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異世界ブンドド ~夢とロマンに生きる王女~  作者: あてだよ
胎動編

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第16話 レギオン

「よかった……戻って来てくれたんですね旦那」


 ジェロウムさんは私が戻ってくると、ほっとした様子で声をかけて来た。


「すみません。つい、楽しくなっちゃって」


「楽しく……ですか。そりゃあ、良かったですが、こっちは見ていて冷や冷やしましたよ。とりあえず、旦那が南側の敵を引き寄せてくれてたんで、付近の街道に居た商隊のほとんどは東門近くまで避難できました」


「なんか、人の数も増えてますね」


「ええ、商隊の護衛をしていた他の冒険者も手伝ってくれてますから。あと、ハシーム達とも合流できたんで、これから広範囲の魔法で数を減らしながら、森から出てくるシャドウイーター共を抑え込み、騎士団の到着を待つ予定です」


 街道付近に潜んでいたのは、あらかた片付いたから、ここからは遠距離戦に移行する感じか。


 既に北側に面した方では魔法を撃ち始め、撃ち漏らした敵を弓矢などで迎撃していた。

 

「それにしても、こんな街に近い所にまで、魔物の群れって出るんですね」


「普段はこんな事、滅多にありませんよ。それに、シャドウイーターが、ここまで群れているのを見るのは俺達も初めてです。普段は単独か、多くても2~3匹でしか活動しない魔物ですからねぇ」


「そうなんですか?」


「ええ。夕暮れ辺りから活発になって、暗闇に紛れて少数で人を襲う魔物なんですが、今回は日のある内に気が付けて助かりました。夕暮れに以降だったら、街道の商隊だけでなく、街にも被害が出てたかもしれません」


 たしかに、あの真っ黒な影みたいな姿だと、夜に相手するのは難儀しそうね。


「それで、ルークスの旦那も魔法での攻撃に参加しますかい? ここからは、あまり前に出られると困るんで、魔法も出来るんでしたら、そうしてもらいたいんですが」


「んー……それじゃ、そうします」


「じゃあ、お願いします。バラッドも戻ってきたんで、旦那の近くに置いておきます。何か、判断に迷ったら頼ってください」


「わかりました」


 そう言うと、ジェロウムさんは他の人達の所へと行き、入れ違いにバラッドさんがやってきた。


「作戦は聞いてると思いますが、我々は南側をやりましょう」


「了解です。適当に撃っちゃっていいんですか?」


「ええ、森から出てくるのを狙えるなら狙ってください」


「わかりました」


 森の方に魔力感知視覚を集中すると、まだまだ多くのシャドウイーターが潜んでいるのが見える。

 私は、それらに向かって、石弾を生成して撃ち放ち始めた。


「ルークス殿は、魔法の射撃も得意なのですね」


「そうですか?」


 しばらく、黙々と森から出てくるシャドウイーターを撃っていると、バラッドさんが私の石弾魔法を見て褒めてくれる。


「森まで4~50mはあるのに石弾を正確に当ててますし、物陰へも誘導させて当ててますよね? 技量的にはBランクの冒険者よりも上に見えますよ」


「そんな、おだてないでください」


 なんか、べた褒めされている。


 そう言うバラッドさんも、弓矢を使って森の中にいるシャドウイーターを、どんどん狙撃しているし、私と似た様な事もやっている。


 私の場合は、魔力感知で地形や座標みたいな物を知覚しているので、石弾の通り道さえあれば当てる事は容易いのだけど。

 バラッドさんは、それを目視でやっているのだから驚きだ。


 とは言ったものの、魔法での攻撃って、苦手でもないけど好きでも無いのよねぇ……

 なんか、手応えみたいな物が薄いというか。


 もっと、こう、撃つ際の反動が感じられれば気持ち良いんだけど。


 その内、射撃に関する武器も用意したいわね。


 せっかくだし、射撃武器を作るにしても、色々と試しておきたい事もあるし――


「――ん? 石弾が防がれた?」


 考え事をしながら石弾を撃っていた所為か、森の奥に潜むシャドウイーターの1匹に魔法を弾かれてしまった。


 魔法の収束が甘かったかな?


 もう一度、集中して、石弾に少し強めに魔力と速度を乗せて撃ち出す。


「また防がれた……?」


 あのシャドウイーターは何……?


 私は撃つ手を止めて、石弾を防いだシャドウイーターを注視した。


 他のシャドウイーターの影に混ざって判別が難しかったけど、あの個体は何か妙だ……


 大きい?


 もしかして、あれが中型とか大型って呼ばれる個体?


「バラッドさん、森の奥に他と違うのが居ます。かなり大きいのが」


「何? どの辺りです?」


「あの辺り。森の4~5m奥です」


 ルークスの腕部を操作し、指をさしてバラッドさんに伝えると、彼は懐から小型の望遠鏡の様な物を取り出して森の奥を観察し始めた。


 へー、望遠鏡なんかあるんだ。

 そういえば、たまに眼鏡とか掛けてる人も見るし、普通にレンズの類はあるのね。


「あれは……中型種なのか? シャドウイーターに中型種が?」


「あれが中型?」


 形が不定形な事もあり、正確な大きさを測るのは難しいけど、ちょっとした大型の乗用車くらいはある。


「すみません、ルークス殿。魔法での攻撃は一旦止めておいてください。おい! ジェロウム! シャドウイーターに中型種がいるぞ!」


「なに!? ほんとか!? どこだ!」


「あそこだ。ルークス殿が見つけてくれたんだが……」


「たしかに、大きさは中型種並みだな。マジか……くそっ、シャドウイーターにも中型種がいるのか」


 ジェロウムさんは望遠鏡を受け取り、森にの中を見ると、唸る様に言葉を吐く。


 どうやらシャドウイーターに中型種が居るのは、珍しい事の様だ。


「問題は、この数に中型種が混じってるって事はだ」


「分かってる。レギオンだな、こりゃ……大型はまだしも、中型はまだまだいるはずだ。バラッド、お前は街道の東に走って抜けて、こっちに向かってる商隊連中を引き返させるか止めろ」


「了解だ」


「全員聞け!! ここからはレギオンを想定して動くぞ! ハシジェーロは中型の遊撃にあたる! その他の者は東門に退避中の者達の護衛を頼む!」


 ジェロウムさんが、大声で周囲の人達に指示を飛ばすと、全員が慌ただしく動き始めた。


「ベディ? レギオンって言ってたけど、何?」


「魔物の集団規模の分類だな。レギオン、スタンピード、レギオンスタンピードの順に大きくなる。レギオンでも魔物の推定数は千以上。騎士団以上の戦力が無ければ対処が難しい規模だ」


 千以上……?

 たしかに、まだ森には無数にシャドウイーターが潜んでいるのが見えるけど、そんなに居るかもなのか。


「レギオンともなると、彼らだけでは荷が重すぎる。ここからは騎士団が到着するまでの時間稼ぎなるな……」


 なるほど。

 そりゃ慌てるわけだわ。


 既に騎士団の先遣隊っぽい人たちの姿が東門に見えてるけど、門の中に避難する人達と外に出ようとする騎士団とが鉢合わせして、かなりの混乱が見える。


「ティアル、できれば、この辺りで君には引いてほしいのだが?」


「冗談でしょ? 私だけ逃げろって言うの?」


「冗談ではない。まあ……ここ数時間で把握した君の性格からすれば、そう言うのではないかと予想はしていたが。だが、ここからは私も静観は出来ないが、かまわないな?」


「別にいいけど、私の楽しみは邪魔しないでよね?」


 などと話しながら森の方へ意識を向けると、数体の中型シャドウイーターが森の中から姿を現し。

 その内の2体が、不定形な姿から狼と熊へと形を変え、こちらではなく、街道の東側へと向かって行こうとしているのが見えた。


「ん……? なんで――まずい、あいつらバラッドさんを狙ってるんだわ!」


 二体の向かう先に、街道を東へと走っているバラッドさんが見えた。


 私は即座にルークスを走らせながら、大き目の石弾を生成して二体の中型シャドウイーターに向けて放つ。


 二体は、私の放った魔法に気が付いて、こっちに向きを変えると、狼の方は石弾を素早く避け、熊の方は石弾を前足で叩き落した。


 うーん……

 中型に魔法で有効打を与えるとなると、もっと魔力を込めるしか無さそうね。


 まあでも、バラッドさんから、こっちへと注意は引けたから良しとしよう。


「おい、旦那! どこへ――バラッドが狙われたのか!?」


 走り出した私を見て、ジェロウムさんが止めようと駆け寄ってくるが、即座に状況を理解して並走しだした。


「狼の方は俺がやる! 旦那は、熊の方を!」


「オーケー!」


「無理はするなよ!」


 素早くて面倒そうだなと思っていた狼型の方は、ジェロウムさんが担当してくれるか。


 なら私は、熊型の方に専念できる。


 さすが集団のリーダー。

 瞬時に的確な判断をしてくれる。


 とは言え、中型のシャドウイーターが化けただけあって、狼も熊も、ワゴン車並みの大きさがある。

 狼の素早さを見るに、熊の方も相当な力を持ってると見て間違いない。


 少し走ると、ジェロウムさんは先行して疾走し、狼型へと剣をかすらせて、その気を引くと、少し熊型から離れる位置へと狼型を誘導して引き離した。


「ベディ、防御するのは私自身に攻撃が当たる時だけにして。攻撃とかは、こっちでなんとかするわ」


「わかった」


 私はベディに防御の指示だけをして、ルークスに盾を正面に構えさせ、熊型へと突進を掛ける。

 熊型も私に向かって突進をし掛けて来た。


「でええええええい!!」


 盾と熊型の頭部が激しくぶつかり合う。


 大きさ的に、こっちが重量で負けるかもと思っていたけど、質量的には小型のシャドウイーターと同様に軽いようだ。

 どうやら、見た目ほどの重さは無いらしい。


 おかげで、弾き飛ばされはしなかったが、相手にダメージを与えた様子もない。


 でも問題は――


「――チッ! ルークスがパワー負けしている……」


 じりじりとだけど、こちらが押されている。

 大きいだけあって、相応の力はあるみたいだ。


「だったらァ!!」


 一旦、大きく飛びのいて、一呼吸分だけ距離を取る。


 そして、ルークスに充填されているゴーレムを岩製から鉄製へと切り替えた。


 機体の重さが、一気に倍以上になった感じがする。

 踏み固められた街道の地面であっても、脚部が地面に沈み込む。


 これは素早く動くのは無理そうね。


「ま、動き回らなければ問題は無いわ……さあ! 来なさい!!」


 言葉が通じるかは知らないけど挑発をしてみると、熊型は後ろ足で立ち上がり、興奮したように襲って来た。


 前足を勢いよく振り下ろしてきた所を盾で受け止め、剣で切りつける。


 今度は手ごたえがあった。

 けど、十分ではない。


 多少の傷を負わせただけで、元から不定形な魔物なためか、その傷も直ぐに塞がってしまう。


 だが、今度はパワー負けする事は無く、熊型の腕力とも十分に渡り合えている。


 ガンッ!と、奴の爪をぶつかり合うたびに盾が大きな音を立てる。


 相手の攻撃は大振りなため、盾で受ける事は、そう難しくは無かったけど。

 数度、まともに攻撃を受けた時点で、盾が破砕してしまった。


「くっ……戦いながらでも補修できる様に訓練しなきゃ」


 とりあえず、残された剣を両手持ちにして、次の攻撃に備える。


 大木の丸太の様な奴の前足が、横薙ぎに迫って来る。

 私は、それに向かって剣を思いっきり叩きつけた。


「このォ!!」


 剣と熊の腕とがぶつかり合い、奴の腕が千切れ飛ぶ。


 だけど、それと同時に、剣の方も根元からバキンッ!と折れてしまった。


「ヤバ――ぐぅッ!」


 熊型は残された前足で、私に向けて即座に攻撃してきた。

 それを咄嗟に左腕でガードしたけど、それだけで左腕の装甲がはじけ飛ぶ。


 そして、熊型は切り飛ばした腕を再生させると、左右の腕で交互に攻撃してきた。


 攻撃を受けるたびに、装甲が割れ、フレームが軋む。


 これは、マズイかな……?


 コクピットに伝わる衝撃とかはベディがガードしてくれてるけど、攻撃手段が殴るくらいしか無い……

 さすがに、敵の攻撃を捌きながら、剣なり盾を生成する集中力は取れない。


「ティアル、この状況では反撃は難しい。私が魔法で攻撃する事を提案するが?」


 胸元のベディが冷静に、そんな提案をしてきた。


 それしか無い?


 もう両腕部もボロボロだ。


 その他の所も、コクピット以外、無事な所が無い。


 少しでも相手の動きを止められれば、攻撃手段を作れるのに――


「まだ、いいわ。……奴の動きを止めれば、まだ方法はある!」


 私は、奴の攻撃を真正面から抱え込む様に受ける。


「よし! 捕まえたァ!!」


 そのまま左腕で奴の右腕を抑え込み、振りほどこうとして振るって来た左腕を右腕を突き刺す様にめり込ませて止めた。


「よくも! ルークスを、こんなボロボロに……してくれたわね!!」


 シートベルトと前面装甲とコクピットハッチを強制排除!


挿絵(By みてみん)


 私は、手に一本の剣を生成しながら外へと身を乗り出し、ガラ空きになった熊型シャドウイーターの胸元へと剣を深く突き刺した。


「裂けて! 弾けろォ!!」


 そして、突き刺した剣を内部で変形させ、四方八方へと無数の棘を伸ばし奴の内部をズタズタに引き裂く。


 熊型の体のあちこちから金属の針が飛び出し、血の代わりに墨汁の様な体液をまき散らす。


 剣を元の形へと戻しながら引き抜くと、熊型シャドウイーターは、私に覆いかぶさるように倒れ込み、そのまま形を崩して液状化した後に煙の様に消え去って行った。

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