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キャラデータは女帝の夢を見る~女帝、恋愛も世界も征服する  作者: 百鬼清風
第一部 ヴァンパイアロード・カイン
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第9話 風の中の少女

 城門を出て、しばらく行った場所に建築されたばかりの新しい闘技場があった。

 カインの所持していた物体作成アイテムで作られたものだ。

 元々は、ゲーム内でプレイヤーキャラクター同士の私闘や、個人開催の武闘大会を盛り上げる為に用意された課金アイテムである。

 消費型のアイテムで一度使えば消えてしまうが、ガチャのハズレアイテムとして、たまにラインナップされていたので価値は低い。

 持続時間は1日というところだ。


 カインとルイーズ達は、その闘技場にやってきた。

 夜の闘技場は、沢山の篝火で昼の様に明るい。

 観客席の最上段に、カインとルルワリリスの席、そのすぐ下にルイーズ達の席が設けられている。


 先ほどの舞踏会の時にいた者達に加えて、もう少し身分の低そうな者達も観客として招待されていた。

 既に観客席は満員で、これから始まる戦いへの期待で盛り上がっていた。


「舞踏会の後は武闘会だ!みな楽しんでくれたまえ!」


 カインが席から立ちあがり、ワイングラスを掲げながら宣言した。

 しかし、観客の反応はいまいちだ。


「カイン様、それは面白くありません」


 ルルワリリスが、口元を扇で隠しながら小声で言った。


「は、はは…とにかく、始めようではないか」


 カインは、少し残念そうな顔をしながら、開始を指示した。

 すると、ほどなくして、闘技場の上空から巨大なドラゴンが闘技場に舞い降りた。

 会場の観客に、どよめきが広がる。


「レッドドラゴン・アダルト。成体の大型ドラゴンですね。レベルは85といったところでしょう。この世界にも存在しているのか、あるいは召喚したものか、興味深い」


 モーギスが、言った。


 さらに、空中からマントを翻しながら、イラドがドラゴンの前に舞い降りた。

 巨大な両手剣を片手で軽々持っている。


 マントに隠れているが、自らの肉体である鎧以外に背中にジェットパックの様なものを背負っている。

 そこから何かを噴射しながら飛行してきたようだ。

 さらに、全身に追加の装甲板やパワーアシストの為のギミックが取り付けられている。


「あれは、魔法の力だけの飛行ではない。ガンスミスの技術か」


 ルイーズは、言った。


「ご覧ください。我々の新しい力を」


 カインが上から上機嫌で、ルイーズに声をかけた。


 ドラゴンの爪や噛みつきによる攻撃を、イラドは巨体に似合わぬ素早い動きで避ける。

 体の各所から光る粒子が噴き出し、その逆方向に急加速を繰り返す。


「ゴオオオオ!」


 レッドドラゴンの口から、業火が噴出される。

 それを素早く避けて、イラドは空中に舞い上がった。


「ズサァ!」


 巨剣が赤熱すると、イラドはレッドドラゴンの頭部に叩きつける。

 ドラゴンの頭部が二つに両断された。

 レッドドラゴンは、轟音と共に倒れ込み、そのまま動かなくなった。


「この勝利をカイン王とルルワリリス女王に!」


 イラドは、巨剣を天にかざしながら叫んだ。

 観客席から、歓声と拍手が巻き起こる。


「これは、ノドの国の力を示すデモンストレーションですか…」


 モーギスは、少し顔をしかめた。


「これは素晴らしい!強化魔法もスキルも使わず、楽々レッドドラゴンを倒した。あの装備の力もそうですが、イラド殿の地力も素晴らしい。感服です!」


 モーギスの声を遮るように、ルイーズは感嘆の声を上げた。

 カインは満足気に頷いた。


「…来るぞ」


 ルイーズは、闘技場の上空を見つめて言った。


「はい、遮断魔法によるステルス侵入です」


 モーギスは、ルイーズに答える。


 突然、闘技場に強風が吹き荒れた。


「圧政と侵略でガリアの人々を苦しめるカインよ!今日こそ、お前の命をいただくぞ!」


 上空の闇夜から、十代の少女の凛とした声が響いた。

 空が割るようにグレーの飛行巡洋艦が現れる。

 闘技場の上空に侵入したと同時に、不可視の魔法を解除したのだ。


 最初に有翼の警備兵達が、迎撃に向かう。

 飛行巡洋艦の砲火が警備兵を攻撃し、戦闘状態になる。

 感知能力の高い者が警備側にいたのか、その対応は早い。


「ええい!無礼者を排除しろ」


 ルルワリリスが、激を飛ばす。


 飛行巡洋艦から、二人の影が地上に舞い降りた。

 二人とも、フード付きのマントで顔と姿を隠している。


 一人が細身の剣を抜くと、群がってきた警備兵を次々と撃退する。

 その体つきからして、軽装の女剣士だ。



「あの金色の鍔の剣は、おそらくソード・オブ・ジャスティス。イマジンのガチャ産レアアイテムですね。今となっては、そこそこの価値しかありませんが、悪属性の者に対しては高い攻撃力アップがあったはず。ノドの兵は、悪属性が多そうですから有効でしょう」


 モーギスは、魔法で剣を鑑定して言った。


「すると、あいつもプレイヤーかもね。そうなら、90レベルぐらいの動きだ」


 サンシールが、テーブルに肘をついたまま答える。


 もう一人が、マントを脱いで姿を現したかに見えたが同時に強い光を放ち始め、はっきり見る事は出来ない。


「神格転身」


 光の中から男の声で、そう聞こえた。


「まず…」


 モーギスは、何か言おうとした。

しかし、その次の瞬間、その光はカインの目の前に迫っていた。


「キィイイイン」


 高音が響く。


 ルイーズがカインの目の前で、いつの間にか白い鎧に身を包み両刃両手の剣で、2mを越える大男の振り下ろす片手剣を受け止めていた。


 大男は、全身ブラックパールのフルプレートに包まれており、顔などは見えない。

ルイーズと大男の背中からは、虹色の光が羽根の形を作るように噴き出している。


「きゃあああ」


 ルルワリリスが悲鳴を上げた。

 光を受けたカインと彼女の皮膚が、高温にさらされたようにチリチリと焼け、HPが急激に減るのがプレイヤー達には見えた。

 しかし、近くにいるモーギスとサンシールは平気だ。


 ルルワリリスはカインの前に立ち、かばった。


 大男は、もう片方の手に持った槍を、ルルワリリスとカインに向けて繰り出す。

 ルルワリリスの全身の鱗の部分が急激に増え、その攻撃を受け止める。

 槍は鱗を貫通したが、なんとかダメージを殺していた。

 さらに、体に巻き付いていた二匹の大蛇が強力な電撃を発射して、大男に反撃する。

 しかし、大男は、ほとんどダメージは受けていないようだ。


 その時、黒い影が、大男に向かって飛んできた。

 大男は、巨体に似合わない素早い動きで、それを避ける。


「さすがは、ルルワリリス。このグランデピエの一撃を受け止めるとは」


 大男は、そう言って空中に舞い上がった。


「カイン王に手を出す者は許さぬ!」


 先ほどの黒い影、イラドが空中で剣を構えていった。


「破壊の一撃デストロイ・ストライク


 大男は、静かにそう言うと、イラドに剣を振り下ろした。


「最後の攻撃ラスト・アタック!!」


 イラドは、そう叫びながら素早いカウンターを繰り出す。

 イラドの剣が大男の胸に当たったが、ダメージを与える事は出来なかった。

 逆にイラドは、大男の一撃で肩口から腰まで両断され、バラバラの鎧のパーツになって地上に落下し た。


「お前は、私に正面から、ぶつかれるほどの従魔ではない」


 大男はそう、つぶやいた。


「許さん!許さんぞ!!この私の顔に泥を塗ったばかりか、我が家族達を傷つけた。お前が何者であろうが、決して生かして返さん!!」


 カインは、立ち上がり、詠唱時間キャストタイムの早い呪文を連続で放った。

 電撃、炎、光の矢、氷、風、あらゆる攻撃が次々と大男に襲い掛かる。

 大男は、大きく後退させられる。


「神格解除」


 ルイーズが、そう呟くと、白と青のイブニングドレス姿に戻った。

 何事も無かったように席に座る。


「馬鹿女め!」


 いつの間にか、観客席を駆け上がってきた軽装の女剣士が、ルイーズに切りかかった。

 ルイーズは、前に置かれていたティーカップに添えられていたティースプーンで、その攻撃を受け止める。


「それほどの力を持っていながら、カインの味方をする馬鹿者め!この男は、ガリアの地に闇しかもたらさぬ悪だぞ」


 軽装の女剣士は、ルイーズにそう言った。

 その声は、飛行巡洋艦が現れた時に闘技場に響いたものと同じだ。

 一瞬ルイーズの目に、長い金髪、青い瞳のハーフエルフの顔が映る。

 怒った顔をしているが、品の良さそうな少女だ。


「この私に生意気な口を叩くな小娘!秩序と正義は王が決めるもの。王とは征服者の事だ。文句があるなら、その剣で私をひざまずかせてみよ!私なら、今すぐそうする」


 ルイーズの覇気に、女剣士はひるんだ。

 そのまま、逃げ去っていく。


 その時、雲を切り裂き、強力な光線が飛行巡洋艦をかすめた。

 飛行巡洋艦から爆炎が上がる。

 カインが、強力なエピックスペルを発動させたのだ。

 地上が、マグマのように溶かされている。


 イマジンで呪文の使える職業スキルを取得すると、0から9ランクまでの呪文を2レベルあがるごとに習得出来、職業スキルの最高レベルである20レベルで全ての呪文を使えるようになる。

 この職業スキルをキャラクタースキルの合計まで取得する事が出来る。


 職業スキルが20レベルを越えても、特定のクエストをクリアし、さらに中々手に入らない貴重なアイテムを消費する事によって追加の呪文を得る事が出来る場合がある。

 それが、エピックスペルである。

 これには非術者版のエピックスキルも存在する。


 エピックスペルやエピックスキルは、個人の能力としてキャラクターの特徴を出し、中にはゲーム内で一人しか持っていないものも存在する。

 その効果は、通常得られる9ランクまでの呪文とは比べ物にならないほど強力だ。

 しかし、使用回数は1日1回に制限されている。


「予想外の戦力がいた。潮時だ、撤退する」


 大男は、軽装の女剣士に指示を出す。

 飛行巡洋艦は、二人と共に再び遮断魔法で姿を消すと、猛スピードで闘技場から飛び去った。


「カイン様のエピックスキルで撃沈出来ないとは、あの船の防御力は一体?」


「違う、あの男の防御魔法により守られたのだ。今は黙って治療を受けよ」


 カインは、治療魔法をかけながら、ルルワリリスの言葉に答えた。


「真なる蘇生トゥルーリザレクション


「も、申し訳ございません。王への攻撃を許すとは…」


「いいや、よくやった。これからも精進せよ」


 カインの高位の蘇生魔法により、イラドも何もなかったかのように元の姿に戻る。


「ルイーズ様、あの男は…」


 モーギスは、ルイーズに言った。


「今は黙れ、我々にいらぬ嫌疑がかかるだけだ」


 ルイーズは、少々不機嫌そうに答える。


「暴れるチャンスだと思ったのに、とんだ肩透かしだよ」


 サンシールは、つまらなさそうだ。


「言うなサンシール。私の先ほどの動きだけでも余計な情報を知られてしまった。さらなる情報は与えたくない。我慢しただけ成長しているよ」


 ルイーズは、サンシールを褒めた。


「それより見よ、あれでは、どちらが仕えているのか分からん」


 ルイーズは、少し悲し気な目でカイン達を見た。


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