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第九十二話「戦記の唄」

青州の戦いは想像以上に過酷を極めた。

作物も実らぬ酷寒の地。前進するほどに立ちこめる死臭と灰色の風景。戦勝はなにももたらさず、恐怖のみを生み出す。


「華琳様」


その不毛にも思える進軍に抱く疑問は、日増しに軍中に募っていた。


「既に呂布の軍勢は風前の灯。この地の惨状では食糧物資の備蓄も到底続くとは思えず、また呂布に遠方からそれらを調達する外交能力はありません。我が軍が砦を設け街道を封鎖すれば、冬を迎える前に呂布軍はひとりでに瓦解するでしょう。もはや主力をこの戦線に傾ける意味は薄いと思料致します。軍を編成しなおし、北南で連携を動きを見せている袁紹・袁術への対策に移るが得策かと存じます」


筆頭軍師・郭嘉の進言。しかし曹操は応じない。


「この戦、ここで止めよと申す者は、戦いの本質を履き違えている」

「戦いの本質?」

「呂布という敵の異常性を単に万の兵を屠る戦闘力とでしか認識していないものが我が軍にも大勢いる。そうではないのよ。呂布という敵の怖さ、彼女が巨兇と呼ばれる理由は。呂布の見据える命はこの曹操に非ず。その憎悪の標的は漢の大地に根差した、あらゆる営みのすべて。今の呂布は漢の尺度に弾かれ、虐げられてきたまつろわぬ民達の積み重ねられた呪怨そのものよ。たとえ青州に依る軍勢が散り散りに瓦解したとしても、呂布は命ある限りまた何処かで数万の軍勢を率い、この大陸で戦い続けるでしょう。この戦いは呂布を倒す戦いに非ず。漢が自らの繁栄と、“中華”という概念と引き換えに生み出した、怨嗟の亡霊を葬る為の戦い」


東夷西戎南蛮北狄、言うに及ばず。漢民族の豊かさの為に踏み付けにされてきた者たちの四百年分の恨み辛み。それは黄色い頭巾の嵐によって爆発し、涼州騎兵という反旗の一族に乗り移り、この漢帝国から切り捨てられた青州という悔恨の大地まで運ばれてきて、ただひとりの少女に取り憑き生き長らえている。

奇しくも、今や天子が放逐され断末魔を挙げた漢帝国の命脈よりも、それは長く生き長らえたという事だ。


「戦いとは、文化よ」


斬り付けるような冷たく渇いた風が腐臭を運んでくる。


「この国の……いや。人間という生き物が地上に発生した時から、文字よりも言葉よりも最初(いやさき)に持っていたもの。ふふっ。昼も夜も閨も共にした我が頭脳達の誰よりも、この曹操と決して相容れぬ呂布がその文化の本質を最も理解している」


それでも彼女の横顔は美しい。


「敵対する軍勢を撃破すれば戦勝か!? 必要以上の金と食を得、一定の領土を切り取ればそれが勝利か!? 戦いとはそういうものではあるまい!」


その碧眼には天下が宿っている。

しかしこの輝き方はどうだ。天は太古より清澄で神聖なものだと、古の聖人達は伝えてきた。だがこの気宇は妖気のように禍々しく、官能のように毒々しく輝く。見た目はまるきり少女のものなのに。


「互いの存在を懸け血肉臓腑を顕わにし、心の寸を奪い合う。掴んだら二度と離さぬ、躊躇えば次の瞬間に吹き飛ぶのは己の頸であろう。涎、糞尿を垂れ流してなりふり構わず、生死の淵の交錯する修羅の刻に身を投げ打ち、相対する敵の意思を全霊を以て駆逐、撃滅する。その刹那の刻に己の全てを注ぎ込み後には粉すら残さない。戦いとは、決着とはそういうもの。それを半端に済ませる手心が、正気の丘に身を置きながら戦という凶事を玩ぶずれた能天気さが、国を病ませ億の命を屠り、いつまでも乱世を長く燻らせ続けている!」


可憐な唇から紡がれるのは、狂気を孕んだ言霊の数々。

その、不気味さが。

それがなぜ、こうも艶やかに美しいのか。


「華琳様っ、それがっ……すなわち曹孟徳の覇業! 武を以て四海を併呑し、世の諸侯に有無を言わさぬ圧倒的な力を見せつけ最速の道で新政権を樹立する! ついに華琳様が漢の次代を宣言なさるのですね!?」

「足りぬ!」

「っ!? なれば……その先は!?」

「知れた事!!」


愛馬が唸り、大地を跳んだ。


「心の臓、捕まえたらば必ずや絞り切り握り潰す! この曹操の覇道に交わる者なら何人たりとも息つく間は与えぬ! 旧代の遺物は我が前から殲滅さるまで決して歩みは止めぬ! その為ならば大地も大海も悉く焼き尽くし、長城を砕き遼遠の山河を突き崩すことも厭わん!!」


郭嘉は己の喉元に伝う冷たいものを感じながらも、曹操の隣を伴う馬の脚が早まる事を止められなかった。

眼に凶猛な覇気を宿す美しい少女の顔をした我が主は、天下の人心を意に介さず、また天意に背く事も恐れぬ。

それはつまり、この大陸全土を混沌の極みに叩きこみ、漢はおろか中華という概念を屍山血河で塗り潰し灰燼に帰し、風化した歴史の遺物としてこの世から消滅させてしまう可能性すらあるだろう。

その事を知りつつもまるで躊躇わない、げに恐ろしく危険極まりない器なのだ。






(この中華では――――――始皇帝以前の世界は“存在しない”事になっている)


「戦線は徐々に後退しつつあるが。連日の戦闘にも関わらず統率ぶりは日増しに鋭い」

「そうですねー、そしてその指揮ぶりはー、これまでの戦歴で見せてきた呂布の戦風とはまったく異なるのでしてー」


(今、この中華に在るあらゆるものを作ったのは秦の始皇。それより以前にあったとされる周、殷、夏の王朝時代の文化は名残すら“中華”という世界の中には存在しない。史書に名が残るだけで、現世においてすべて消滅している。まるで海の底に沈んでしまったかのように)


「そして草の者から上がります軍師の名もー、陳宮ただひとりなのでして」

「軍師ね。フン、あのけだものに人材を使うという脳があったのは驚きだわ」


(高祖は長城を越えず、また光武帝も長江を越えたわけではない。中原に鹿を捕えればそれで四海を制覇した事になった。誰もが血で血を洗いつつも、知らず知らずのうちに中華という枠組みを守り続けてきた)


「騎兵の機動力を最大限に活かしー局所であるといえど我が軍を押し返す場面を作り出していますーなかなかの手練かと」

「はン、速攻に奇策を乗せていくら撹乱をしてきたとしても所詮はあがきよ。既に呂布の居城は包囲しているわ。兵糧が足りずに日に日に運動量の落ちる騎兵を駆使した機動戦など長くは続かないわ。呂布もろとも華琳様の御前に引っ立てるのは時間の問題ね!」


(我らが戴く主が求める勝利とは、中華の住まう人間の共通認識や常識を根底から改めてしまう事なのかもしれない、まさしく始皇帝の如く、いや、もしかすればそれよりも苛烈に……中華は今、かつて誰も見た事の無い時代を迎えようとしているのかもしれん)


「まあ知恵袋が付いてるなら呂布の戦略にこれまで無かった調略や外交が含まれてくる可能性は十分あるわね。念のため、今一度外界との連絡を断っておくべきか……って、りーん!! あんた何さっきから上の空してんのよ! 会話に参加しなさいよ!」

「……聞いているわ、桂花。その軍師の情報、そんなに気になるなら華雄か霞に照会すれば良いでしょう。うろたえるほどの事でもないわ」

「はあ?」


馬の額に肘をつっかける与太者のようなポーズで、唇と片眉を歪めて睨む。

荀彧という人は、生まれ持った深窓の令嬢という形容の真っただ中を衝くようなこの儚げで可憐な容姿を、どうしてこうまで忌々しげたっぷりに歪める事が出来るのか。これも一つの才であると思う。


「ふっ、まあ、些事であろうが水も漏らさぬが如く情報を常に手元に置いておくのは軍師の常ね。でも稟、本拠にて遊軍として構える華雄・張遼両軍に伝報を打って返信が来るまでには北海城は落ちるわよ。もとよりその軍師が何者であろうと十手の軍略に対し百手の対応で逆転の目を完膚無く封殺する! その軍師の素性が知れれば分析には役立つでしょうが、いずれにしろ私たちのやる事は変わらないわ」

「……無双の戦士・呂布が戦場に一切姿を現さず、駆け引きの全てを己で無い何者かに預けておるというー、真に議題とすべきはその是非と如何、であるとは思いますが、ひとまずそれは置いといてー」

「あぁ?」

「稟ちゃんが見ているものは何なのですか?」


程昱――――――風、の表情はいつもと変わらず、眠たげ。

咥えた飴がこり、と音をたてた。


「……この戦の大義というのを今一度考えていた」


答えに対し、表情に色を見せるのはまたしても桂花である。


「戦略的価値、と言うならともかく、大義とはまた、生粋の軍略家・郭奉孝らしからぬ情緒的な捉え方ね、この鼻血ブー子は。いい? 呂奉先は漢朝に弓引いた涼州反乱軍の意志を受け継ぐ最後の一将、そして逆賊を討たぬは逆賊以上の逆賊! 漢朝の御旗の下において一日も早く討伐せねばならない!」

「つまり漢朝の戦、と。洛陽の陵墓は暴かれ、皇帝陛下も高順に攫われ生死不明という事態であってもなお?」

「我らの戦は悉く漢王朝の戦でしょう。この戦が終われば現帝陛下の御捜索にさらに力を注がなくてはね。万が一の事があれば、新たに奉るべき御方を考えなくてはいけないかもしれないけれど」


――――――中華、いや漢王朝というものの存在を、真っ向からまるで疑っていない。さながら天が落ちてくるなど普段の生活では全く考えもしていないように。


「あくまで全ての理由の中心にあるのが漢王朝だとするのなら、この状況で戦を続ける呂布の理とはどこにあるのかな」

「はぁン? それこそ論ずるまでもない、暴戎にして禽獣、言葉も寄せ付けぬ残賊に天理もへったくれもありゃあしないわ!!」


そして中華に住まう者にとって異境の民の言葉は意味を持たず、言葉は持たぬも同じ。およそ漢で育った知識人と呼ばれる大半はそういう認識であるだろうな。


「報告! 泰山砦にて交戦中の韓浩殿が宋憲、侯成を撃破し、これを占拠! なお二将を討ちとったは歩兵隊士の武安国殿! 武安国殿へなにとぞ恩賞奉りますように、との韓浩殿よりの伝報でございます! 御免!」

「武安国ぅ? 聞いたことある?」

「武安国……確か、数日前に魏続を討ち取ったと報告があったのが、武安国という兵であったはずだ」

「ほほー、我が軍中にまだそのようなつわものが埋もれておりましたかー、すごいですねー」

「――――――いっそのこと、その武安国とやらを呂布と一騎打ちさせてみるというのはどう?」


穏やかな声音が、曲者揃いの三軍師を一斉に振り向かせる。


「華琳様!」

「韓浩とは、確か武蔵が春蘭の副官にと推挙し、しばらく従隊していた者ね。この戦闘が終わった後は私の護軍として、一軍の将としての任に就くよう伝えなさい」


武蔵、の名前が出て、三者三様の顔をした。忌々しげに歪める者、神妙に眉間にしわを作る者、まどろむような目をほんの少し細めた者。

一人を好み特に仕事もせず、普段は何の役にも立たないが、なぜか将校らに好かれており、不思議とくさびの様な役割をしていた飄々とした大男の事だ。

兗州戦では東奔西走し、最後は高順の精鋭部隊にただ一騎で斬り込み、それ以来帰ってこない男。

もう、生死も定かのまま、彼女たちは武蔵という男の抜け落ちたまま1年以上の時を過ごしている。


「華琳様――――――」


それにしても、この主はこれほどの激戦の最中であっても、既に脳裏には戦後があって、さらに次の戦いの為の抜擢がある。おそらくはその下地に敷かれる政も、目の前でめまぐるしく移り変わる戦場の景色と同時進行で、その頭脳の中でみるみる変貌を遂げるが如く、構築されているのだろう。


「来る」


まったく、会話の流れを無視したような、唐突にそんなつぶやきをした。

――――――来る? 何が?

一呼吸ののち、彼女たちもそれを知る。


「ーーーー!!!!!!」


地を底から食い破るような雄叫びが。雷鳴のような慟音が戦場に木魂す。

産毛が総毛立ち、肩は竦み、胆に冷たい氷柱のような感覚が刺した。それと同じくして、爆ぜるように激しく動揺した、遠目に見える包囲の最前線。

知略に生きる三軍師。その彼女らに、神算を備えたる自らの脳髄の判断よりも先に、反射的な肉体の反応が、“それ”がなんであるかを理解させた。


「全軍!! 陣は鋒矢の如く鋭く! 恋殿に従い、敵中を真っ向から貫くのです!!」


突如の戦慄が前線を打ち砕いた。戦場のリズムを一瞬にして変えた一撃。


(曹操! お前の軍は恐ろしい。お前が手綱一つ動かさずとも手足の如く自在に動く! 例え将を失っても兵は作戦行動を止めず常に個々が合理的な判断を下し行動している! 中華において、この軍隊よりも強い軍は現世にも存在し得る、が――――――ここまで機能的かつ効率的に“殺戮”を遂行する軍隊はおそらくは史上初!)


戦いが長引くほど、その差は戦況の優劣として確実に現れてきた。西涼騎兵よりも戦闘力に劣りながら、常に安定した戦果を発揮し、戦略面で常に主導権を取り続けてきた。その軍兵はおそらく兵法家・曹操の思考回路と判断力を実によく落し込んでいるのだろう。

新しい時代を感じさせる軍の形だった。いや、おそらくそれはそんな響きのいいものではない。戦争という、人間の悪意が生み出した業を先端化した、本来、人間が手を付けてはならなかった不吉の箱。

きっと歴史上にはこういう才能が時たま現れ、その都度、加速度的な進化をさせてきたのだろう。せいぜい石とこん棒で殴りあっていたにすぎぬ人間を、文明の檻に留められていた残忍さを解放し、より凶暴な魔物に変貌させてしまう悪魔の才能が。

もはやこの軍団に敵う軍隊は今の中華には存在しないのかも知れない。


(だが、曹操!! その史上例を見ぬ軍隊を作り上げた貴様とて、所詮、ひとりの人間に過ぎぬのです!!)


――――――天から見透かしたが如く全ての物事を断ずる曹操よ! さながら全能の存在であるかの如く地上のあらゆるものを壟断せんとする梟雄よ!


(奸雄? 魔王!? 否!! 貴様は只の人間だ! 当たり前に恐れと不安を抱き、頸を刎ねれば死ぬ生身の人間!! 勝てぬものではない!!)


貴様の傲慢極まる気宇、貴様を祀り上げるこの鉄血の兵士たちの幻想を、呂布殿の武が穿つ!


(我らまつろわぬ民の煮え滾る戦意で、貴様を只の人間に引きずり戻してやる!!)


「――――――総員、突進です!!」






「武安国殿は居られまするか!」


丁寧な語調ながらも気迫を感じさせる凛と澄んだ良い声は、しかし少しだけ甲高く、充実した魂魄の中に青い若さを感じさせる。

アップライトに纏めた髪から覗く白いうなじが貴人然としていて、身なりを見るまでもなく指揮官の立場にある武将だと察する事が出来た。

泥と汗にまみれた甲冑を脱ぎ、半裸で体を拭う兵卒たちの間をスタスタと往く。なんだなんだ、という視線を意にも介さず、キビキビと人の群れを掻き、やがて一人の男に行き渡った。


「武安国殿!」


凛とした声を、その男は背中で聞いて微動だにしない。

赤黒い総髪、そして広い背中だった。一目見て上級士官とわかる彼女の言葉を聞き流すかのように、手元の作業を続けていた。


「このような下賤の場所、将校様のいずる処ではござりますまい」

「ここよりわずか目と鼻の先で、曹閣下は呂布と最後の決戦! 隊内一の駿馬を用意しております! 直ちに決戦場に赴き、貴方の武でこの不毛な戦を終わらせて下さいませ!!」

「過分なるご期待にござりますが、歴々の戦はいささか骨が折れ申した。先に魏越、成廉の二将を召し獲り、此度は二将の首を挙げ申した。その功を鼻に掛けるわけではござらぬが、しばしの暇を頂戴できませぬか。」

「呂布と雌雄を決するのは今、この瞬間をおいて他にござらぬ! その機が観えぬ貴方ではござらぬ!」

「あいにく軽輩ゆえにほれ、武具の手入れもままならず、体力精力も無限ではござりませぬ。今しばしご容赦を」

「今まさに危急存亡の秋! 何においても貴方の剣が必要な時です、何とぞ!!」

「しばし、暇を……」

「……この無意味なる問答をいつまで続けるおつもりですか、武蔵様。あなたの悪い癖です」


しゃり、と木を削った音。少しの間をおくと、男はゆらめく蝋燭の灯のようにゆっくりと振り返った。

脂の浮いた前髪がすだれがかる薄汚れた髭面に、韓浩は間髪いれず、香木の薫りがしそうな上品な白い顔をずいと近付けた。


「呂布の強さはただ事ではありません、異常な強さの北方の戦士たちの中にあってなお、全くの異次元! あの暴威に対抗できるのはあなたの剣をおいて他にありません!」

「所詮、一振りの剣が倒すのは一人だ。一個の武が国や軍隊を滅ぼすなどという事は無い」

「国を崩せずともたったひとりの曹操を斬る事はありえます。もとよりそんな常識の通じる相手ではない! 見誤れば曹閣下が殺される!」


声をひそめるように、しかし緊迫した声音。


「ずいぶんと、まるで怪物か悪魔のように言うんだな。あんななんの変哲もない小娘を」


男は言う。


「あの呂布というのは、精神の力が肉体の檻を大きく上回っている。ああも凄まじい眼をした人間には、そうなんどもお目に掛れるもんじゃない」


韓浩の顔を映した、琥珀色のぎょろりとした目玉。


「少なくともあいつは、目に映るすべてを殺そうとするだろう。斬って斬って斬りまくり、力の限り突き進もうとする。敵をすべて殺さねば安心して眠れない。あいつにとって目に映るすべてが敵だからだ」


今にも血の噴き出しそうな生々しい傷跡がある。もう古くなったもののはずだが。


「何の罪もねえ女童をそんなになるまで追い詰めておきながら、怒りのやり処まで摘み取れという。あんまりといやあんまりな話だが、だからってむざむざ斬られてやるわけにゃ、いかねえもんな。可愛いもんな、自分が」


静かで低い声。手元の得物は、しゃり、と音を立て、それもまた夕焼けに吸いこまれた。


「――――――呂布よ、たったひとりでどこまで突き進むつもり!?」


その目が見ているのは曹操なのか。それとも、何も見ていないのか。

精鋭の群れを無きが如く斬り散らして猛然と突き進んでくる凶戦士に、曹操は甲高く問いかける。


「!!!!!!ッツ!!」


呻りは大地を震わせ、その場に居るすべての生き物を震え上がらせる。


(――――――答えぬかっ!!)


呂布は吼える。人も、言葉すら寄せ付けず。

拠り所は己の肉体。この世にすべてに戦いを挑む、天地にすらも。

まさに戦鬼だった。

この種の強さは、今まで味わった事がなかった。その物凄まじい戦慄に曹操は瞳孔を開き、にやっ、と笑った。

やあやあ久し振りです。

久しぶりなのでちょっと小ネタでも書こうかと思いましたが、時間あるときにまた今度。今日は寝る!!

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