第75話 コキュートス
ノドの城の南東の海の上に存在する島。
かつて、モリガン、アンジェリカ、リカルドが本拠としていた場所。
そこには、モリガン達の妖精、妖魔を中心とする従魔達が住み、鉄壁の防御を誇る”ナイン・オブ・ザ・ヘル”があった。
地上にある門には"この門を通る者は全ての希望を失うべし"と書かれてある。
そこから、地下深く、9つの階層を多数の悪魔や妖魔、妖精達従魔が守護している。
その最深部、絶対零度の氷結地獄”コキュートス”に、モリガンの真の王座があった。
ノドより帰還したモリガンは、ひさしぶりにそこに座っている。
少し狭い大広間(謁見室)にある王座の前には大きな会議机が置かれ、ノドの同盟国の王達2人が一番上座に座り、その次にリカルドとガンスミス、最後にイラドと数名の新しい幹部従魔が座る。
このエリアは、絶対零度から逃れており、隠された特殊なポータルを抜けないと入れない。
「ブラド殿、幻魔斎殿、遠い場所にお越しいただき感謝する」
モリガンは、同盟国の王達2人に言った。
「いやー、僕こそ、闇神格を得る為のクエスト目標のダンジョン、ナイン・オブ・ザ・ヘルを見られて光栄だよ。さすがに、凄いダンジョンだねえ。どんなに凄い報酬が眠っていたのやら」
そう答えたのは、ブラド公だ。
かつてのカインと同じキャラクターLv100の高レベルヴァンパイアロードである。
しかし、その風貌は十代の少女だ。
といっても、少女なのは見た目だけで、実際には少年という設定だ。
胸の膨らみなども衣装の一部で、中身は”男”だ。
白く長い髪に、ゴスロリファッション。
その姿は、10歳くらいの少女にしか見えない。
「戦争に勝利すれば、褒賞として、何点か進呈しよう」
モリガンが、言った。
「それは楽しみだねえ。この僕の美しさを引き立てるアイテムを頼むよ」
ブラド公は、ご満悦だ。
「ブラド公は、裏切り者カインとはゲーム内から懇意にされていたようだが、戦えるのか?」
モリガンが確認する。
「それは、そうだけど、この沸き上がる悪性には逆らえないさ」
ブラド公は、ニタリと不気味な笑顔を浮かべる。
「はっはっは、しかり!」
珍しく壺にはまったらしく、モリガンは笑い声を上げた。
「幻魔斎殿は…引き続き頼む」
モリガンは、幻魔斎をチラリと見ると、さっさと切り上げた。
『何それ?それだけ?他になんかないの?扱い違いすぎない!?』
幻魔斎は、心の中で呟いた。
「紹介しておこう。私の従魔、ジュデッカ、トロメーア、アンテノーラだ。それぞれ、ゲームを引退していったノドの仲間の装備を活かすべく、その者達に近いビルドを実現している。余計な部分を省き、対人戦闘に特化し、プレイヤーキル専門に仕上げた。今回の戦争に加わってもらう。もう一体いるのだが、まだ調整不足でな…。今回は、この3体だけを連れてきた」
末席に座った鎧姿の女性従魔3人を、モリガンが簡単に紹介する。
3人は、無言で頭を下げる。
『こいつもどうして、懐古主義か』
リカルドは、心の中で嘆いた。
「既に我々のスカウトが、ボイオカッセ北西で、敵の本拠地らしき異界化された場所を発見している。完全な解明には至っていないが、場所は特定できた。ブラド殿、幻魔斎殿、ガンスミス、イラドは、この地を包囲し、敵を殲滅してもらいたい」
モリガンは、言った。
「敵の戦力も分かっていないのに、あまりにおうぎょうじゃないかい?」
ブラド公は、テーブルに肘をつきながら言った。
「いや、敵の戦力が分からないからこそ、充分な戦力を投入しなければ痛い目を見る。3方からの縦深攻撃で様子を見て、可能ならば包囲殲滅するのがよかろう。放っておいても、敵は戦力を整えるだけだ。今回は、敵に充分なダメージを与える」
モリガンは、そう答えた。
「今回は、イラド!お前が一番槍だ。敵の本拠地深く侵入し、あわよくばルイーズとカインの首を取れ!」
彼女は、イラドに指示する。
「細かい作戦は、資料化して後ほど配布する。諸君の健闘を祈る」
モリガンは、そう締めくくった。




