空の上には水族館があった
ある日、父が死んだ。
父は、昔から、
「空の上には水族館があって、死んだ人はそこで魚を見るんだ。」
と言っていた。
「水族館はずっと楽しめるだろ。だから人は死んでも暇を持て余さないんだ。空が青いのも、なんかそんな感じだ。」
普通にそんなわけないと思っていたので聞き流していたのだが、彼はその水族館に行くことができたのだろうか。
そういえば水族館ってどんな感じだっただろうか。
ふと思い、昔よく連れて行ってもらった水族館に行った。
錆びついた門に人影は見えない。
平日の昼間ということもあり、他の客は少なかった。
ペンギン、イルカ、アザラシ。
水族館の人気者たちはここにはいない。
解説板を見ないと何か分からないような生き物たちが、廊下を挟んで向き合っている。
昔は一字一句読んでいたが、今ではもうそんな集中力はない。
その奥にメインの巨大な水槽がある。
こちらにも名前が分からない魚たちが何種類も泳いでいるはずである。
そこに彼はいた。
「....................何してるんだよ。」
「いや、もう、死んだら自由だったからさ、
ちょっと入ってみようかな、って。」
「...............
いや、ちょっと入ってみようかな、って
................
まぁ、いいか。」
僕は思考を止める。
「水槽の中からもずいぶん楽しいぞ。
逆に人間動物園って感じだな。
くっそ、生きているうちに思いつけばなぁ。」
「人権的な問題でなんかアウトだろ。」
「あぁ、確かにな。」
なんなんだコイツ、本当に死んだのか?
「昔よくここに連れてきてやっただろ。
ここは、魚の説明が異様に詳しく書いてあるちょっとマニアで有名な水族館だからな。
なんか、お前を、賢く育てたかったんだ。」
「.........そりゃあ.........どうも。」
こんなやつだが、ちょっと考えて行動してたのか。
「んじゃ、ちょっと次は動物園行ってくるわ。」
「え、あ、ちょっと」
そこには何種類もの名前のわからない魚だけが泳いでいた。
周りに客は僕だけである。
魚たちは閉ざされた空間を優雅に泳ぎ回っている。
何か、妄想をしていたのかもしれない。
しかし、まぁ、
ここに来て良かったということだろう。
水族館を出ると、空には西からオレンジ色のグラデーションが綺麗にかかっていた。
近くの海は静かに波の音を立てている。
僕はちょっとマニアな水族館を後にする。
「また、来るよ。」
こちらから行かなくても、
あちらから勝手に来るかもしれないが。




