第77話 戦端
「ふぁーあ」
空中要塞シギショアラの艦橋に設けられた、ゆったりとした王座で、ブラドは大きなあくびをした。
艦橋は、まるで城の大広間の様に広く、劇場のスクリーンの様に大きなモニターに外の様子が映し出されている。
内装は、まさしく中世の城で、天井にはシャンデリア、壁は石作り、あずき色のカーテンで壁が飾られている。
壁際には、配下達の席が設けられ、要塞のコントロールを行っていた。
要塞の外観は、黒い中世風の城が空を飛んでいる様な姿だ。
シギショアラと、随行する7隻の空中巡洋艦は、イルミンズールの南600kmの地点に迫っている。
地上には、自動車化された部隊が、アンデットの軍勢を装甲車などの戦闘車両に乗せて移動していた。
大型モンスターを含めて、総員30万。
残念ながら、ブラドにはプレイヤーキャラの仲間はいない。
全て従魔と、魔法で召喚したモンスター達だ。
これは、幻魔斎も同じ。
「こりゃあ、早晩気付かれるな。仕方ないけど」
ブラドが、呟いた。
「幻魔斎様の百鬼夜行、全て順調に侵攻中でございます」
ノドで修理を受けた空中要塞ドクロ城の艦橋。
紫色の和服を着た美しい狐の化け物、妲己が幻魔斎に報告する。
ドクロ城は、イルミンズールの東700km地点で、キタイ本国からやってきた従魔百数十体と合流していた。
異形の妖怪変化達が、ドクロ城の下に集結している。
「我々は、数は少ないが精鋭揃い。今度こそ、我等が宝眼教の威を見せつけるのだ」
幻魔斎は、黄金の王笏を振りかざす。
「はっ!仰せのままに」
妲己と晴明、その他の従魔達が頭を下げた。
『モリガン王は、最後まで自分の手勢を出し惜しみするつもりだな。抜け目のない方よ』
ガンスミスは、空中巡洋艦ナイトホークの艦橋で考えていた。
ナイトホークは単艦で、遮蔽装置を使用し、イルミンズールの西400kmまで接近していた。
「ガンスミス様!発進ドックのイラド、ジュデッカ、トロメーア、アンテノーラ殿、全て発信準備が出来ております」
フェッラウが、ガンスミスに報告する。
『この私への疑いは、完全には晴れていないようだ。こいつらは、監視という事だな』
SAシュワルツリッターを身に付けたイラドを囲むように、SAハイドランジアを身に付けたジュデッカ、トロメーア、アンテノーラが座っている。
表向きは、イラドの指示に従う事になっていたが、3人の目はイラドへの疑いを感じさせた。
「イラド隊、発進せよ。発進後、この艦は後退する。次のランデブー地点は、ここより後方600km」
発進ドックのスピーカーから、フェッラウの声が響いた。
『今は、戦功をあげるまでよ!』
イラドは、3人と共に、開いたハッチから飛び降りた。
同時に、随伴する無人機が3機づつ、合計12機。
多数の巡航ミサイルがイルミンズール目掛けて発射される。
「イラド殿とお見受けする!白百合十字騎士団吉井百合子。いざ尋常に勝負!」
イルミンズールから100kmに近づいたイラドの部隊は、白百合十字騎士団と遭遇した。
この距離では、ノド側の遮蔽装置があっても、SAバヤールのセンサー類からは逃れられないようだ。
騎士団の数は30人ほど、無人機を入れても数には劣っていた。
「貴殿の相手をしている暇は無い。ルイーズ殿は、いずこか!」
イラドは、吉江百合子の誘いを受けなかった。
しかし、彼女は、そのままイラドの前に立ちふさがる。
イラドの持つ黒い大剣と、吉江百合子のフォトン粒子レーザーブレードが、ぶつかり合って火花を散らす。
「なかなかやるな!」
イラドが、言った。
「白百合十字騎士団、5万年の間、誰一人負けた者はいない!相手が従魔だろうとプレイヤーだろうとな!」
吉江百合子が、叫ぶ。
「ならば、貴殿が最初の敗者となるのだ!」
イラドの3機の随伴無人機から、小型のミサイルが何発も発射され、吉江百合子を襲う。
彼女の体から、多数のレーザーが発射され、それを撃ち落とす。
しかし、爆風でダメージを受けてノックバックする。
「命を置いていくがいい!」
イラドが、吉江百合子に全力で斬りかかる。
彼女は、何とかそれを受け止めるが、吹き飛ばされる。
「パワーは、向こうが上か!」
吉江百合子が、苦悶の表情を浮かべる。
SAハイドランジアを装着した他の3人も、パワーと火力を見せつけ、数に勝る白百合十字騎士団を後退させる。
「白百合十字騎士団、敵のステルス部隊と交戦中。苦戦しているようです」
航宙戦艦カイザーブルクの艦橋、オリアンドが、ルイーズとカインに報告する。
「しかし、援軍を送る余裕は無い。踏みとどまれと通信を送れ!我が艦は、ブラド軍の迎撃に向かう!」
ルイーズが、指示を出す。
「はい、それで問題ないでしょう。宝眼教軍には、あの援軍が向かってくれます」
カインが、ルイーズに静かに言った。




