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第九十三話 「久方ぶりの邂逅は」

とりあえず……~~フライング土下座ァ!!

恥ずかしながら、戻って参りました。

復活に至る経緯と言う言い訳を活動報告に述べさせていただきますので、よろしければご覧ください。

では、よろしくお願いいたします。


――――――とりとめも無い話、なんだがね。


 今から十数年くらい前に、回族という少数民族が居た。当時、回族の住まう土地は漢土の国境外でね。長らくの間、正体不明の民族だなんて言われてたんだ。

 というのも、回族は少なくとも400年以上前、高祖が項羽と争ってる時代から存在してたんだが、その頃から漢人との干渉を拒み続けていた。元々は河南に定住する気性の穏やかな民族だったらしいがね、漢人の迫害から北へ北へ逃れて、農耕を棄て遊牧民となった。そして、自分達の生活圏に入った漢人を、決して生きて漢土に帰さなかったという。

 漢が天下を取ってから、何度か回族討伐の兵を差し向けたらしいが、一人も生還できた者は居なかったらしい。将軍から一兵卒に至るまで、ただの一人もな。何もしなけりゃなにもしてこないってんで、漢も諦めて、そのまま留め置かれた。

 さぞかし不気味だったんだろうな。あの同化政策好きの光武帝ですら、回族には手出ししなかったんだからよ。まあ回族からすりゃ二度と迫害されないためには、やるなら徹底的にやるしかなかったし、一族の情報を漢土に持ち帰らせるわけにはいかなかった、ってところなんだろうがね。

 その断絶状態の国交が再開されたのが、ほんの三十年くらい前さ。

その日、漢軍は漢の国旗を結ばせた二頭の山羊に酒一升と米一斗を背負わせ、回族の住まう荒野に放った。

 回族の宗教観で、身代わり羊というものがある。彼らは神に許しを乞うときや天意を聞くときに、二頭の山羊を生け贄とし、ひとつは首長のものとし、もう一頭は神への捧げ物として荒野に放ち、人と神とで分かち合うという儀式を行うそうだ。 漢人はそれに倣うように、定期的に回族の地へ山羊を送り続けた。やがて回族はこれを、漢人がいままでの関係を清算し、新たに関係を作り直そうという意思だと受け取った。身代わり羊とは許しの儀式だからな。彼らは自分達の文化が受け入れられたと感じたんだろう。とある一人の勇気ある回族の使者が数百年ぶりに漢土に渡り、国交が結ばれた。

 それからは急速に関係は発展した。漢人は近代的な商工の知識と、酒と遊興を回族にもたらした。戒律的な回族の賢者達はそれに危機感を示したというが、徐々に漢の文化は回族に浸透していく。漢は法外な黄金や財宝で屈強で鳴らした回族の戦士と取引し、親交の証として高級な絹や調度品を度々送った。彼らは漢人の誠意と尽心を喜び、手間のかかる織物や民俗の秘話や歌などを漢人に返礼として送ったらしい。

 そして、漢と回族は和平交渉を結ぶ。お互い武装解除して仲良くやっていきましょうという条約だ。反対するものもいただろうが……意外にもあっさり決まったとのことだ。断交時代より比べ物にならないほど生活は豊かになり、戦争を知らない世代も増えていただろうからな。

 そのあとは、お察しよ。漢は大軍を投入し回族に攻め込んだ。400年戦い続けた荒野の戦闘民族は、たかだか十数年ですっかり戦を忘れてしまっていた。一部の勇者が武器も装備もろくにないなか、よく戦ったというが、それだけに余計に惨めだっただろう。

 ――――漢軍の占領は、徹底的だった。

 回族は西域から伝わった密教を信仰していたんだが、漢軍はそれらを悉く焚書した。そしてその教えに長じた賢者・高僧の舌を抜き、目と耳を潰した。虱潰しにな。口伝であろうとも回族の教えは地上に残さん、そういうわけだな。

 そうして物も言えず見えも聞きも出来なくなった坊さんたちに、論語を読み儒教を理解できなきゃ殺してやる、なんて無理難題を押し付け虐待死させたり、汚物を食わせてその様を衆人環視に晒して笑いものにしたり、深い穴に突き落として神通力で飛んでみろ、なんて嘲笑しながら生き埋めにしたりしたらしい。

 回族の倫理や誇りを、根こそぎぶっ壊そうとしたんだな。ある時はそういう尊敬を受けてる坊さんや学者さんを同じ回族の大人に殺させて、その死体の上で子供たちに踊るように命じたんだってよ。やらなきゃ皆殺しだ、ってな。大人たちは泣きながら坊さんを殺して、子供たちは泣き叫びながら尊敬してた先生の死体の上で踊らなきゃならなかった。刃で脅されてるんだから仕方ねえ。そうして怯えに怯えさせた挙句、結局最後には殺してしまったらしいがね。

 

 鬼畜の所業だよ。


 ……ま、そうして魔人とまで恐れられた戦闘民族は地上から姿を消した、というわけだ。

 生き残り、か。さあ、漢人の数ある侵略戦争の中でもひときわ凄惨だったと呼び伝えられるほどだからな。

 ただ、もし。いるとするならば、だが。

 回族の強さは、勝負において徹底した気迫にあった。一歩でも回族の地に踏み込んだ漢人は生かして返さん、という徹底さだ。甘さを見せればどうなるかっていうのは、強かったころの回族の民ならば皆、心得ていたからだ。

 身に染みているだろう。いやというほどに。忘れられるものなら忘れたいほどに。

 もし回族の生き残りが、生き延びているとするならば、回族の歴史すべてを凝縮した、強さと、闘志と、憎しみをたったひとりで受け継いでいる。

 そういう、化け物だろうな。

 ああ、恐ろしい。





「――――――!!!!!!」


 人と思えぬほどの咆哮が大気を震わせれば、地を揺るがすような轟音とともに、曹操軍精兵の一群が木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 雷の直撃か、瀑布に吞まれたかというような、自然災害のごとき、およそ人間業とは思えぬ様だった。その中心に居るのは、たったひとりの戦鬼である。

 台風のごとく何もかもを薙ぎ倒して、一直線に悠々と、確実に迫ってくる。総大将・曹操の首を目掛けて。


「呂布!!」


 飛び出したのは、趙雲だった。

 切っ先に一気呵成の気合を乗せ、その戦慄を切り裂くように突き進む。

 ――――さらに、右から夏侯淵の弓が、左から、夏侯惇の大刀が斬りかかる。

 曹操の誇る三健将の波状攻撃。


「「「――――ッツ!?」」」


 呂布は、眉一つ動かさなかった。

 曹操の頸に合わせた両目の照準は、微動だに動かさず。

 疾走する足色は一切、澱ませぬまま、方天画戟を野暮なほど無造作に一振りするだけで、鎧袖一触だった。


「ぐぉっ……!!」

「なっ……!?」

「……化け物め!!」


 趙雲、夏侯淵、夏侯惇、という、おそらく漢土でも十本の指に入るであろう猛者が三人がかりで、ごろごろと、まるで子供のように弾き飛ばされた。


「――――曹操!!」


 呂布は、初めて雄叫び以外の言葉を発したように思う。

 両脇に侍る、許褚、典韋が反応すら出来ぬ速度で、方天画戟が唸り、振り下ろされた。


――――バシャン、と、落雷のようなものすさまじい炸裂音が、戦場を切り裂く。


「素晴らしい」


 曹操は、乗り馬を捨てた一瞬で地上に逃れ、一間の間合いを取って、呂布と相対した。

 表情には笑み。しかし、呂布の一撃を受けた愛用の大鎌・絶は、刃渡りの部分がごっそり、まるで焼き切られたかの如く『消滅』していた。


「すべてを呑み込むが如き暴威ね。滅びし民族・回族の末裔か」

「…………」

「私と共に天下を見る気はないか?」

「……ッッツツ!!」


 曹操の言葉に、呂布は五体に衝動をにじませ、漲らせた。

 たったそれだけの事で、その場に居並ぶ精強・曹操軍将兵は、一人残らず戦慄してしまった。

 名だたる猛者も、例外では無かった。


「たったひとりの無限大の怒りで、この世のすべてを滅ぼすつもりか」


 呂布を囲んで、二間も三間も遠巻きに円を作っている。

 今すぐ切り込んで曹操を守らねばならぬ。そう、わかっているのだが――――腰から砕かれるように、身体が前に進まない。


「…………漢人ども」


 呂布の肉体から迸る熱量。中には本当にへたりこむのも、気絶するものまでいた。

 

「恋の姿を見たな。恋の声を聞いたな」


 両夏侯、趙雲や楽進が、かろうじて膝を着かなかったが、彼女たちでさえ、前に出ることは出来なかった。

 それほど、圧倒的に本物の、殺意だった。


「ころしてやる」


 血液に刻まれた、民族の記憶。

 武神の憑りついた肉体がうなりを上げ、目に映るものを殺さんとする。

 もはや、止められる者は無かった。得物を失った曹操を真っ二つにせんと、再び天災のような一撃を、真っ向から振り下ろした。


「素晴らしい」


 一瞬、視界を失うほどの、まさに稲光のような火花が、戦場を覆った。


「かつて小僧の時に、関ヶ原で遠目に見た島左近、大阪の役で相対した後藤又兵衛に真田信繁。やつらが“人間”に思えるほどの、桁外れの暴威よ」


 花びらのように散った、銀の破片。それは、この世界と別の浮世にあって、世界最高峰の誉れを取った日本刀――――この世界には存在しえない刃のかけら。


「あら……久しぶりじゃない」


 華琳は、何でもない事のように言った。

 彼の姿を見たもの、風貌は変わっていたが――――それでもひと目でその男とわかる。


「武安国と申す」


 堂々とそう名乗った男に、一同は一瞬、呂布の恐怖も忘れて、口をあんぐりと開けた。


「あ……」

「む、」

「むさ……」

「……隊長ー!!」

「――――ッ!!」


 意に介さず、とでもいうように、再び呂布の一撃。

 武安国――――いや、宮本武蔵は、左の大太刀と右の長大な木剣を交差させ、その雷神の鉄槌が如き一撃を、再び受け切った。


(……なぜ斬れない?)


呂布にとってそれは、未知の感触である。己が渾身の一振りを浴びせ、二度も一刀両断に出来ぬなど。

 

「一体、いつぶり? ずいぶん待たせたのね」

「やかましい、いつどこにいるかは俺が決める」


双剣の客人は、太刀の切っ先を目の前の褐色の少女に向け、言った。


「強い奴に逢いに来た。ただ、それだけだ」




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