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反董卓連合編・五十話――――――「培われたもの」

飄々、悠々。

麒麟の鬣の様な、荒々しく束ねた総髪は、紅を焦がした様な茶色。瞳は、ぎらりと光る琥珀、その骨格の逞しさは、天鵞絨生地の着物の上に羽織った、上等な錦の羽織越しからでも十二分に解り、短く丈を詰めた袖から覗く前腕には、隆々と発達した筋肉の筋と血管が、太い骨の上に走っている。

そういう風貌にもかかわらず――――――僅かの微笑を湛えた表情と、脱力した立ち振る舞いからのぼる雰囲気は、不思議と、そんなものだった。





「何をしている」


馬上の猛将・華雄が、地面の上に居る。

これまで、馬群の先頭を切っていた華雄の後ろに、続々と後方の兵が追い付いてきた。そして今、華雄と同じ眼、同じ顔をして、華雄の前に立つ、華雄の睨む相手に対して、騎馬の上から、同じように構えている。

しかし、華雄は前の敵を見据えたまま、後ろの兵に向かって、そう言い放った。


「誰が馬の脚を止めて良いと言った。戦の仕方を忘れたか?」

「! ですが……」

「御託は無用だ!!」


歩み足で一歩、さらにもう一歩前に出て、斧を振るい、そこからグッと、両脚を広く広げて、構えた。

地面は、馬上に比しては慣れぬ筈。だがそうとはまるで見えぬ威風の片鱗、戦慣れした立ち姿。


「道を妨げる者は何人たりとも斬る。それが涼州の武だ。目の前の敵が居なくなるまで突っ走れ」

「…………」

「行け! 歩みを止めた時が、死と心得よ!」


華雄の怒号に対して、一瞬の間があったが、やがて、一人の兵が馬を追うと、それが合図であるかのように、次々と他の騎兵も、疾走を再開する。

さながら、風の様に、武蔵の横を吹き抜けていった。武蔵の髪が、走り去った旋風に巻かれて、ばたつく。

兵たちは武蔵に構う事も無い。武蔵もまた、脇を次々と走り抜けていく敵兵たちを、気にするそぶりは無かった。

懐に右手を突っこんだまま、ただ、華雄を眺めていた。





「お前は行かんのか」

「言った筈だ。往く手を妨げる者は何人たりとも斬ると。道は、そうやって作るものだ」

「そうかい」


馬蹄の響きは、既に地鳴りのような轟音に変っている。

武蔵の声は、それに掻き消されて散ってしまいそうなほど、平静としたものであったが、華雄の耳は、それを捉えていたらしい。

血気盛んな華雄の答えに、武蔵は、ふっ、と笑う。


「おい」

「うん?」

「先に私を打った暗器は、貴様か」

「さあなぁ」


ふと、懐の中で、右手を動かす素振りを見せた。華雄がそれに、ピクリと反応する。

武蔵は華雄のそれらの所作を見遣り、含み笑いを浮かべながら、おもむろに右手を取りだした。

取り出したのは――――――煙管だった。

黒く、丈の長い、鉄製の煙管。洒落を説く様に、指の間で遊ばせて見せた。


「良いのかい、あいつらだけで行かせて」

「なに?」

「この先に構えてるのは、華琳……曹操の本隊だ。指揮官無しじゃあ、ちィと荷が重いんじゃねえか?」


カチ、カチ、と、武蔵が人差し指の爪で、パイプの部分を叩きながら、無雑作な風で、そう言う。

華雄は、その言葉に笑みを浮かべた。


「なに……それなら所詮、それまでの強さだったという事。それよりも……良い事を聞いた」

「?」

「この向こうに曹操が居る。という事は――――――」


其処まで言うと、いきなりに間を詰め、一直線に射程に入ると、脇に引いた大斧を、思い切り真一文、横薙ぎに振るってきた。


「貴様を殺せば――――――敵の喉元まで、私の道を妨げる者は居ないという事だ!!」


空気が、拉げる音がした。端から殺す気の、殺意。それが、身体も意思も纏めて萎縮させるが如き威圧感を伴い、轟音となって迫る。

ひょいと、武蔵は大きめに一足、左足を後ろに送った。鼻先を、鉄塊のような巨大な刃が通り過ぎていった。


「貴様の屍を踏み越えて、すぐに追い付けば済む話よッ、ふんッ!!」


薙いだ斧の勢いをがしりと受け止め、構え直して再び返し、襲い掛かる。

空気を喉のあたりに溜めて、全身を使い、打ち下ろす。

好戦的な色に唇を歪めていたのが、武蔵の眼に入って来た。

負ける事など、考えもしない。そういう顔。


――――――悪くない。むしろ、良い顔だな。

武蔵ぼんやり、そう思った。





「ッツ!! どうした! 手を出して来い!!」


右に、左。轟音が旋風を生み出して巻き上がり、互いに交錯し、ぶつかり合う。


「ぬんッ!!」


空気を軋らす剛腕は、直撃すれば身体の部位を根元から、そっくり持っていくだろう。それが決して大げさでは無い、威圧感と迫力をその豪打は秘めている。

猛攻に次ぐ、猛攻。


「剣を抜けい! それとも、抜く間すらないかッ」


華雄は押し込み、波が次から次へと押し寄せる様に、攻め立て続けていた。

武蔵の腰の二振りは、未だ鞘の中に納まっている。手にあるのは、武器とも呼べぬ、鉄の喧嘩煙管のみ。


(――――――その玩具で、我が戦斧を凌ぎきれると思っているのか!?)


華雄の細い身体が、しなる。華奢にすら見える肢体の線からは、にわかに想像し難い、力強い動き。

左、そして右、と。重低な風切り音を往復させ、足を大きく開いて作った体勢から、前進しつつ振り子式に打ち続ける。圧殺する様な連撃を、華雄は息つく間もなく繰り出し続けた。

――――――しかし。


「……ッ!!」


――――――しかし、当たらない。

火の出る様な連打を何度となく振り回す華雄、しかし武蔵は、その大斧の刃の軌跡よりも、常に半歩遠くに居た。

華雄が一歩出るたびに、必ず同じ分だけ退がる。間が詰まり、追い詰めた予感がすると、するりと横に逃げていく。

あの頼りない煙管では華雄の豪打を受ける事などは、到底かなわないだろう。武蔵の服装と言えば、甲冑防具の類など見当たらず、殆ど平服のようなものだ。あの戦斧の刃が何処か、身体の一部にひっかければ、その部位は簡単に消し飛ぶ。

受けられもせず、反撃も出来ない。当たれば終わる。武蔵は殆ど、丸腰に近い。


しかし、華雄は武蔵を捉え切れない。

剛腕が唸る。しかし武蔵は距離を外して、ひらりひらり、躱していく。闘牛士の様に。


常人であれば、一振り毎に足が竦み、空振りだけでも戦意を断ち切るに足るであろう、その強打を鼻先に置きながら、ずっと一寸を保っている。

執拗に追いかけるが、武蔵は捕まらなかった。


「……ッツ……!!」


それでも構わず打ち続けた華雄だが、武蔵が一足、大きく距離を取って、間合いが開くと、突撃と風切り音がおさまった。

華雄の肩が、少し上下している。まだ息は乱れるといった程ではないが――――――


「おう、打ち疲れかい?」

「! 貴様……私を侮っているのか!!」


薄笑いを浮かべながら、煙管の先でトントンと自分の鎖骨辺りを叩く仕草を見せる武蔵に、華雄がギリッと臼歯を鳴らして、怒鳴った。


「得物すら取らず、まともに戦おうともせず逃げ回りおって!! 貴様も剣士ならば、堂々と立ち向かって来い!!」

「ははっ。良いな。まだまだ元気だ――――――そうで無くてはいかん」

「ほざけっ!!」


武蔵が軽口を叩き、それに憤慨して、華雄が再び突っ込む――――――その時だ。

騎馬の流れていく、その後方で、不意に大きな喚声が上がった。





「全員、身を低く構えよ! 騎馬を正面から受け止めようとするな! 柳の如く、騎兵の間を縫って躱せ!!」

「人じゃねえ、馬ァ狙え、馬ァ! 足止めが俺らの任務だ!!」


数歩の距離を取って遠巻きに騎兵を見送っていた曹操軍の中から、不意に少数の歩兵が針の様に鋭く飛び出し、騎兵の側面に一針を加えた。

突如の襲撃に驚いた馬が立ち上がり、その疾駆に淀みが生まれた。

後方の兵が突っ込んできて、玉突きになる。

多数の馬が落馬し、土煙が舞う中、それに紛れたるように、黒鹿毛の群れに潜り込んだ少数の精鋭を、凪とアニキがそれぞれ先導する。


潜り込んだ兵は一様にして同じ型から、身体を畳み、一度だけ当てて騎馬の動きを止め、走り去る。


「ふっ!!」


星が目の前を遮った騎兵の、馬の胴を一突きして、さっと馬の尻の脇を抜けていった。あくまで、攻撃は最小限。

一刺し、すぐさま、地べたを這う武蔵隊の面々はぬえの様に動き、水が引く様に其処から離脱していく。

馬上の兵は反応して、手綱を引いて馬首を返すが、その馬力故、小回りの利かぬ騎馬兵は、身体を返し切れない。

後続から走ってきた味方の騎兵と、暴発の如く勢いを殺し切れぬままぶつかり合い、次々に転倒して行くのは、まるで氾濫する河のような様であった。





「――――――ッ!!」

「俺の所の奴らさ」


思わず、華雄が振り返った――――――

武蔵は、事も無げな風に。


「……貴様、何をした?」

「俺は何もしちゃいねえ。あいつら、自分で何とかするよ。強いからな」


ぽっと火を出して、湿気た火皿に灯らせる。

向き直って、にらみ返した華雄の視界に、紫煙がくゆり、融けた。


「ただ、な。お前が抜いて来たウチの兵。あそこに、な。混ぜておいた。指揮官が通過し、軍が伸びた所で反撃しろ、と」


ふーっと、一塊の煙を吐き出す。


さながら、暴風の様な勢いで殺到してくる、騎馬の群れに一瞬で飛び込み、一当てして、すぐさま退避する――――――挙動少なく、蜂のように毒を打って撹乱していった、その部隊。


特別戦闘専業特殊部隊、武蔵隊。

二天一流の、剣の術理を知る者達。


「角にさわれ――――――っつってな。強いものを押すなら、正面でなく、ヨコだ。そこからきっかけを掴む。きっかけを掴めば、崩せる。崩せば、倒せる」


華雄は弾かれた様に、獣の様に一足で飛び、地を掻き込むように飛び込む。

薄い、煙色の幕に、身体を全てぶつける様な風で。


「元気なのは良し。だがッ」


突っ込む華雄の片足が地面から離れた――――――同時に、斧の柄が横を向く。

武蔵はそれに合わせ、被せる様に脚を前に運んだ。


「ッ!」


右足を前に送る。恐らくはこの立ち合いの最中、始めて武蔵は前に出た。

殆ど、くっ付く様な間合いから、タメを作った斧を握る指を、強かに煙管で打った。

カン、と、パン、の中間。硬い骨と柔らかい肉が弾ける音が同時に響き、独特の“人の身体”の音となる。華雄の顔が歪んだ。

武蔵はそのまま斜めに入る様に、身を挿し込み、手に煙管を人差し指と親指に挟んだ方と逆、左腕を、華雄の身体の前、対角となる左肩まで、丁度、身体の向きに沿う様に差す。そうして、華雄の、まさに着地しようとする前足、右足を、自身の左足で持って捉え、波返しの動作で払う。


「寸鉄でも人は死ぬぞ!」


人間は前に進む時、必ず前足に体重が移動する。身体を前に持っていくときに、地面から離して振り上げた足に体重を移して、地面に着地するわけである。体重の預けられたその足を着地する前に払えば、身体は平衡を失う。つまり、相手の初動に合わせて踏み込み、軸の位置を相手の動作の最中で見切り、浮いた重心を捉える。

それが出来る者を、達人とか、名人と呼ぶ。

武蔵は足を取るのに合わせて、腕で華雄の上半身を刈る様に引き倒す。


「ぐっ!!」


華雄が、背中をやや強かに打ちつけた。すぐに体勢を翻し、振り払う様に、右手だけで、武蔵の脚元に向かって振り回す。


「おっと」


武蔵が、スっと後ろ脚に軸をずらし、前足をそちらに寄せ、引いた。それだけで避ける。華雄はその間に身をまろばせ、距離を取って立ち上がった。


「無茶苦茶な馬鹿力だなぁ」

「…………ッ」


倒れた体勢から、片手一本で、あの馬鹿でかい得物を振ってきた華雄、武蔵は、飄々とした声で、その膂力をそう評した。

華雄は、切れ目をさらに鋭くし、武蔵を睨み付ける。眼光は先程よりも増していた。

華雄の左手、柄に添えられている、白く細いしなやかな指。その中の人差指が、赤々と腫れている。そのうち、第二関節の所は、ぶす色に変色している。電気が走る様な疼痛が響いた。


「馬鹿に出来んモンだろう? こんな玩具でもな」


ピッピッと、人差し指と親指の間に挟んだ煙管を遊ばせる。

笑みを湛えた武蔵の視線の上にある綺麗な顔は、微塵も歪んでいない。

―――――思いの他、上の位だ。

武蔵はそう感じた。痛みを相手に気取らせる気の弱さが無い。むしろ集中力は増した、そう思えた。主に警戒心、か。

だが、武蔵はその怪我の度合いがどういうものか、一目で察していた。腫れと内出血の具合、抜けるような華雄の白い肌では、その痛々しさが余計に際立つ。骨折、あるいは、それに準ずる怪我であろう。恐らくは指に力は込められるまい。人差し指が利かねば、当然、手の内の冴えにも影響が出る。


今まで、華雄の攻撃に対し、退がるばかりであった武蔵が、初めて見せた前への動き。打ち込みに対し、ものの見事に合わせられた、華雄はそれに対応出来なかった。

何も、敵を攻め打つ事だけが武ではない。

足捌き一つとっても、それは相手を制す技と成り得る。


「侮っちまったなぁ」


初段の一文字薙ぎ、そしてそのまま返さず、打ち下ろしに可変させてきた二段目。そこには探る様な慎重さがあった。

その上で、(はら)を決めたような、思い切りのいい飛び込みだった。だが、次からは、少しずつ、その慎重さが減った。

武蔵が退がると、荒さが目立った。前に出る気持ちに引かれて、身体が流れているように見えた。武蔵の反撃には、全く備えが無かったようであった。丸腰だと踏み、強引に力でねじ伏せようと、大振りが目立った。


――――――宮本武蔵は、人差し指と親指のみで太刀を振るう事が出来たという。

楊柳の枝で夢想権之助を打ち据えたというのは、有名な話だが。


歯を見せて、煙管の吸い口を咥える。枝の様に細い。長さは一尺に少し満たない程度、しかし鉄製で、見た目以上に重みがある。

華雄が受けた一打には、人を殺せる威力があった。


「中原の虚弱人種どもなら、自ら指揮なぞしなくっても、蹴散らせると思ったかい?」


後続から、追い付いて来る馬の群れが途絶えている。

馬の脚が止まっているのだろう。混戦なら、小回りの利く歩兵の方が有利。


「奴らが使うのは、お前らのとは違う。日ノ本の剣ってのは、室町から三百年来、絶えず進歩を続けて来たんだぜ」


だが、それでも我が軍の個々の練度を鑑みれば、引けはとらぬ――――――

そう考えた華雄の思考に、武蔵が歯止めをかけた。


武蔵の知る、技。古来より脈々と伝承され続けた、日本武術―――――――

武蔵より、遡って三百年、その偉大なる基礎は、兵法三大源流によって確立された。

それは神代の頃、神武天皇の時代より存在した剣の術が、千年を経て導いた、一つの答えである。


「俺が連れて来たのは、ウチで最も強い奴らだ。俺ァ、お前の事を一瞬たりとも侮っちゃいなかった」


武の理とは、数多の剣士の命を溜める大器の水嵩の事を指す。

それは、柳生であり吉岡であり、伊藤一刀斎であり、佐々木小次郎であり。

宮本武蔵であり。そして、歴史が語らぬ名もなき剣士のものであり。

千年を超えて構築された大甕に注がれた、剣を振る者の、ひたすらに剣を振った時間の総量。

武蔵に到達するまでの三百年、全ての剣士の一振りが、そして、死が。大甕の水嵩を引き上げ続けた。

空の器は、やがて底が見透かせぬ程になり。

その深さこそが、そのまま積み重ねられた、剣の歴史である。

即ち――――――


「お前は侮っただろう? 俺を」


涼州の強さが、二百年に渡り代を重ね研ぎ澄まされ、純度を求め続けて来た、血の歴史であるとするならば。

武蔵と、それに続く六百余名の強さとは、千五百年分の人間の飽くなき研鑽、ひたすらに練られ続けて来た、理の歴史。


「たった、それだけだよ。俺と、お前との差は……」


武蔵が間合いを詰める。腰の上下動は無く、前後の脚を交差させる、独特の歩法。膝下を抜き、落下するかのような動きで、体軸ごと、前に。

長い間合いを一瞬で詰めたその動きの中で、はじめに無雑作な自然体だった筈の構えは、その動作中に、既に組み打ちの構えになっていた。

流れるが如き所作に一切の淀みは無く、挙動と挙動の間に繋ぎ目が無い。全てが、一息だった。

長物は扱えぬほどに身体を寄せた距離から、武蔵の右の拳が、短く、貫矢のごとく、真っ直ぐに華雄の胸骨を打ち抜いた。

華雄の身体は、一寸たりとも動かなかった。動けなかった。

ドンッ、と、肺と心臓に突き刺さった、瞬間にして強烈な圧迫感を感じて、華雄の視界が、火花が出る様に白く染まる。

動きが止まったのは、一瞬だった。それで充分だった。その一瞬で、華雄の宙に浮いた意識は、遥か遠方へと弾き飛ばされた。

それが、中上二段突き――――――薄い胸元に放った正拳の後の二段目、顎の真芯を食っていった掌底の仕業であった事に、華雄は気付けていただろうか。





華雄の身体は泳ぎつつ、そして、糸が切れる様に倒れた。

銜えたままの、煙管。武蔵は一瞬だけ残身を取ったが、すぐにその構えを解いた。


武蔵の前と後ろ、つまりは華雄の兵の後続と、先に行った先陣――――――武蔵隊と曹操本隊とがそれぞれ交戦したであろう地点から、喚声が上がる。

前後に分断された華雄隊の圧力と突破力は半減しているだろう。一旦、突進を止める事が出来れば、直線突破を狙う董卓兵を囲むように布陣している曹操軍が、俄然有利になる。


(丸腰の敵に繰り返した、大振り。つまりは油断と過信。強引に力でねじ伏せようと、横着せずに細かくやっていれば、あるいは俺を掴まえられただろう)


その“雑さ”は、並の相手ならば問題にならず、そのまま地力に任せて押し潰す事の出来る程度であったかもしれない。しかし、武蔵は見逃さなかった。

武蔵は、華雄を一度たりとも、侮ってはいなかったのだ。


「……げっほ!」


華雄は動かない。大の字に昏倒したままだ。

口に銜えたまま、煙管の管に溜まった煙を吸う。

肺に入り、思いのほか、むせた。


「…………やめるか、煙草。高いし」


左手に持って、トン、と灰を落とし、そのまま懐に入れた。

少し離れた所で、群衆の怒号が木霊している。兵が踏み鳴らす地鳴りが聞こえる。


「…………春蘭も怒るしな……」


武蔵はその(はざま)で、腕を組んで、ぼうっ、と、雲を眺めた。


眠い!!

空手の動画見てたらこんな時間になったよ。

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