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第5話 魂と精神と肉体

 ブートキャンプの様な日々が始まり、早、二カ月。


 今日も今日とて訓練の日だ。


 なんとなく思い描いていた優雅そうなお姫様生活とは真逆の、泥臭い泥人形との徒手空拳でやりあう日々。


「ねえ……ルイン? マナーとか文字を読む勉強とか、そういうのはしないの?」


「? 姫様には、まだ必要ないと思いますが、勉学にご興味がお有りなのですか?」


 いや、まあ、正直興味は無いけど。


 とは言え、ここ2か月ほどで身につけた物と言えば、魔物の対処法や急所の知識、効率的な体の動かし方や魔法の運用方法などなど……


 唯一、教わって良かったと思えるのはゴーレム関連の魔法くらいの物で、その他の一切合切が、私の苦手とする物ばかりなのだ。


 これならまだ、座学の方がましである。


「それよりも姫様は、もう少し体力方面での訓練を増やした方が良いかもしれませんね……」


「魔法で攻撃するなら必要なくない?」


「その様な事はございません。魔法において重要な物は、魂と精神と肉体の三つです。その中でも、肉体は鍛え方が明確で分かりやすく、我が国の教育方針の中でも最も重要視しております」


 私の考えていた魔法使いのイメージと、この国の魔法使いのイメージが、かけ離れ過ぎている気がする……


 実際、そう語るルインも、毎日欠かさずに訓練を行っているらしく。

 体も無駄のない引き締まった体をしている。


 魂と精神うんぬんは分からないでもないけど、何故に肉体も魔法に関わってくるのだろうか?


「魂と精神と肉体って、魔法と、どう関係するの?」


「魂は属性と生み出される魔力の量。精神は魔法の精度と規模。肉体は、その二つを繋いで支えている柱であり、守る壁でもあり、力を通す道です」


 なるほど。


 電子機器で例えるなら、魂が電源やバッテリー、精神が演算装置。

 肉体が、それらを収める筐体でI/インプットとアウトプット機能も兼ねるって感じなのね。


 私の感覚では、転生前と魂と精神みたいな物は変わって無いと感じてるけど。

 それだと、死ぬ前の世界でも魔法が使えてないとおかしいのよね……

 という事は、この世界の人類や生き物の肉体が特別という事になるのかな?


「理屈は分かったけど、体を鍛えて、どのくらい恩恵が有るものなの?」


「そうですね……それは、実際に見ていただいた方が早いかもしれませんね。では、本日の午後は騎士団の所へ行きましょう」


「え……? その人達と一緒に訓練したりとかはしないよね?」


「いえ。それはまだ姫様には早いので、見学だけにいたしましょう」


 よかった。


 一瞬、脱走を考えたわ。



 お昼ご飯を食べ終えた後、小一時間程お昼寝をした。


 そして、連れてこられたのは、巨大な野外スポーツスタジアムの様な訓練場を一望できる貴賓席だった。


「先ず、あちらが騎士団に所属して、比較的新しい者達です」


 指さされた方を見ると、4~50人の集団が様々な訓練をしているのが見て取れる。


 見たところ、少しきつめの肉体改造訓練といった感じだ。

 丈夫そうな衣類と皮鎧に身を包み、重そうな荷物を背負って、アスレチックの様な障害物のあるコースを追い立てられる様に走っている。


「そして、あちら側が、数週間後には任務に就く予定の者達です」


 新人さん達から少し離れた所を指さされ、そっちを見てみると、そこは別次元な訓練内容だった。


 先ず、装備が全然違う。


 ほとんどの者がゴツイ全身鎧を身に纏い、身の丈を超える武器を片手で軽々と振り回し、ゲームやアニメの中でしか見た事ない様な、人外じみた動きで模擬戦をしていた。


「何……? あれ?」


「あれが体を鍛えた結果、魔法の効果も高まった者達の実例です」


 魔法……?


 魔法ってなんだろうね?


 私にはバトル物の登場人物達にしか見えないんだけど?


「魔法の効果って、魔法なの? あれが?」


「はい。姫様の視覚であれば、見ようと思えば視認できるはずです」


 ルインの指示に従い、視覚のピントを魔力を詳しく見える様に合わせると、たしかに全員が強い魔力を身に纏っているのが見えた。


「あれは……身体強化系の魔法を使ってる?」


「はい。体を鍛えれば、あの様に身体強化の効果も上がるのです」


 効果が上がるって、上がりすぎじゃない?

 私がいくら鍛えても、あそこまでの動きが出来るイメージがわかないんだけど……


「まぁ、体を鍛えると、ああなるってのは分かったわ。でも放出系の魔法とかにも意味があるの?」


「ございます。後程、こことは別の射撃訓練場を見ていただければ、ご納得がいただけるかと。それともう一つ、姫様には体を鍛えねばならない別の理由もございます」


「もう一つの理由?」


「はい。姫様が生まれたての頃は魔力に対する体の強度が弱く、度々体調を崩されておりました。最近は頻度が減りましたが、それでも油断はできません」


 乳児期のあれか。

 今でも、こっそりと趣味に魔法を使いすぎると、熱が出てダウンしてしまう事がある。


 魔力の制御はしっかりとしてるのに何故だろう?とは思ってたけど……


「……あれは、体の弱さが原因だったのね」


「今後、姫様が強大な魔法を習得するにしても、行使なさるとしても、今のままでは不安が残ります。ですので、先ずは体を最優先で鍛えるといたしましょう」



 少し気が滅入る教育方針が決まり、兵士達の訓練場からの帰り。


 その道すがら、城内を警備する人達の姿をみて、ふと疑問が湧いた。


「そういえば、少し気になった事があったんだけど」

 

「気になった事?でございますか?」


「訓練してた人達の装備の違いがね。新人の人達の方は皆同じだったけど、鎧を着こんでる人達が二組に分かれてたじゃない? 鎧とか武器もだけど、二組の装備が大きく違う様に見えて」


「ああ、あれは所属先によって装備と訓練内容が違うのです――」


 そう語るルインの言によると、王都や領地の内部を守る予定の者達は、所謂、西洋のフルプレートアーマーみたいな見た目をしていた組の方で。

 関節部なども隙間なく覆うタイプの全身鎧を身に纏い、片手剣と小型の盾を基本装備として、主に対人を想定した訓練をしていたそうだ。


 そして、もう片方のグループは、城壁の外で街道の巡回を主な任務とする者達らしいのだけれど。

 そちらはファンタジーゲームに出てくる様な、身の丈を超える大剣や大盾を装備し、着込んでいる鎧なども印象が大きく異なる形をしていた。


 なんというか、鎧の各部パーツは大きく頑丈そうに作られているのに、顔面部や関節の内側など、動きを阻害しそうな箇所は無防備なままで。

 街中の衛兵予定の人達と比べると、装備のバリエーションも豊かだった。

 

「想定する相手が人と魔物で、あそこまで装備が違うのね」


「人は狡猾で、ずる賢く戦いますので、積極的に人体の弱点を突いてきます。ですので、街中などの治安を守り、主に人相手にする者達は、弱点となる箇所を的確に守る装備が必要となります」


「魔物の場合は?」


「脅威となる魔物の大半は中型から大型の魔物です。そういった魔物は、わざわざ人間の弱点なんて狙ってきません。圧倒的な力で攻撃してきます。ですので、前衛を務める者は魔物の攻撃を完全に防ぐか、完全に避けるかの能力が要求され。中衛の者達は、臨機応変に対応するため、身軽に動けなければいけません」


 なるほど。


 かなり軽装なのに肩や膝部分だけゴツイ装備をしてたり、ビキニアーマーみたいな装いの人達が混じっていたのは、役割で装備の機能も形も違うからなのか。


 ロボット物でも、リアル系の作品の機体は、役割によって装備や外見が大きく異なる物も多いし、納得の理由ね。


「対人の装備との大きな違いは、咄嗟の回避を阻害しない様、視界は広く、関節部などは動きやすく作られ。攻撃を受けやすい箇所や致命傷になりうる所は、衝撃を受け止めやすく、受け流しやすい形を意識して作られています」


「ふーん、色々と考えられているのね」


「民草の中にも魔物を狩る事を生業としている者達もいますが、おおむね似た様な装備をしておりますね。王国支給の装備では、最悪、魔物の攻撃を受けたとしても一撃で即死しない事を旨としておりますが」


「即死しない事って……重傷を負った時点で詰みなんじゃ?」


「手足の一本や二本やられたとしても、死んでいなければ問題はありません。治療魔法を受ければ、大抵は助かりますので。負傷しても、自身で退避できる状況なら即座に後退する様に訓練を重ねてますし。中衛担当の者達も動けなくなった者を即座にサポートし回収して、後衛の治療師へ受け渡す訓練を重点的に行っております」


 わぁお……


 魔物の恐ろしさもだけど、治療魔法を前提とした戦いって、そこまで覚悟のガン決まった戦闘方法になるのか……


「訓練中に死者が出る事は稀ですが、意図して重傷を負わせる事もします。傷を負った者を即座に戦線復帰させる治療師の訓練も重要です」


「えーっと……その訓練て、私もする事になったり……?」


「それは、姫様の戦い方や戦闘での立ち位置によります。一応、ご希望をお聞きしておきますが、前衛か中衛をお望みですか?」


「後衛にしとくわ……」


「それがよろしいかと」


 巨大ロボに乗ってるとかならまだしも、生身で化物と肉弾戦なんか御免被る。


 RPGゲームとかで遊んでた時は、タンク役をガンガン前に出してヒーラーで回復してとか普通にやってたけど。

 リアルで、同じ目にあいたいか?と問われる事になるとは……


 ファンタジーの世界って怖い。


「王族や高位貴族の方々の役割は、後方からの高威力魔法での攻撃がメインになる事が多いですから。姫様も、体力が付き次第、後衛の立ち回りを学んでいただく事にしましょう」


「うん……そうして」


 お城の警備や、すれ違う兵士の人達も、壮絶な訓練を潜り抜けた猛者達ばかりなのかと考えると、見る目も変わって来るわね……


「兵士の人達も大変なのね……あ、そうだ。装備の話に戻るけど、城内を警備してる人達って、訓練してた人達と比べると軽装過ぎるんじゃない? 城内なんだし、もっと、こう、全身を覆うタイプの鎧とか着ているものなんじゃないの?」


 お城の中なんだし、対人を意識した装備になると思うのだけど、その割には、胸当て程度の防具に、短めの剣くらいしか携行していない。

 人によっては武器さえも持ってない有様だ。


「城内は主に、我々、近衛兵の管轄ですので。王や女王の護衛として外に赴く時以外は、この様に、私も基本的には軽装です。常に完全武装の者が傍に居ては、王族の皆様も気が休まりませんし。近衛の者は、全員、徒手空拳でも中型の魔物程度なら――」


 んんん?


「ちょっとまって。今、我々、私って言った?」


「左様でございますが?」


「もしかして、ルインも近衛の人なの?」


「はい……? ああ、役職でございますか? 私は、王より近衛騎士団の団長を拝命しております」


 うん?

 近衛騎士団の団長とな?


「えーっと……ちなみに、たまに私の世話をしてくれる、ミアさんとか、アビーさんとか、お部屋の待機部屋に居る人達って?」


「ミアとアビ―は、私の直属、第一近衛騎士団の所属となります。姫様と接する他の者達も同様です」


 ふーん……

 皆、メイドさんとかじゃなかったんだ?


 完全に勘違いしてたわ。

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