四季彩 その後の2人
『四季彩 花の宿』、ある平日の夜。
営業が終わり、ゲストのチェックインも済んだ頃。
ロビーのピアノは静かになり、シャンデリアの光が柔らかく畳を照らしている。
透は自室(今はオーナー室兼プライベートスペース)に引きこもり、
プレステ5のコントローラーを握りしめていた。
画面には『エルデンリング』のボス戦。
「くそっ……また死んだ」
透はソファーに沈み込み、ため息をつく。
ヘッドセットから流れるBGMと、自分の呻き声だけが部屋に響く。
そこへ、ノックもせずに凛が入ってきた。
仕事終わりの着物姿のまま、手に缶ビールと日本酒の小瓶を持っている。
「透さん、またゲーム?」
凛はソファーの端に腰を下ろし、ビールをプシュッと開けた。
透は画面から目を離さず、ぼそっと。
「今、ラスボス直前なんだよ……集中させてくれ」
凛はくすりと笑い、酒を一口。
「ふーん。じゃあ、私も集中させてくださいね」
彼女はスマホを取り出し、イヤホンを片耳に挿す。
画面に映ったのは、ジャニーズの最新ライブ映像。
推しのグループがキレッキレのダンスを披露している。
「わっ、今日の衣装可愛い……! あの袖のフリル、最高……」
凛の目がキラキラ輝き、普段の毒舌モードが完全にオフになる。
透はチラッと横目で見て、呆れたように。
「凛ちゃん、今、完全に女子高生じゃん」
「失礼な。22歳です」
凛は酒をもう一口。
顔が少し赤くなり、スマホを透の方に近づける。
「ほら、見て! このターン、完璧でしょ? 推しの笑顔、尊い……」
透はコントローラーを一時停止し、画面を覗き込む。
「……まあ、確かにキレッキレだな。振り付けの精度高い」
「でしょ!? ライブのあの瞬間、生きてるって感じるのよね……」
凛は興奮気味に語り始め、酒をちびちび飲みながら、
推しの過去の名場面や、最近の雑誌インタビューを熱弁。
透は最初は「へー」くらいだったが、だんだん引き込まれて。
「待て待て、それって『原神』のイベントコラボの時だろ?
俺も見たよ、あの衣装」
「え、透さんも『原神』やってるの!?
推しとゲームが繋がってるなんて……運命!」
二人は気づけば、スマホとプレステの画面を交互に見ながら、
ジャニーズとゲームの共通点(ビジュアルの美しさ、ストーリーの没入感、ファンの熱量など)を真剣に語り合っていた。
凛が日本酒を透に差し出す。
「飲む?」
「いや、僕弱いから……一口だけ」
透が恐る恐る飲むと、すぐに顔が赤くなる。
凛は笑いながら、自分のビールをゴクゴク。
「透さん、ほんとに弱いですね。
でも……そういうところ、嫌いじゃないですよ」
透は赤面し、コントローラーを置いて凛の肩に軽く頭を寄せる。
「凛ちゃんのジャニーズ熱も、意外と可愛いよ。
……一緒にライブ行こうか? 俺、チケット取るよ」
凛の目が一瞬輝き、すぐに照れ隠しで毒を吐く。
「本気ですか? わがままオーナー」
「本気だよ。……その代わり、次回のボス戦は凛ちゃんも手伝って」
「えー、私ゲーム下手ですよ?」
「いいから。推しのダンスみたいに、華麗に回避しろ」
二人は笑い合い、
プレステの画面とスマホのライブ映像が並ぶ部屋で、
酒とゲームと推しの話に花を咲かせる。
外では、京都の夜風が優しく宿を包み、
看板の金箔が月光に輝いていた。
『四季彩 花の宿』の日常は、
こんな風に、静かで、温かく、
二人の「わがまま」と「熱」が混ざり合って続いていく。
営業が終わった後、バックヤードのスカイラウンジ休憩室は、いつものように賑やかになっていた。
今日は婆さん軍団(佐藤さんをはじめとする平均年齢70歳超のベテラン仲居たち)の「月イチ飲み会」デー。
マッサージチェアはフル稼働、オーガニックのおつまみ(京野菜の天ぷらやチーズ盛り)がテーブルに並び、日本酒の瓶がずらり。
透と凛は、仕事の報告を兼ねて「顔出し」参加。
透はプレステ5のコントローラーを片手に(今日は『原神』の新イベントをクリアしたくて持参)、凛はスマホを握りしめ(推しの新曲MVが解禁されたばかり)。
「凛ちゃん、今日はお酒控えめにね。
前回、一升空けて婆さん軍団に『若いのに化け物やな〜』って言われてたでしょ」
透がからかうと、凛はビール缶をプシュッと開けながら睨む。
「透さんは一口で赤くなるくせに、よく言いますね。
今日は私、推しのMV見ながら飲むので、邪魔しないでください」
婆さん軍団の佐藤さんが、グラスを掲げて笑う。
「ほらほら、若いもんは仲良くせぇよ。
今日は凛ちゃんの推しと、透はんのゲームの話で盛り上がろうや!」
中村さん(若手だけど婆さん軍団の準メンバー)が、スマホで凛の推しグループのダンス動画を再生。
「これ見て! このターン、完璧すぎて尊い……!」
婆さん軍団もスマホを覗き込み、
「あらあら、えらいキレッキレやねぇ。
昔の歌舞伎みたいに華やかどすなぁ」
「うちの若い頃の踊りも、こんな感じやったわ〜(嘘)」
笑いが爆発する中、透はコントローラーを握りしめ、
『原神』の画面をみんなに見せびらかす。
「ほら、俺のキャラ見て! この新イベントの報酬、SSR引いたんだよ。
ビジュアル美しすぎて、毎日ログインしてる」
佐藤さんが目を細めて。
「透はんも、ゲームの中で『美しいもの』探してるんやねぇ。
宿のシャンデリアみたいに、キラキラしてるわ」
凛は酒をちびちび飲みながら、透の画面をチラ見。
「……確かに、キャラデザは推しに負けないかも。
でも、推しの生歌唱の方が上です」
透は負けじと。
「じゃあ、勝負だ。
俺のゲームクリアタイム vs 凛ちゃんの推しライブ視聴回数。
負けた方は、明日の朝礼で『おはようございます!』を大声で言う」
凛は即座に。
「受けて立ちます。
でも、透さんが負けたら、推しの名前を大声で叫ぶこと」
婆さん軍団が大爆笑。
「ええやん! 透はんが『推し〜!』って叫ぶとこ、見たいわ〜」
飲み会はさらにヒートアップ。
凛は日本酒を次々と空け、顔を赤らめながら推しトーク全開。
透はビールを一口でギブアップし、ジュースに逃げつつゲーム実況。
婆さん軍団は昔話と毒舌を交え、
「昔の九条院は、こんなに笑えへんかったわ」
「凛ちゃんのおかげで、毎日楽しいどすえ」
深夜近く、飲み会が一段落。
透と凛は、酔った勢いで屋根付きテラスに出て、夜空を見上げる。
凛が、珍しく甘えた声で。
「透さん……今日も、楽しかった」
透は照れながら、凛の肩に軽く手を置く。
「うん。婆さん軍団も、凛ちゃんのジャニーズ熱に負けてなかったよ。
……俺も、負けないように頑張る」
凛はくすりと笑い、スマホの推し写真を見せながら。
「じゃあ、次は一緒にライブ行こ?
透さんのゲームみたいに、華麗に回避しながら」
透は赤面しつつ、頷く。
「いいよ。……でも、俺のプレステも一緒にやってね」
二人は笑い合い、
婆さん軍団の笑い声が遠くから聞こえてくる中、
『四季彩 花の宿』の夜は、穏やかに更けていく。
明日も、きっとみんなで笑顔で迎えられる朝が来る。




