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第9話 搭乗型ゴーレム試作1号機

 搭乗型ゴーレムの作成を始めて二日目の午後。


「うーん……」


「どうした? 作る手が止まっているが」


 全体像が見え始めた頃、ちょっとした問題に気が付き、作業を止め悩んでいると、先程まで静かに見守っていたベディが話しかけて来た。


「えーっとね……ちょっと、要所要所の強度が足りない気がするのよね」


「強度が?」


「主に脚部のね。中にゴーレムを充填して動かす関係上、あまりフレーム部の可動軸に容量を取られる訳にはいかないのよ。そうしないと強度は保ててもパワーが出なくなるわ。実際に満足に動かせそうなくらいの空間を持たせた構造で作ってみたけど、少し立たせただけなのに、もう既に可動部が歪み始めているのよね」


「なるほど。なら弱い部分を全体的に太く頑丈にすれば良いのではないか?」


「そうすると足の幅が広くなるし。それに合わせて脚部全体が太くなっちゃうわ。そうなると腰部から胴体にかけても変更しなくちゃいけなくなるし、そうなったら、ほぼ全部が作り直しになるだけじゃなく、さらに重くなって悪循環に陥るかもしれないから悩んでたのよ……」


 前に、格闘訓練の際、ルインが「足は全ての基礎です」みたいな事を言ってた気がするけど、こんな所でそれを痛感する事になるとは……


「ねぇ、ベディ? 初代様って、こういう問題ってどうしてたの?」


「彼は、ほぼ力技だったな。構造的には君の作っている物と似た方向性ではあったが、作りはもっとシンプルだった」


「力技って、どんな風によ?」


「常に装甲と内部のゴーレムを魔力で固く強化し、無理やり壊れない様にしていた」


 うーん……

 なんとも、力こそパワーな方法ね。


 ロボット作品の中でも、何かのエネルギーを物質の固さに変えるといった方法は比較的ポピュラーな物だし。

 それはそれで嫌いではないけど、そうした物は使えるエネルギーが豊富であるという前提な事が多い。


「ほぼって事は、他には何をしたの?」


「あとは、月並みな方法だが、素材を頑丈な物に変える事だな」


 やっぱ、そうよね。

 私も、残りは、それくらいしか思いつかない。


「素材を変えるにしても、鋼鉄以上の物ねぇ……」


 チタンとかタングステンの合金とか?

 そういった物も頑丈ではあるけど、丈夫さの質が違ったりして、万能とは言い切れないのが難しいとこなのよね。


「ミスリルやアダマンタイトが使えれば、問題は解決したのだがな」


「あれは失敗したしね……」


 前に、宝物庫から持って来た武具の素材を丹念に調べて、同じ物を作れないかと試したのだけれど、結局はダメだった。

 この世界に来るまで見た事も触った事もない金属な為か、生成をしようとしても何かが足りない感じがして、上手く作れなかったのだ。


 ミスリルを真似て作ろうとするとアルミみたいな物が生まれたり、アダマンタイトであれば銅だったりと。

 重さは似た様な物だけど、色も性質も全然別の物が出来上がるという謎現象が起き、頓挫してしまった。


 まあ、あの時は、いつもは無表情に近いルインのガッカリ顔が見れたので、それだけが収穫だったわね。


「ふぅ……」


「一旦、休憩にしてはどうだ? あまり根を詰めすぎるのも良くないだろう?」


「そうですよ姫様。昨日から寝る時間まで削って作ってるじゃないですか。少し休んで、おやつにしませんか?」


 私の様子を見兼ねたミアもベディの意見に賛同する。


「……そうね。そうしようかな」


「それじゃ、直ぐにお茶とお菓子を用意しますね! わたしも何を食べよっかなー♪」


 ミアはそう言うと、青髪をなびかせ、ルンルンな様子で部屋から出て行った。


 昨日から監督役のルインが居ない所為か、かなり自由奔放な振る舞いが多い気がするけど、あれが彼女の素なのかしら?

 まあ、見ていて和むからいいんだけど。


 そんな事を思いながら、私はベディを置いてあったテーブルに突っ伏した。


 それにしても、脚部はどうしたものか……


「やっぱり、魔力で強度を上げる方向しかないかなぁ……」


「そのサイズのゴーレムであれば、それでも良いかもしれないが。後々、大きな物を作るのであれば、現状ではお勧めしないな。私の維持にも君の魔力が必要なので、多少は余裕をもって運用できる物を作ってほしい」


「あなたって大気のマナとかも吸収できるんでしょ? わざわざ私から吸わなくても良いんじゃない?」


「出来るが。それをすると、この国の執っている戦略を阻害しかねない。緊急時でもなければ、それは止めておいた方が良いだろう」


 あー……あれか。

 王都自体を囮にしてるっていう。


「てか、あなたの維持って、1日どれくらいの魔力が必要なのよ?」


「そうだな……魔力の具体的な数値化は難しいのだが……たしか、君の魔法生成物の中に金があったな? あれが5kgもあれば、1日程度は今の状態を維持できるはずだ」


「1日に金5kg!? ちょっと、燃費悪すぎでしょ……」


「常駐させている魔法が無くなれば、減らせない事もないが。だが、資産価値で見ればそうかもしれないが、君の使用した魔力量で見た場合はどうなのだ?」


「あー……言われてみれば、5kg程度なら、そんなんでもないかも?」


 異次元収納に仕舞ってあったコレクションの内、修繕不可能と判断した物は、泣く泣くではあるけどベディに食わせた。

 それもあって、今は収納の維持に必要な魔力量は、1日に生み出す魔力の1割にも満たないし。

 現状であれば、日に金を100kgくらいなら生産可能な魔力が余っている。


「なんか、改めて考えてみると、私って、かなり魔力を無駄に余らせてる気がしてきたわ」


「昔も、王族や高位貴族の一部に、君と同じく魔力を無駄にしていると考える者達が居たな……」


「おまたせしましたー!」


 ベディと他愛もない話をしてると、お菓子を満載したカートを押してミアが戻ってきた。


「なんか、随分と持って来たわね……」


「疲れてる時は甘い物ですよ姫様! お飲み物は何にします?」


「ミルクティーのミルク多めで」


 子供の体になった所為か、なんか、苦い物とかが少し苦手になったのよね。

 転生前はコーヒーとか普通に飲んでたのに。


「はい、どうぞ。ケーキはどれにします?」


「ありがとう。ケーキとかは勝手に取るから、適当に並べてくれる?」


「わかりました! わたしは何にしようかなー♪」


 ウキウキでケーキを選ぶミアを見てると、なんだか、どっちが子供か分からないわね。


 いや、精神年齢的には私の方が大人なのか。


 さてと、私はどれにしようか。


 甘い物は好きだけど、まだ体が小さい分、食べられる容量も少ないから、1個くらいが限界だ。

 なので、いくつも提示されると悩んでしまう……


「うーん、これにしよ」


 吟味を重ね、ジュレとムースとスポンジ生地が三層になったのが美味しそうだったので、それに決めて、お皿を取った。


 うん、思った通り美味しい。

 透き通ったベリー系のジュレが赤い宝石の様に奇麗で、味も酸味が主張しすぎず甘みを引き立たせている。

 ムース部分も負けず劣らず、ジュレとは違う味と食感を演出し、スポンジ生地もきめが濃くなめらかだ。

 飾りつけも申し分ない。


 普段の食事もだけど、こっちの食文化って、さして向こうと遜色ないのよねぇ。


 たまに、こういう部分で、文化面でのアンバランスさを感じる。

 おそらく、過去に転生人が変な知識とかを色々と持ち込んでる影響なんでしょうけど。


「どうです姫様? そのケーキもおいしいですか?」


「ええ、美味しいわ。見た目もキレイで、味も悪くないし。ミアのはどう?」


 彼女は、後にすると溶けてしまうからとの理由で、最初にアイスケーキらしき物を選んでパクパクと食べていた。

 

「おいしいです! さすがは王城の職人さんです! 外じゃ、氷魔法が使えるデザート職人さんを抱えてるお店なんて、そうそう無いですから」


「氷魔法? それ氷魔法で作られてるの?」


「そうですよ。姫様のにもゼリーとかムースの部分を冷やして固めるのにも使われてるんじゃないですか? 氷属性の人は魔法で温度調整するのが得意ですから」


「へー」


 魔法を料理にも使ってるんだ。面白い。

 たしかに、ジュレ部分もムース部分も、ある程度は冷えてないと柔らかくなり過ぎて形を保てないものね。


 熱で固さを変えるねぇ……

 なんだか、ベディが言ってた魔法で固くするって話とも似てるけど。

 こっちは熱を操ってるだけで、物理現象を利用している分、効率が良いかもしれないわね。


「これを応用できないもんかしら……」


「応用……ですか? ケーキをゴーレムさんに?」


「ケーキじゃなくて、熱で固さが変えられる事をよ。水だって冷やして凍らせれば固くなるじゃない?」


「あはは、それなら魔力で強化したほうが早いですよ」


「それはそうなんだけど」


 水と氷、温度だけで、こうも形を変えられるのは便利よね。

 なんて言ったっけ、こう言う現象は……


 たしか、相転移だったかな?


 熱や圧力、電荷の移動とかでも起きるけど、魔力で物の固さを変えられるのも一種の相転移なのかしれないわね。


 あれ……?


 だとするなら――


「――もしかして?」


 私は、アルミを生成しながら、それに籠める魔力を多めに注ぎ込む。


 生成する量は変えず、使用する魔力の量を多くするイメージをして。


「……できたわ」


 生成できたのは、薄っすらと青や緑の光沢を波紋の様に揺らめかせる金属だった。


「どうしたんです姫様?」


「それはミスリルか?」


「たぶんね」


 これで、素材の強度問題はクリアできるかもしれない!



 搭乗型ゴーレムの作成を始めて三日目の昼。


 私は、熟考に熟考を重ねてデザインした頭部パーツを慎重に持ち上げ、胴体部に接続をした。


「これで……完成よ!」


「おめでとうございます! 姫様!」


 後ろで見守っていたミアが、パチパチパチと拍手をして祝ってくれた。


 全高2.3mくらい

 全幅0.65mくらい

 重量おそらく3~400kg


 形状は標準的な人型を基本とし、外装は大型のフルプレートアーマーを踏襲したデザインを採用した。


 装甲には、主に鋼鉄を使用。

 フレーム部は、軽さと堅牢性の兼ね合いでミスリルに置き換え。

 関節部の軸やジョイントには、アダマンタイトを使い耐久性を高めた。


 複雑に動く箇所の密閉性を高めるべく、ミアに調達してもらった何某かの魔物の皮をリベット等で打ち付け、その上を鎖帷子で覆い、動きを阻害せず柔軟に動ける様にもした。


 コクピットとなる胴体内部は、私が半立ち状態で乗りやすい様に、シート形状等を試行錯誤し、魔物の皮で作ったシートベルトを取り付け。

 操縦桿ぽく見えるグリップは魔法制御には必要ないけど、急な制動などに踏ん張る為には多少は役に立つし、後々は何か制御機能を持たせたい。

 外部を映すモニターの類もないし、外装を閉じると鎧の通気孔みたいな所からしか光が差さないので、ほぼ真っ暗になるけど、私の魔力感知視覚を通して見れば問題はない。


 頭部に関しては完全なる飾りだし、まだ塗装もしてないし、特別な装備や機能も何も無い。


 だけど、私が初めて1から作り上げた、スーパーでリアルなロボット――



 ――搭乗型ゴーレム試作1号機の完成だ!

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