2人でなら。
赤髪の女性は、自らの傷をも厭わず巨大な荒禍に立ち向かっていった。
「魔剣エンヴァル!」
彼女が手に持つ剣を振るうと、炎が荒禍を襲う。
荒禍を襲っていた炎は、彼女が出していたものだったのだ。
荒禍は苦しむが、負けじと彼女に襲いかかる。
ガキィィン!
彼女は剣1本で荒禍の巨体を受け止め、すぐさま反撃にかかる。
怪我をしているとは思えない程、激しく華麗な剣捌きを披露する赤髪の女性。
「今のうちだ。瓦礫を!」
「えぇ!」
ヤマトとセツナはこのチャンスを逃すまいと、子供に覆いかぶさっている瓦礫を1つずつ取り除く作業を再開した。
ーーー赤い髪の彼女が戦ってくれているとはいえ、急がなければーーー
ヤマトとセツナは瓦礫をゆっくり少しずつではあるが、確実に取り除いていった。
赤い髪の女性と荒禍との戦いは、女性が有利であった。
彼女の剣が荒禍の体を切り裂き、その傷に炎が襲いかかる。
荒禍はかなり消耗しているようだった。
「よし、このまま…!」
女性がさらに剣を振るうスピードを上げたその時、荒禍の様子がおかしくなった。
グォォォォォォォォ!
轟く咆哮と共に、荒禍の体が変化していく。
「何っ!?」
驚く女性の隙を突き、荒禍の尻尾が女性を弾き飛ばす。
荒禍と赤髪の女性との距離が空いた。
そして荒禍は猛々しくその体を変化させていく。
「痛っちち…。こんな荒禍は初めてだね…こんな短時間で進化を?」
驚き、されどたじろぐことはなく再び荒禍に向かっていく女性。
カァン、と甲高い音と共に、振るった剣が受け止められる。
変化した荒禍の皮膚に、刃が通らない…!
そのまま荒禍の攻撃が彼女を襲う。
「ぐっ…」
何とか剣で受け止めるも、衝撃が強く、体中の骨が軋んだ。
「強い…でも!」
今度はこっちの番だと言うように、彼女は荒禍へと攻撃を再開しようとした。その時。
「…っ!?」
突如、赤髪の女性が苦しみだす。
包帯を纏っている箇所から、黒い煙が上がっていた。
「うわぁぁぁっ…!」
「何、あれ…!」
その様子を見たヤマトは、ただならぬ異常を感じていた。
痛い。痛い。痛い。
苦しみながらも、尚も荒禍に立ち向かおうとする赤髪の女性。
しかし、そんな彼女を嘲笑うかのように、荒禍の力は増していく。
「まさかこんなタイミングでっ…!でも!」
苦しみながら剣を振るう彼女。しかし…
カァァァァン…
剣は弾き飛ばされ、離れた地面へと突き刺さった。
「ぐっ…」
剣を失い、劣勢に立たされる女性。
荒禍の猛攻を剣無しで耐える。
彼女には、剣を取りに行く余裕は無かった。
「例え剣が無くったって…!」
彼女の目には、まだ闘志が燃えている。
「私が守りたいものは、必ず守ってみせる!」
剣無しでも、果敢に荒禍に挑んでいく女性。
一方、ヤマト達。
瓦礫は随分と減り、挟まっていた子供を助ける事ができた。
「ありがとう!」
「さっ、早く逃げよう!」
セツナと子供の会話を聞きながら、ヤマトは、突き刺さった剣の場所を見る。
「…セツナ、ごめん。先に逃げて。」
「えっ…!」
ヤマトは走り出していた。
あの傷だらけの女性を放ってはおけない。このままでは死んでしまう。
そう思ったヤマトは、剣の突き刺さった場所へと向かっていった。
剣の突き刺さった場所に立っているヤマトを見て、赤髪の女性が叫ぶ。
「待って!ダメ!!!」
その言葉を聞いてか聞かずか、ルタは突き刺さった剣に手を伸ばし…
掴んだ!
その瞬間、ヤマトの周りを炎が囲みだし、覆う。
「うわぁぁぁ…!」
「その剣は私以外には触れないの!早く手を離して!」
炎にまかれ苦しむヤマト。しかも突き刺さった剣は重く、地面から抜けない。
「ぐぅっ!」
しかし、ヤマトは諦めなかった。
自分にはこの剣は使えなくても、この剣を彼女の元へと届けることはできるはず。
そう思い、苦しみに耐える。
剣を抜こうと必死になる。
「諦めない…絶対に!」
「頑張ってヤマト!」
そんなヤマトの手に、重ねられる手があった。
「セツナ!?」
セツナがヤマトと一緒に剣を握っていた。
炎にまかれるセツナ。
「あの子はもう逃げたから大丈夫っ…」
「駄目だセツナ、君も…!」
「嫌!」
セツナは言う。
「2人で、やろう?あの人を助けよう!」
「セツナ…」
そうだ、2人で。
僕達でやるんだ。
その思いに呼応するかのように、掴んだ剣が光りだした。
「あれは…!彼らの心に、勇気に、私の剣が反応してるの…!?」
その光が、ヤマトとセツナの2人を包んでいった。