ジソフ国滅亡
少しダークです
「あっ!!飛影くんあれ美味しそう!!」
「…」
はしゃぐ椿を先頭に飛影はついていく
飛影としても目新しいものばかりで視界は一点に集中することがない
周りからは微笑ましい光景であった
椿が指差したのはホットドッグのようにパンに肉を挟んだもの
「おじさん二つ頂戴!!」
幸せそうな笑顔の椿
「はいよお嬢ちゃん…300Gだ!!」
「これで!!」
たった300G
それを椿は金の粒で払う
「…」
目を丸くして時が止まる屋台の主人
さすがに貰えないと時が動いた時にはすでにいなかった
「どうだ!!飛影くんこれが料理だよ!!」
人肉では無い食べ物
ファーストフードのようなものを料理と呼ぶかは不明だがまともな食べ物であることは確かである
自分が作ったわけではないが、胸を張って飛影が食べるのを待つ
「ん…」
どうやら飛影の口にあったようで、すぐに一つ平らげる
「どう?」
「うまい」
「やったー!!私の勝ち!!」
万歳して再びはしゃぐ椿
勝負事になった記憶は無い飛影だがどうやら負けたらしい
「これ作れる!!?」
「わからない…」
飛影としても気に入ったため作れるなら作ろうと考えるが調理方法がわからない
「う~残念…あっ!!?飛影くんあれ食べよ!!」
次に椿が発見したのは水飴である
椿は聞いてはいるが疑問系ではなく飛影の返事を聞く前に屋台に突撃する
「…」
本心から渋々といった様子で飛影はそれに追従する
「おじさん二つ頂戴!!」
そして再び椿は金の粒で支払う
「買ってきたよ!!食べよ?」
「ん」
一つを飛影に渡す椿
木の串が二本水飴に突き刺さっている
「どうやって食べるんだろ?」
色々な角度で観察する椿を横目に飛影は水飴を一口で頬張る
もともと水飴は少量を口に含むものである
「脳みたいな食感」
ネチャネチャと口の中に残り食べづらそうな飛影
「…食べる前にそういうこと言わないでよ!!?」
まだ食べていなかった椿にとってひどく食べるのが億劫になる感想である
舐めるように少量を恐る恐ると含む
「甘くて美味しい!!これ少しずつ食べるんじゃないの?」
すぐに口で溶けて飛影の言う脳みたいな食感は無い
「やった勝った!!飛影くん罰ゲ~ム!!」
「?」
勝負になったことも初めて聞いたことでありしかも罰ゲーム性であった
「じゃあ私のことを名前で呼ぶこと!!」
飛影と会ってから少し経つが一度もまだ名前で呼ばれていない椿
名前で呼ばせよう名前で呼ばせようと内心ずっと考えていたことである
「…意味がわからない」
一蹴
「…うぅ」
その場で崩れ落ちる椿
椿が勘違いしたことだが飛影の意味がわからないは名前を呼ぶことではなく罰ゲ~ムの意味がわからないということである
「もういいもん!!服屋行こ!!服屋!」
頬を膨らませてかなり不機嫌である
飛影は何に怒っているのか意味がわからないがそれについていく
「いらっしゃいませ…あら可愛らしいお客さんね」
優しい笑顔で迎える女性店員
「凄い!!服がいっぱい!!」
様々な服があり椿の眼が輝いている
「…」
しかし飛影は興味無さげにそれを眺める
「こちらなんてお似合いですよ?」
子供用の服もあり店員は椿に似合いそうなものを見繕う
「ふわぁぁ!!?」
さすがに子供二人のためお客さんだとは思っていない女性店員
しかし暇なのもあり可愛らしい少女が来たため色々と見繕うとしている
30分後
「ねぇねぇ飛影くん!!これどうかな!!?」
試着させてもらった服を飛影に見せびらかす椿
くるりと回って御機嫌である
「知らん」
一蹴
再び崩れ落ちる椿
「くっそ~!!」
しかしすぐに復活して再び女性店員と服を考える
一時間後
「これどう!!?」
「知らん」
悩みに悩んだ一品を一蹴された椿
完全に崩れ落ちる
しかし飛影も一時間待たされて文句も言わないのは立派である
「ひらひらしたのじゃなくて動きやすいのにしろ」
ついに一時間も突っ立っていた飛影が動いた
てきとうに無造作に選び椿が最後に着た服と同じものを選んで椿の頭に乗せる
「ありがとう飛影くん!!」
すぐに復活して太陽のような笑顔を見せる
「お姉さんこれ買います!!」
再び金の粒でお会計する椿
女性店員の時が止まった
「ありがとう飛影くん!!」
店から出て再び礼を言う椿
ここまでは順調であった
国も飛影と椿も
少し歩いた時に五人の男に囲まれた飛影と椿
「坊主たちいっぱいお金あるんだって?お兄ちゃん達に恵んでくれないかなぁ!?」
ジソフは遺跡の森に一番近い国
当然盗賊も多い
椿は金で支払いをしすぎたのだ
子供二人が大金を持っている
それだけで盗賊が狙う理由になる
盗賊に囲まれた子供を街の者は見てみぬ振りをする
誰だって蜂の巣は突っつきたくない
「えっと…」
先頭を歩いていた椿は当然男達から近い位置にいて一歩下がる
「いいだろ?いっぱい持ってるんだから」
そんな椿を見て更に一歩近付く男
「…」
ゆっくりと飛影の手が背の刀に向かう
「駄目!!!!…飛影くんそれは駄目!!」
飛影のその行動が何を意味するか
椿には理解できた
盗賊ではなく飛影を制止させる
「なんで?」
飛影には椿が止める理由がわからない
「なんだ坊っちゃん?戦おうってか?」
手は刀を掴んで止まる
盗賊が嘗めているように笑う
「…殺す」
飛影の感情が鎮まる
それは嵐の前の静けさのようであった
「駄目!!」
飛影の身体を抑えて無理矢理止めようとする椿
ポケットに入れてた金の粒一握り
全てを盗賊に投げつける
「それで全部!!だから放っておいてよ!!」
このままじゃ不味い
それは理解できたことで椿には盗賊達を離すことしか考えていない
しかし、盗賊達はその椿の態度にムカついたようで地面にばら蒔かれた金の粒を拾おうとはしない
「おいおい嬢ちゃん…ちゃんと手渡してくれよ」
「…っ」
飛影は今ぎりぎりのラインで踏みとどまっている
椿がいることで抑止力になっているということは無いが、離したら大変なことになると感じていた
「ほら早くしろよ!!」
いつまでも動かない椿に一人の盗賊が腕を伸ばす
「駄目!!近付かないで!!」
椿の必死の呼び掛けも意味がなく
「あは…」
狂気の笑い声が発せられた
「ひえ」
椿が名前を呼ぶ前に飛影は刀を抜いて腕を切り落としていた
「あっ?」
盗賊の男が腕を切り落とされたことに気付いて痛覚が痛みを訴える前に
「あはは!!」
首が吹き飛んでいた
「このガ」
逸早く飛影が何をやったのか理解した盗賊が動く前に
「キ」
身体は両断されていた
「…このガキ災厄だ!!?」
「なんだぁぐ!!?」
喋りかけた盗賊の顔が飛影に掴まれる
「あはははは!!!!」
握り潰す
脳漿と血液が周囲に拡散する
「災厄だ!!このガキは災厄だぁ!!」
「なんでこの街に来やがっ!!」
騒ぎ立てる盗賊達
ここは遺跡の森に一番近い国
つまり災厄の子である飛影の噂も一番拡がっている国だ
逃げようとした盗賊二人が無造作に殴り付けられて爆散する
一瞬の静寂
「あはは!!」
飛影が笑うと同時
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?』
複数人が恐怖の叫び声を上げて逃げ惑う
周囲はパニックになった
中には石を飛影に投げつけるものや、鍛冶屋から武器を持ち出すもの
城に報告するものがいた
女子供は逃げ惑い、腕っぷしに自信がある者や盗賊は武器を構える
その者達から発せられるのは敵意や殺意、恐怖に憎悪である
「飛影くん止めて!!」
一歩前進した飛影を椿は背中から掴んで何とか止めようとする
「死ね災厄!!」
「来るなガキ!!」
「早く殺してくれよ!!」
「生きてるんじゃねぇよ!!」
近付くのは恐いのか物を投げていく
それらは飛影には全く通じないものである
「なんでそんなこと言うの!!?盗賊が襲ってきたのに助けてくれなかったのはあなた達じゃない!!」
椿としてもこの対応には納得がいかない
最初から助けてくれればこんなことにならなかったし
盗賊を殺したからといって責められる理由がない
「そいつが災厄だからだ!!」
「生きてるだけで災厄を呼び込むガキは殺すのが当然だろ!!」
「俺の息子が火事でなくなったのもテメェのせいだろうが!!」
集団心理
どうしようもなく捌け口がない場合、人は捌け口を探す
台風で畑が駄目になった
落雷で動物が死んだ
謎の病気で死んだ
恋人と別れたなどと軽いものまで、災厄という存在は全ての負の感情の捌け口になる
そして噂が一人歩きして、一人が言った瞬間にダムに塞き止められていたように人々の口からおぞましい程責められていた
「…」
飛影から笑いが消えた
城からの兵士や騎士も飛影を取り囲み殺気しかない
「…なんで?…飛影くん悪いことしてないのに…」
椿には信じられなかった
人間というものが理解できなくなった
「ぁう!!」
そして誰かの投石が椿の頭に直撃して頭から地を流しながら気絶する
「つば…き?」
飛影は刀をしまい、護るように椿を抱き寄せる
「…ふざ…けるな…」
ある意味での笑いしか感情が無かった飛影にある感情が芽生えつつあった
それは怒り
何故こんな目にあわなければいけないのか
何故ただの人間ごときにここまで言われなければならないのか
何故災厄でも魔王でもないただの少女である椿が傷つかなければならないのか
「…ふざけるなよ」
《炎舞》
ポツリと飛影は呟いた
同時に空が緑色に光る
緑色の炎が空を覆っていた
「骨も残さない…あはは!!…お前ら全員死ねよ!!!!」
初めて出す叫びに似た大声
それを合図に空が落下した
正確には空を覆っていた緑色の炎がである
城の兵の中には遺産持ちの魔法使いがいて空に魔法を放つが一瞬で消えていった
相殺でもなんでもない、ただ無意味な行動である
「あははははははは!!」
そして飛影の笑い声と国中の絶叫の中魔王の一撃はジソフ国の全てを焼き付くした
この事件をきっかけに飛影は普通の人間に無関心になります
接するだけ無駄だからです