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黄色頭巾編・十八話――――――「初陣、決着」

原発への放水第一陣が終わったようですね。

いまだ予断は許さない状況ですが、このまま事態収束に向かってくれると嬉しい。

こち亀読んでて、気付いたらこの時間だった。こち亀ぱねえ。眠すぎる。

何と言うのか、これは。

逃げ惑う敵、追う自分。

立ち向かってくる相手、向かい合う己。

手にあるものは、剣か、槍か、あるいは棒か。

背の高い奴、低い奴。線の太い奴、細い奴。軽そうな奴、重そうな奴。

細面、強面。厳つい顔、優しい顔、変な顔。醜い顔、美しい顔。

怯えた顔、凛々しい顔。

長い髪も、短い髪も、ハゲも。睫毛のやたら長い目許、ゲジみたいな眉毛、ダンゴッ鼻に、タラコ唇。

この剣先の向こう側に立つ人間は実にさまざまだ。

しかし、一つとして同じものの無い(かお)(かたち)から受け取った印象はたった一つ。


――――――小さいな。


全ての人間の輪郭も、厚みも。周りを取り巻く雰囲気すら。

その容姿や得物に関係なしに、そいつらの全てが目に視えているよりもずっと、ずっとずっと小さく見得た。

それは、自信と言うよりもはるかに確信めいた安心。

そんな感じの“なにか”

ここに在るすべての空間が一滴も途切れずに俺の内に入っていて、完璧なままで掌に納まっているような。

あるいは俺はその中心にあって、それでいて目に映る世界の端々までもがすべて俺自身であるような。


そういう感覚。


ひょっとしたら、構えも解いて、手に添えた一振りの剣も手放して、両手を広げて完全に無防備のままこいつらの剣をこの身に受けてしまってもかまわないような。

そんな気さえした。

これはもしや、いや。

もしやと言うよりやはり、あれか。

あれは、こういう事を言うのか。

そう言い切ってしまって良いのかはわからない。だがこの言葉で綴る以外に、今の俺に「これ」を表す術は無い。

その言葉ならこの形容しがたい不可思議な感覚を実に端的に、たった一言で表す事が出来た。

今、俺を満たすもの。俺が俺のいちばん深い所から感じているこの感覚。そう。これは多分、


「強い」ってことだ。






怒号と地鳴りが無秩序に暴れ狂う中で、逃げる兵と追う兵は完全にハッキリと分かれていた。

不意を打たれた何儀の兵士はその攻撃に全く対応する事が出来なかった。

突然現れた敵、突然始まった戦い。むしろ今何が起こっているかを把握している方が恐らくは少ない。

軍らしい装いを持ってはいたが、所詮、何儀一人だけを点に纏まっていたに過ぎなかったか。

そこでしか結ばれていないから、ほどけると全て簡単にバラける。

しかし、指揮系統がもっと確かで、厳格にしっかりしていたとしても、ある程度の混乱は避けられなかっただろう。


そういう状況であった。


大半は事態を認識しきれぬうちにわけのわからぬまま斬られた。反応出来た者も多くは、とっさに背を向けたうちに追い散らされた。

何とか刃を合わせる事の出来た数えるほどの英兵も、腰を据える事が出来ないままに圧力に圧し切られてしまった。

気が付いた時には既に彼らは猛然と駆け抜けた後で、自軍を切り裂く、その勢いを押し止めようとしようものなら、たちまち巻き込まれて不具にされた。

正面からよーいドンで戦いが始まれば、構図は全くの逆だったはずだ。

しかし、驚きうろめき底を抜かれたのは四千の大きな兵で、火の玉の如く駆け抜けていくのは六百ぽっちの小さな兵。

戦う準備のまるで出来ぬうちに攻め込まれ、燃え広がる勢いを止め消す事は叶わず、縦横無尽の侵略がズタズタに思うまま引き裂いていく。

最初のひと当てから、一気にダダダッと崩れて行くさまは、ドミノ倒しに似ていた。

それでも、恐らく火付け人はこの何とも派手な事象をたった一言で済ます。


“出来が違う”と。






「うわああああああ!!!!!!」


逃げ惑う。まるで無抵抗民族。

逃げ足よりも追い足の方が速いに決まっていた。

戦いとも呼べないような圧倒。

剣を交えてもそれを制す容易さは児戯の如し。

――――――高祖に土下座させた異民族の王サマってのは、こんな気分だったのかな?

痛快なくらいに敵を打ち破って行く感触を、文字通りの最前線で感じていたが、頭は意外なくらいに冷えていた。

斬り合いは何度もやってきたが、こういうボロ勝ちも、こういう気分も初体験だ。

余裕、ってやつか。


「…………へっ」


ワザとやっているのかというくらいに、手打ちで雑な剣を振り抜かれる前に出先で受けて、軽く弾く。

手首を返した流れのまま切り払うと、パッ、と湿りと硬さの混じった独特の音が鳴って、剣先から柄に小刻みな痺れが伝わった。

血と肉と、骨の音。

こっちが肩透かしを食らいそうなくらいに、簡単に入る。

彼らには、その動きがまるで見えていない。


武蔵より一昔前の明に、戚継光という将軍が居る。

戚家軍の二つ名を取った精鋭を率い、南に倭寇、北にモンゴルと転戦した猛将だが、彼は国境を脅かし海賊行為を繰り返した倭人の剣について、こう記している。


「長刀、倭の中国を犯すよりこれ始めてあり。彼らがこれを用いて身を電光の如く翻して進めば、我が兵、気を奪われるのみ。我が短兵器は接し難く長器は捷ならず、身多く両断す」


倭刀を変幻自在に操り、日本武術に由来する歩法を駆使し縦横無尽に戦場を疾駆する彼らに、当初、明の正規軍は全く対応する事が出来なかった。

彼らは上下左右、実に多様に身をこなし、明軍の剣が届く前に敵を切り裂き、槍が当たればその柄を斬り飛ばす。

戚継光が赴任する以前の明軍が、特に明確な指揮官すら持たない、局地的ゲリラにすぎぬ彼ら相手に為す統べなく総崩れとなり、内陸まで脅かされたことは歴史的事実である。

その後、戚継光が倭寇の捕虜から得た陰流剣術の目録を研究し、それを手本とした中国式の刀剣術を考案、それによって直々に鍛え上げた直属兵を駆使して、倭寇、さらにはモンゴルの雄・アルタン=ハンの軍勢に常勝をせしめた事もまた、史書の綴る事実である。


武蔵は戚継光であった。

彼が直々に二天一流の法を授け、その中でさらにふるいにかけられ凌ぎ合い、刻をかけて練摩された精鋭たち。

武蔵隊の振るう剣は、彼らにとってさながら魔刃に見えていたに違いなかった。


「ほっ」


身を奔らせる。体は軽い。

二月、三月で変わる事なんてたかが知れている。

武蔵はそう言っていた。

せいぜい、積める勝ちの石を一つか二つ増やせる程度だと。

だが一粒の石が、時として大岩や土台の板岩ほどに重きを為す事もあるとも言っていた。

素人にとって0と1は覆しがたい差になるし、一流と二流を分けるのも案外、たった一石分の微妙な差だったりするんだ、と。


(…………)


一つ、漠然とだが気が付いたことがあった。

武蔵の出陣前の言葉、あれは単なる鼓舞の言葉ではなかった。

――――――数など何の不利でもない、ただ目の前の敵を倒せばよい。

軽口を叩いていた彼とて敵の数の多さを頭に入れた時に、それがしこりにならないではなかったが、実際に戦いに放り込まれて見れば、なるほど――――――


考えてみれば、自分一人で四千もの人間を相手にしなければならないわけではない。

俺を殺したがっている者、そうではない者。逃げようとする者に、俺の存在が目に入っていない者もいる。

味方の姿も見えた。


一度、眺めるような目で見渡してみると、自分のやるべき事が良くわかる。あとはそれのまま身体を運び、剣を振ればいいだけ。

そういう眼になれるほど、頭が冷えていればの話だが――――――

数の利を兵学で説くような軍の指揮官は、対局を持って戦を考えるのだろうが、自分達兵卒に、そんな必要はなかった。

ただ目の前の敵を倒せばいい。


「自分」の相手と戦い、勝つ。それを繰り返すだけ。


剣を振るうものがやるべき事は、この上なく単純だ。

それは、毎日繰り返してきた稽古と同じだった。

それが、中々に難しいのではあるけれど――――――


「基本がなってねえぜっ!」


すぐさま次の敵に身体を寄せ、手早く一挙に懐に潜って、自分の頭一つ分は上にある顎を突き上げるように貫き、白い牙が食い込んだ。

芯を食った特有のすり抜けるような手応えから、一瞬遅れで切っ先にズズッと重みがかかって、血の飛沫が顔に霧吹きの様に降りかかる。

この小男の積んだ石もまた、所詮一つ二つに過ぎないのかもしれないが、

それはきっと、闇雲な年月を経て探し当てていては、見つけ得る事のないものであったはずだ。





「ん」


視界の端に、奇妙に動く何かが映った。

左手に持ち替えた血みどろの柄と、うなりの漏れる食い縛った歯、悪鬼のような目。

肉の赤と、それにくるまれるように埋まった骨の白とが覗く斬り口から血をだくだくと流し、ぷらぷらと皮でぶら下がっている右手首は、そいつが一歩足を踏むとだらん、と揺れた。


――――――おいおい、それでまだ戦うのかよ。


この小男の中では、さっきの芯を食った手応えが終わりの合図だったが。

こいつは使い物にならなくなった右手をぶら下げて、自分を標的にするように動いている。

脂汗をかき、断面から何かはわからない筋だの血管と思しきぶす紫の管だのを食みださせて、痛みを抑えつけるように右腕を肘から不自然な形に畳んでブルブルと震わせる姿は、まるで壊れたおもちゃの兵隊だ。

壊れた腕をぶら下げて、壊れた動きを見せている。

それでも、耐えるようにしかめた眼は未だ死んではいなかった。

彼を殺したがっている眼だった。


――――――もしこいつが武蔵隊にいたら、俺より強かったか?


腹の底に、冷たい、ポッと出来た口内炎くらいのちいさな空間が出来かけた。

もっともそれは、とるに足らない無視できる影響で終わるだろう。

こいつにはもう、俺を殺す動きは出来ないし、これ以上、強くなる事は無いからだ。


「うぉあッ!?」


脚を滑らせようとしたが、意志に反して何かに阻止されたように急停止する。

握った柄が動かずに――――というか、剣に引っ張られるような格好になった。

進めなかった身体に、ドン、と人混みで肩がぶつかったような軽めの衝撃がかかって、ゴツゴツ筋張った柔らかいものが覆い被さる様に寄しかかってくる。

たった今チビが斬った相手、肉の塊になったばかりの筋骨逞しい肉体だった。

力は抜けているが、死体ゆえ自分の足で立たずに支えをチビに求めているので、結構な重さがかかる。


「にゃろっ……!」


邪魔くさいその障害物を振り払うべく、顎と首の付け根辺りに突き刺さったままの剣を引き抜こうと強引に引っ張るが、剣は抜けずにガクンッ、と頭が派手に振られながら付いて来た。

どうやら骨と骨の間に挟まって抜けなくなったらしい。


「このヤロめんどくせっ……ってうおっ!!」


虚ろな何も映していない目玉に向かって文句を吐いて、顔を無理やりに手の平で押さえて引っこ抜こうと躍起になる。

が、それに気を取られていたのがまずかった。ただの動かぬ骸の方にイラついて、本来注意を注ぐべき生きた人間からつい目を切ってしまった。

とっさに身を転ばせるように翻し、迫る剣撃を捌く。

骸は曹操軍仕様の軍剣を首に串刺しに突き刺したまま、支えを失うに任せて粗大な荷物のようにドサっと崩れ落ちる。

それに妨害される様にぶつかった手負いの敵は、身をもつれてさせて転倒した。


「ちっ……」


図らずとも、丸腰となった。

軽くなった腕は下げて、二、三歩と回り込む様に歩く。後左右に注意を払った後、遠巻きに敵を見据えた。

立ってくる相手は明らかに憔悴していた。出血のせいだろう。

それでも瞳に露わになった闘争の意志は萎えていなかった。


――――――まずいか?


距離を開けて眺めてみると、いかに身体が流れているか丸わかりだ。

それでもなお、それに一瞬でも圧力を感じた所以は。

走ってくるそいつの眼の色が、その切っ先と全く同じ色をしていたからだ。





「チビよお、決めるんならバシッと決めろや」


いかに捌かんかと膝に一部の力が溜められた時、その身体は予想していた軌跡を辿らず、走り込むまま勢いよくもんどり打ってチビの手前、前のめりに倒れた。

べしゃりと潰れるように投げ出された身体に、首はなかった。

横入りに伸びて来た薄刃の剣が、撒き上がった派手な血飛沫を置き去りに、真一文字に斬って落として跳ね飛ばしていた。


「すんませんっす、アニキ」


滑る様に転がってきた剣を足で止めて、拾い上げる。

持った感じは、さっきまで使っていた軍剣に比べて幾許かチャチだ。


「いや、まあ……ワリと良い方だろうよ」


視線を自分を救った顔馴染みの男に向けると、飛んできたのは彼の声ではなかった。

背の高めなその男よりさらに一回りと半分くらいでかい男が、二歩くらい後ろからニキビ面の若年の男に馬を伴わせ、戦場にあって秋夜の涼風の様なゆるやかな足取りで現れた。


「今日の所はな。贅沢を言うなら、ゆくゆくは全員、あの域まで達してもらいたいが」


掲げた武蔵の刀の先は、数間ばかりかの遠く、敵と接触するこの最前線において、最も敵中に突出した辺りを指していた。


「シッ!!」

「ぐわっ!」

「ハアッ!!」

「がっ……」


肘、あるいは膝に、拳と脚。

強靭なバネに鋼の武器を搭載した四肢五体を縦横無尽に使い、木っ端を切り払うかの如く敵を蹴散らす。

まるで映画の一場面。あるいは舞台の殺陣。

敵をまるで寄せ付けぬ、その中心にあるのは、凪――――――いたいけな少女の顔を持ちながら、剣聖・武蔵の覚えも特にめでたき隊内が魁の武威を担う、楽進であった。


「黒牛の葡萄酒和え並の豪勢さですわな」


血の飛び散った得物を肩でカシャカシャ揺らしながらノッポが恰好を崩す。

楽進が六百人もいれば、なるほど、それほど贅沢な隊もあるまい。


「あれ……ダンナ! ダンナのカタナ、ピッカピカじゃないっすか! ちゃんと働いてくださいよ」

「ああ、こいつが『働きたくないでござる!』って言うからさ」


武蔵が、ニキビを顎で指す。


「隊長!? なぜ顔色一つ変えずさらりと嘘を!!」

「てめえニキビこの野郎!! 年齢不詳のるろうにみてーな事言ってんなコラ!」

「ええい、何の話だ、阿呆どもめ!!」


自分たちより年少の少女が奮戦している手前でこういう掛け合いをしているから、この男共は桂花に容赦なく「バカ集団」と言われてしまうのだろう。


「愚か者めが! 兵法に照らすなら元来、指揮を執るべき隊の長は前線で斬り合いをすべきではないのだ! 味方が一丸となって敵陣を蹂躙しているこの状況なら、隊長の居られるべき場所は当然、全体を見通すべき中央であろう!」


鼻息は相変わらず荒く、自信たっぷり。


「俺も顔くらい出そうかな、とは思ったんだが」

「で・す・か・らぁ! 王将役はド真ん中と相場が決まっておりましょうが! 少しは落ち着いてくださいな!!」


否、鼻息が荒いのは、決して偉気高になっていたわけではなかった。

あっちにフラフラ、こっちにフラフラ……それを大声でわめきながら何度となく制す彼の姿が目に浮かぶようである。


「まあ、俺の所まで敵が来ないってのは良い事なんだろうが、な」

「我が方が押しに押しまくっておりますからな! ……故に、隊長御自らが前線にお出になられる必要はないのです!」

「頑張ってんのは俺達だろぉ?」

「キサマ、この御方を一箇所にお留めするのがどれほど大変だと……!!」


恐らく彼に悪気はないのだろうが。

武蔵と言う男、ずいぶんな言われようである。彼の気苦労が知れるようだ。


「したら、なんで前に上がってきたんです?」

「ああ。そろそろお開きだぜって伝えに来た」

「お開き?」

「おう」


束ねた後ろ髪を一度、首の裏で払うような仕草をして、親指で左を指す。


「本チャンの御出座しだ」


まるでそれが合図だったかの様に、沙和と真桜の奇襲が成功した時よりもはるかに大きな鬨の声が、指先の遠く彼方で爆発した。






「よいか!! すでに敵は陣を崩され、もはや烏合の衆に過ぎん!! ただ疾風の勢いにのみ任せて圧倒せい!!」


鬼将・夏侯惇の率いる直属、千は数えるであろう騎馬兵が怒濤の様な速度を保ったまま、中を引っ掻き回され棒立ち状態となった敵軍へと突撃する。

その勢いはまるで無人の野を往くかのように、人間の抵抗を全く意に介さず集団を大破していく。


「我らは広く展開し、敵軍を包み込む! 逃げるものは深追いするな! 速やかに包囲を完成させよ!」


次いで夏侯淵の統べる山東が誇る精歩三千が、隊列を維持したまま手早く敵を包んでゆく。

すでに軍としての動きを奪われていた敵兵には、それらの手を防ぐ術は最早なかった。







「――――――幕引き、ですか」

「日暮れも待たんで決着だろう。まあ、気は抜くな。力む必要もないが」

「へい」

「存じております」

「ノッポ」

「うす」


武蔵は刀を構えずに下げたまま、傍らの痩躯に催促し、彼は全隊に声が通る様に少し上向く。

青毛の彼女が、退屈そうな大欠伸を一つした。


「さあ、お前ら! ここまでは上出来だ。このまま進んで于禁と李典の別動隊と合流、そのまま戦線を抜ける。残り仕事二割、初陣なんぞで死ぬんじゃねえぞ!!」

「応っっっっ!!!!!!」


その後も武蔵の隊は敵を切り崩しつつ前進、後方から奇襲を仕掛け、同じように内へ内へと攻め込んでいた沙和・真桜の率いる各隊と合流。

程無くして敵は春蘭の突撃によって総崩れとなり、穴空きの瓶から水が漏れて行くように秋蘭の包囲の隙間から逃亡、網に掴まった者は討たれ、あるいは捕虜となり、そのまま壊滅した。

かくして戦は武蔵の予言通り、後詰の到着直後に日暮れを待たずして決着。

早期決戦の影響もあって曹操軍はほぼ無傷のまま、混乱する敵軍を殆ど駆逐戦の様な形で、たった一度の交戦で撃破に成功した。


まさに圧勝と言っていい内容であったが、中でも特筆すべき戦果は、始めの撹乱を成功させた武蔵の指揮した一隊にあった。


斬り伏せた、事ではない。斬られなかった事だ。

敵軍数千に対しわずか六百で奇襲を敢行、にもかかわらず、多数の軽傷者こそ出したものの、死者及び再起不能級の重傷者は一切出す事がなかった。

大将首を挙げると言う戦果も添えて、ついに隊員を一人も欠けさせることなく、全員自らの足でその日の内に帰還を果たしたのである。

それはつまり、曹操軍における、ある一つの事象――――――今後における軍制の展望を、明らかにしていたのだった。


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