第14話 冒険者ギルド
少し歩いた先に、剣と盾の紋章が彫られた青銅っぽい看板が見えた。
「ここね」
近くまで行って見てみると、なんだか他とは作りも雰囲気も少し違う建物だ。
学校のあった教会ほど広くは無いけど、あちらと同じく3階建ての建物で、土台が少し高く作られている分、こっちの方が建物としては高い。
周囲と比べても頭一つ突き出た感じで、目立つ構造と大きさをしている。
建物脇には厩みたいな物や何かの搬入口があって、正面の入り口は大きく開け放たれ。
その奥からは、少しお酒の臭いと共に、酔っ払いの騒ぎ声みたいな物も聞こえてきた。
「なんか、中から既に出来上がってる人達の雰囲気がプンプンするんだけど……」
「1階にはギルド直営の食事処があるとのことだ。午後を少し回ると酒の提供もしているそうだな」
どうやら、物語で見た様な冒険者ギルド定番の作りをしているらしい。
実際、目の当たりにすると、組織の建物として大丈夫なのか?という気持ちの方が強くなる。
まぁ、もう来てしまったのだから仕方ない。
変な事にならないように祈ろう。
気を取り直して、入口へ続く階段を数段登り、開け放たれた扉をくぐり、中へと足を踏み入れる。
すると「ギシィ……」という、大きな木の軋む音が足元から響いた。
おっふ……
ここ床が木製だ……
その音の所為で、シン…と室内の騒ぎ声が一斉に止み、私の方へ注目が集まってしまった。
「おい、今の何の音だ……?」
「なんだあいつ……?」
「見た事の無い奴だな?」
「この辺の奴か……?」
一瞬の間が開き、一階ホールの右側にある酒場みたいな所から、さざ波のごとく変なざわめきが起こって、ちょっとした緊迫感の様な雰囲気が漂った。
ちょっと今はファンタジー物の定番のような、ガラの悪い人に絡まれるような展開はかんべんなんだけど……
……大丈夫そうかな?
ジロジロと見てくるだけで、特に変な事をしてくる人はいないみたいだ。
見た目はアレな人もいるけど、乱暴者の集団と言うわけではなさそうで、少しほっとした。
それより、受付みたいな所はどこだろ?
酒場とは反対側にある、あれかな?
とりあえず行ってみよう。
「おいおい……あいつ何キロあるんだよ?」
「あの鎧か? 重いのは?」
「ガタイもデカいが、床が歩くたびに変な音立ててるぞ……」
受付に行こうと機体を歩かせると、やはり床が木製のため、歩くたびに足元から床の軋む音がホール内に響き、酒場に居る人達の反応が背中側から聞こえてくる。
うーん……
土の地面とか歩いてる時にも思ったけど、やっぱ機体が重すぎると、こういう弊害が大きいわねぇ……
妙な注目を浴びつつ、冒険者ギルドのホールを進み、銀行の受付窓口の様な作りをしている所に行く。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」
「依頼をしに来ました」
受付の向こう側には、きれい系の若い女性が何人か居て。
私が近くに行くと、その中の一人が笑顔で迎えてくれた。
「ご依頼でございますね。どちらかの商会の代理の方でしょうか?」
「いえ、依頼主は私で、私の護衛の依頼です」
「ご本人様の護衛依頼……ですか?」
「はい」
受付の人が少し戸惑っている。
まあ、この見た目じゃ、護衛する側にしか見えないよね。
「かしこまりました。詳しい依頼内容をお聞かせ願います」
「えーっと、少し急ぎなんですけど。今日、これから日没あたりまで、東門を出た付近の森を探索したいんです。それの手伝いと、強い魔物が出た場合の私の護衛です」
「これから……ですか? となりますと、現在、ギルド内に居る冒険者のご紹介しかできませんが……」
「できれば、中型以上の魔物でも戦える人がいいんですけど、そういう人って居ます?」
「はい、滞在しておりますので、その点は大丈夫です」
「ちなみに、紹介される人って、あそこで飲んでる人達とかですかね?」
ギルド内に居る冒険者ってことは、あっちの酒場で飲んでる人達よね?
こんな時間から飲んだくれている姿を見せられると、ちょっと不安なんだけど……
「ええ、はい……緊急のご依頼となりますと、そうなります。ですが、ご安心ください。2階などにも待機している者はおりますし、神聖魔法の使い手も居ますので、皆、直ぐにでも酔いを醒まして対応は可能ですので」
「なるほど。そうなんですか」
へー……
さすが魔法があるだけあって、酔っている程度では支障が出ない様になってるのか。
まあでも、そうでもないと、仕事場に酒場なんか併設しないか。
「それで、ご予算の方ですが……」
「ああ、えっと、大金貨50枚で」
「ご、五十枚!? え……? あの?銀貨の間違いではなくてですよね?」
あれ……?
もしかして多かった?
いや、でも、もう言っちゃったし……
別に少ない訳じゃなさそうだし、このまま押し通すか。
「ええ、はい。大金貨五十枚です」
「えっと……そうなりますと、依頼料に関しては問題ないのですが、そのぉ……ご依頼の目的とか、想定が――」
戸惑う受付の人を見て、依頼料は取り下げた方が良かったか?と頭を過る。
その時、私の背後から声が掛かった。
「おいおい、随分と面白そうな話をしてるじゃないの? アリーシアちゃん、その依頼、俺達に回してよ」
声のした方を見てみると、一人の男性が、お酒の入ったジョッキを片手に、こっちへ向かって来るのが見えた。
「あの人は?」
「あちらはAランクのクラン、ハシジェーロのリーダーを務めているジェロウムさんです」
近寄って来る男性の事を受付さんに聞いてみると、そう答える。
Aランクという事は強いのだろうか?
「どうも、ジェロウムだ」
「ルークスです」
「てっきり、あんたは同業者か、ここいらの兵隊さんかと思ってたんだが、まさか依頼人だったとはねぇ……。で、盗み聞きしてたみたいで悪いんだが、話は聞かせてもらったよ。あんた、護衛を探してるんだろ?」
「そうです」
説明が省けて助かる。
見た感じ、三十代前半といったところだろうか?
背は高く、引き締まった身体つきで、こげ茶のウェーブかかった長め髪を後ろで束ね、顔には多少の無精髭がある。
少し酔っているみたいな表情ではあるけど、歳と共に経験を重ねて来たという雰囲気が感じられる男性だった。
「それで、そこらの森を、あんたが散歩するのを夕方まで守り抜けばぁ……大金貨が50枚と? この条件で合ってるかい?」
「ええ、まあ」
「それは、随分と美味しすぎる話だねぇ――」
そう言った彼は、先程まで酒に酔っていたかの様だった表情を、一瞬で鋭い物に変えた。
「――何か裏があるんじゃないか?と、ギルドとしても、俺らとしても疑っちまう様な話だ」
こういう感じの人、前世でも、たまに見たわねぇ。
有能な中間管理職タイプで、敵に回すと面倒だけど、味方だと頼もしいって感じの。
「たとえば、あんたがヤバイ連中に命を狙われてるとか、そいつらをおびき寄せて、俺達に始末させようとか企んでるんじゃないか?とかさ」
ヤバイ連中では無いけど、追われてはいるかも?
でも、見つかったら見つかったで、別に、彼らと戦闘になる様な事は無いわよね。
「あー……なるほど。すみません、こう言った依頼をするのが初めてで、相場も分からなかったもので。不足のない金額を用意しただけで、そんな感じの物騒な事もないです」
「ふぅん……まあ、それならいいさ。それで、森に行く目的をお聞かせ願いたいんだが?」
「それは、魔物と戦うため、ですかね」
「魔物と……? 言っちゃなんだが、あんたのそのなりなら普通に戦えそうに見えるが? どうしてまた、護衛なんかが必要なんだい?」
「保護者がうるさいもので、条件を出されたんですよ。中型以上の魔物を倒せるくらいの護衛でも連れてかないなら門の外には出るな、と」
「そりゃまた、随分と過保護な保護者さんだ……」
今回は味方として動いてもらいたいので、出せる情報は出した方が、こういう時はスムーズに進むはず……
一応の説明で、ほんの少しだけ表情が和らいだみたいだけど、まだ疑いの方が強そうな感じね。
でも、そんな中で、損得勘定も考えている風でもある。
「いいですぜ。その依頼、俺らが引き受けましょう」
お?
どうやら、得の方へと、彼の中の天秤は傾いたようだ。
「ジェロウムさん、お受けになるんですか?」
「いいじゃないの、アリーシアちゃん。こんなおいしい話、見逃す方がどうかしてるってもんさ」
「ですが……」
「まあまあ――だが、条件が二つある。一つは前金で大金貨を10枚。もう一つは、人が襲ってきた場合、俺たちは関与しない。この二つだ。どうだい? ルークスの旦那?」
ジェロウムさんは受付さんをなだめると、指を一本一本立てて条件を言った。
受付のアリーシアさんは反対気味な様子だけど、彼の方は、この条件を飲めば受けてくれそうね。
でも、まだ彼の実力が分からないのが、こっちとして頼んで良いのかの判断が付かない。
「その条件は問題ないですけど、そちらが私の条件を満たしているかが分からないんですが?」
「ん……? そちらの条件てーと……ああ、中型以上の魔物を倒せるかって事か? それなら大丈夫だ。俺たちはAランクのクランだからな」
「ジェロウムさん、ジェロウムさん。王都だと冒険者は、あまり有名じゃないんですから、ランクだけじゃ伝わりませんよ?」
受付さんが私の知りたかった事に注意を飛ばしてくれて助かった。
ランク分けされてる所までは分かるけど、私には、その内容が不明すぎる。
「おおっと、そうだったなぁ……あーっと、ランクってのはあれだ、俺達の実力の階級だな。ランクを決める条件は色々とあるんだが、戦闘面の条件の中に、どの程度の魔物まで倒した事が有るかってのがある。俺のクラン、ハシジェーロはAランクで、クランでなら大型の魔物も倒したことがあるって事だ」
「クランってことは、それなりの大人数なんですよね? 個人個人の実力とかランクってどうなんですか?」
「個別で言うなら俺はBランクで、実力は複数の中型の魔物を倒せるくらいだ。メンバーの平均はC辺りだな。Cでも1人で単体の中型の魔物を倒せる実力は持ってるし、実績もあるから安心して任せてくれていい」
なるほどなるほど……
彼らなら大丈夫かな?
「(どう思う、ベディ?)」
「(彼の言が本当なら、中隊規模の騎士団と同程度の実力はあるだろう。私の見立てでも、同様の実力はある様に感じられる)」
なら、彼らにお願いするか。
「それじゃ、よろしくお願いします。ジェロウムさん」
「オーケー、了解だ。ルークスの旦那」
「とりあえず、こちら前金です」
早速、買ったばかりのポーチから大金貨10枚をとりだし、彼に渡す。
「おう、10枚たしかに。アリーシアちゃん、これギルドの分」
「はい、たしかに」
「じゃあ、ちょっくら仲間を集めてくるわ」
私から前金を受け取ったジェロウムさんは、受付に大金貨を1枚だけ渡すと、さっそく酒場の方へと戻り、仲間の人達に声を掛けに行った。
「よーし、お前ら! シャキッとしろォ! 仕事だァ!」
「はぁ!? マジかよリーダー!?」
「さっき街に着いたばっかじゃねえか!?」
「ふざけんなァ!!」
「文句言うな! たった2~3時間、森のお散歩をするだけで大金貨45枚の仕事だ! 日暮れには帰って来れるし、終わり次第、全員に大金貨2枚のボーナスがあるぞ!!」
「うっひょー! マジかよ、その話!?」
「最高だぜリーダー!!」
「やったぜ!!」
受付のアリーシアさんに残りの依頼料を払っていると、後ろの方から奇麗な手のひら返しの声が聞こえて来る。
いっそ、清々しいわ。
「はい。たしかに大金貨40枚お預かりいたしました。こちらは依頼の達成伝票になります。依頼が無事に達成されましたら、そこにサインをして、ジェロウムさんに渡してください」
「わかりました。あと、お手洗いって何処です?」
「お手洗いは、そこの通路の先の左側にございます」
「どうも」
達成伝票とやらを受け取り、私も準備をするため、ちょっと一人に慣れる場所へと急ぐ。
森へと行くのはいいけど、ゴーレムに武装が無い事に気が付いたためだ。
「ここね」
「そっちは婦女子側だが、いいのか?」
「おっと、この格好でこっちに入るのはマズイか……」
ベディに言われて気が付き、あわてて男性側の方へと入る。
格好は大柄な男性の鎧姿とはいえ、異性側のトイレに入るのって、なんか変な気分ね。
本当にお花摘みをするわけではないからいいけど、男子トイレって個室はあるわよね?
「……よかった。誰も居ないみたい」
個室もあるし、冒険者の人達の中には大柄な人も多いためか、比較的広く作られているのも助かる。
さっそく私は、一番奥の個室に入り扉を閉めた。
「急いでいるし、とりあえずシンプルに剣と盾でいいかな?」
コクピットを開けて、左の腕部を目の前に持ってきて、そこに盾と取り付けためのアタッチメントと握り手を作る。
盾の内側に剣を収納できる形にして、盾は左腕にガッチリと固定させておこう。
剣は……上手く扱えるか不安だし、切れ味とかは二の次で、頑丈さと重さだけを重視した物にしてっと……
「よし! これでいいわね」
武装を作り終えてホールに戻ると、十人程の集まりがジェロウムさんを中心に集まっていた。
全員、先程のまでの酔っ払ってた時とは雰囲気が一変して、何某かの武器や防具を身に纏い、準備も万端な様子だ。
「おっと、ルークスの旦那が戻ってきたな……」
「ジェロウム、たしかに報酬は美味いが、あんな素顔も見せないやつの依頼、本当に受けるのか?」
「それは、こっちも見ない様にしてんだよ。素性まで知って変な事に巻き込まれるのも勘弁だからな。厄介事になっても大丈夫な条件は出したし、前金だけでも十分だ。その点は抜かり無いから安心しろ」
「ならいいが……」
「ハシーム、お前は上の奴らを連れて後から来い。一応、尾行とか、その辺の警戒もしてくれ」
「了解だ」
何か作戦会議みたいな事をしていたけど、それを終えると、私とすれ違いで褐色の男性がホールにある階段から二階へと上って行った。
「おう、ルークスの旦那、こっちに来てくれ。ん……? 旦那、武器なんか持ってたのかい?」
「ええ、上手く扱えるかは分かりませんけど」
ジェロームさんも、金属製の胸当てを身に着け、腰のベルトには長剣らしき物と、背には盾を背負っている。
後ろにいる人達の装備も様々で、私と似た様な全身鎧を着ている人や、いかにも魔法使いといった風体の女性なんかも居た。
「そうですかい。とりあえず紹介します。こいつらが、うちのクランメンバーです。まぁ、名前に関しては、俺と、このバラッドだけでも覚えておいてください。主に、俺とバラッドが旦那の傍に付いて回り、他の者は付かず離れずの距離で周りを警戒させますんで」
「バラッドです。よろしく」
バラッドと名乗った黒髪の男性が一歩前に出て挨拶してきた。
見た感じ、皮鎧で身を包んで、数本のナイフを体の各所に括り付け、背に弓と矢筒を背負っている。
身軽に素早く動ける格好だし、斥候とか、そういうタイプの人だろうか?
「よろしくお願いしますバラッドさん、ジェロウムさん。さっき、すれ違いで上に誰か行きましたけど、これで全員ではないんですか?」
人数的には、ジェロウムさんとバラッドさんを入れて十人程だけど、他にもメンバーが居るのだろうか?
「うちは全員で17人ほどのクランです。二階で普通に休んでる奴らも居ますから。そいつらは後から来ますよ」
「ギルドの二階って、何があるんです?」
なんか、ギルドの二階の作りって変な風になってるのよね。
小部屋みたいな物が沢山あるというか、休憩室みたいな物しかなかったというか。
仕事場と言うより、まるで宿泊施設みたいな感じに見える。
「あー、ここのギルドの二階は、無料で一泊だけ出来る宿屋になってるんですよ」
「無料で? ギルドが宿屋や酒場も経営してるんですか?」
やっぱり宿泊施設だったのか。
あるのかどうかは分からないけど、風営法みたいなものや、他から文句が出たりしないのかしらね?
「一泊だけしか出来ないんで、1日泊まったら他の宿屋に追い出されますがね。まあ、こんな作りになってるのは、この王都のギルドだけですが」
「王都だけ? 何か理由が?」
「この王都だと、俺ら冒険者の仕事の9割は商隊などの護衛の仕事が主ですから。他の都市からやっとの事で到着したはいいけど、宿が取れないって事態を無くすためです」
「冒険者の様な者達は、宿が取れないなら街壁の外で野営をすればいいと考える者が多いので。他所の都市ならそれも良いかもしれませんが、この王都でそれをやると、未熟な者達は命に係わります」
ジェロウムさんとバラッドさんが懇切丁寧に説明してくれたけど、この王都の外は魔境か何かなんだろうか?
「とりあえず、東門に行きましょうや。今ならまだ混雑する時間じゃないんで、すんなり通れるはずですよ」
「そうなんですか、わかりました」
ジェロウムさんに促され、とりあえず冒険者ギルドから出て東門へと向かう事となった。




