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第三十話 真実と、解放の時

※寄生虫表現、排便表現注意!

「確か、トイレ(かわや)で死んだことで有名でしたよね~。いやぁ是非お会いしたかったんですよ♪」


 歴史上の偉人で、今まさに悪神に成り果てようとしていたその人物に、(ほが)らかなニコニコ顔でそう告げる白雲さん(うんこたろう)。あーあ、まーた悪い癖が出ちゃったよ……相手は化け物なんですけどねぇ、全くこのヒトは。


『ぐぬぬ……左様であった。我はあの日、厠にて腹の痛みに苦しみ抜いて……ぐっ!』

 その言葉と同時に杉上さんが苦しそうな表情を見せた。え? 復活するのに腹痛まで持って来ちゃったの?


「アレやな。真名を言った白雲さんの言葉やさかい、続けて言った事もホンマなら思い出させてしもとる」

 ツルネさんがそう解説を入れてくれる。そういや白雲さんが名前を言ったせいで自分を思い出して体が復活するって言ってたから、ついでにその死因を言ったらそれまで認識しちゃったんだ。


「失礼ながら、あなたの死因は腹痛の類ではありませんよ」

 まじめ顔になった白雲さんが、杉上信謙を少し憐れむような声で話しかける。


『な、何だと?』

「先程、貴方の体が復活する際に、内臓を見せて頂きました。その際に見つけました……」

 一度言葉を切って目を伏せ、その顔を上げて衝撃の事実を告げる、我らがうんこたろう!


「サナダムシです。相当に成長していましたよ」

『サッ、眞田……だと? 竹田家配下の眞田の一族が、我に虫気を呪いでもたらしたと!?』

「あ、そっちの眞田じゃなくて、あくまで寄生虫の話です」


 今、明かされる衝撃の事実! ってマジですかあぁぁぁ?


 と、とはいえあの大腸と排泄の達人が、肉や皮に覆われる前の大腸を直接見たのなら、さすがに間違いではないだろう。


『きせいちゅう、とな?』

「人の体に居着いて悪さをする虫の類ですよ。ちなみに貴方の時代の腹痛を『虫気』というのも、そこから来ています」


 うーん、これはもう完全にうんこたろうのペースだなぁ。あの悪霊さんからは相変わらずとんでもない怖い力を感じるけど、今の彼は白雲さんに乗せられて完全に意識が腹痛に行っているみたい。


「恐らくですが、成長しすぎたサナダムシが他の寄生虫を呼び込んで、それらに腸を食い破られ、便とその中の悪玉菌が毛細血管から全身に毒として巡って、あなたの命を奪ったのでしょう」


 ああ、確か白雲さんが書いた本にもそんな事が書いてあった。基本的に消化器官以外の人の体内は無菌状態なので、腸が破れる事によって感染症や臓器不全を引き起こして死亡する例があるらしい。


『なんと……お主、薬師(くすし)か?』

「ええ。さらに言うならうんこ研究家、貴方の時代風に言えば糞儒学(くそじゅがく)を納めし者です」

『な……糞儒学、なんともはや、驚いたものよのう』


 うーん、さすがに戦国時代でもウンコの研究をしている人はいないみたい。


「で、ここに虫下しがあります。どうです? サナダムシを出しちゃいませんか?」

『なんと、そのような事が成せるのか?』

「言ったはずですよ、私はうんこ研究家だとね、お安い御用です」


 いつも常備している腸健康ポシェットから錠剤を取り出して杉上に手渡す。

 おーい白雲さん、そのヒト一応悪い神様になろうとしてるんですけどねぇ。


 ま、誰であろうと関係ないよね、あのうんこたろうは。


『飲んだぞ、これで良いのか?』

「一刻(二時間)ほどお待ちいただければ効いてきますよ」

『ふむ、ならば肉の進みを早めよう、早く出したいでな』

 杉上が両手を結んで『フン!』と気合を入れると、その体がなにか小さくドクドクと揺らぎ始めた。

 確かにこれ、じっとしてる人を動画にとって早送りしてるみたいだ。



「じゃあ菊門ちゃん、快便体操第三をやるよ、用意して」

「あ……はーい」

 この状況でアレをやるとは思わなかったなぁ。でもまぁこの悪霊さんの機嫌を取れるなら、やるしかないんだろう。

 ちなみに快便体操第三は、下剤や虫下し等、薬を使って便を出すのを助けるための体操だ。

 あ、第一が便秘で第二が下痢ね……どーでもいいか。


 チャーンチャラチャラチャンチャン♪ チャンチャンチャチャチャン~♪


 ――さぁ、まずは拳を握って目一杯背伸びして~、重いバーベルを持ち上げてるイメージで、いっちに、いっちにっ!――

「いっちにっ、いっちにっ!」

 私と白雲さんが歌に合わせて体操を始める。


「ほら、杉上さんもご一緒に」

『ぬ……舞踊(ぶよう)か、その眞田虫とやらを退ける効果ありきや?』

「もちろんです。はい、いっちに、いっちにっ!」

『壱、弐、壱、弐ッ!』



 遥か地下深くの洞窟内で、とてつもなくシュールな光景が展開されていた。


 この世に蘇った戦国武将(悪霊)が、白衣を着た現代の医者とその助手と一緒に、うんこだの出そうだの歌いながら元気に体操をしているのだ。

 しかもその悪霊と動きをシンクロさせている最中の霊媒師、表川さんも動きに引っ張られて一緒に快便体操を披露している。まぁ本人は無理矢理踊らされているんで涙目なんですけどね……。


「これ、ウチも踊った方がええんやろか」

「あ、是非一緒にやりましょう。こういうのは一緒にやった方が効果出ますから」

 このさいだからツルネさんも巻き込む。別に嘘ではない、あの警察病院でもみんなで踊る事がより効果を発揮するって言ってたし。


 ――体を縮めて~ジャンプッ! 伸びをしたままトントンステップ、ほ~ら出てこいお尻から~♪――


「ほ~ら出てこいお尻から~」

『法螺~出でよオイドから~』

「これ、歌わなあかんの?」

「ま、まぁ好き好きで」

「なんで俺がこんなあぁぁぁぁぁ」


 5者5様の感想を吐きながら体操は続く。


 と、悪霊……もう杉上さんでいいか。が動きを止め、お腹の帯を押さえて顔をしかめて見せる。

『どうやら……来たようだ』

「ホントに体の消化を早めたんですねぇ。では、そちらの祭壇の裏で」


 あ、やっぱこうなるよねぇ。幸いと言うか祭壇があるのでその裏でしてくれれば、直接見る事は……。

「って、表川はん! なんであんたまでズボン降ろしてはるんや!」

 洞窟の反対側で、なんと表川さんまで発射準備万端だ。ってかそんなトコまでシンクロしてるの?

「あ、あっち向いてろ! 霊障による丹田の腹痛が起きてる中、ンな踊りを踊らされたら仕方ないだろ!!」


 えええええ! この狭い洞窟内で、二か所同時に始まるんですか? 嫌だなぁ。



 もりゅ、ぼとん。


 BURIBURIBURIBURI……


 ドドドドドドドドド……



 やっぱ始まっちゃった。とりあえず耳を塞いで目を反らしてみたけど、この狭い洞窟内じゃ音が反響してあまり効果は無いみたいだ。


 あ、ツルネさんてば、見ないフリしつつも表川さんの方をなんかチラチラ見てるし……

「ちゃ、ちゃうねん菊ちゃん! ウチはあくまで巫女として、表川はんの健康管理をなぁ……」




「はーいもう少しいきんで~、出てます出てます、こりゃ大物ですよぉ」

『ふふははははほおぉぉぉぉぉぉぉぉ~』


 で、白雲さんは杉上のお尻から出てくる半透明の寄生虫を、ゴム手袋を履いた手で丁寧に引っ張り出してる。もちろんウンコも一緒に出て来てるんだけど、まぁあのヒトは気にしないよね。

 で、腸内から異物を引っ張り出されている杉上さん、すっかり恍惚の表情でヘンな声を上げている。

 まぁ無理もないか、繋がっていないウンコが出る時でも相当に快感なのに、あの長いヒモ上の生き物をするすると引き出されているんだから。


  ◇        ◇        ◇


 一瞬にも永遠にも思えるイヤな時間は、やがて終わりを告げた。


 その時だった。杉上さんの体から、紫色のオーラのようなものが立ち上り、それが体と同じ彼の姿を形取り始めたのは。


「え……魂が、抜けていきよる……?」

「まさか、成仏、する、のか!?」


 えええええ? まさか出したのが快感すぎて、そのまま逝っちゃうんですか? 


 あ、いいのか、それで。

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