黄色頭巾編・二十五話――――――「北の蛮狼、南の虎」
「っ……なんやねん、水差しよんのは!!」
張遼が舌打ちをする。
さも、うんざり、と言った風に、小次郎から目線を外した。
「…………!」
だから恐らく、その、ベタ凪の夜の海の様な、鎮み切った落ち着きを底に沈めていた瞳から、まどろみが消えた事には気付いていない。
「なんやねん、って事はないでしょ。こっちは呼ばれて来てんのよ、アンタ達に」
「ああっ? ……ああ……そういうことかい。……ったく、こんな終いの方になってから来よってからに……」
溜息のように吐き出された張遼の言葉の尻は、掠れるように小さくなって行った。
しかし、確実に、その、新たに兵を率いてきた一軍――――――赤の兜で統一させた、南方人特有の褐色の肌を持つ兵達を一手に束ねる、その美女の耳はそれを捉えていたように思う。
あるいは、あえてそうしたのかも知れない。苛立ちと、生来の勝気さがそうさせたか。
「……ふうん」
「あん?」
「いやね、文句言う所なのか、呆れて鼻で笑う所なのか、迷ったのよ、一瞬ね」
「……ほお」
美しい女だった。
妖艶、という言葉がかくも似合う女があるか。
切れ長の美眸には色気が満ち、きめ細やかな肌は薄絹のように滑らかで、流れて行くような線を模った腰付きは、例えようも無く優雅。腰まで伸びた髪は、日の光の創り出す光沢によって、時折、濡れたように艶めいた。
その容姿媚態は、果たして天の神からの賜りものか、それとも血の為したものなのかは、彼女の名も知らぬ“彼”には知る由も無い。
けれど、その牡丹一華の紅を塗ったような瑞々しい唇が詠った声は、少し鼻から抜けた、影も重たるさもない、まるで処女の様で。
殆ど直感のような感情だったが、それが実に倒錯的で――――――ある意味で、とても淫らで、色香香しく感じられた。
「そらまた。随分御挨拶やな。気分悪いんか?」
「あら、そういう事言う? ま、そういう理不尽な文句のつけられ方は、もう慣れちゃったけど」
「しゃーから、何をそんなに気に食わんねん。今更になってのこのこ援軍も無い、っちゅう話やろが。どこら辺が理不尽や」
「ほざくな!」
交錯し始めた視線を、鳥の一報のような、ピシッとした堅い声が割った。
張遼と対峙する将の、右腕側に侍る少女の発した、怒声に近い物言いだった。
「我ら孫策軍は貴様ら中央軍に代わって、先君・孫 文台の代から北の賊、西の乱、絶えず中華を転戦してきたのだ!! 碌な戦功もあげず、そのような内輪揉めを起こしている体たらくで勝手な事をほざくな!!」
意志の強い三白眼が特徴的だった。研がれた刀の切っ先によく似ていると、彼は感じた。
若さとひたむきさが宿っていた。疑うものは、何もない眼だった。
「よさんか、思春」
ひとしきり聞いた後に、逆隣に侍っていた妙齢の美女が、落ち着いた語調でそれを諌めた。
こちらはいかにも腰の据わった裨将と言った風で、透き通るような白い髪が目を誘った。
白髪のようにも見えたが、少し違う。老人のそれよりもうるおいがあり、しなやか。
時折照り返す、日の光の中に柔らかく溶けだしていく様は、まるで銀の糸のようだった。
秘境の民の髪――――――
「…………ち」
面倒臭そうにかぶりを振って、刀を下した。
眉間にしわが入る。
「まあ思い違いもあったんやろうけど、お互いに」
張遼は小指だけ立てて、耳の中に突っ込んで、掻く。
すこし顔をのけぞらせるように背筋を伸ばして、改めて彼らを見遣った。
「ウチらは何進ントコの軍やない。ウチらかて、クソ暑い思いして南に東にあンアホの褌担いで戦っとんねん。アンタらが何処でどんだけ戦って来たんかは知らんけど、そんなんウチらにしたら知らんことや。そーゆー文句言われる筋合いは無いな」
朱色の唇が、にこりと歪んだ。
錦上に添えられた、愛おしげな花弁。
魅惑的な―――――否、もはや蟲惑的ですらある。
美しかった。
「それはごめんなさいね。北は北でも、長城の向こう側? ま――――最果ての流儀じゃ仕方ないわね」
「人喰い虎の子に言われとうないな、そら」
めくる様に睨みながら、張遼が小指にふっと息をかけた。
「ちゅうてもケダモノやしなあ。袋が一緒でも、タネがどっから来とんのかわからんがな」
目の前の美女は笑ったまま。
恒久に分け隔てなく降り注ぐ陽の光を、鋭く冷たく、照り返した一筋があった。
傍らのしなやかな猟犬が微動し、もう一方の将が眼を揺らがせた。
「――――――眩いな」
「ッ!!?」
「ッ!」
互いの吐息が交ざり合う距離だった。
錦上の花の如き唇に、触れ合う程に近く。
薔薇を融かした象牙で作られたような端正な唇が、そっと紡いだ。
少女が佩いた剣の樋が僅かに鞘から顔を出し、銀髪の裨将がそれを諌めようと口から白い歯を覗かせた、その動作は目的を完遂させる前に中断され、代わりに二人の視線が同じくして、その男に向けられた。
「挑発は一顧だにせず。されど発せられた暴力の匂いは拒まず、綽綽として其処に佇まう。王の様に」
否、それは二人だけでは無く、目を丸くした張遼と――――――同じように、それまで微動だにさせなかった涼しげな眼を開いた、その美女も同じである。
「素晴らしい、だが、」
不意に、だった。
四者の象っていた、均妙な空気。その男は、それまで物語を眺めるだけの傍観者の様に、その世界の全く外側に居ながら、ふと、いきなりその一番奥深い所に現れた。
幽鬼のように。
恐らくは、幾つか死線も越えたであろう、歴戦の四人の意識が完全に後手に回る程に突然、しかし張本人は事もなげに、ぴったりとまじかに馬を寄せて来たのだ。
その気になれば、抱き寄せて口付けられるであろうほど、近くに。
「威厳と言うには、お前はあまりに気高すぎる」
一層、囁くような距離までクッと顔を寄せると、その分、目の前の美女は仰け反る。
呆気にとられるような色を浮かべた表情の前で、まるで神話の神々を虜にする魔性の麗人のように、悪戯な微笑みをした。
引き込まれそうな、黒い瞳で。
「雪景色に咲いた血の華は厭に毒々しく、桜の花びらに混じった血飛沫は酷く生臭い。ま……それが返って映えさせる事も稀にはあるが」
すっと覗き込むように乗り出していた身を馬上に立て直し、一歩だけ距離を取る。
傍らの少女の手は柄にかかったまま、抜こうとも納めようともせず。
「俺は、美しいものと綯い交ぜに血を見たくはない」
何物も意に介さないかのように、その美しい男は言葉を奏でた。
捉えどころのない、その男そのもののような言葉を。
「今は、そんな気分だ」
馬を返す。
響いたのはその男の馬蹄だけ。
「王とはもっと後ろめたく、陰湿で厚顔で濁っている、薄汚れた存在さ」
背を向けながら言うと、再び笑う。彼方、洛楊城の方へ馬首を向けて去って行った。
兵が道を開けたのは、張遼が下知を下さなかったからか、それとも彼らもまた、呆気にとられたからか。
知る由も無い。
「…………何、あれ」
その場から音が消えていたのは、一瞬だったか、数秒だったか。
ついさっきまで、一番近い所で相対していた本人が、言葉を落とす。
言及された関係者は、眉間にしわをぐっと寄せて目を閉じ、がしがしと頭を掻いた。
「変人や」
鼻から細いため息を吐いた後、彼女が表した、勝手気ままにふるまって去って行った、くだんの男の寸評は、一言だけだった。
「伝令! 華雄軍からの使者として参りました。本軍司令官殿はこちらにおいでですか」
パン、とシャボンが弾けるように、空気が変わった。
早馬が駆け込み、張遼のすぐ後方でさっと止まると、すぐに下馬して膝をついて、軍礼を為した。
「今度は何やぁ、もぅ」
しかめっ面のまま、馬ごとそちらに振り向いて、さもうんざりした風で続きを促す。
「はっ。華雄軍は先刻、孫夏軍を撃破し任務を完遂。そのまま軍を纏め、貴軍との合流を図っております。許可の程を」
伝令役は、それに対して顔色を変える事も無く、ただ事務的に告げた。
彼女の心情を悟っているのか、それとも単に彼の性情からか、兵として仕事に徹しているからなのか、そのありふれた所作からは窺いようも無い。
彼女の頬を掻いていた人差し指が止まった。
形の良い目が、パチッと開かれた。
「何や、もう終ったん? 孫夏は捕まえたん? 殺したん?」
「はっ……小次郎様自らがお討ちになられ、帰還するべく貴軍との合流に向かったとの華将軍の仰せですが……ご存じになられませんでしたか?」
「……………あンのダボ」
溜息をつきながら、張遼は彼の行動の意味をようやく把握した。
否、あの奇人変人の行動原理なぞ理解も及ばぬが――――理解をしたのは、何故華雄の救援に向かった自分と、あの男がすれ違った理由だ。
しかし、聞けば何と言う事のないすれ違いだったが、それ以前に戦時に置いて客分が単独行動を取る、と言うのが非常識極まりない。
一軍を率いるに値する最低限度の常識を持っている人間なら、敗走か、脱走か、いずれにせよ不審事・変事の類があった事を連想して詰問してしまうのは、無理からぬ話である。
そもそも、それを許した華雄も華雄であるが……
(話聞かんかったんやろなぁ、どーせ)
と言うのだけは、容易に想像がついた。生粋の狷介者同士を組ませた時点で、そこに気付くべきだったのやも知れぬが、その権限の無い彼女にそれを問うのは酷であろう。
片方は飄々気儘、とでも形容した方がそれらしいかも知れぬが、彼女は一度舌打ちをしたのを最後に、無駄にこじれたこの一件について、もう考えるのを止めた。
どのみち考えても、不意に起こした気まぐれという以上の理由はわかりようも無いし、いい加減、その辺りの詮索が、あの男を図るのには無意味であるという事は、聡い彼女は悟り始めていた。
「……はあ。何かいい加減、怒んのも面倒になってきたわ」
「……いかが、為されました?」
「何でもない。せやな、すぐ合流してもらってもかまへんのやけど、ちょっちこっちの方でも動きがあって……」
「報告!」
ガガガッ、と蹄を派手にならしながら、今度は馬上の高さから声が飛んできた。
張遼は華雄の遣いの方に身体を向けたまま、狐に似た雰囲気の切れ目具合の、流し目のみでそちらに意識を遣る。
「高順将軍の一軍が徐栄隊長を救出! そのまま合流し、張曼成の残軍を大破したとの事」
「おし。ほんだら、ウチらの方も片付いたから、先に城に帰っといてって順やんに伝えといて」
「はっ」
「――――ちゅうわけなんよ」
一つの馬蹄が遠ざかっていくのを耳で聞きながら、改めて視線を戻した。
「しゃーから、とりあえずこのまんまウチの軍に合流しいって、かゆっちに伝えてや。ほんで、今日はそのまま帰還しよ」
「承知。ではそのように」
「頼むわ」
今一度礼を取ると、再び騎乗し、そのまま主の元へと去っていく。
その騎馬はみるみるうちに遠ざかり、程無くしてただの影となった。
「さぁーて、ほんじゃ、かゆっち待ちながら、ぼちぼち歩かして進もうかぁ。なーんや、全然戦っとらんのに無駄に疲れたわ」
馬首を返し、よく通る声で自らの軍に告げた。
肩を回して、大儀そうに首を鳴らす。
「あ、せや」
軍が動き始め、蹄がやかましくなりかけたとき、ふと、思い出したように身体をひねり――――――
「名乗ってへんかったな。ウチは張遼。お察しの通り、最果ての野蛮な馬乗りの出やよ」
その顔に、悪戯好きな、少し、意地悪さをにじませた笑みを浮かべていた。
「孫策よ。江東の人食い虎の愛娘……ってトコかしら?」
「ふん」
褐色の美女は、鏡映しにしたような、全く同じ表情をコピーして微笑み返す。
「煽ったのは謝らへんよ」
ぶん、と得物を頭の上で一つ回すと、張遼は再び前を向く。
「その余裕が気に食わんからな」
馬を追わせ一気に襲歩まで速さを速め、台詞一つだけその場に置いて、すぐに群れを割って先頭へと駆けていった。
「どうでしたかな、策殿」
「うーん……言葉じゃわからない事の方が多いわね」
いかなる嗅覚、いかな匂いを感じ取ったか。
その美貌の裏を推し量るは、いかばかりなるか。
「挑発に乗っちゃうのは戴けなかったけど」
「……申し訳ございません」
「ダメよぉ、思春には蓮華を守ってもらわなくちゃならないんだから」
恐らくは解らざる事の方が多く、
色香を香らせ、悪戯に笑うのみ。
「とりあえず、もう帰りましょ。戦も無いのに居てもしょうがないわ」
「ええ……周瑜様の企画された遠征期間を、もう10日も延長しております。頃合いかと」
「頃合い、かぁ……それって、冥琳のイライラがノッてくるちょうどいい期間、って言う意味での頃合いなのよねえ」
「説教は免れんじゃろうな……うむぅ、白酒くすねたのはバレとらんかのう」
他愛も無い話をしながら、彼女たちもまた馬を進めた。
南へ。
「あ、でも祭」
「む?」
「私ね、下手したら死んでたかも」
「……また、いつもの勘、という奴ですかな? しかしまた、随分と物騒な」
「ははっ。そうね」
音も無く、彼女はそっと左の掌をほどく。
「けどね、そんな気がしたのよ」
知らずと、握りしめられていた、鞘。
苛立ちでは無かった。
恐らく、その理由を知っていたのはたった一人。
反射的に得物へと伸びた、その手を見切っていたのも、たった一人であろう。
「む~……」
「……」
満天の星空。
鞍から降りて武具を脱ぎ、楼閣に登って眺めるそれは事も無く彩やかだ。
永遠の都、洛楊。
だがそれは彼らにとって決して常なるものでは無く、
星は大地で観るもので、浮かぶ月は、馬上で愛でるものである。
この美しき街にとって、彼らは血肉分けたる子では無く。
彼らにとってもまた、この地は、母なる温もりで癒してくれる場所では無かった。
「……アンタなぁ、女のコが唸っとるんやから、少しは構いよ」
「月が回ったか」
「ドアホ」
張遼はベランダに身を寄りかかりながら頬杖をついて、高順は背にもたれるように、左腕の肘を掛けながら、逆の手で牛の乾し肉を齧っていた。
右手の指に紐が掛かり、宙に吊下がった瓢箪が、ゆらゆら揺れた。
「月のお客さんの方が、なんぼかええかも知らんで。今日だけで何回舌打ちしたかわからんわ」
「何かあったのか」
喉をくっくと鳴らし、にやけた面のまま、乾し肉を食らう。
ムシリ、と音を立てて、千切れた。
「あんなー、孫策ってのに会うてん」
「ほう」
高順は残った肉を全部口の中に放り込み、両肘を柵に掛けるようにして、完全に外の景色から背を向けた。
廊下は青白い月灯りに照らされて、幻想的な仄暗さが広がっている。
その闇に浸っていると、欠伸が一つ出そうになった。
「そいつは知ってる。ちょっとだけ有名だ」
「そうそう、そこそこ有名人の。やから、ちょっと触って見よーかなって思てん」
「乗って来ねえか」
「結構突っついてみたけどなあ。巧い事躱しよって、ジャマも入って、グズグズや」
ダラッと力を抜いて、だらしなく重ねた腕に顎を乗せた張遼に対し、高順はカラカラと笑った。
「そりゃあしょうがねえ。お前の負けだ。今日はな」
「うぅ、はっきり言うなぁ。泣くで?」
「口喧嘩で一歩引いた程度で泣く程、可愛げある女じゃねえだろよ、お前」
ひゅっ、と右手の指を紐から抜き、一瞬宙に浮いた瓢箪のくびれを、そのまま持ち変える様にぱしっと掴んだ。
「釣れそうな雰囲気あったんやけどな。あの男がしゃしゃるからおかしな風になるんよ、ったく」
「小次郎か」
「む」
手持無沙汰な風に、右手で瓢箪を遊ばせる。ジャブ、ジャブという色気のない水音が、会話の合間を流れて行く。
張遼は流し目で高順を見遣ったが、彼はうつむき加減のままだ。
「あれは、恐いな。何考えてるかわからねえのもそうだが、俺はあいつの眼を、気ィ抜いて見る事が出来ねえ。ビビって思わず抜いちまったら、中身がまだ鞘の中を走ってる間に、首が飛んでる気がするよ」
「……只の変人やろ、あんなモン」
「本当にそう思うか?」
ポンポンと瓢箪を遊ばせるのをやめて、今度は高順が流し目で見返した。
その、含み笑いを湛えた表情が、くだんの佐々木小次郎のよく見せるそれに似ていて、張遼は思わず、顔を引かせた。
「ホラ、な」
「ぐっ……」
その反応を見ると一転、眉間にしわを寄せながら喉をくっくと鳴らす、彼独特の笑い方で、面白そうに笑った。
「あの動く彫刻みてーなド綺麗な顔で、こんなわざとらしい表情するんだぜ。そりゃあ、恐いって」
「……あんたなあ、そういうイジワル、せんほうがええで! ったく!」
張遼は高順の方に身体を向けると、猫のように唸る。
そして彼がまた愉快そうに笑いながら、瓢箪を遊ばせ始めると、それが空中に放られた一瞬のうちに見切り、かすめ取った。
「ッ! おい!!」
「へっへーん、ウワバミ霞姐さんの実力、とくと見さらせっ!!」
わかりやすいくらいに焦り出した高順に、張遼は勝ち誇って蓋を開ける。
そして景気よく一気に煽り――――――
「……それ、着火に使う蒸留酒だぞ」
「ウボハァーッツ!!!!」
遥かに勝る勢いで噴出した。
味にしろ度数にしろ、凡そ人の飲むものでは無かった。
「ぐっ……こいつが……世に名高い、こーめ、いの、罠…………げっふ、げふっ、ぐふっ」
「自爆だろうが、阿呆」
崩れ落ち、のたうつ張遼は、工業用アルコールが誇る、度数90%の壁と言う洗礼を受けた。
高順が背中をさすっていたが、「あの熱量には如何な気遣いも慈悲も無意味」と、彼女は復活した後に語ったと言う。
常なる人間なら、斬りかかられたら身構えるだろう。
特に、馬上で偃月刀を掲げた張遼が相手であれば。
彼女がたじろいだのは、あの眼。
弾けるように振りかからんとした刃の下、奴は身じろぎもしなかった。
深い深い、漆黒の瞳は。
とっさに身構えるでもなく、少しも揺らがずに、流麗な眉形の偃月刀をクッキリと映し出し、じっと眺めていた。
故に、彼女はたじろいで、打ち降ろさんとした刃を思わずの内に止めたのだ。
――――――全てを見透かされている気がして。
張遼には、あの男がこれまでに何を見て来たのか。
如何な剣、如何な太刀の下にさらされ、幾数の死線と修羅場をくぐって来たのか。
知る由も無い、だが、
恐らくは、その幾千太刀のうちの一つに過ぎなかったのやもしれぬ。
高順は言った。
「奴は恐い」
と。
あの、たおやかな声が滑り込んでいなかったら。
首が飛んでいたのは自分だったか――――――
「肢体を洗う」の御堂さんの中の人ってエロいよね。さすがエロフ。
誰か動画上げてくれないかなあ。