第7話 ガンスミスの工廠
「さあ、どうかね、我が国で建造された飛行巡洋艦は!?」
カインはイラドを従え、ルイーズ達3人をノドの城の外延部にある塔の上から伸びた艀に案内していた。
そこには、50mはあろうかという飛行巡洋艦が係留されていた。
「この世界でも、ゲーム内の様に空中戦闘艦を建造出来るとは、5年間の努力を感じる。50mの堂々たる船体。グレーの航空迷彩色に多数の砲塔。希少な金属と巨大モンスターから採取したであろう素材の数々、さぞ素晴らしい性能を持っているのだろうな」
ルイーズは、すらすらと感想を述べた。
「はっはっは、この艦は既に量産体制に入っている。航空戦力の主力として、20隻近くが配備される予定だ。我が国の幹部に1隻づつ与えられる。近い将来にはルイーズ殿にも、お渡し出来るだろう」
カインは上機嫌で答えた。
しかし、具体的な性能については何も言わなかった。
「今日は、先日話したルイーズ殿と同じギルドのメンバーだった、ガンスミスのところへ案内する。彼は今、我が軍の工廠の責任者として働いてもらっている。この艦も彼の協力で完成した。一番艦は、彼の名からガンスミスと名付けた。彼の乗艦となるはずだ。工廠は、ここからは少し離れているので、この艦で空中クルーズを楽しんでもらいたい。転移魔法では味気ないのでな。」
カイン達は、飛行巡洋艦ガンスミスに乗り込んだ。
「どうかね、乗り心地は?」
艦橋では、カインが司令官席に座っていた。
ルイーズ達とイラドは、その周りに立ち、180度に広がる窓から周囲の景色を見下ろしている。
艦は時速500km以上で飛行しているが、まるで止まっているかの様に安心して立っている事が出来た。
「素晴らしい、まるで豪華客船並みの乗り心地だな」
ルイーズは、笑顔で言った。
「これで、ワインの一杯でも出されれば完璧だよ」
「あなたは未成年でしょうが!」
サンシールの軽口を、モーギスがたしなめる。
「ゲーム内の設定では大人でしょ。この世界ではいいでしょ」
サンシールは少し不満げだ。
「はっはっは、ルイーズ殿達に、何かお出ししろ」
カインは、乗組員に指示する。スケルトンの乗組員が、骨をカチャカチャ言わせながら走っていく。
『森の木も山も、現実の世界より数倍巨大に見える。それに、水平線が霞んで明確でない。やはり、ここの風景はゲーム内に近い。ゲームの影響を受けた世界なのか?それとも、より高度なVR空間なのか?』
ルイーズは、エウロパ大陸の風景を見下ろしながら考えていた。
「この世界が、全て我々のものとなる。その為に働いてもらえないだろうか」
ワイングラスを二つ持ったカインが、ルイーズの横にやってきて言った。
「…」
ルイーズは黙ったまま、エウロパの大地を見つめていた。
ほどなくして、ルイーズ達は、山脈の中にある巨大な鉱山に到着した。
どこまでも深く続く、巨大な坑道。
髭面で筋骨隆々のドワーフ達が、せわしなく働いている。
「お久しぶりですルイーズ様、勝手にギルドを変更してしまい、申し訳ありません。現在は、カイン様の元、この鉱山と工廠を取り仕切らせていただいております」
坑道の奥に作られた大きな工廠の前で、ガンスミスがルイーズ達一行を出迎えた。
後ろには、ガンスミスと一緒に脱出した2人のプレイヤーもいた。
全員、ギルド変更を行ったようだ。
ガンスミスは、ギルドの製作系担当だった。
現実世界でも老齢で優秀な機械工学の技術者だ。
キャラクターとしては、それよりずっと若く設定されていて、見た目は20代後半だ。
長く青い髪に眼鏡、優しそうな瞳。
人当たりの良さそうな好青年になっている。
「我がギルドでは、去る者は追わず。出入りは常に自由だ。それに、現実世界で経営者の私には分かる。これほどの工廠を任されるなら、引き受けぬお主ではあるまい。自分の技術で天下を取ろうとするなら、これほどの機会はそうない。カイン殿の後ろ盾があれば可能かもしれんな」
ルイーズは、横目でカインを見ながら言った。
「その通り!ぜひ、我が工廠を御覧ください」
ガンスミスは、ルイーズ達を工廠の中に案内する。
中は、色々な区画に分かれており、板金から半導体の製作まで多岐に渡る生産が行われている。
作業に当たっているのは、ほとんどがドワーフ達だ。
「この世界では、ゲーム中の架空の技術と現実世界の技術が共存可能となっています。架空の技術の応用によって、非常に早いペースで生産設備が拡充出来ました。私がカイン殿に目覚めさせていただいたのは1年前ですが、既に電気製品や現代兵器のほとんどが作成可能となっています」
ガンスミスが案内する先に歩いていくと、巨大な火砲や銃も並んでいた。
「やがては、ゲーム内アイテムの限界を越え、カイン様に仇なすプレイヤー達を殲滅する戦力となるでしょう。また、その技術の輸出により、周辺国の戦力バランスをコントロールし、文化を発展させる事も可能です。技術の分野で世界のトップに君臨する。それが私の野望です」
ガンスミスは、隠す事なく自分の野望を語った。それは、自分に代わる者がいないと自信を持っている事を示していた。
「本当は技術の漏洩は避けたいのだが、戦争を続けるには資金や物資も必要だ。ここで生産される製品は、戦乱の続く、この世界で、有用な商品となるのでな…。ガンスミス殿は、我が国に無くてはならぬ人材になっている」
カインは難しい顔をしながら言った。
『他にも現実世界の技術を持ち込んでいるプレイヤーがいるとも限らん。ゲーム内での超越者でも、その力は既に陳腐化しているかもしれぬ。より注意が必要になったな。カイン殿との協力関係は、それだけ重要になったという事だ』
ルイーズは考えた。
それを見越したのか、カインは自信ありげな顔でルイーズを見ている。
「どうだろう、もう一度頼むが、ガンスミス殿と共に私に力を貸していただけないだろうか。ガンスミス殿と同様、ルイーズ殿にふさわしい要職を任せよう」
「ギルド入りは今のところないが、協力関係を結ぶのはやぶさかではない」
カインの言葉に、ルイーズは答えた。
「ふむ、ではゲーム流に同盟の証として、フレンド登録をお願いしたい」
カインは、満足気に言った。
カインとルイーズ、両者のガイド精霊が現れ、お互いをフレンド登録する。
脳内でフレンド登録された事を確認出来た。
お互い、個別チャットを送信出来るようになった。
「これで、お互いのギルドの同盟が成立した。今宵は宴だ!最高の晩餐を用意しよう!」
カインが言うと、その場にいた工廠のスタッフ等、ノドの国の者達が全員、手を止めて拍手喝采を送った…。