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異世界ブンドド ~夢とロマンに生きる王女~  作者: あてだよ
胎動編

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第11話 街へ

 走行訓練を終えて、訓練場の外に向かう途中。


「それにしても、声を変えるなんて芸当が出来たのね」


「昔クーゲルが、音は空気の振動だと言ってな、色々と試した事があり、その時の産物だ。望む効果を出すのに苦労した割には使い道が無かったのだが、こんな所で役に立つとは、私も驚きだ」


「苦労って、そんなに難しい事なの?」


「まだ、音を消すとか、遠くに届けるといった方が簡単だな」


「ふーん。そういえば、ベディって、今どうやって喋ってるのよ?」


 今まで気にもしてなかったけど、声の話をしてて、今更ながらペンダントのベディがどうやって音を出しているのかが気になった。


「この声は厳密には音ではない。声として聞こえているかもしれないが、実際には魔力による伝達情報音だ」


「伝達情……なにそれ?」


 私には、ベディの声が少し艶のある落ち着いた感じ男の声に聞こえてるけど、これが声でも音ではない?


「ふむ? その様子だと、まだ詠唱の方法などを教わっていない様だな。簡単に言えば、私の声は詠唱の際に使う声と似た原理で発している」


「詠唱の声ねぇ……」


 あの、二重に聞こえる妙な感じの声でしょ?


 ルインやミアが詠唱をしてる所は見た事あるけど、やり方は分からないままなのよね。


「詠唱って何かコツみたいな物ってある?」


「すまないが、私には肉体としての発声器官がないので教えるのは難しいな。声を出さずに声を出すと良いという話だが」


「声を出さずに声を出す……とんちか何かかしら?」


 そんな話をしてたら、直ぐに訓練場の外の広い道路に出た。



 出たはいいけど、問題はどこから街に行くかよね。


 いくつか行きたい所があるけど、そのどれも場所が分からないのが困りどころだ。


 王城内だって、まだ詳しくは知らないのに、街の方なんて、さっぱりである。


「うーんと……あっちが正門だから西で、てことは向こうが東だから……たしか西側に貴族が住んでて、東に一般の人達が住んでるって言ってた気が……」


「おそらく、貴族街は魔の大樹海に近い方に、防波堤となる様に作られているはずだ。なので、それで合ってるだろう。それで、何処に向かう気なのだ?」


「塗料になりそうな物がないか、お店を見たいのと。あとは教会かな」


「ふむ……少し待て、調べてみよう」


「調べるって、どうやって?」


 もしかして、さっきの声の変換みたいに、ネット検索みたいな便利能力でも持ってるの?


「私は、大気のマナに溶け込んでいる人々の知識を読み取る事が出来る」


「へー、凄いじゃない」


「と言っても、霧散していない物に限るがな。精々が、その地域の一般常識的な物までだ」


「なにそれ便利。それでも十分よ。それで、何か分かった?」


「教会の位置は分かったが、塗料に関しては不明だ。品物自体はあるらしい事は読み取れたが一般的な物ではない様だな」


「塗料は分からずかぁ……。まあ、どこかに売ってる事が分かっただけでも良しとしなきゃね。で、教会の場所は?」


「城から一番近い教会は、東門から出て直ぐの所だな」


「東門ね。ありがと。それじゃ行きましょうか」


 今まで、小言を言うだけの首飾りとしか思ってなかったけど、今日のあれこれで大分認識が変わったわね。

 前に、自身の事を子守みたいな物だとか言ってたけど、今の私にとっては十分に頼りになる。


「ベディって色々と役に立つわね。なんか見直したわ」


「そうか。私も見直したとは違うが、ここ数日でティアルに対しての認識が変わった部分が多いな」


「私の? どこが?」


「何と言うか、先ほどの訓練場の時もだが、本当の君の顔を見た気がする」


「顔……? 何か変な顔でもしてた?」


「変ではないが、実に楽しそうに、生き生きとした表情を浮かべてはいるな」


「ふふ……そう」


 楽しそうか。

 それはそうよ。


 長年の夢が叶ってる真っ最中なんだし、変に顔がニヤけちゃうのを止められるわけがない。


「それと若干だが、これに乗っていると性格も変わる様だ」


「性格も……? そんな事ないでしょ。にしても、お城の外も広いわねぇ」


 あんなコロシアムみたいな訓練場があるだけでなく、畑や果樹園、城とは別に大きな屋敷も数棟立っているし。


 千葉にあった夢の国と、どっちの方が広いかな?

 あそこも無駄に広くて、乗り物を数回乗ったら疲れて帰りたくなった思いでしかないけど。

 

 私としては、あっちより富士の方にある遊園地の方が好きだったな。

 グンダムライドとかあったし。


 今はまさに、ずっと体験型アトラクションに乗っている様な、興奮とワクワクが止まらない状態だ。


「……少し良いか? 街に行く前に、言っておく事と、頼みがある」


「ん? 何? もしかして、いまさら止める気?」


 道中の景色を眺めながら取り留めも無い事を考えていると、おもむろにベディが話しかけてきたが、その声は少し思案気な物だった。


「いや、私が行えるのは忠告までで、ティアルの行動を止める事まではしない。これは、ただの取り扱い説明書の様な物なのだが」


 取り扱い説明書?

 急に、いったい何の話?


「私は道具だ。故に責任を取る事が出来ない」


「責任?」


「例えば、これから君が街に行き、そこで強盗や暴漢にでも会ったとしよう。私が自らの意思で出来るのは、彼らからの攻撃を防ぐ事までで、自主的に相手を攻撃する事まではできない」


「えっと、防御するだけで反撃まではしてくれないって事?」


「そうだ。相手が魔物などであれば別だが。こと、人相手の場合、私には制限がある」


「ふーん……なんでまた、そんな制限を掛けられているの?」


「それは、私が人の助けとなるために作られたからだ。そして、それが私の望む事でもある。その私が人を害したのでは本末転倒だ」


 それもそうか。


 話を聞くに、ベディの元の持ち主の初代国王さんも、人類の壊滅的な状況を助けるために、勇者としてこっちに来たっぽいし。

 ベディ自身も、同じ様な使命と制限を持っているのも当然よね。


「なるほど……それは分かったわ。でも、それが責任うんぬんと、どう繋がるのよ?」


「たしか、君の元の世界には銃という物があったと聞く。クロスボウなどと同じく、引き金を引くだけで人を殺せるとか」


「あるわね」


「その銃が人を殺したとして、その銃自体が人を殺した事へ対して謝罪や後悔の念など、何かを思う事は出来ない。それが出来るのは、心を持ち、銃を使った使用者だけだ」


 それは、そうでしょ?


 何を当たり前の事を――あぁ……そう言う事か。


「つまりは――ベディ。あなた、私の命令があれば人を攻撃できるのね?」


「……その通りだ」


 それで『責任を取る事が出来ない』か……


 回りくどい言い方ね。


「それで、頼みって? 私に何を求めるの?」


「君が、人の害意にさらされた時の反撃許可だ」


「あんた――」


 人の助けとなる事を望むって言っておいて、人を害する許可を求めるの?


 私を守るために?


「――アホじゃないの? そんなの与えるわけないでしょ。人相手に何かする時は、私が私の意思でするわ」


「だが、不測の事態は起こりうる。緊急を要する時には必要になる事なのだ」


「その時は、その時よ。どうしようもない時は何か頼むかもしれないけど、その結果何が起きても、あんたは私に全部押し付けておけばいいのよ」


「そうか……君も奴と同じ様な事を……」


「ん?」


「いや……わかった。では、そうする事にしよう」


「そう? なら、そうしときなさい」


 あの神様も、なんでこんな風にベディを作ったのよ。


 まったく……可哀そうだとは思わなかったの?


 そんな、なんかモヤモヤする会話を続けていると、城壁にある大きな門が見えて来た。


「大体ね、治安の悪そうな所にでも近寄らなければ、そう簡単に、そんな目になんか合わないし」


「ふむ。直近で確実に起こりそうな事は一つあるが」


「え? 何? 何が起こるの……?」


「あそこの門から街に出たら、確実にルイン殿達からの説教の量は増えるだろう?」


「うっ……そ、それに関しては助けてくれても良いのよ?」


「私にできるのは忠告までだ。それに、君に全部押し付けろと言ったのは君だ」


 そこは例外って事にしてくれても良いんだけどなぁ……



 分厚い城壁に挟まれた城門をくぐると、視界が開け、ようやく街の様子が見えて来た。


 街と城壁の間には奇麗な水を湛えた深い堀があり、それを渡る様に跳ね橋が掛かっている。

 その先には、片側二車線の道路よりも広いメイン通りが真っ直ぐに伸び、そこを大勢の人々と馬車が行き交い。

 それらを挟む様に、様々な建物が両サイドに立ち並び、雑多ながらも整然とした雰囲気を感じた。


「はえー……なかなかに壮観ねぇ」


「おい、お前、その格好で街に行くのか?」


「え?」


 街の景色に見とれて少し立ち止まっていたら、突然、門番らしき人に声を掛けられてしまった。


「あ、えっと。不味いですかね?」


「武器を携行してなければかまわんが、そんな目立つ格好で酒場とか、あまり変な所へは行くなよ? お前らが何かして最初に苦情を聞く事になるのは俺達なんだからな」


「ああ、はい。買い物に行くだけなんで、その辺は大丈夫だと思います」


 ちょっとヒヤッとしたけど 咄嗟にベディが声を変えてくれたので事なきを得た。


 ついでだから、不明なままだった塗料を売ってる所でも聞いておこう。


「ちなみに、絵具とか塗料みたいな物を売っている店って分かります?」


「絵具……? いや、すまんが分からん。俺等に聞くより、通りにある商店で聞いた方が分かるんじゃないか?」


 うーん、やっぱり知らない感じか。


「そうですね、そうしてみます。ありがとうございました。それじゃ」


「暗くなる前には帰って来いよー」


「はーい」


 お礼を言って別れると、門番さんは軽く手を振り見送ってくれた。



 跳ね橋を渡り、大通りへと足を踏み入れる。

 すると、一気に空気が変わった感じがした。


 城壁の中は、草花も多く人通りもまばらだったので、少し牧歌的な雰囲気が漂っていたけど。

 街の空気は、音も匂いも景色も、そのどれもが違う。


 通りを行き交う人々の雑踏はランダムノイズなBGMを奏で、屋台やレストランから漂ってくる料理の臭いは空腹を刺激し落ち着きを無くさせる。

 立ち並ぶ店々はショーウィンドウに目立つ様に商品を並べて購買意欲を掻き立て、それに目を奪われた人は立ち止まり品物を眺めている。


 なんだか、この感じ、久しぶりね。


 東京とか都市部の繁華街とは景色が全然違うけど、漂ってくる雰囲気は似た物を感じた。


「この空気に飲まれると、いつの間にか時間を無駄にしてる事が多いのよねぇ……アキバとか」


「ふむ? それで、どうするのだ? 城門は出てしまったし、既にミア殿が探しに向かって来ているかもしれんぞ?」


「そうね、急がなきゃ。とりあえず、場所が分かってる教会に行きましょ。それで、教会のある方ってどっち?」


「もう見えている。前方の右側、巨大な木を象ったレリーフが飾ってある建物がそうだ」


 ベディの言った方角を見てみると、確かにそれらしき建物があった。


 ちょっと、イメージしてた教会とは違った雰囲気の建物ね……


 外見は広く大きい石造りの3階建ての建物で、宗教系を思わせる装飾などは一切なく、どちらかと言うと、市役所や学校などを連想させる作りをしている。


「……本当にここなの?」


「そのはずだが……どうやらここは学校としての役割もある教会らしいな」


 まんま学校じゃん……


 近くに行き、建物を囲っている柵と垣根越しに見上げてみると、窓から子供の姿がちらほら見えるし、子供達が集団で居る時特有の騒ぎ声みたいな物も聞こえる。


「えーっと……ここって部外者が入って良いのかしら?」


「大丈夫ではないか? 一応は礼拝堂もあると、周囲のマナ情報にはある」


 ほんとぉ……?

 日本だったら、こんな大柄の鎧姿の人物が敷地内に入った時点で即通報されそうなもんだけど……


 ベディに別の所を探してもらった方がいいかな……?


「うーん……」


「どうかなさいましたか?」


 建物を見上げて思案していたら、垣根の向こうで花壇の手入れをしていた初老の男性に声を掛けられてしまった。


「え? あー……ちょっと、こちらの教会というか、礼拝堂に用事がありまして。ここって教会で合ってます?」


「ええ、間違いございません。よろしければ、私が案内いたしましょうか?」


 白髪で濃緑のローブに身を包んだ男性は、作業の手を休めて立ち上がると、案内すると申し出てくれた。


「えっと、それじゃあ、お願いします」


「はい。では、こちら側へどうぞ」


 そう言うと、彼は私を柵の向こう側へと招き入れた。


 どうやら、礼拝堂は校舎の中ではなく脇の方に併設されていて、少し奥まった所にあるらしい。


 物腰の柔らかい用務員さんらしき男性は、そこへの道を丁寧に先導してくれた。


 校舎を迂回する道中では、時折、窓の向こうから子供達がこっちを見て手を振ってきて。

 こっちも振り返すと、また全力でブンブンと振り返してくる様子が可愛らしかった。


 ふふん、どうだ子供達よ。

 私の作ったロボは格好よかろう?

 

 世界は違えど、子供の純真無垢な心は、やはり強くてカッコイイ物に惹かれるらしい。


「子供達も、あなたが来て喜んでいる様ですね」


「騒がせに来てしまったみたいで、すみません。教会だとは聞いていたのですが、まさか学校の敷地内にあるとは」


「いえいえ。王都の中には教会がいくつかありますが、こちらは子供達に遠慮してか、一般の方が礼拝に訪れる事が少ないですから。久々の信徒の訪問に神もおよろこびでしょう」


「それなら良かったです」


 やっぱ、教会はここだけじゃないのか。

 

「それで、礼拝堂にご用向きがおありという事は、祈願か懺悔ですか?」


「そんなところです」


 神様にクレームを入れに行こうと思ってます、なんて言えない。


「そういえば、まだ名前を伺っておりませんでしたね。私は、この王都の神殿長を務めるドゥマルテと申します」


 は……?


 神殿長!?


 それって、お偉いさんじゃないの!?


 なんで、こんな所で草弄りとか人の案内なんかしちゃってるのよ!?


「俺、あー、いや、私はルークスと言い、あ、違う、申します。近衛騎士の見習いです」


 偽名なんかも考えていなかったから、いきなりの事でテンパってしまった。

 咄嗟にルークスと、騎士風の外見をしたロボット作品の機体名で答えちゃった……


「はは、そんなに、かしこまらずとも構いませんよ。それにしても、近衛の見習いの方でしたか。通りで、その様な格好をしていらっしゃるわけだ」


「あー……やはり、こんな姿で来たのは不味かったですか?」


「いえいえ、その様な事はございません。神殿の騎士団にも、見習いの内は、ルークス殿と同じ様に1日を鎧姿で生活させる訓練もございます」


 今まで話した人とか街中の人達が、そんなに不審がらずにいたのは、その訓練だと思われてた所為なの?


 人によっては、若干生暖かい目で見てきた気がしてたけど。

 新卒の新入社員が行う慣例行事みたいな物に思われていたからだったのか……


「神殿の騎士団も大変なんですね……あの、少し伺ってもいいですか? ドゥマルテさんは神殿長なんですよね? なぜ、こんな所に?」


「普段は孤児院のある教会に居を構えていますので、そこの子供達を朝こちらへ送り届けて、彼らの授業が終わるのを待っている間は、先程の様な事をさせていただいております」


 この人、肩書はあれだけど、暇なんだろうか?


「神殿長という事は、教会とは別に神殿があるんですよね? そちらに居なくても大丈夫なのですか?」


「神殿は、主のご神体をお預かりしている場所ではありますが。あちらは、言ってしまえば、我々聖職者達の集会所の様な所です。神殿での毎日の礼拝は欠かしておりませんが、私は、人々の助けとなり、教え導く事を志とした教会の働きを手助けしたく思い、この様な事をしてます。まあ、たまに神殿の者達からは怒られますが」


 やっぱ怒られるんだ。

 そりゃそうよね。


「神殿と教会は、目的が違うんですね。勉強になります」


「我々からすれば役割が違う場所ですが、信者以外の方からすれば、どちらも同じ様な物かもしれませんね。さあ、着きましたよ。こちらが礼拝堂です」


 ちょうど話に区切りがつくと、今度は宗教らしい厳かな装飾の施された、ちゃんとした建物が目の前にあった。

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