涼しかった夏
それから、あっという間に夏になった。
もっとも、夏にはなったとはいえど部屋の中に籠りっぱなしの生活を送ってきたおかげもあってか、夏の暑さを感じることは全くなかった。むしろ、ガンガンに効かせたエアコンの冷気が心地よいくらいだ。
成人になって出勤してるやつや大学に進学してる連中が少しかわいそうに思えてくる。
ただ――――
「ちっ……セミがうるせぇな……」
その日の俺はとにかくイラついていた。
まぁそれも当然だろう。
春に応募した選考が、全て落選していたのだから。しかも、全て一次選考すら通っていなかった。
俺は選考結果を表示するサイトをギラギラとにらみつけながら、独り言をブツブツと呟く。
「なんでだろうなぁ……こいつらの作品と俺の作品、何が違うっつーんだろうなぁ……」
そこに掲載されているタイトルは、一次選考を通過した小説のタイトル。
どれもこれも似たようなタイトルだ。所謂「追放系」とか「婚約破棄系」とか「異世界系」とかばかり。こんなものが選考を通過するなんてどうかしてる……と、言いたいところなのだが。
ジャンルのせいにすることはできなかった。本気でデビューを目指している俺は、これらのジャンルの作品でも応募していたからだ。
つまり、敗因はジャンルではない。他に何か原因があるはずだ。
俺は一次選考を通った小説の一つ一つの作品情報ページへ飛び、付けられているタグ、評価数、ブクマ数、感想数を確認していく。
小説の中身は一切読まなかった。どうせ面白くない。読むだけ時間の無駄だと思った。
「……なるほどなぁ」
そして、俺は気付く。
「これらの作品は、選考前からそれなりに評価されているようだ」
そう、どの作品も一定以上の評価を得ているという共通点があったのだ。
一部だけ、ほとんど評価されてない作品もあったが……まぁ、マグレだろう。
一方で俺の作品はというと……どの作品も、感想はゼロでブクマ数は精々十件前後。
「要するに、ある程度評価されている作品だけしっかり読んだってことなんだろうな。そうじゃなきゃ、俺の作品が選考に通らないはずがない。
あんまり露骨すぎると俺みたいに気付けるやつの顰蹙を買うから、一部例外を用意した……評価が薄い作品が一次選考に混ざっていた理由としちゃそんなところだろうな」
つまり、俺の作品が選考を通らなかった原因は、「ちゃんと読んでもらえてなかったから」だと分かった。
そうなると課題は……どうやって読んでもらうか、になる。そのためには……
「まずは一定数の評価を得るしかねぇ。そのためには……ブクマ数を稼がねぇとな」
俺は自作小説の作品情報ページから、アクセス解析画面を開いてみる。
相変わらずカスみたいなPV数を眺め――閃く。
「そうか……俺の作品はあまり評価されてないんじゃない。そもそも人目に触れてないんだ」
考えてみれば、至極当然の帰結だった。俺の小説は面白いのだから、読んだ人の多くは評価を付けるはずなのだから。
でもそうなってないということは、そもそも読んだ人がほとんどいないからに違いない。少なすぎるPV数がその事実を裏付けている。
「そうと決まれば――!」
その事実に気付いてからは、俺はあちこちの場所で自作小説の宣伝をしまくった。
SNSはもちろん、感想スレや小説スレをはじめとしたスレッドやまとめサイト、知らない個人が運用しているホームページ、果てには他人のSNSの投稿のリプライ欄や動画サイトのコメント欄に至るまで。
とにかく一人でも多くの目に触れてもらうために……ただひたすら、宣伝して宣伝して宣伝しまくった。
俺はプロを目指しているからな。宣伝でも手は抜かねぇぜ。




