第72話 新婚旅行、女帝と妾
「サンシール様、こちらが新造の高速艇シルバースワンでございます」
オリアンドが言った。
彼女に連れられ、サンシールと、アンジェリカ、ウェリオは、マグリブに旅立つ為、イルミンズールの屋上にやってきていた。
彼等の前には、30mほどの空中高速艇が停泊していた。
全体的には三角形、翼を広げたような銀色の美しい船だった。
いかにも、足が早そうだ。
「こちらは、戦闘力は低いですが、最新の技術で建造されております。さらに、新婚旅行にぴったりの豪華な居住空間を設けております」
オリアンドが、船の説明をする。
「新婚!?」
アンジェリカとウェリオが、顔を向け合って言った。
「まずは、10人は入浴出来る湯舟にジャグジー、豪華な入浴施設でございます」
3人は、オリアンドに船内に案内され、まるでホテルの様な入浴施設に案内される。
大理石作りの湯船にジャグジー、ローマ調の内装の立派な風呂だ。
壺を持った女神像から、湯船に常時、お湯が流れ込んでいる。
「これは女子風呂ですよね?」
サンシールが、恐る恐る聞いた。
「は?当然、混浴でございます。3人で同時に使用可能な大きさとなっております。3人で横になれるエアーマットも完備です」
オリアンドは、表情一つ変えず言った。
「そ、そういう事は、挙式後でなければ…」
ウェリオが、顔を赤くした。
「次に寝室、特大のキングサイズベッドを入れさせていただきました。6畳分の大きさのベッドでございます。各種照明等、全て枕元で操作可能。間接照明も複数設置。お好きな環境で、おすごしいただけます」
4人は、寝室に移動した。
オリアンドが、部屋の説明をする。
ピンク調の可愛い内装。
巨大なベッドには、3つの大きな枕と、沢山のクッションが置かれており、自由な体勢ですごせるようになっていた。
枕元には、部屋の全ての電化製品の操作が可能なように、スイッチ類が多数まとめられている。
「えーとこれは…」
「寝室は、ここだけでございます」
サンシールが聞こうとすると、食い気味にオリアンドが3人分の寝室だと説明する。
「あーこれは、さすがに。あんた、外で寝なさいよ」
アンジェリカが、ツッコミを入れた。
「申し訳ありません、サンシール様」
ウェリオが、同調する。
「とほほ…」
サンシールは、がっくり項垂れた。
「こちら、サンシール様より、お預かりしていたSAファルコンを改良いたしましたSAサン・ファルコンでございます」
オリアンドに一人連れられて、倉庫にやってきたサンシールの目の前に、装甲をクリスタルに換装したSAサン・ファルコンが立て掛けられていた。
「魔法的には強力でしたが、機械的な部分と素材的には我々の方が優れていたので、改良を行いました。これで、強い魔法デバフ化でも性能を発揮出来ます。さらに、これを…」
オリアンドは、そう言った。
そして、フォトンレーザーブレードの柄をサンシールに差し出す。
「助かる」
サンシールは、それを受け取る。
「デュランダルの足元にも及びませんが、伸縮自在、相当に強力な剣です。そして何より、どんな職業でも使える軽量さが売りです」
オリアンドが、説明する。
「こいつで、俺はあいつに勝てるのか?」
サンシールは、自問自答した。
その後、3人は、マグリブへ向けて旅立つのであった。
「カイン様、生きておられたとは嬉しゅうございます!」
イルミンズールの会議室で、カインとルイーズ、エノクを前にアールブが言った。
アールブはカインに、にじり寄る。
「…」
ルイーズが、顔をしかめる。
その手には、アンジェリカの置き手紙が握られていた。
ルイーズ様
うちの従魔の保護をお願いします。私が裏切った以上、狙われますので。
アンジェリカ
手紙には、そう1行だけ記されている。
「そういえば、我が妹の魂も、ここにあるとアンジェリカ様から…。出来れば復活を」
アールブが、カインに懇願する。
「ああ、分かっている。お主が来たと聞いて、もう蘇らせてある。入ってくれドゥエルブ!」
カインが、部屋の自動ドアに向かって叫ぶと、ドアが開いてドゥエルブが入ってくる。
「姉さん、ご無事で!」
「ドゥエルブ!」
二人は、ひしっと抱きしめ合った。
「こうなった以上、我々を再びカイン様の側室として、この国において下さいませ。いえ、この機会に正妻として」
「姉さんズルい!正妻は私に!」
二人は、カインに抱きついたて言った。
「これは、家族会議が必要だな」
ルイーズは、カインを冷たい目で見つめる。
「こいつら、昔からウザいんですのよ」
エノクは、思い切り嫌そうな顔をして、ルイーズの服のはじを引っ張った。
「ははは…」
カインは、力なく笑った。
「リカルド様、既に、裳抜けの殻です」
闇月暗殺部隊の黒い肌、銀色の髪をしたダークエルフが、リカルドに報告する。
「一足遅かったか」
リカルドは、言った。
アールブが、カインと再会を果たしている頃、リカルドはノド領内の森の中、アールブ邸にやってきていた。
しかし、その巨大な木造の建造物の中には、既に誰もいなかった。
「闇月暗殺部隊が、ターゲットを逃すわけにはいかない!必ず探し出せ!」
「はっ!」
リカルドの檄に、暗殺部隊の一同が答える。




