宥める椿
軽々と攻撃を消された魔法使いの表情に怒りが見える
「はぁ…わかったよ!!」
飛影は溜め息を吐きながら先を急いだ
結果的にはその判断は間違いであった
飛影と椿がアイステンペストに到着した時には国が無くなっていた
「…え?」
ボスンと深雪の雪に脚が埋まりながら椿は現状が把握できていたかった
確かに立地的にはアイステンペストであった
だがそこには雪しかない
雪を弾く結界は消えている
「…あぁ成る程な」
椿とは逆に飛影は状況を全て理解した
「この国は戦争に負けたんだよ…多分殺ったのはさっきの連中だろ…所々に雪が付いてた」
「…え?」
戦争に負けたにしては国が無くなる理由がわからない
「さっき俺らに攻撃した魔法使い…反則級の上位クラスだったからな…国一つなら滅ぼせられるんじゃないか?」
「でも…国があった形跡が…」
ここには雪以外何もない
「簡単だ…これが答えだろ」
《炎舞・雪融け炎》
飛影はその手に黒い炎を生み出す
その手を地面
雪に触れさせる
一瞬だった
椿は浮遊感を覚えると同時に落下した
「きゃ!?」
およそ15メートルほどの落下
答えはそこにあった
「戦争に勝って国を滅ぼすために…雪崩を使ったんだろう…」
そこにあるのは悪夢のような光景
建物は全て崩れ落ち、建物以上に人だったものがいる
雪崩で身体が冷やされていたため血も流れていないし腐臭もしない
「…城は…」
椿は周囲を見渡すがそれらしい建物は見つからない
「あっちだな…結界の魔力の痕跡が微かに残ってる」
飛影が指差した先は何もない
「っ!?」
駆け出す椿
《炎舞・永眠》
飛影は椿を追いかけながらも建物や死体を痕跡も残さずに燃やし尽くす
「…」
飛影が追い付いた時には椿は王を始めとした王族とシュガーを見つけていた
立ち尽くしている椿
飛影が後ろから覗くと王族の死体には例外なく首がない
(本で読んだな…なんだっけ?討伐した印に首を跳ねるんだったかな)
あくまで関係無い飛影は冷静である
椿はスノウの死体も発見していた
首がなくともわかる
さらに自分のネックレスと対になっている鍵のネックレスがかけてあった
「…許さない」
ポツリと呟いた椿
血が出るほど拳を握り締める
「…!!?」
飛影は全力で椿から距離を離す
50メートルほどの距離を離した飛影
恐怖だとかそのようなものではない
身体の異変を感じたのである
(…魔力を吸われた?)
一瞬で10分の1の魔力が椿に吸いとられた
何が起こったのか飛影には理解できていない
「…殺してやる」
殺気混じりの魔力が解放される
「…っ!?」
それは絶対強者級の総量と変わらない
「…魔力が…」
飛影は自分の魔力がまだ椿に奪われていることに気付く
《炎舞・追跡》
椿の背中に炎の翼が現れる
「…どういうことだ…」
理解ができていない
魔法は十人十色
同じような魔法は使えるが、同じ魔法は使えない
飛影のヘリオトロープがあれば別であるがそもそもとして椿は魔法使いではない
「おい椿!!」
飛影の呼び掛けにも応じずに椿は飛び去った
まだ魔力は取られていた
「…」
すぐに飛影は追わなかった
読んだことがある魔法生物の図鑑で見た何かと同じ症状
飛影はコートから魔法生物の図鑑を取り出すと調べ始める
椿の魔力は絶対強者級
放置しても問題はないと考えに至った
そしてその記事はすぐに見つけることができた
「…寄生者」
椿はすぐに軍に追い付くことができた
身体が軽いこと、絶対強者級の魔力をもっていること、飛影の魔法を使えること
そんなことは椿にとってどうでもいいことであった
目の前に仇がいる
それだけで充分であった
《炎舞・炎崩》
雪崩で殺されたから雪崩で殺し返す
雪がないため、椿は炎で代用
草原に巨大な炎の波が発生する
〈寄生者は正体不明…最初は光の玉として姿を現す。〉
椿が飛影の前に現れたのはアギトを倒して光の入った瓶を割った後である
炎の波は瞬く間に軍全体に拡がる
対応できずに焼かれるもの
対応しても無駄で焼かれるもの
《氷輝・足場》
脱け出すことができたのは、飛影に攻撃を放った男だけである
戦に勝ったあとの興奮と疲れによる思考の遅延が合わさった
「…なんなんだお前」
炎の波から逃げるために空中に足場を形成した男
「…復讐者」
飛影の推測では雪崩を起こした張本人
椿は強く唇を噛み締めた
〈寄生者は外気に触れると一番近い者とリンクを張る、そのリンクは形を造るための魔力を吸いとるためのリンクである。そのリンクを使用して身体を造るほどの魔力が溜まると顕現する。形は人によって様々であるが、人間にも動物にも成れる〉
《炎舞・断罪剣》
《氷輝・氷刃》
椿は炎の剣を造りだし男も氷の剣を造りだす
翼を羽ばたかせ空中を飛び男に突っ込む椿
男も氷の足場を使い椿に突っ込む
炎と氷がぶつかり合う
絶対強者級の魔力を持っているが力ではほぼ互角
〈形を造った寄生者はリンク先の者の前に現れる。外気の魔力も吸いとりそこから知識を取得しているためコミュニケーションには問題ない、基本的にリンク者に従い付き添う。問題として身体が顕現しても魔力を吸いとられることである。〉
椿は翼を振り回し相手の態勢を崩す
その一瞬の隙を突いて男の左腕を切り落とす
〈寄生者はリンク者の魔力を死ぬまで吸いとる。通常の人間では寄生されると3ヶ月で魔力枯渇による衰弱死となる。リンク者が死ぬと身体が顕現できるまで現界し再び光の玉へと姿を変える。その繰り返しである〉
左腕を失いバランスが崩れた男の右腕も切り落とす
「がぁ!!?」
苦痛に満ちた悲鳴をあげるが椿は止まらない
右足に左足すらも切り落とす
〈注意点として、寄生者の感情が爆発するとリンク先から膨大な量の魔力を吸いとる。魔法使いでさえ魔力枯渇に陥り死亡する。対処法は光の玉になった際に外気と遮断することで寄生を止めることができる。完全な消滅方法は不明〉
椿は男の顔面を掴む
「なんで殺したの…あんなに良い人達だったのに!!」
短い悲鳴しか聞こえない
《炎舞・掌帰爆炎》
椿の手が赤く燃え上がると同時に男の全身を炎が包み込む
一瞬で炭へと身体を変える
「…なんで…こんなに虚しいんだろう」
仇は全て殺した
しかし椿の心は晴れない
涙が零れる
「とりあえず寝てろ!!」
背後から飛影の声が聞こえた
そして椿に軽い衝撃が襲い意識を手放す
「あ~身体がだりい…半分以上持ってかれたな…」
椿を抱き抱える飛影
絶対強者級になった飛影の魔力を半分を吸いとった椿
反則級では即死である
飛影は魔力探知で注意深く観察すると、確かにリンクが張られていた
(魔力探知が今までてきとうだったとはいえ気付かなかったな…)
もともと魔力操作がてきとうであった飛影
カガリに受けた魔力の訓練は色々な箇所で役立っていた
(…生き残りは…いないか…)
焼け野原
草原が一瞬で焼け野原に変わっていた
ほぼ黒炭になっている中まだ人の形を保っているものを探す飛影
僅かに影が動いた
「生きてたか…」
飛影は椿をおぶさりまだ生きている者へと落下する
「お前らどこの国に属してる?」
飛影は半身が焼け焦げて放置しても死ぬものを俯せ状態から蹴り起こして仰向けにする
「う…ミラス」
もはや目も見えていない者は助けだと思い言葉を振り絞る
「そうか…」
飛影は国の名前だけ聞ければ充分であった
飛影は無造作にその者の顔を踏み潰す
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「さて…」
飛影はミラス国の上空にいた
椿は近くの国に宿を借りてそこに寝かせている
地図を確認して飛影はミラス国の場所を認識するとすぐに向かった
滝のような水量の豪雨
だが飛影の身体は濡れていなかった
「椿を泣かせたな…」
《炎舞・断罪の矢》
飛影は手をあげる
ミラス国に赤い光が降り注ぐ
空を埋め尽くしているのは、赤い炎
無数の矢が空を覆い隠す
「あは!!」
飛影はニヤリと笑い手を下ろす
それを合図に空が落ちた
無数の矢が降り落ちて国を滅ぼしていく
建物も城の結界も関係無く破壊し赤い炎が蹂躙していく
五分間
降り注いでいた矢が無くなる
「…こんなもんか」
国として見る影も無くなったミラス
飛影は一つ頷いて椿のいる宿へと帰る
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椿が起きた時に飛影は全てを話した
ミラス国を滅ぼしたこと、そして寄生者について
椿の反応は簡単だった
ありがとう
と
私人間じゃなかったんだ
であった
すぐに笑顔を取り戻すことを願うのは酷である
「よし!!椿遊ぶぞ!!」
飛影は椿の手をとる
そして飛影と椿は様々な国を観光し、様々な娯楽という娯楽をやりつくす
次話はけっこう時間が経過した飛影達です
個人的に椿の話は書きにくかったんでこっから楽できます。