氷城の前で
いや~
氷の悪魔編だけで事を進めようと思ったのですが、
そういえば今って、文化祭シーズンですよね
人間界
「あれ?飛影はどうしたんだ?」
飛影の友人である彗が登校すると、目に映るのは魔界の魔王補佐であり女神のリタだけしかいなかった
リタがいつも隣にいる魔界の魔王の姿は見受けられ無かった
「飛影は仕事ですよ。魔王としての…です」
「あー、成程な…今回はどれくらいの期間だ?」
飛影が学校を早退することは珍しくないが、学校を休むのは稀である
そしてその稀に起こることは今回と同じような魔王としての仕事の時だ
休む期間は一日から一週間とあまり決まっていない
「今回は、おそらく一日かと」
悪魔と魔族の戦争を止めることが今回の依頼である
飛影であれば絶対強者級の悪魔を殺すことで、戦争を止める
それを実行するにはそこまで時間は必要ないだろうと予想しての1日である
「おはようございます」
聞きなれた、しかしこのクラスでは聞きなれない声に彗が振り向くと、彗と同じく飛影の友人である秋野の姿があった
「おう、おはよう」
「おはようございます。どうしましたか?」
リタが秋野に要件を尋ねる
秋野は飛影、リタ、彗とは一つ学年が違う
上級生の教室に一人挨拶をしに来ただけではないはずである
秋野は視線を飛影の席に変える
「飛影先輩はお休みですか?」
「そうですよ…何か緊急でしたら私が受けますが?」
飛影の完璧な補佐を目指すリタとしては、飛影の抜けた時の穴を埋めることを当然考えており、やる気は充分である
逆に冷静な声の中に、込め過ぎているリタのやる気に秋野は一歩下がる
「えーと、そこまで大事な用では無いので先輩が戻ったら連絡貰えますか?」
そもそもの話では飛影から秋野へ、魔法のことで話があるということで呼ばれていたのだ
深夜1時にメールで知らされ、秋野がそれに気付いたのは次の日の、つまり今日の朝である
リタもその内容を知らない反応であり、秋野としては特に急を要する訳ではないため、後日でいいやとの判断である
「しかし、飛影が好きそうなイベントまで一ヶ月を切ったってのに、休んで大丈夫なんかね」
高校のイベントである体育祭は既に終えているが、高校の行事で欠かせないもう一つの一大イベント
文化祭が来月に迫っていた
飛影であればそのような面白そうなイベントはスルーしないが今回は絶対強者級と戦えるというそれを上回るイベントがあるため忘れているのだ
「そろそろ準備なんだけどな」
「先輩方は大体何やるか決めてるんですか?うちのクラスはコスプレ喫茶店なんですけど」
実際に各クラスで実施するものは本日決める予定であるが、秋野のクラスのように大半は既に何をするか決まっている
「どうなんですか?」
リタは学校の文化祭というものは初めてであり勝手がわかっていなかった
「うちも同じかな…飛影と(特に)リタを使ってメイド執事喫茶店になるとおもう」
学年…いや校内一とも言われているリタの可愛さは校内だけで留まることを知らない
既に校外まで知れ渡っているため集客率は充分である
彗としては恐らく本人がいればメンドクサイと一言で片付けるがいない間に飛影を料理長にすれば、味と接客で客を集めることが出来ることまで考えている
狙いは東東高校特有の文化祭売上ランキング一位入賞である
やはり、人間界の魔王であるダドマが校長をやっている東東高校はイベント事には力を込め過ぎているため、文化祭売上ランキング一位のクラスには百万円の優勝賞金が授与される
どのイベントよりもクラスが一丸となる企画である
「かなり強敵ですね」
彗の考えが読めた秋野は、額から冷や汗を一滴垂らす
秋野のクラスがコスプレ喫茶店である理由は、秋野である
体育祭で活躍し、顔も整っている秋野を主軸とした布陣で挑むが、リタという強力で敵にすれば凶悪な者はいない
「…流石です…更にイベント大好きな飛影先輩の案がまだ出て来ていないことが恐ろしさに拍車をかけますね」
彗のことが大好きな秋野でさえも今回のイベントはガチであった
一人3万程
アルバイトをしていない学生からはかなり貴重なお金である
(飛影が文句を言わなければ良いのですが…)
そんな二人のやり取りを見て、今日中には帰ることが不可能である飛影が自分の決めたことができないイベントにどのような発想で乗り越えるか
手伝いはしたいが巻き込まれたくないと切実に思ったリタであった
「おっと…ちょうどいいですし。飛影からの伝言?伝…伝口狐?があります」
飛影の手伝いということを考えていたリタは、飛影から「テキトーに昼頃でいいや」と言われて渡されたものを鞄から取り出す
《キュリクレイ》
モノがモノなので、彗と秋野以外には見えないように万全の状態で焔の狐を取り出した
『…』
もはや、驚けない
飛影と出会ってから驚くことが多すぎて、驚くことが無くなっていた
「よっすよっす…昨日秋野にメールした件だ」
可愛らしい焔の毛がふわふわと揺れながら、その焔狐は飛影の声で喋り出す
「とりあえず、魔法覚えたてで制御も満足にできないだろうから、リタは彗のサポート、これは秋野のサポートを行う。まず彗は、限界突破を使用して、右腕だけ強化すること」
もはや魔法でできた焔狐が喋っていても、彗達は驚かない
(今日の授業なんだっけ…)
(あの狐可愛いなー)
軽く現実逃避をするだけである
「彗さん?」
「…え!?…あ…あぁ魔法な…おう」
リタの声に呼び戻され正気に戻った彗は、魔力を解放
《限界突破・右腕強化》
魔法により、右腕だけ強化される
外見には変化が見られないが、その右腕で放つ拳は一般人の身体を爆散できるほどに強化されている
「リタ、彗…今込めた魔力量を覚えろよ。覚えたら魔法を解除」
飛影(焔狐)の指示はわからなかったが、リタは一目確認
彗は十秒程使用して魔力量を覚えてから魔法を解除
「今の魔力量を100だとして、10回連続で同じ魔力量で右腕強化ができればクリア、1の誤差も認めない」
(…なるほど)
その言葉で飛影がやらせたいことを理解するリタ
魔力の操作すら満足にできないレベルからいきなり魔法を覚えた彗は細かなコントロールを行うことができない
そのために、一定の魔力で魔法を使い続けさせる
なんとなく彗も察したのか、試しに魔法を使い同様に右腕強化を行うものの、先程より自分で感じるほど魔力量が多くなっている
「んで、次に秋野は教室に連れてけ」
「へ!?…いや、目立ちますから!」
遠目で見れば、ヌイグルミのように見えるが近くで見るとどうしても焔であることがわかってしまう
「リタよろしく」
《キュリクレイ・ハイド》
彗と秋野の視界から、焔狐が消える
「これで魔力を込めて視なければ、目に映らないようになりました。問題ありませんね」
彗と秋野がリタの言う通りに、魔力を込めて視るとその姿を確認できた
「んじゃ、移動だ…やることは移動しながら話す」
焔狐は秋野の頭へジャンプ
「っ!?」
咄嗟に首を捻り回避する秋野
外見は可愛らしいが焔狐であり、身体を構成するのは炎である
「物凄く怖いので、せめて抱っこさせてください」
女子高生である秋野
乙女として髪は重要である。燃えないと分かっていても恐いものは恐いのである
焔狐は秋野の言葉に答えず、待機する
(そういえば触れられるのかな?)
炎でできた狐を秋野は恐る恐る抱き抱える
「っ!?…ふ…ふわふわ…!」
秋野の心配は杞憂に終わり、普通に触れることはできた
驚くのはその先である
上等な毛皮になど秋野は触れたことはないが、この焔狐はそれすらを上回ると考えてしまう毛並みである
そんな感激に浸っている暇もなく、無情にも朝のチャイムがなる。
「ぎゃぁぁぁ!!…せっかく来たのに遅刻になっちゃう!!!!皆勤賞が!!!!」
一回でも遅刻になれば、皆勤賞をゲットできず国内どこでも旅行券を逃してしまう
「ではまた後ほど!!!」
そう考えた秋野は、リタと彗に手を振ると全力で駆け抜けた
焔狐を抱えながら30メートルの廊下を2秒で走りぬけ、13段×2の階段を2歩で駆け下りそこから教室に辿り着くまで僅か2秒
佐藤秋野
出席番号で言えば、18番
もし飛影のように市原というあ行であったなら到底間に合わなかったが、秋野はまだ若干の余裕があった
「佐藤秋野ー」
「はい!!!!」
担任が呼ぶと同時に、扉を蹴破るような勢いで教室に入るついでに返事をする
「ギリギリセーフだ…危なかったな」
「いや~すいません…」
あははと笑いながら、秋野は自分の席に着く
「秋野がやることは簡単だ」
それを合図に焔狐が喋りだす
周りに声が聞こえないか不安になった秋野
先ほどとは違い一人であるため、誤魔化しは効かない
「あぁ…安心しろよ。この狐から出す声は風華の風で伝えているから秋野にしか聞こえない…秋野からの声は回りに聞こえるから気をつけろよ…秋野がやることは一つで、てきとうな消しゴムとか筆記用具を一つ選択しろ」
朝のHRが終了次第授業が開始されるため、秋野は授業の準備をするついでに消しゴムを一つ手に取る
「次にそれを集固で周囲の空気を固めて、地面から浮くようにしろそれを授業1時間分継続すること。地面に落ちたり、魔法がぶれたらもう一度ね」
(……うーん)
飛影の言う意味はよくわからないが、秋野は言われたとおりに消しゴムを落とす
《集固》
落下する直前に足の先で消しゴムの周りの空気を固定し、その場に浮かせる
「それじゃ…頑張れ!!」
常に一定の魔力で魔法を使うこと
魔法を常時発動すること
言葉にすれば簡単に思えるが、その過酷さを知るのは1時間目終了後のことであった
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「おっ!見えた見えた!!」
同時刻、飛影は猛吹雪を気にすることなく目的地前へと到着した
服装は氷界に来た時と同じように、いつもの黒のコートのフードを被り表情を確認することすら難しい、いつもと同じであるがいつもと少し違う格好であった
見上げると、芸術的と言っても過言ではなく世の芸術家を唸らせることが出来るほど綺麗な氷の城が建っていた
(冷気が強くなってきたな…抑えててもわかるこの絶対強者級の魔力は城の中心部から感じる。楽しみだなー)
城から放たれている冷気は、一般人であれば防寒具を着込んでも一瞬で氷漬けになるほど強い
(面白い!!)
その強さは意図したものではなく、垂れ流しの魔力で起きていることであると理解している飛影から笑みは絶えない
飛影自身も周りを気にせずに垂れ流しているため、その冷気を相殺する熱を放ってしまっているが、相殺しているのである
(ただの絶対強者級じゃない…ダドマ達と同じように絶対強者級の中でも規格外な強さか…神と同レベルはありそうだ…)
感じる魔力だけで推理し、相手の力量を把握する
城の門まで近付いた飛影は飛び出ている氷柱を片手で握り潰す
(ただの氷とは格が違う…いつだったか、アイステンペストを滅ぼした氷の魔法使い…そんなのとは格が違うな~~)
うきうきと小躍りしそうなほど、テンションがあがっている飛影
(いい殺し合いになりそうだ!)
うきうきの次はニヤニヤと笑みを溢しながら氷の城へと飛影は入城する
焔狐君は飛影が伝えたかった言葉と、簡単な応答ができます
設定されている応答以外は、待機になります。
ちなみに、焔狐は彗と秋野より強いです