第8話 ノドの宮廷舞踏会
# 誤字脱字等、気軽に指摘いただくと助かります。
ノドの城の地下に作られた大広間、謁見室としても使われる城の中核部で、ルイーズ達の歓迎舞踏会が開催されていた。
一段高い王座に、カインとルルワリリスが並んで座っていた。
そのすぐ前の一段下にルイーズ達の席が設けられていた。
舞踏会の参加者は、ノドの城の幹部達だけでなくノドの国に吸収された周辺地域の有力者達も含まれていた。
100人以上の異形の従魔や人間達が、アンデットの楽団の音楽に合わせて踊っている。
テーブルには山海の珍味が、ふんだんに並ぶ。
「さあ、ルイーズ殿、一曲お付き合い下さい」
黒と赤の燕尾服を身に付けたカインが立ち上がって王座から降り、ルイーズに手を伸ばした。
王座のルルワリリスが、少し眉間にしわをよせる。
「奥方が機嫌を損ねているぞ」
ルイーズは、誘いを断ろうとした。
「今宵の宴はルイーズ殿と私のフレンド登録の祝い。ここは是非とも受けていただきたい」
ルイーズは、渋々立ち上がった。
大胆に背の開いた白と青のイブニングドレスが揺れる。
カインがルイーズの手を引いて、大広間の真ん中に進む。
周囲の者は、二人の進む方向から次々離れてスペースを作っていく。
二人は、お互いの手を取り、腰に手を廻し、見事なステップで踊り始めた。
「これは見事なものだ。ダンスのスキルをお持ちか?」
カインが、ルイーズに尋ねた。
「いや、現実世界で身に付けた技術は、ステータスやスキルに関係なく行えるようだ。これは若い頃にフランスで身に付けた」
「それは素晴らしい。私のゲーム内スキルとは一味違う。これはキャラの雰囲気を出す為に取得したものでしかない」
「いやいやどうして、素晴らしい腕前だぞ」
二人は、踊りながらお互いのダンスを褒め合った。
会場の、ほとんどのが、二人の舞いに感嘆の視線を送っている。
「お母さま、あの女、気に入りません。お父様も、あんな女の相手をするとは信じられません」
王座に座るルルワリリスの横に、赤いイブニングドレス姿の十代の少女がやってきていった。
髪も目も燃えるように赤い。
いかにも気が強そうだが、貴族育ちの娘らしい幼さも持っていた。
「エノク、これも王の仕事です。客人に滅多な事を言うものではありませんよ」
ルルワリリスは、赤い髪の少女エノクをたしなめた。
しかし、その視線はルイーズを睨みつけている。
エノクは、ルルワリリスとカインの娘として設定された従魔である。
実際の子供ではない。
感情を得たルルワリリスの為に、この世界にやってきてからカインが作りだした唯一の高レベル従魔だ。
ふんだんに素材をつぎこみ、カインが作成出来る最強クラスの能力に仕上げられている。
「ルイーズ様、お父様が、あのような初老の女に入れ揚げるわけがない。お母様の方が数段美しいのですから。あの女への態度は、我が国の戦力向上を狙ったものでしかない」
ルイーズの横にやってきたワーキンが忠告する。
「そうですわよ、お父様の思慮深さと、誰に対してもまずは慈悲深くあたる姿勢を学びなさい。あれこそ、王たる者の姿」
ルルワリリスは、機嫌を直して言った。
『ただ、コマンド通りに動いていた頃には、この様な気遣いは必要なかった。我々の結束を守るにも、苦労するようになったものだ』
ワーキンは、心の中でつぶやいた。
「地上の新設闘技場では、また違った趣向を用意しておりますルイーズ殿。アリーナチャンピオンにも楽しめるショーになればよいのですが…」
カインは、ルイーズに囁いた。
「ほう、お主と踊るより楽しめるものがあるとは思えぬが、拝見させていただこうか」
ルイーズは、答えた…。