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第4話 王族教育

 窓からは春らしい暖かな日差しが差し込み、小鳥たちの囀りが穏やかなBGMを奏でている。


 季節の移り変わりと共に、私も日々成長し、無事2歳を迎えた。


 そして、今はというと――


「姫様、お外に行きましょう?」


「いぃぃー! やぁーー! ああぁぁぁーーー!!」


 ――私は駄々をこねていた。



 私は今、忙しいの!


 この前、グンダムMk2の内部フレームを再現すべく、土魔法や金属パーツを駆使して作っていた時に気が付いたのだ。


 関節部や、それに繋がる内部パーツを魔法で変形させれば、まるで本当に操縦しているかの様に駆動部が動く事に!


 それを見た時「こ、こいつ動くぞ……!?」と某有名台詞が脳内再生された程の衝撃だった。


 何故、ガレキを作ってた時に、この考えに気付けなかったのか、本当に悔やまれる。


 フィギュアやガレキの類は、無理に動かしちゃダメという先入観があった所為か……


 ともかく、今は実際に動かせる内部構造を模索して、色々な試行錯誤と研究で忙しく。

 試したい事が盛沢山で、お部屋の外になどに用は無いのだ!


「困ったわねぇ……これが魔の二歳児が発症するイヤイヤ期という物なのかしら? リカルドの時はこんな事なかったのに……」


 私が駄々をこねていると、セレイナママンが呼び出されたらしく、部屋にやってきた。


「いつもは大人しく聞き分けも良いのですが……ここ数日は新しい騎士人形を動かそうとしているらしく、それに夢中でして」


「ゴーレムの魔法練習をしているの?」


「おそらくとしか……何分、私の知っているゴーレムと姫様の作っている騎士人形とでは違いが多すぎるので、判別は難しいのですが」


「教えずとも魔法の練習しているのは良いけど、そろそろ節目の誕生祭へ向けて準備をしないとなのよねぇ」


「その点は急がずとも丈夫かと思われます。姫様は、現状でも言葉の習熟度合も素晴らしく、文字に関しても、ある程度は読み書きができるほどですので」


「あら? そうなの?」


「はい。姫様は物覚えが優秀すぎる程です。なので、節目の誕生祭の際のマナー等も、お教えすれば直ぐにでも覚えてくださるかと。ですので、前倒しでクーゲル王族としての教育訓練を行いたかったのですが、それをするには、この部屋の中では難しく……」


「それで私が呼ばれたのね。母親として何も出来ていない私が力になれるかは不安だけど……ねえティアル? お母さんと一緒にお外に出てみない?」


「イヤ!」


「これは下手な魔物より手強いかもしれないわねぇ……あ、そうだわ! ねえティアル? 何か欲しい物とかはないかしら?」


「ほしいもの?」


 欲しい物、欲しい物かぁ……


 今は研究時間が一番欲しいとこだけど、コレクション部屋か作業部屋も欲しいのよね。


 色々と作りすぎた所為で、もう棚を増やしても飾る場所が確保できなくなってきたし。

 収納魔法の中に大量に貯め込んだコレクションや素材類も、一度、何処かで全部出して整理したいし。

 あと、そろそろ塗装にも手を出したいから、その塗装ブースや塗料になりそうな物も欲しい。

 エアスプレーやコンプレッサーは私が作るか、魔法でどうにかできそうだけど、さすがに、それをこの部屋の中でやるには気が引ける。


 やはり、自由にできる部屋が、もう1つ必要よね。


「おへやがほしい」


「お部屋? あー……このお人形さん達を飾るお部屋が欲しいのね?」


「そう!」


「たしかに、もう置き場所が無いものねぇ……」


 察しが良くて助かる。


「それじゃあ、ティアルがお勉強をがんばったら、お母さんがお部屋を一つプレゼントするわ」


「お勉強をがんばったら? ぐたいてきには?」


「ぐ、具体的に? ティアルは本当におりこうさんなのねぇ。えーと……」


 成功報酬を餌にするのは悪くは無いと思うけど、目標なりゴールなりは明確にしていただきたい。


「そうねぇ……ティアルの3歳の誕生日にパーティーを開くのだけど。その日にティアルが良い子にしてて、ルインから合格点をもらえたらにしましょう」


 私の誕生日パーティー?

 それに、お勉強が必要なの?


 まあ、一応の立場としては王族の姫らしいし、パーティーマナーとか色々あるのだろう。


「わかった!」


 と言う訳で、初めての外出をする事となった。


 王城の中だから、外出と言っていいのかは分からないけど。



「ティアル。くれぐれも、お部屋の外では目を開けてはだめよ? それじゃ、がんばってね」


「はーい」


「では、姫様。こちらへ」


 セレイナママンと別れ、ルインの案内に従い部屋の外へと出た。


 初めて部屋から出たけど、さすがは王城。

 廊下だけでも二車線道路並みの広さと長さがある。


 というか、無駄に広くない?

 私の体が小さいから、そう感じるだけかもしれないけど。


 私のマイルームも生前の住居より倍以上に広いし、色々とスケールが違うわね……


 装飾は、煌びやかというより落ち着いた色合いの絨毯と壁紙で整えられ、所々にある調度品もシックな物で揃えられていて、なんとも品を感じる作りだ。


 その中で、少し違和感があるのは窓枠や扉だろうか?


 長い廊下には等間隔に窓があるのだけど、そのどれもが妙に太い金属製の窓枠の窓で、簡単には開け閉めできない構造になっている。

 部屋を出る際に見たドアの厚さや、廊下の突き当りにある扉なども、過剰に頑丈に作られていて、少し妙な違和感を感じた。


 まあ、防犯対策とか、そういうのかしらね。


 などと、考え事をしながら、ルインの案内に従って城内の様子を眺めつつ歩いていると。

 廊下の先から、騎士らしき人達を連れ立って、十歳前後の男の子が歩いくるのが見えた。


「おや……? もしかして君はティアルかい?」


「はい? そうですけど」


 その男の子は、私の姿を見ると話しかけてきた。


 外見は、日本人を思わせる艶のある黒髪で、ルビーの様な赤い目をしている。

 顔つきはシュッとした西洋風のイケメンだ。


 そして、どことなくボリスパパンと似ている感じがする。


 あれ? もしかして――


「やあ、はじめましてだね。僕――、俺はリカルドだ。君の兄さんだよ」


 あ、やはりか。


 兄が居るとは聞いていたけど、思ってたよりも年の離れた兄妹だったのね。


「こちらこそ、はじめまして、リカルド兄様」


「なかなか会いに行けなくて、ごめんね。半年ばかり東側の領地を回ってて、やっと帰ってこれたんだ」


「そうだったのですか。おつかれさまですリカルド兄様」


「う、うん、ありがとう。ねえ、ルイン? ティアルは、何と言うか……ずいぶんとしっかりと喋れるんだね? まだ2歳だよね?」


「はい。2歳と4か月におなりです」


「リカルド兄様は、おいくつなんですか?」


「え? 僕かい? ぼ、俺は今年で12になるよ」


 12という事は10歳も年が離れているのか。


 自身の事を「僕」から「俺」呼びに変えようと頑張っている所が、年相応で可愛らしい。


 顔が厳つい系じゃないし、私は、僕のままでも良いと思うけど。


「病弱とは聞いていたけど、その……ティアルは目が見えないのかい?」


「いえ、姫様は目を閉じていても見えるので閉じているだけです」


 と、ルインが代わりに私の現状を説明してくれる。


 最近は魔力感知での視覚も精度が良くなり、紙に書かれた文字や絵、物の色なども見える様にまでなった。

 作っている土魔法プラモの内部構造まで視認できるので、今では、ほぼ目を閉じた状態で生活している。


「目を閉じていても? もしかして魔力感知で? この前、ドワーフの鍛冶師が同じ事をしているのを見たけど……」


「はい。ですのでご心配には及びません」


「そうか、それなら良かったよ。それじゃあ、僕は父様達に報告に行かないとだから、ティアル、またあとでね」


「はい、兄様」


 私に軽く手を振ると兄さんは、また供の騎士達を連れて去って行った。


 あれが、リカルド兄さんか……

 なんか、聞いていた印象とは大分違う。


 暴れて部屋だか王城の一部を崩壊させたみたいな話を聞いてたけど、見た目も、話した感じも、年の割には理知的で優しいイケメン王子という感じだ。


 まあ、あちらも私の事を病弱と勘違いしていたみたいだし、実際に会って見ないと本当の所は分からないものね。



 リカルド兄さんと別れてから歩く事、数分。

 目的地にはまだつかない。


 部屋から出てからなら、確実に10分以上は歩いている。


 ちょっと、お城って広すぎない?


「ねえ、ルイン? まだつかないの?」


「もう少々かかります姫様」


 まだかかるのか……


 今まで部屋に籠りっきりだったので、お城の中の様子が見られるのは新鮮で楽しいのだけれど、歩くのにも疲れて来た。


 それにしても、貴族教育って何するんだろう?


 フワっとしたイメージしかないけど、優雅なお茶会とか食事の際のマナーとか、そういうのなのかね?


 和洋中の一般的なマナーとか所作なら少しは分かるけど、他に参考になりそうな知識は無いのよね。

 少女漫画とかも食指が動かず、ほとんど読んでないし……


 音を立てて茶器とかを置いたら、教育係の人からピシッと指し棒ではたかれて、嫌みな叱られ方をしたりするのかしら?

 キャッキャウフフな風に見えて、その裏側で行われる宮廷内でのドロドロとした人間関係を、優雅なマナーと所作で武装して戦ったりとか?

 

 色々と気が重いわ……

 なぜ、こんな面倒な立場に転生させられたんだろう。


 あの神様と連絡が取れる様になったら、この疲れた足の事も含めて文句でも言いたい気分だ。


 そんな事を考えながら歩いていると、ようやく「ここです」とルインが言い、目的地に到着した。


 だけど、案内された場所は、想像していた所とは真逆の、なんとも殺風景な所だった。


 先程までの城内の雰囲気とはガラリと変わり、学校の体育館並みに広く、天井も同様に広く高い。

 床も絨毯などでは無く、むき出しの土を踏みしめた物で、壁や天井も打ちっぱなしのコンクリートみたいな物で出来ていて、一切の飾りつけが無い。


 中からは、ほのかに運動部の部室や練習場の様な汗の臭いが漂い、並べて立てられた案山子みたいな丸太人形や、焼け焦げた跡のある土嚢の山、使い物にならなくなった木剣や丸太らしき物が隅に乱雑に積まれているのが目についた。


「何? ここ?」


「城内の近衛用訓練所です」


 うん、まあ、そんな感じには見えるけど?


 いや、そう言う事じゃなくて。


「ここで何するの?」


「姫様には、クーゲル王族としての心構えを学んでいただきます」


 心構えとな……?


 私が困惑していると「先ずは、こちらへ」と備え付けの個室に連れていかれ、フリフリのドレスから、丈夫そうな厚手の服に着替えさせられた。


 ルインは、私に着せた衣類の全身をチェックし、その上から簡易の皮鎧の様なプロテクターも着せてきた。


「サイズは……大丈夫ですね。どこか動きにくい所はございますか?」


「いや、無いけど……」


「では、訓練所へ戻りましょうか。先ずは、準備運動から始めましょう」


 言われるがままに着いて行き、ルインの指導を受けながら簡単な準備運動とウォーミングアップをさせられた。


 この国の王族には、体育みたいな教育が必須なのだろうか?


 内容的には幼児の私に合わせた内容っぽいけど、運動不足気味だった私には、そこそこな運動量だった。


「はぁ……はぁ……」


「次の準備をいたしますので、少々お待ちください」


 彼女はそう言うと、土魔法で何かを用意し始めた。


 見た感じ、私より頭一つは大きい人型の人形だけど……


「さあ、姫様。ローキックの練習から始めましょうか」


「ちょっと待って。なんでローキック?」


「大半の敵へ有効な攻撃手段だからですが?」


 ですが?ではない。


 私って、お姫様なんだよね?

 何故ローキック?

 この国の貴族は、舞踏会ではなく武闘会をするのが基本なの?


「いいですか、姫様? 人でも魔物でも、その殆どが足を持ちます。その足さえ潰せば、後はどうとでもなるのです。その場を動けなくなった相手は良いマトですし、こちらが不利な状況だったとしても、相手の足さえ鈍らせれば逃走を容易にし、仕切り直すこともできます。戦闘において、確実に有利な状況へと導く攻撃が足への攻撃なのです」


「なるほど――じゃなくて! 何故、私がローキックとか戦う方法を学ぶ事になったのかを聞きたいの!」


「え……?」


 いや、なんだその困惑顔は?


 困惑しているのはこっちよ。


「……そう、ですね。申し訳ございませんでした姫様。考えてみれば、クーゲル王国の王族としての役目のご説明がまだでしたね。騎士に憧れがあるものと思い、勘違いしておりました」


 なるほど?


 私が作ってるのは騎士ではなくロボット達の模型なのだけど。

 それは良いとして、あれらの所為で騎士に憧れがあるものと勘違いされていたのか。


 いや、それでも、止めさせるならまだしも、一国のお姫様に戦闘訓練を施そうとするのはいかがなものか?


「私達の国、クーゲル王国の生い立ちは、大きな木と大きな人でご存じの通りですが」


「いや、初耳だけど? あの絵本って史実なの?」


「はい。まだ早いかと思い、建国記の本はお見せしておりませんでしたね。そちらをお読みになれば、お分かりになると思いますが。我々、人族は世界樹がある聖地を未だ奪還できておりません。その聖地奪還を目的として建国されたのが、我らが国、ノインクーゲルなのです」


 少し、嫌な予感がしてきた。


「えーと、つまりは、その役割を王族も担っている……って事?」


「はい。聖地奪還のため、ボリス王とセレイナ女王も、ほぼ毎日、交代で魔物の討伐へと出ておりますし。先ほどのリカルド王子も、国内の魔物討伐の遠征から帰ってきたところです」


 どうりで、パパンとママンの二人が揃って居る事が稀なわけだ。


 そして、それを私もやる事になると……?


「さぁ、姫様。この腿の外側か、関節のやや裏側ぎみの箇所を狙うのが効果的です」


 こうして、この日は、訓練で疲れ果て、私は泥の様に眠る事となった。



 昨日は、格闘技の訓練をやらされ、散々な目にあった。


 主に、ルインの作り出す土人形を殴ったり蹴ったりだったのだけれど。

 蹴れば蹴った足が痛いし、殴れば殴った手が痛くなる。


 しかし、手足に出来た青痣や擦り傷の類は、回復魔法で直ぐにキレイさっぱり治療され、疲れ果てるまでやらされた。


「ねえ、ルイン? この体のダルさは回復魔法で消せないの?」


「できる回復魔法もございますが、今日はそのままお過ごしください。自身の体力が減っている時の感覚や、どの程度の動きで体力が無くなるかの把握も戦闘においては大事な事ですので。筋肉痛などはございませんか?」


「それは無いけど……それじゃあ、今日はお休み?」


「いえ、今日は魔法の勉強をいたしましょう」


 魔法の勉強か。


 それなら、体を動かすわけでもないだろうし、別に良いか。


「それで、何を教えてくれるの?」


「そうですね……魔法の行使に関しましては、既に姫様は出来ておりますので、実地訓練は後日にでも。今日は魔力と魔法の関係と、その基礎からお教えしましょう」


 基礎学習か。


 今まで独学でしか魔法を使ってこなかったので、それは助かるかも。


「現在、姫様は無詠唱で魔法を使っておられますね?」


「うん」


「実は、その無詠唱での魔法は、一番非効率とされている方法なのです」


「そうなの?」


 そんなの知らんかったわ。

 見た事のある異世界転生物の中では、無詠唱は凄いみたいなのが多かったけど。


「はい。魔力には大きく分けて2種類あります。マナと呼ばれる世界全体に宿る魔力と、オドと呼ばれる体内で生み出される魔力です。無詠唱での魔法行使は、そのオドのみを使って発動させているのです」


「つまりは、詠唱とかの補助的な事をすれば、マナ側の魔力も使えるって事?」


「はい。ご理解が早くて助かります」


 なるほどね。


 どうりで、私が無詠唱で魔法を使っていても別段驚かれるわけでもなく、最初に魔法を見せてくれたミアも、昨日の訓練中のルインも、簡単な魔法でも詠唱をして魔法を使っていたわけだ。

 

「ただ、無詠唱魔法は非効率ではありますが、無駄という訳でもございません。理由はお分かりになりますか姫様?」


「んー……、発動にかかる手間……詠唱とかで隙が出来るから?」


「はい。その点が戦闘においては重要になります」


 やはりか。

 その戦闘第一の考え方はどうかと思うけど。


「その他にも、マナとの齟齬による反発も起きにくいという利点もあります」


「マナとの齟齬?」


「世界に宿るマナには、自然界の法則や、生きとし生ける者達全体の無意識が宿っております。それとかけ離れた魔法は、綿密な詠唱をしたとしても、逆に魔法の発動が阻害、または弱められてしまう事があるのです」


 集合無意識みたいなものかな?

 もしくは、一般常識とか共通認識みたいな物とか?


 要は、皆の常識から外れる様な荒唐無稽な魔法を使う事は難しい訳か。


「ふーん……それを避けるにはどうしたらいいの?」


「全てを自身のマナと精神のみで行うか、詠唱学や魔法力学の習熟と研究が必要となります」


 ふむふむ……


 元から魔法が存在する世界だけあって、科学に代わる技術や学問がちゃんと存在するらしい。


「それと、属性に因る適正なども関わってきますが……姫様の場合は、姫様が持つ属性に少々問題がありまして、私ではお教えする事が難しいかもしれません」


「属性……? たまに聞くけど、私の髪とか目の色と関係がある?」


「はい。人が持つ属性は、それを象徴する色が、髪と瞳の色に現れます。姫様の場合は髪に現れている茶色、すなわち土の属性が一番得意とする属性です。二番目に得意とする属性が瞳の色に現れるのですが……」


「その、目の方の色が問題なのよね?」


「……はい。姫様の瞳を染めている属性色は私共には判別がつきませんでした」


「それは別にいいわ。その、持っている属性の魔法しか使えないの?」


「いえ。使うだけなら問題はございません。ただ、発動に必要な魔力量が跳ね上がるだけです」


「どのくらい?」


「個人差がありますので正確ではありませんが、私の体感では、第一属性の魔法の魔力消費量が1としますと、第二属性が2倍、その他は4から6倍程度になります」


「ふーん……ちょっと試してみても良い?」


「どうぞ。土と水の生成でお試しください」


 どれどれ……


 あー……たしかに同量の土と水とでは、生み出すのにかかる魔力の量がかなり違う。


「いかがですか姫様?」


「うん。水の方が、かなり多く魔力を消費してるのは分かるわ」


 でも、これって金属を生み出してる時にも感じてた事なのよね。


 金や銀を生み出す時も、生み出す物で消費魔力が上がっていく感じがしたし、あれも属性違いによる物なのかしら?


 それとも別の法則による物なのか?

 

「ねえルイン? 属性って、いくつくらいあるの?」


「一般的な属性は、火、水、風、土の4つです。その派生属性として、氷や雷。別系統の属性として光と闇とがあります」


「他には?」


「他となりますと、厳密には属性とは違うのですが、神聖や理力、祝福や呪い、契約や生活魔法といった物がございます」


 その辺りは、属性って言うより種類って区分けっぽいわね。


 しかし、やはり金とか、金属系の属性は無いのかな?

 土属性に含まれてるのかもしれないけど、私の第二属性に関係している可能性も……


 どうしようか……

 ルインになら打ち明けても問題ないだろうか……?


「うーん……」


 生まれた時から私の世話をしてくれているルインだ。

 パパンやママン以外だと、彼女以上に信頼できそうな人なんて居ないし、相談できる人も居ない気がする。


「いかがなさいましたか、姫様? 何かご不明な点でもございましたか?」


「……えっと、私、魔法で金属も生み出せるの」


「金属を……ですか?」


「うん。ほら」


「これは……鉄?」


 目の前で実際に生成してみせると、ルインは生み出した鉄のキューブを手に取り、考え込む様に固まってしまった。


「……なるほど。1年ほど前に部屋で見つけた金属片は姫様の生み出した物でしたか」


 覚えていたか。


「これって、何の属性と魔法になるの?」


「金属生成の魔法は寡聞にして聞いた事がございません。土魔法が得意な者の中には固い黒曜石やガラスなどを生み出せる者はおりますが、金属ともなると……」


 やはり、金属生成は一般的な事ではなかったのか。


「これって、やっぱり私の属性の所為なのかな?」


「その可能性は高いかと。しかしこれは……姫様、この金属を生み出せる事を他に知っている者は?」


「今の所はルインだけよ。なんとなくだけど、人に見せるのはダメかと思ってたし」


 そもそも、今までルインと部屋付きのメイドさん達以外だと、親くらいしか会う機会なんてほぼ無かったし。


「賢明なご判断です。これが外部に漏れていたら面倒な事になっていたかもしれません」


「この目の属性色とかもだけど、他の人に知られたらどうなるの?」


 私がある程度話せるようになってからは「瞳の色を家族と部屋付きのメイドさん達以外には見せないように」と、ちょくちょく注意されているのだけど。

 実際にバレたらどうなるのだろう?という疑問があったので尋ねてみた。


「そうですね……特殊な魔法を使える者は、国にとって国宝や戦略級の戦力となりえます。ですので、大きな組織や他国から狙われる事になりますね」


 戦略級とな……?


 金銀を生成した時に、貨幣相場みたいな事は考えたけど……

 たしかに金銀財宝が生み出せる人が無防備に居たら、そりゃ誘拐されてもおかしくはないか。


「強い魔力か精神を持つ者や、自身で身を守れる者なら多少問題も減りますが、魔力が弱く精神的に未熟な者の場合は、見つかり次第、確実に身柄を拘束されます」


「その後は……?」


「良ければ、飼い殺し。悪ければ、監禁や拷問で精神を削られた後に隷属の魔法を使われるかと。最悪、思考能力や肉体を排除され魔道具の様な物にされると聞いた事も有ります」


 お、おぅ……

 それは怖い。


 ルインやパパン達が、そんな事はしないと信じたい。


 とりあえず、詳しく忠告してくれるって事は大丈夫だと思っておこう。


「特殊な魔法を使える者は、その身体にも特別な特徴が出やすいとも聞きます。おそらく姫様の瞳の属性色もそれではないかと。ですので、くれぐれもご注意ください。姫様に危険が及ぶ様な事は私達がさせませんが、警備の手間が増えますので」


「うん? 私の身より、仕事が増える事を心配してない?」


「そんな事はございません」


 ほんとぉ?


 まあ、色々と気を付けようかな……

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