俺は犠牲になりたくない
今回も閲覧いただきありがとうございます。
今夜はクリスマス・イヴですかね。
寒いですが皆様楽しんで過ごされていることを願っています。
「という訳で、研究に協力してもらいたい。」
「嫌ですけど。」
「何故に!?」
今俺の目の前には細身で眼鏡をかけて白衣を着ている、如何にも科学者ですといった風貌の男がいる。
「研究って、それつまりは都合の良いモルモットでしょ。」
「何を言うか。魔力ゼロでどうやって生きているのか。それが解明できれば魔力枯渇に陥った人の助けとなるかもしれないだろう!」
「本音は?」
「解析結果で有名になって一生安泰で暮らしたい。」
「帰れ。」
ひとしきり問答した後にそいつは、
「今日はこのぐらいにしといてやる!気が変わったらいつでも連絡してくれ!」
とか言って帰っていった。
騒ぎを聞きつけたアーノルドさんがこっち睨んでくれたおかげだろう。
「騒がしくてすまないなあんちゃん。」
「いえ、まぁ気にしないでください。ところで魔力枯渇ってのは何ですか?」
「あぁそれか。まぁ文字通り魔力が枯渇する病気のこった。魔力ってのは歳と共に緩やかに弱っていくもんなんだ。」
「はぁ、まぁ体力とか筋力とかと同じですか。」
「そうだ。ただしこの魔力枯渇は年齢関係なしに急に魔力が減っていく。そうなると身体が持たん。大人ならまだしも、子供でこれが発病するとまぁ9割方……な。」
「……治すには。」
「今のところ不治の病だ。人や他から魔力を取り込んで延命はできるがな。」
「……そうですか。」
割と深刻な問題のようだ。
そうなると、あの男が言っていた研究ってのも本当に価値のある事なのかもしれない。
「まぁお前は気にせんで良い。これに関しちゃもう長い事国で研究されてることだ。お前一人でどうにかなることとは思わん。」
「そうですかね。まぁ……そうか。」
そもそも、俺はどこの誰とも知らない相手のために、一生を棒に振ってモルモット志願する善人じゃない。
この街の人達は好きだし、元の世界よりも過ごしやすいがそれはそれ、これはこれだ。
俺は何でもできる主人公じゃないんだ。
少しばかり空気が重くなったが、察したアーノルドさんがバシバシっと俺の背を叩き笑い飛ばしてくれた。
俺は気遣いに感謝しつつ、手頃な依頼を受注しギルドを後にした。
……ていうか背中めっちゃくちゃ痛いんですけど。
あの人力加減ってもの知らんのか。
主人公は悪人じゃないけど、自分を犠牲にとかは考えない一般人です。