ゲームの中に召喚された
「ひろ様は……、どんな子がタイプなのですか?」
暗い中、青白く光る画面から天使の様な甘い声が俺に問う。フリフリのメイド服を着た彼女は、俺が大好きなギャルゲー「メイド屋敷♡」のメインヒロイン「アリス」だ。
赤茶色の長髪に、サファイアのような青い瞳を持つ彼女は、俺の推しであり、嫁だ。
画面に映し出される選択肢。
コントローラを使って、選択肢の中から選ぶ。
何せこのゲームは三周目だ。選択肢が何だかは、もうお見通しだ。
確か、「優しい子」「可愛い子」「強い子」「君みたいな子かな?」っていう選択肢だったはず。
もちろん俺は最後の言葉を選ぶ。大好きな俺の嫁に好きって言わなくてどうする。当たり前の様に「君みたいな子かな?」を押す。
多分、ここでは、アリスの親愛度が少し上がるイベントが発生するはずだ。
親愛度が上がる時のボイスは、マジもんで可愛いんだよな……。ぁあ…聞くのが楽しみだ。
俺は、ニヤニヤと笑いを浮かべながら、彼女のボイスが流れるのを待った。
しかし、彼女はいつまでたっても言葉を話さない。
どうゆうことだ?いつもならただ親愛度ランクが上がるだけなのに。隠しイベント?それとも、バグか?
俺は目を泳がせながら、決定ボタンを連打した。しかし、いくらボタンを押しても何も起きない。
「た、たすけて……」
今まで聞いたことのない音声が流れる。ビリビリと砂嵐に紛れたアリスの声は、明らかに俺の耳に入ってきた。
まるで、本当に彼女が急いで助けを求めているかのように、俺は感じた。
思わずコントローラをぶん投げ、気づけば、画面にかじりついていた。
「あ、アリス……一体どうしたんだ……誰かに襲われているのか!?」
本物の人間じゃない……ただのキャラクターだと言うのに、俺は大声で、本気で心配した。
やがて、画面が歪み、砂嵐が流れ始める。明らかに異常事態だ。
「ひろ様……。も、もしよかったら……で、すす…が………
た、す……け……てっクククれぇ…なああ……」
「まってろ…今助けに」
思わず口にしたその言葉が、あっちの世界に通じたかのように、ある選択肢が画面へと映し出された。
「今すぐ助けますか?」
「はい」
「いいえ」
答えるまでもない……。
俺は、投げ捨てたコントローラを拾い上げ、決定ボタンを強く押す。
「助けに行くぞ!アリス」
真っ直ぐな瞳を青白い画面に向けた俺は、そう強く意気込んだ。何が起きているのか、これからどうなるのか、全く分からない。でも、心の奥から何か熱く冷たいものを感じる。
きっとこれは、
彼女を助けたい。
という、俺の純粋な願いだったのだろう。
でも、でもだがな……。
助けに行くって……どうゆうことだ?
ギャルゲー、行く、召喚、ハーレム!
そうだ、きっと、俺はこのままあるある展開の異世界召喚して、健やかにハーレムライフを送るんだ。
なんて素晴らしいんだ。アリスを助けて、リアルで結婚……ってこともありうるんじゃないか?!
楽しみすぎるだろ。俺の異世界ライフが始まるんだぜ!
「おはようございます。ぶざまで醜く、汚いゴミムシさん」
聞き覚えのある声が、頭の中に鳴り響く、これは、確か……。
明るい朝日の光をゆっくりと目に入れ、目の前の人物を認識した。
俺は、興奮を押さえられない様に大声で叫ぶ。
「リコ!」
長い黒髪におっとりした、青い目。
ザ、清楚系女子だ。フリフリのメイド服を上品に着こなす彼女には、お熱いファンが何人もいた。
しかし……彼女はいつもなら優しく、綺麗な言葉遣いをするはずなのに……。すごく言葉が汚いし、優しくない。
急にどうしたんだ?
「目が覚めたところで悪いのですが……」
「っ…!」
リコは後ろから、「包丁」を当たり前の様に出し、俺に向ける。
そして、包丁と同時に目に入ったものがあった。
彼女の横に映し出されるピラミッド型のものと、文字。
そこには、「親愛度ランク」と書かれていた。これは、ゲームをプレイしている時に表示されていたものと全く同じだ。
それだけでも、十分驚くのだが……
なんと、彼女の親愛度が……。
「マイナス十?!」
あり得ない。いくらなんでも、マイナスなんて数字はいつプレイしていても出てこなかった。
どうゆうことだ……。俺が、何をしたと言うんだ!
「何だか、知らないですが、あなたの事が嫌いなので
殺します」
「はぁ!?」
そうだ、俺なんかが、ハーレムライフを送れるわけが無かったんだ。
このゲームの名前は「メイド屋敷♡」ひょんな事から彼女達が働く「屋敷」に迷い込み、そこから彼女達と色々なイベントを行い親愛度ランクを上げ、誰と恋人になるのかを楽しむゲームだ。
普通にほのぼの系のゲームで美少女達といちゃいちゃするイベントが盛りだくさん……だったはずなのに。
「ぎゃあああああああああああああああ!」
なんで殺そうとしてくるんだよ!