食事会
「ねぇ、お兄ちゃんはオーヴァルンに観光に来たの?」
「そうだよ。」
ヤマトはイルマと共に雑談をしながら買い物をしていた。
しばらくはこの国にいるのだから、必要品を買っておかなければ。
それに、この国、この町も見てみたかった。
「僕はこのエンバスに住んでいるんだー。いい町だよ〜ここは。」
「そうなんだ。」
買い物をしつつイルマの話を聞いているヤマト。
オーヴァルンは活気が良い。
この町、エンバスを見ていてもそう感じる。
「でも、ヴォワルって悪い人達が現れてから、エンバスは大変なんだよ〜。危ないこと多くなるし。」
「そっか…戦士団はどうしたの?」
「懸命にやってるみたいだけど、ヴォワルの事あんまり対処できてないみたい。」
ヴォワル。この町に、この国に潜む影。
その裏には荒禍が。
「僕も気をつけるよ。イルマ君も気をつけてね。」
「うん!」
ーーーーーーーーーー
買い物を終え、宿屋に戻ってきたヤマト。
「買い物行ってもらってごめんね〜」
「大丈夫だよ。少し町も見てみたかったし。」
「いやぁ、この国は魚が美味しいって聞いてたけど本当に美味しそうだね〜!」
「めっちゃ美味しいヨ。」
「…早く食べよう。」
「アベルってば食い意地はってる〜。」
「おい違うって!…俺はただねぇ!」
「…ふふふ。」
ヤマトはアベル達のやり取りに、思わず笑顔になった。
最初は正直不安だった。
自分は、人では無くなったのだと感じた時。
戦っていた時は、高揚感が心を支配していた。しかし…
戦い終わり、幼馴染も亡くした。
おまけに助けた人々からは恐れられてしまった。
あぁ、人では無くなったのだと、その時初めて実感した。
親から貰ったこの体、命。
そのあり方が変わるのは相当な事だ。
不安でしょうがない。
しかし…
「アベル、どの魚食べル?」
「1番大きいやつ!」
「やっぱ食い意地はってる〜!」
この人達のやり取りを見ていると、まるで人間みたいだと、安心できる。
この状況を居心地良いと感じる、この『心』があるからこそ、自分は人間のようにいられるのだと。
『その光が原因で、荒禍や星願が誕生する事となった。
私はその光を近くで沢山浴びたから、トゥインシュとして覚醒するのがとっても早かった。トゥインシュ第1号ってわけだね。』
(…フレイナは最初のトゥインシュ。
同じ境遇の仲間も居ない。
そんな中、たった1人で人々を守るために荒禍と戦っていたのか。)
「…?どしたのヤマト?」
「あぁ、いや。何でもない。」
「ヤマトも選んデ?どの魚食べル?」
「1番大きいの!」
「それは俺のなんだけど!」
ヤマト達は、騒がしいながらも楽しい食事をした。
食事中、ふとアベルが
「綺麗に食事をするんだね〜君は。」
「ん?」
「食事の仕方には人の心が出ると、俺は思っているよ。
綺麗に食事が出来る奴は、良い奴。だから君は、良い奴だ。」
「アベル…」
「アベルはご飯を食べるのが大好きだから、家族や仲間と一緒にご飯を食べるって事は尊くて大切な事だと思ってるんだよ。」
「食事に参加して、丁寧にご飯ヲ食べるヤマトの事、好きになっタって事?」
「まあね〜☆」
「ふふっ、ありがとう、アベル。」
「そういえバ、ヤマトはいつ頃トゥインシュになったの?」
「それはね…」
ヤマトはこれまでの出来事を話した。
「あら〜、大変だったんだね〜。」
「そうだったんダネ…ごめんねズカズカと…」
「いいんだ。」
ヤマトは、他のトゥインシュ達の事を知りたいと思った。
そこで、アベルとイオルンに、良ければ過去の事やトゥインシュとして覚醒したことについて聞かせてくれないか、と頼んでみた。
「俺は昔エチュルヴっていう国の騎士団にいたんだよね〜、でも、この力が唐突に目覚めて、信じてた騎士団に人体実験っての?されそうになったんで逃げ出した〜。」
「そんな…」
「私モ、トゥインシュとして目覚めタ時は家族と一緒だった。でも、家族は人と違う力をもっタ私を受け入れる事ハできなかっタ…」
イオルンも口を開く。
「そんな中、荒禍が現れて…家族が襲われた。私ハ守ろうとした…ウウン、そういう素振りを見せただけかモ。」
「そういう素振り?」
イオルンが伏し目がちに答える。
「家族がいなくなって、少しだけ、精々したって思ってしまったノ。自分を受け入れなくなっテ、ひどい差別もされるようになっタ…。そんな家族いなくなっちゃエバ良いって…思っタ。」
ヤマトはアベルやイオルンの告白を、ただ黙って聞くことしかできなかった。
「そんな事を思ってしまっタ罪滅ぼしニ、私はフレイナの仲間になっテ荒禍と戦ウことにシタの。」
「ごめん、2人とも。辛いこと聞いて。」
イオルンとアベルは2人とも首を横に振り、「大丈夫」と答えた。
皆、この力に目覚めたばかりに辛い思いをしてきた。そんな中でも、荒禍から命を守るために戦っているのだ。
そんな仲間に出会えた事を誇りに思うヤマトだった。
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翌日。
ヤマト達は荒禍の捜索を開始した。
生命力を探知出来るとはいっても距離に限りがあるので、街をひたすら探索するしかない。
ヤマトとフレイナが捜索に加わっても、荒禍探しは難航した。
何せ肝心の荒禍が生命力を抑えているため感知が難しい。
荒禍が何らかの動きを見せればいいのだが、それは同時に街の人達に危害が及んでしまう事を意味する。
そのため、そうなる前になるべく荒禍を探しだしたかった。
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しばらくして、休憩のため宿屋に戻るトゥインシュ達。
荒禍はどこに…そう考えていた時、部屋がノックされた。
「あの、貴方達宛だという手紙を今さっき預かったんですけど…」
「手紙?」
受け取り開封してみると、何と手紙はヴォワルからだった。
『イルマという少年は預かった。返して欲しければ同梱の地図についた印のある場所へと来い。』
「これは…!」
「イルマ君が危ない…!」
「待って待って待って〜?そもそも何でイルマと俺達の関係をこいつらが知ってるん?それに誘い出すなんてさぁ…」
「確かに変だネ…でも、あの子が本当に誘拐されてルんだとしたラ、放っておけなイ。」
「そうだね、乗り込もう。あれこれ考えるのは動いてからでも遅くない。」
「待って。…少し、考えてみた事があるんだ。」
ヤマトは、ある作戦を仲間達に告げた。