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童話

つばめ先生のお手紙【春のチャレンジ2025】童話

先日、どこかへ飛んで行ってしまったビール好きの神宮つばめさん。あちらでも、ブラックなコメントをスケッチブックに書きながら、くるりんぱっとみんなを楽しませてあげてください。むこうでもヤクルト飲み放題だといいですねっ。あっ、この童話のつばめ先生は、女性です。

★★  自由への扉  ★★


15年ぶりの小学校。


 そういえば、入学式でアンモナイトの【ぬいぐるみ】と間違えられたなぁ


ふと、そんなことを思い出したアルマジロ君は、ぴゅぅぅぅと吹き付けてきた春風に、ふるふると、体を震わせました。


★★ 美女と野獣 ★★


「おう、アルマジロか?変わらないなっ。」


そんなアルマジロ君の後ろ・・・ポンと肩を叩いて声をかけてきたのは、ニホンオオカミ君でした。


「オオカミ君も、変わらないね。元気にしてた?」


「あぁ、まだ絶滅するには、早いからなっ。」


どうやら、オオカミ君は、昔と同じでやんちゃなままのようです。


「あれぇ、オオカミ君、早いって。私、60分も前についちゃったから、どうやって時間をつぶそうかって思ってたのに・・・時間、間違えた?」


「えっ?お前、トラ子か?」


オオカミ君が、びっくりしたのも仕方ありません。


姿をあらわしたベンガルトラのトラ子の体は、なんと全長227センチメートルもの大きさになっていたのです。


「うん。私、昔と変わらないから、びっくりしたでしょ?あら?アルマジロ君も、居たの?元気だった?」


ベンガルトラの大きな足に踏みつぶされそうになり、慌てて避けたアルマジロ君は、トラ子さんと少し距離を取りました。


「う・・・うん・・・トラ子さんも、変わらないね。」


アルマジロ君は、小学生の頃、トラ子さんにサッカーボールの代わりとして使われたことがあったため、彼女をとても苦手にしていました。


その後も、ぞくぞくと同級生が、集まってきます。


アカゲザル君、チャイナオオコウモリさん、グレビーシマウマちゃんに、タテガミヤマアラシ君も、やってきました。


「あれぇ?みんな早いねっ。」


そうして、最後に遅れてやって来たのは、ヒツジのゆめ子ちゃんでした。


★★ ハイ ホー ★★


「わぁ、ヤマアラシ君もアカゲサル君も、相変わらず仲いいね。針が刺さって、痛くない?」


仲良く肩を組んでいたヤマアラシ君とアカゲサル君に対して、ゆめ子ちゃんは、無遠慮に問いかけます。


というのも、ヤマアラシ君の針が、アカゲサル君のほっぺに、ちくちくと刺さっている様子が、あまりにも痛々しかったからです。


「ちょっと、痛いけれど、このくらいなんでもないさっ。俺たちの【友情】は、変わらないからな。」


そう言うと、アカゲサル君は、ヤマアラシ君の頬に、自分のほっぺたを血がにじむほどくっつけて

友情をアピールしました。


そうなのです。


今日は、動物たちの小学校の同窓会。


みんな、嬉しそうな表情で15年ぶりの再会を懐かしんでいるのでした。


「これで、全員かな?」


「いや、錦鯉のカープ君が、まだじゃないか?」


「あぁ、あいつは、欠席だ。一足先に神様になっちまったから。」


この話は、アルマジロ君も知っていました。


錦鯉のカープ君は、滝登りに成功して、水神さまになったのです。


「あいつは、子供の頃から【水】の神様になるって言ってたからな。」


「へぇ、子供の頃の夢を叶えるって、すごいわね。」


オオカミ君も、トラ子さんも、カープ君のことを褒めたたえます。


「でも、最後は日干しのはく製になって神社に祀られたらしいから、体の中に水なんて1滴も残ってなかったみたいだけどね。」


「それは、良くないっ。ゆめ子は、ちょっと口の利き方に気を付けた方がいいわっ。あまりにデリカシーがないわよ。」


トラ子さんは、ゆめ子ちゃんの無遠慮な口ぶりに、不快感をしめします。


「あーら?そのデリカシーのない私でも、結婚して子供も2人いるわっ。トラ子さんは?」


「ん・・・」


言い返してきたゆめ子さんに、トラ子さんは、悔しそうに口を閉ざしました。


「おいおい、せっかくの同窓会で、そんなツンツンするなよ。あっ、ヤマアラシに言ってるんじゃないからな。」


オオカミ君が、助け舟を出します。


「そうだ。タイムカプセルは、どうなったかな?」


ヤマアラシ君も、空気を変えようと、昔、みんなで埋めたタイムカプセルの話題を持ち出しました。


「あっ、あれ、大人になったら何になりたいとか、夢を書いたやつよね。」


「うんうん。あれって、つばめ先生にも、みんなの将来の職業を想像して書いてもらったのを埋めたんだよねぇ・・・私、その答え合わせしてみたいな。」


チャイナオオコウモリさんとグレビーシマウマちゃんも、声を揃えました。


「あぁ、会いたかったな・・・つばめ先生。」


さすがのゆめ子ちゃんでも、つばめ先生の話題が出て、少ししょんぼりと悲しそうな表情になりました。


そうなのです。


この同窓会の1週間前、つばめ先生は、空港で人間の操縦する飛行機とぶつかってしまい、天国へと旅立ってしまっていたのです。


★★ レット イット ゴー ★★


・・・ザック、ザック、ザック


オオカミ君と、トラ子さんは、前足で。


アカゲサル君は、器用にも、スコップを使って土を掘ります。


1メートルも掘り進んだ頃でしょうか?


やっと、【さがしもの】が、見つかりました。


いくつものプラスチックボールが、土の中から姿を見せたのです。


卒業式の日に、埋めたカプセル。


みんなそれぞれに自分のカプセルを開けると、懐かしそうな声をあげます。


「グレビーシマウマちゃんって、看護師さんになりたかったんだ。今、弁護士さんだよね?全然違うじゃんっ。」


「そんなことないもん。私は、医療事故専門だから、ちょっと関係してるもん。チャイナオオコウモリさんは、冒険家になりたいって書いているけど、今ってイギリスの保険会社の調査員をしてるのよね?」


「そうねぇ。山奥とか秘境とか行ってみたかったんだけど、保険金支払いのための新型感染症の原因究明とか、全く関係のない仕事ばかりしてる気がするわ。」


「そう考えると、子供の頃の夢を叶えたカープ君って、すごいわよねぇ。」


「あっ、つばめ先生のカプセルだわっ。」


前足で、どんどんと土を掻き出すトラ子さんの目の前に、ひときわ大きいピンク色のカプセルが現れました。


そうです。


つばめ先生が、みんなの未来の職業を予想し、それを書いた紙が詰まったもの・・・


アカゲサル君は、ひょいっと尻尾を伸ばし、持ち上げたカプセルを手に取ります。


「さぁて、なんて書いてあるかなぁ。」


パカリっと空いたカプセル。


取り出された紙の束に、みんなの目は、釘付けになります。


しかし、紙を広げたアカゲサル君は、首をかしげて口を閉ざしてしまいました。


「ねぇ、なんて書いてあるの?黙ってないで、早く教えてよ。」


待ちきれず、ゆめ子さんが、アカゲサル君の手から、紙の束を取り上げます。


★★ ホール ニュー ワールド ★★


「えーっ、ナニコレっ?なんにも書いてない!先生、書き忘れちゃったのかしら?」


そう、ゆめ子さんの手の中の紙は、真っ白のまま・・・一文字も書かれていなかったのです。


「あっ、ちょっとゆめ子、紙をめくってみて。最後の紙に、何か書いてそうよ。」


超音波で、最後の紙を透視したチャイナオオコウモリさんが、言います。


あわてて、ゆめ子さんは、紙をめくりました。


そうして、最後の紙を見た羊の目に涙が浮かびます。


「あっ、うそ・・・これ、先生から、私たちへの手紙みたい・・・」


ゆめ子さんは、つばめ先生のお手紙を読み上げ始めました・・・


★★ 輝く未来 ★★


みんな、小学校におかえりなさい。


きっと、これを読んでいる頃は、今の私と同じくらいの歳・・・大人になっているのでしょうね。


みんなは、どんな大人になっているのかしら?


さっき、先生は、みんなの将来を想像して職業を書いてほしいって、お願いされて困ってしまいました。


だって、みんなの未来は、まだ決まってないんだもの。


もしかしたら、立派な政治家になっている人も居るかもしれません。


サッカー選手もいるかもしれないわね。


大きな会社の社長さんだっているかもしれない。


あっ、アルマジロ君は、宇宙飛行士になりたいって言ってたわよね。


でもね、先生は、この紙に何も書くことが、出来ませんでした。


でも、それもいいかもしれません。


うん。今、小学6年生のみんなの未来は、透明で・・・


まだ何も書かれていません。


だから、ここには何も書かないで、透明なままのみんなの将来を楽しみにするのが、いいと思うのです。


それに・・・


今、みんなが、タイムカプセルを開けているのならば、『昔想像した【きらきら】した未来に居る自分とちょっと違うな?』って思っている子もいるかもしれません。


でも、それは、違いますよ。


みんなの未来は、まだまだ続きます。


見た目が輝いているように見えなくても、【きらきら】は、ひとりひとりの心の中で輝くものなんです。


大丈夫。


まだ、遅くない。


あなたたちは、何にでもなれるんですよ。


ファイトですっ!!!


つばめ先生より


★★ 私の願い ★★


アルマジロ君の目から、つつぅっと涙が零れ落ちました。


現在、小さな町工場に勤めているアルマジロ君は、子供の頃になりたかった宇宙飛行士には、なれませんでした。


でも、アルマジロ君が作ったネジは、先月、宇宙船の一部となって、宇宙に飛び立つことが出来たのです。


なんだか、先生が、そういった未来を予想していたような気がしました。


周りを見ると、みんなも、心なしか目が潤んでいるように見えます。


「つばめ先生らしい手紙だな。」


「ほんと。私、先生が、目の前にいるような気がしたわ。」


「どうしようかしら?貯金もちょっとできたし、私、保険会社の調査員を辞めて、武漢の山にでも、【冒険に出かけよう】かな?」


「もぉ、チャイナオオコウモリさん、【ゆめのなか】に居るような話しないでよっ。私も、看護師を目指したくなってきちゃったじゃないのっ。」


「えぇぇぇ、シマウマちゃんは、【チャレンジ】しないの?」


「うーん・・・ちょっと怖いわっ。でも、看護師学校の募集要項だけでも確認してみようかしら?」


★★ 星に願いを ★★ 


みんなが、ワイワイと騒ぎに騒いでいるうちに、校舎の西が赤く染まり、やがて、空には、星が瞬き始めました。


「あぁ、やべぇ。子供を風呂に入れねぇとダメなんだ。急がないと、女房に怒られるっ。」


「うちのより、マシだって。お前のところ、すげぇ、優しいじゃん。」


妻帯者のオオカミ君やアカゲサル君、そして、ヤマアラシ君が、慌てて帰り支度をはじめます。


その時です!


騒がしい動物たちに誘われたのでしょうか?


森の夜空に流星群が、現れました。


色とりどりの流星たちは、暗くなった空を、きらきらひゅーんと飛んでいきます。


アルマジロ君は、その流星群が、つばめ先生からの【おくりもの】に見えて仕方ありませんでした。


「先生、ありがとうございます。」


目を閉じ、つばめ先生へ、感謝の気持ちを込めて【流れ星】に祈ります。


「天国で、ずっと、僕たちを見守ってくださいっ。」


★★ いつか王子様が ★★


どれくらい時間が経ったでしょう?


目を開けたアルマジロ君の隣には、同じように星への願い事を終えたトラ子さんの姿がありました。


「たしか、アルマジロ君は、結婚していなかったわよね?」


獲物を目の前にしたような雰囲気のベンガルトラを前に、アルマジロ君は、立ちすくむしかありません。


トラ子さんは、さらにもう1歩、その距離を詰めてきます。


 そういえば、トラ子が書いていた将来の夢は、「お嫁さん」だったなぁ


ふと、そんなことを思い出したアルマジロ君は、ぴゅぅぅぅと吹き付けてきた春の夜風に、ふるふると、体を震わせました。

*この作品は【春のチャレンジ2025】と【大野錦氏チャレンジ企画】《公式企画テーマ入れ替え2022年度、冬の童話祭、テーマ「ぬいぐるみ」→替→「手紙」》に参加しています。(企画概要)https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1970422/blogkey/3247285/

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つばめ先生! 長らくお疲れさまでした。 天国でダチョウの竜ちゃんと「くるりんぱ」をやっているのでしょう!
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