第13話 お金
教会を離れてから数分。
私は行動を決めあぐねていた。
「問題は、どこに伝えるかと、伝え方なのよね……巫女とバレないように」
「王国の騎士団が無難だとは思うが。ティアルの素性を明かす必要が出てくるだろうな。神殿も同様だ」
「やっぱバレると思う?」
「仮に、神託とは言わずに騎士団に動いてもらったとしよう。魔物が現れなければ、ティアルのわがままに振り回された、で済む話しだが。実際に魔物が現れて撃退した場合、良かった、で済むと思うか? 情報の出どころを聞かれるのは明白だ。そして、君は今まで城の極一部の者としか接点が無いときている」
「ごまかしても、その内、巫女ってバレる可能性が高いか……」
「そうだな。ちなみに、現在は神殿に巫女が不在で、神殿や教会関係者が次代の巫女を探し回っているとの情報も街に漂うマナにはある」
「巫女ってバレたらどうなると思う?」
「巫女とは、人々にとって世界の命運を握る大切な情報源だ。今以上に丁重に扱われるのではないか? 王国側であれ神殿側であれ、厳重な安全体制をしいて、そこに匿われるだろう」
そうなったら、戦闘訓練とかは無くなるかもだけど、今みたいに隙を見て外に遊びに行くなんて自由も無くなりそうなのよね……
なんか、この状況は詰んでる気がしてきた。
誰かが、運良く問題の魔物を倒してくれたりしないかな……
誰かが……倒す?
「……私が魔物を倒しちゃダメかな?」
「まて、何を言っている?」
生身の状態ならまだしも、今の私は憧れのロボットをに乗ってるのよ?
何のために、これを作ったのよ?
あのロボット達の勇姿に憧れたからでしょう?
そうよね。
何を、今まで寝ぼけた事を考えてたのかしら。
「要は、魔物を撃退すれば誰でも良いのよ。私だって。私自身でやれば、ルイン達に怒られはするかもしれないけど、誰にも巫女とはバレないし。街の人の被害も減らせるし、一石二鳥よ!」
「無謀と言う言葉を知ってるか?」
「大丈夫よ。ちゃんと考えもあるわ」
ベディは反対みたいだけど、方法はこれしかない気がする。
それに、そろそろ私が城壁の外に居るのが、ミアにバレててもおかしくない頃合いだし。
本人が捕まえに来るか、騎士団を差し向けて、私の事を探させるはず。
それも利用してしまえばいい。
「作戦はこうよ。私が東門の外に行くでしょ? そして魔物を見つけて、倒せるなら倒しちゃってもいいし、ダメそうなら、そこに私を探し来たミアや騎士団を誘導するだけでもいいのよ」
「行き当たりばったりすぎる。それに私が心配しているのはそこではない。魔物の戦力や規模と、君の戦闘経験の方だ」
「戦闘経験なら、実戦では無いけどあるわ」
「城での訓練の事か? 君はまだ、基礎の基礎を習いは始めたばかりだろう?」
「違うわ。向こうの世界で、初代様と私とでは生きてた時代が違うのよ。私の時代には、戦闘を体感して学べる物が豊富にあったのよ」
主にゲームの事だけど。
ゲームみたいな便利な機能は無いけど、柔軟に動ける分、有利な所もある。
スラスターやバーニア移動は無し、ロックオンやレーダー機能も無し、用意できる武装は近接がメイン、動作は全てが思考によるマニュアル。
現状、バーチャ・オンみたいな高速戦闘は無理でも、挙動がリアル寄りなロボゲーくらいの動きは可能なはずだ。
「ふむ……君が、こんな特殊なゴーレムの操作を短時間でスムースに行える様になったのは、それによる物か」
「そうよ。一応、ベディの意見も聞きたいんだけど、私と、このゴーレムって、どの程度の魔物までなら相手できると思う?」
「君の体感したと言う戦闘経験の内容が不明なので、このゴーレムの構成素材やティアルの魔力量からの推測にはなるが、小型の魔物相手なら現状でも戦えはするだろう。中型以上となると不明だ」
「中型以上かぁ……じゃあ、こうしましょう? 行ってみて、中型以上の魔物が出たら無理せず撤退。街壁か門の所の兵士に助けを求めるか、ミアにもらった水の玉を介して危険を伝える」
「……いや、それでもダメだ。単独では危険すぎる。すまないが、行くというのなら、私が先にミア殿に危険を知らせる事になる」
ベディも頑固ねぇ……
「じゃあ、どんな状況なら行ってもいいの?」
「最低でも、中型以上の魔物を相手取れる複数人の護衛が居れば、だな」
「そんな人達、どこで調達しろっていうのよ? 騎士団や神殿に頼れないから悩んでるって――調達?」
調達、調達ねぇ……
「ねえ、ベディ? この街に、城の騎士団と神殿以外で、魔物と対峙できる人達って居ないの?」
「ふむ? ……居るようだな。ハンターギルドと、冒険者ギルドと言う組織なら可能な様だが」
お?
やっぱりあるのね。
「じゃ、そこで護衛を調達しましょ」
「彼らは騎士団などとは違って営利団体だ。君の素性の心配はいらないかもしれんが、報酬が無ければ動かせんぞ?」
「報酬ならどうとでもなるわ。私の魔法を忘れたの?」
「……そういう事か」
金銀程度ならジャブジャブ出せるし、報酬で動かせるなら楽勝よ。
「それで、二つのギルドの違いもわかる?」
「ハンターギルドは魔物狩りを専門とする所だ。冒険者ギルドの方は依頼を受けて多岐にわたる活動を行う所の様だな。ハンターギルドは依頼を受けて活動する形式では無いらしいので、ティアルの目的としては冒険者ギルド側が適任だろう」
「ふーん……じゃあ、冒険者ギルドに行きましょうか。それで、一番近いのはどこ?」
「この大通りの東門の近くに、一番大きい冒険者ギルドがある」
「おあつらえ向きな場所ね。急ぎましょうか」
作戦も考えも決まったので、駆け足気味で東門の方へと向かう。
幸い、こちらの外見が大柄な鎧姿で、ガチャガチャと音を立てている所為か、通りを歩く人達も避けてくれるのでスムーズに進める。
「とりあえず、その作戦で行くとして。報酬の支払い方法はどうするのだ? まさか、金塊などで渡すつもりか?」
「ダメ……かな?」
「私がクーゲルと共に地上に来た頃は貨幣経済という物は崩壊していたが。今の対価のやり取りは、金銭での支払いが一般的な様だぞ?」
考えてみれば確かに。
いきなり金塊をドンッと置いて「護衛を雇いたい」って言っても、怪しい事この上ない……
下手すると、何処で手に入れた?とか、本物か?とかで揉めそうだ。
「それもそうねぇ……じゃあ、お金を作っちゃいましょ」
「……うん?」
「貨幣なんて、国が発行して流通させる物なんだし。国の代表とも言える、王族の私が作っても問題ないわよね」
「いやまて、理屈として、それは合ってるのか……?」
「お金なんてそんなもんよ。まあでも、一応、お財布とかも用意しといた方がいいかな?」
子供の買い物じゃないんだし、手からジャラジャラと貨幣を出して渡すわけにもいかない。
それに、お金を魔法で複製するのはいいとして、今までお金の現物って見た事ないのよね。
どこかで財布に代わる物を買うついでに、そこにあるお金も見て、現金調達の手伝いもさせてもらおう。
「えーっと……あのお店でいいか」
少し足を止めて、周囲にあるお店を見渡す。
見つけたのは、ちょっと高級そうな店構えの革商品を扱っているお店だ。
店の前まで行き、ガラス張りの戸を開けて中に入ると、中には上品そうに様々な革製品が並んでいた。
「当店に何か御用ですか?」
店内を見渡すため入り口付近で立ち止まった所為か、店員さんの一人に声を掛けられてしまった。
私の姿が店のTPOにそぐわないからか、店員さんも少し訝し気な態度と表情だ。
強盗とかではないので安心していただきたい。
「あー、ちょっと、小物を入れて持ち運べる物を探していて」
「ああ、お客さまでしたか。どなたかへの贈り物で?」
「いえ、自分用です」
店員さんは、私が客だと分かると、表情に少しだけ接客スマイルを浮かべる。
いや、目が笑ってないな……
ごめんねー
でも、ちょっと、財布代わりになりそうな物と、お店のレジか金庫の中身も見せてねー
「当店は普段使いか、礼装に合わせる物がメインでして。お客様がお使いになるような物は取り扱いが少ないのですが……よろしければ、他の店をあたっては?」
「そうみたいですね。でも急ぎで必要なので、何か適当に見繕ってくれます? 腰辺りにベルトで固定できそうな物をお願いします」
「はあ……かしこまりました。少々お待ちください」
強引にゴネてみると、渋々と言った感じに店員さんは商品を取りに行った。
この間に、もう一つの目的も済ませてしまおう。
あのカウンターの裏側辺りかな……?
ビンゴ!
少し見られたくないという意思が宿っているから透視しづらいけど、カウンターの裏側に金銭のやり取り用の箱があるのが見えた。
……しまった。
お金の現物を見て気が付いたけど……
お金の価値も、お金の種類もさっぱり分からない。
「(ベディ、お金の種類を教えて!)」
「(そんな事も知らずに店に入ったのか!? 貨幣の種類は金額が小さい方から、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨だ)」
「(それぞれの通貨単位は?)」
「(単位の名称はセン。銅貨1枚で1センだ。大銅貨で10セン、銀貨は100、大銀貨は500、金貨は2500、大金貨は5000だ)」
思ったより分かりやすくて助かった。
種類的にも変なのが無いし、それなら何とかなりそうね。
ふぅ……紙幣とかもあったらどうしようと、少し冷や汗をかいたわ。
えーっと……
という事は、レジっぽい物の中にあるのは、銀貨に大銀貨、それとおそらく金貨かな?
銅貨っぽい物は入ってない。
お店の商品の値段から察するに、銅貨なんか扱ってないし、いりませんよって感じがする。
ふーん、どれも純銀とか純金製ってわけでもないのね。
金貨は7割が金で、残りが銅との合金みたい。
大金貨は、どこにあるのかしら……?
一万円札みたいな物なんだろうし、お釣りとしては使わないから、こっちには置いてないとか?
あるとしたら、カウンターの奥にある扉の先かな?
あったあった。
扉の奥の個室に、金庫っぽい物がある。
なんか……
こんな事してると、本当に強盗の計画をしている気分になってくるわね……
「お待たせしました。こちらのサイドポーチでは如何でしょう?」
金庫の中の大金貨を複製しようとしていると、さっきの店員さんが赤み掛かった色のポーチを持って戻ってきてしまった。
「材質は炎竜の皮を使い、四方にマチをあてて厚みを出し丈夫に作られておりますし、ベルトを調整すれば肩掛けにも腰掛けにもなります」
男性物のサイドポーチだけど、見た感じ悪くはない。
まあ、前世では、あまりブランド物なんかに興味は無かったから、良し悪しなんか分からないけど。
丈夫そうだし、この搭乗型ゴーレムの外見にもマッチしそうだ。
「あー、えー、じゃあ、それで。いくらです?」
「こちらは二万五千センになりますが……お支払いは可能でございますか?」
「じゃあ、これで」
ゴレームの掌の中に、出来立てほやほやの大金貨を5枚握らせ、店員さんに渡す。
「え……? ええ、たしかに……。あ、あの、何かにお包みいたし、ましょうか?」
「いいえ、そのままで。値札とかは取っちゃってください。直ぐに使うので」
「か、かしこまりました」
店員さんが、少しぎこちない手つきで、値札と中に入れられていた緩衝材を取り出して渡してきたので、それを受け取る。
「どうも」
「お買い上げありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
店員さんに入店時と180度変わった態度で見送られながら、私はそそくさと店を出た。
なんか様子が変だったけど、渡した大金貨の作りが甘かったかな?
それなりに精工に作ったつもりだけど。
それに、なんだか手軽にお金を作って支払った所為か、若干の後ろめたさがあるわね……
まあ、いいわ。
これも世界のためよ!
とりあえず、ポーチの中に大金貨を生成しながら、東門方向へと行きましょう。
「あとは、護衛を雇うにしても、予算はどれくらい必要なんだろう……? ねえ、ベディ? 物価ってわかる?」
「物価か……ここだと少々難しいな。この大通りは国外の者も多く居るためか、物の価値の情報の均一性が測りにくい」
「どゆこと?」
「この辺り一帯が、人や物が流入する王都の玄関口になっている所為で、マナに溶け込んでいる情報が混線している部分がある。王都では魔物の素材や木材が安く買えるが、穀物や一部の縫製加工品は高いといった共通認識までは読み取れる。だが、同じ品物に対して、複数の国の者の持つ違った価値観が混在し、個別認識が混沌としていて読み取りが難しい」
「ふーん……あなたの能力も良し悪しな所があるのねぇ」
「すまないな」
「いえ、しかたないわよ。場所が悪かったってだけでしょ? 護衛の依頼料は適当に用意するわ」
護衛とはいえ、危険が伴う仕事を頼むのだから、このポーチより安いって事は無いだろうし。
とりあえず、50枚ほど生成しておいて、足りなければ追加で作ればいいか。
ポーチのベルトも調整して腰に……
むぅ……
ベルトの金具を弄るのがなかなか出来ない。
まだ、マニピュレータでの細かな動作は難しいわね……
「……よし、できた! それで、そろそろ東門も見えて来たけど、冒険者ギルドの建物ってどこ?」
「もう少し先だ、剣と盾の紋章の看板が掛けてある所らしい」
「んー……もしかして、あそこかな?」




