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第6話 神器

 身の回りに居るメイドさん達がメイドさん達じゃなかった。


 そりゃそうよね、一介のメイドさんが戦術指南とか、的確な魔物の殺し方とか、そんな事を教えてくるのも変だと思ってたのよ。


 そして、城内に居る、ほとんどの人が化け物じみた強さを持っていると……


 魔窟か? ここは?


 そんな感想を思い浮かべながら、ルインを連れ立って歩いてると。

 その途中に奇妙な部屋が目に入り、思わず立ち止まってしまった。


「ん?」


「いかがなさいましたか? 姫様?」


「あの部屋って何?」


「あちらは宝物庫でございます」


 宝物庫とな?


 頑丈そうな扉ではあるけど、警備の人も一人しか居ないし、お城のエントランス付近にあるしで、宝物庫にしては無警戒に過ぎると思うのだけど……


 そんな事より、私が一番気になった点は、私の特殊な視覚に、その扉より奥が見えない事だった。


 私は普段、空間や物に宿る魔力を感じて疑似的に視覚の代わりとしている。

 その視覚のおかげで、透視みたいな事も容易なのだ。


 とは言え、何でも透視できるという物でもない。

 人の服の下や、トイレやお風呂、機密性の高い場所などがそうだ。


 人が見られたくないと思っている場所は、意識的にしろ、無意識的にしろ、見られたくないという意思の魔力が宿り、見えなくしているからだ。


 だけど、その宝物庫は、魔力による阻害された物とも違う、何も無い闇の空間の様に私の目には映っていた。


「中には何があるの?」


「こちらの宝物庫は、歴代の王族が使用した武具や魔道具が収められています」


 武具や魔道具ねぇ……

 たしかに、高価そうな物には思うけど、ちょっと、こんな闇の様な見え方は、他では見た事が無い。


 どうなってるんだろ?


「ご覧になられて行きますか?」


「え? 見て良いの? 鍵とかは?」


「宝物庫などの扉は、王家の方自身が鍵となっておりますので、姫様でも開錠が可能です」


 へー

 生態認証みたいな物なのか。


「そちらの魔石に触れてみてください」


 と、ルインに促されるまま、扉の赤い宝玉に手で触れてみると、少し発光した後に扉が勝手に開き始めた。


 扉が開いたのは良いけど、中は真っ暗なままね……


 どういう状況なのかさっぱりなので、薄目を開けて肉眼でも確認してみる。

 目で見てみると、少し薄暗いけど、こちら側から差し込んだ光で多少は中の様子が見えた。


 でも、目を閉じて魔力感知側の視覚で見ようとしても、真っ暗なままだ。


 これって、もしかして……

 空間に漂う魔力、マナが消え去っている?


 ルインが『ライト』と照明魔法を唱えると、ようやく部屋の内部が見えるようになった。


「へー……宝物庫ってわりには、別に金銀財宝がある訳じゃないのね」


 想像していた宝物庫のイメージとは大分違う。

 もっと、キンキラな所を予想してたけど、中には静謐な空気が漂い、博物館よろしく、展示物の様に等間隔で武具類が陳列されていた。


「こちらは、王家専用の予備の武器庫の様な物ですから、そういった物は政務を行う方の宝物庫に収めてあります」


「だから武具っぽい物が多いのね。予備って事は、今でも使ったりするの?」


「はい。王と王妃も討伐対象の魔物に有効な物がある場合は使っておられますし。あちらの空き台に収められていたライトヘビーソードなどは、現在リカルド様が愛用され、常に携帯しておられます」


 ライトヘビー?

 軽いのか重いのか、どっちなんだ?


 名前はともかく、王族が使うだけあって、どれも普通の武器ではない雰囲気は漂っている。


 それに――


「これ、何で出来てるんだろう?」


 見た感じ、装飾が施された全身鎧なのだけれど、鎧の色が薄っすらと波紋の様に緑や青に変化する変な光沢を放っている。


 見る角度で色が変化する塗料とかは見た事があるけど。

 鎧に付いた傷部分なども同じ様に見えるし、これは材質自体が特殊な物な気がする。


「そちらは第四代国王が使われていた飛翔の鎧です。材質は主にミスリルを使用しております」


「へぇ……これがミスリル。飛翔ってくらいだし飛べるだろうけど。じゃあ、こっちの白と黒の2本の短剣は?」


「そちらはピスケスの双剣。第六代国王の使っておられた双剣ですね。材質はヒヒイロカネとクロガネという物で作られております。ヒヒイロカネ、白い方の短剣で受けた魔法攻撃を吸収し、クロガネの黒い方の短剣で撃ち返す事ができます」


「見た感じ、ヒヒイロカネは真っ白だし、クロガネの方は真っ黒に見えるけど、これも金属なの?」


「そうですね……両方とも特殊な材質ですが金属ではあるかと……申し訳ございません。正確な事は私にはわかりません」


「そう――ん?」


 なんだあれ?


 部屋の最奥、そこには他とは違い、檻の様な保護ケースに守られた妙な物があった。


 展示台には吸魔の首飾りと書かれ、その周辺だけが不自然に薄暗く見え、逆に目を惹いた。


 見た感じ、男性用の大き目のペンダントで、武骨なデザインのトップの中央に、大きな赤い魔石らしき物がはめ込まれている。

 材質は金ぽいけど、その中にプリズム光めいた輝きが混じっていて、これも普通の金属ではなさそうだ。


「そちらは初代国王様が身に着けておられたとされる首飾りです。効果と用途が不明なので、その様に保管してあります」


「不明……? 吸魔の首飾りって書かれているんだし、さっきの双剣の白い方みたいな、魔力とか魔法を吸い取るのが効果なんじゃ?」


「先ほどの双剣は、吸収と放出がセットで成り立っている物です。どんな魔道具でも限界以上の魔力を貯め込む事はできません。ですが、こちらの首飾りは、止まる事なく魔力を吸収し続けているのに、吸収した魔力が何に使われているのかが判然としていないのです。ですので、仮称として吸魔の首飾りと」


「ふーん……」


 もしかして、部屋のマナが消え去っていたのって、この首飾りが原因かな?

 今も、照明魔法の魔力の光に照らされていても周囲が薄暗く見えるし。


 用途は、装着者の魔力を吸い続けて魔法を使えない様にする拘束具的な?


 いや、それだと初代国王が身に着けてた物としては変か……


 効果が謎の魔道具ねぇ……


「ねえ? これって持ち出しちゃダメ?」


「こちらの首飾りだけは、持ち出しは難しいかと。他の物であれば、王の許可は要りますが、姫様が持ち出す分には問題ございませんが……」


 さすがにこの首飾りはダメか。

 他の宝物は剥き出しで飾ってあるのに、これだけ厳重な檻みたいな物に閉まってある辺り、そんな気はしてた。


 まあ、でも、他のなら良いのか。


 それなら、気になってたのを部屋に持ち帰って調べてみたい。


「じゃあ、あの白黒の双剣と、あの薄緑の光沢がある全身鎧を、私の部屋まで持って行きたいんだけど」


「ピスケスの双剣と、飛翔の鎧をですか? 何故です?」


「あの剣と鎧に使われてる金属を調べたいの」


「金属を……? なるほど、姫様の魔法の調査と研究もしなければとは思っていましたが……」


 双剣の方は魔道具としての機能も気になるし。

 鎧の方は見事なフルプレートアーマーなので、今後のゴーレム作成のヒントとして構造も調べておきたい。


「……もし、アダマンタイトやヒヒイロカネまでも生成できるなら――わかりました。王には私から事後承諾を取っておきますので、さっそく姫様の部屋に運び入れましょう。少々お待ちください、今、人手を呼びますので」


 どうやら、ルインも納得してくれた様だ。


 彼女はそう言うと、入り口の外に居る警備の人の所へと向かって行った。


 さてと、待ってる間、何してようか。


 他にも色々と物色しておきたいとこだけど、なんか、妙に、この吸魔の首飾りが気になる。


 意識が引かれるというか……いえ、これは私の魔力が引っ張られているのかしら?


 できれば、ちょっと触って調べてみたい。


 頑丈そうな檻のケースに入ってるけど、隙間も大きいし、私の小さなお手々なら……


 いや、その前に、私の魔法で檻を変形させれば簡単に取れちゃうんじゃ?


 …………えいっ!


 自分で生み出した金属以外を変形させたのは初めてだったけど、やってみたら、案外、簡単だったわね!


「どれどれ……」


 取り出して触って見た感じ、触った所からグングンと魔力が吸い取られる。


 でも、吸われない様に抵抗すれば、それも止められるみたいだ。


 うーん……

 吸われた魔力が、何に使われているのかねぇ……


「とりあえず、持ち帰って調べてみるか」


 と、私は、たいして考えもせず、異次元収納に吸魔の首飾りを放り込んだ。


 おっと、バレたら怒られるかもだし、似た物を作って……

 中に入れて、檻も元に戻して……


「……よし!」


 これで完璧ね!


「お待たせいたしました、姫様」


「ほわッ!?」


 戻ってきたルインに、いきなり声を掛けられてビックリした。


「いかがなさいましたか?」


「う、うんん、なんでもない。それじゃ、帰ろっか」


「? では、剣と鎧の方を、お部屋の方にお運びいたします」



 宝物庫からの帰りの道中、私は、とある異変を感じた。


 最初は気のせいかと思っていたけど、マイルームに到着した辺りで、それが確信へと変わる。


「姫様? 顔色が優れない様ですが、いかがなさいましたか?」


「う、うん。ちょっと歩き疲れただけだから大丈夫」


 と言ったものの、ぶっちゃけ緊急事態である。


 冷汗が止まらない。


「左様でございますか。では午後は、ゆっくりとなさってください」


「うん、そうする。あ、その剣とか鎧は、あのテーブルのとこにお願い」


「かしこまりました」


 とりあえず、落ち着いて、ピスケスの双剣と飛翔の鎧を運ぶのを手伝ってもらった人達に、部屋の中に運び入れてもらう。


「皆、ありがとう。あ、ルインも少し外に出ててくれる? 一人で、魔法の練習もしたいから」


「一人で、でございますか? ……あぁ、なるほど。かしこまりました。では、他の者達もにも部屋には入らない様、申し付けておきます」


「うん、おねがい」


「では、失礼いたします」


 そう言うと、ようやくルインも部屋から出て行ってくれた。


 これで、やっと一人になれた――って


 うおーーーい!!


 ちょっと!

 この首飾り、魔力を食いすぎよ!


 こっそり吸魔の首飾を持ち帰って来たのはいいけど。

 そいつが、異次元収納の魔力をモリモリと喰らっている真っ最中なのだ。


 私は、急ぎ吸魔の首飾を取り出して、パーンッ!とベッド上に放り投げた。


「ふぅ、これで一安心……いや――まって? こいつ、私のコレクションも食ってない……?」


 金属生成の魔法を使って作ったコレクション類は、人の目に触れさせる訳にはいかなかったので、全部異次元収納の中に保管していた。


 私の収納魔法は、神様にもらった物でもなく、独自に作った物なので、中に物が入っているだけで常時魔力を消費する。


 そして、中に物を入れれば入れるほど、その魔力消費量も増えていく。


 そして、そして……あの首飾りを放り出してみたら、その消費量が3割ほど減っていたのだ。


 そして、そして、そして……恐る恐る、異次元収納に手を突っ込み、コレクション達を取り出し、確認してみると――


「あばッ、あばばばばばば――」


 ――全身の装甲を純金で仕上げたハンドレットタイプの手足がもげて消え失せ、装甲もボロボロにッ!?

 中にワイヤーを通して、実際に刀身がバラバラに分かれるギミックを再現したゴリアンの蛇腹剣が!?

 海外の高名デザイナーがデザインした特徴的な隊長機のゴールドリキシーと量産機のシルバーリキシーもせっかく作ったのに!?

 後で塗料が手に入ったら肩を赤く塗ろうと考えてた咽る棺桶が見るも無残な姿に――


「――ばばばばばばば……」


 どれも、石材パーツは崩れてボロボロになり、金属パーツに関しては、溶けかけのチョコレートの様にぐにゃぐにゃな状態になっていた。


 手塩に掛けて作り上げたコレクションの全てが、まるで最終回の激戦を終え、半壊状態で役目を終えた時の様な有様――……



 ……――どれくらい放心していたのだろう?


 床に倒れ伏し、虚空を眺めていると、不意にベッドの方から「すまない」という声が聞こえた気がした。


 むくりと起き上がり、ベッドの方を見てみると、さっき放り投げた、あの首飾りがあるだけで誰も居ない。


 幻聴……かな?


「私には感情が無いので気持ちを籠める事は出来ないが、一応は謝罪しておこう。だが、君の収納魔法の魔力と、そこに収納されていた魔法生成物のおかげで、思考領域の復旧ができた。感謝する」


 幻聴では無かったらしい。


 どうやら、このクソ首飾りが喋っている様だ。


「スマナイ? カンシャ? あんた、これ作るのに、どれだけ苦労したと思って――」


「待ちたまえ。とりあえず、その手に生成したハンマーを下ろしてくれないか? 私としても意図してやった事では無いのだ」


「は? それが、あんたをぶち壊さない理由になると?」


「説明をさせてもらうと、今まで私の思考領域が停止していた影響で、機能と待機魔法の維持に使う魔力の吸収先を選択できなかったのだ。君が独自の異空間魔法に私を保管した事も大きな原因の一つであり、今回の事は事故の様な物であると私は推測している」


「ほうほう……言い残したい事は、それだけね?」


「ふむ……たしかに、謝罪と感謝では切り抜けられない状況であるのは察した。では、こうしよう。私を再起動してくれたお礼と謝罪として、君の手助けをしよう。金銭などではないが、労働で慰謝料を払おうではないか」


「労働って、首飾りのあなたが? どうやって?」


「私はこう見えても神器だ。神から与えられた機能は、使用者の魔法の制御と行使を助けるという物だ」


「神器? てことは、あなた、あの神様製の道具なの?」


「ふむ……? その通りだが、その反応は珍しいな? なるほど。君は使徒か、または転生者か」


 おっとぉ……? 


 この首飾り、いきなり私の正体を当てに来たぞ……


 ……やはり、ここで破壊しておくべきか?


「使徒? 転生者? なにそれ? オイシイノ?」


「まて。ハンマーを再び持ち上げるのはやめてくれ。隠したい理由も分かるので心配しなくても良い。他人に話す様なことはしない。私も元は、使徒として遣わされた者に与えられた神器だ。転生や転移者としての機微には詳しいので安心してほしい」


 前の持ち主が使徒?


 という事は、初代国王様、あの大きな人って呼ばれてた人は使徒だったのね。


「そう……正確には私は使徒では無いけど。ちなみに、なんで分かったのよ?」


「第一に、その容姿から察する年齢と言動の質が不釣り合いだ。第二に、私が神器と聞いても、さしたる驚きもしていない事。第三に、神に対する――」


「あー、もういい、わかったわ」


「そう簡単に、他者に露呈する事は無いとは思うが、厄介事を招きたくないのであれば、神に関する物や存在への態度、日常の立ち振る舞いには気を付けた方が良いだろう」


 こいつ、めっちゃ説教臭い……


 あ、でも、なんか、この感じ――


 ロボットに組み込まれた特殊なAIみたいで、悪くはないわね!


「それで、あなた、具体的には何が出来るのよ?」


「魔力を与えてくれれば、君の代わりに魔法を使う事が出来る。多少、魔力効率は落ちるが」


「代わりにって、例えば?」


「供給される魔力さえ途絶えなければ、君の意識が無い状態でも自動で防御魔法などを発動し、君が魔法の行使中でも私が別の魔法を同時に発動する事も容易だ。得意としない属性の魔法行使も任せてくれて構わない。その場合は逆に、君が使うよりも魔法効率が若干上がるはずだ」


「ふーん……たしかに便利そうではあるわね。わかったわ! 今後、私の手助けをするって言うなら、今回の事は大目に見ることにするわ」


「それは助かった。これからは君のサポートに尽力すると誓おう」


「そう。せいぜい、こき使ってあげるから覚悟しなさい」


 まだ若干――いや、かなり怒りが収まらないけど、形ある物はいつか壊れるとも言うし、また作り直せば良いか。


 壊れたロボットの姿も、それはそれで味があるし。


 それより、こいつが変な不良品だったとか、妙なバグがあるとかじゃないといいけど。

 

「まあ、今回の事は、あんたを作ったメーカー側の責任も大きいし、製造元の神様にクレームを入れに行かなきゃよね。それには神殿を探さないと……そういえば、あなた、正式名称とか名前はあるの?」


「好きな様に読んでくれても構わないが……そうだな、フェアンベディーグングとでも呼んでくれ」


「長いし呼びにく……んー、じゃあ、ベディって呼ぶことにするわ。私はティアルよ。よろしくねベディ」


「よろしくティアル」

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