薄ら寒い秋
それから、夏らしさを実感することもないまま秋になった。
部屋は秋の空気のおかげで涼しい……といいたいところだったのだが、正直なところ部屋からは薄っすらとした寒さを感じていた。エアコンで微調整したいところだが……生憎今はエアコンが壊れていて、温度調節ができない。
でも、今はそんなことはどうでもよかった。
(クソ、クソ、クソ……!!)
いつまでたっても伸びないブクマ数、増えない評価、閑古鳥が鳴くような感想欄。
なかなか成果が出ない現状に、俺は焦っていた。
(さっさと成功してこんな家から出たいのに……!)
俺はつい先ほどあったやり取りのことを思い返す。
『おい、幸助』
『…なんだよ』
『お前、まだプロとやらにはなれてないのか?』
『……』
『分かってると思うが、面倒見てやれるのは今年限りだからな。来年は仕事を探せよ』
『うるせぇな、あとちょっとなんだよ……』
『いつまでも引き籠られちゃあ困るからな。穀潰しを飼う余裕はウチにはないぞ』
『ちょっとお父さん、言い過ぎ…!』
『お前もお前だ! いつまでも甘やかすな!』
『おいっ、母さんにあたんなよ!』
『なんだと!? 俺はお前のことを言ってるんだぞ!!』
『だから分かってるっつーの!!』
父の言葉に不快感を覚えた俺は昼食の皿をドンと置き、足早に自分の部屋へ戻ろうとする。
そのことに腹を立てたのか、親父は最後に激高しながら吐き捨ててきたのだ。
『いいかっ、今年中だからな! 出来ないなら就職しろ! それすらできないなら、俺はお前との家族の縁を切るからな!!』
(言われなくてもそのつもりだっつーの、クソジジイめ……!)
あぁ、だめだ。思い出すとまたイライラしてくる。もうそのことは考えない方がいいな。
気分を変えたくなった俺は、久々にSNSを開いてみた。
(あっ、コイツ……!!)
SNSを開いてまず最初に目に飛び込んできたのは『同業者の成功報告』だった。
ソイツは下らない婚約破棄系の小説を書いてる奴で、自身の宣伝に利用できそうだったからフォローしていたのでまぁまぁ存在を覚えていた。フォロバもしてくれないような失礼な奴が、まさかアニメ化まで漕ぎつけていたなんて……
(こんなんがアニメ化されるとか、終わってんなー)
ますます不快になった俺は、今度はエゴサをしてみることにした。
今までは正直、あんまりエゴサをしたことはなかった。最初の頃だけやっていたのだが、当時はエゴサしたところで俺の作品の話題なんて一ミリも出てこなかったから、そのうち時間の無駄だと思うようになってやめたのだ。
だから、俺にとっては久々にエゴサをしたということになる。
だから…………俺が今置かれている状況を、今までは知らなかった。
『林田マロンってやつの作品、クソつまんねーくせに宣伝ばっかでいい加減ウザいわ』
林田マロン。それは、俺が小説サイトで使用しているペンネームだ。
「なんだ、これ……はっ? は……?」
最初、一瞬だけ、まぐれだと思った。
たまたま悪口が一番最初に目についたんだと、そう思いたかった。
だが…………
『林田マロンの小説はシンプルにゴミ』
『林田マロンマジでつまらなすぎる。しかもそれだけなら百歩譲っていいとして、あちこちに自作品のリンク貼り付けててウザい』
『なんかスパムブロガーみたい』
『林田マロンの小説読んだけど、キャラもダメ、シナリオもダメ、文章力もダメ。全部ダメだわ』
『一次選考全落ちしたって噂には聞いてたけど、ありゃ全落ちしますわwwwwwwww』
『つまんねー作品連投しまくってて普通に有害。検索妨害になってるし普通に消えて欲しい』
『林田マロンの小説が好きとかいう奴がいたら「うおw」って反応してしまいそう』
SNSの呟き一覧に並ぶのは、誹謗中傷なんじゃないかと見紛うレベルで酷い酷評の嵐。
(なんだこれ……うそだ……うそだ)
こんなはずはない。
俺の小説は面白いはずだ。高校時代の同級生も面白いと言ってくれていたんだ。
なのに……なんでこんなに、酷評ばかりなんだ? 俺は悪い夢でも見ているのか?
(こ……こいつらには見る目がないんだ。センスがないんだ! そうに違いない……!!)
俺はそう思いながら、震える指で必死にスクロールを繰り返す。
(きっと俺の小説を面白いと思ってくれる、センスのあるやつがきっと……)
『キャラが全員終わってる。作者社会経験なさそう』
『この作者あんま人と関わってないでしょ。共感できないもん』
『ヒロインも死ぬほどかわいくない。本当に同じ人間かと疑いたくなる』
そう、どこかにいるはずなんだ。
『この前俺の好きなYoutuberのコメント欄もコイツに荒らされてたわ。まじで有害』
『才能ない奴は何やらせてもダメってことがよくわかる例w』
どこかに一人くらい、俺の作品を……
『コイツ林田マロンとか好きそう(笑)』
俺の作品を……好きだと言ってくれるやつが。
『俺実はコイツの同級生だったんだけどさぁ、当時から意味不明な小説書いてたのよ。意味不明すぎたから逆に面白いって言ってたんだけど、もしかして普通に面白いって意味で受け取っちゃったのかなって憐みの目で見てるwww』
『安心してください、ちゃんとつまらないですよ!www』
その投稿を目にしてから、俺の頭の中は真っ白になった。
『本当に嫌い。消えて欲しい』
『サイト荒らしだよな。AIより有害』
『消えてくれ~頼む~』
『コイツの小説好きな奴が身内にいるならそいつとは縁切るわ。それくらいひどい』
『手帳持ってそう笑』
『才能ねーからとっとと辞めろよ』
『……』




