第69話 エルフの姫と悪役令嬢、水着で海を楽しむ
トゥールラの港町の近くの観光用に整備された砂浜。
戦争直後という事で人は少な目だが、こんな時でもトゥールラの短い夏を楽しもうと、観光客で賑わっていた。
海沿いは、現実世界の様にホテルや売店、飲食店が集まり、リゾートとして整備されていた。
「ひゃっほー!もっと飛ばして!」
赤いビキニ姿のアンジェリカと白いビキニ姿のウェリオをボートに乗せ、それを引っ張ってSAファルコンを装着したサンシールが水面を飛んでいた。
水しぶきを上げて、猛スピードでボートは進む。
『あー、これよこれ。やっぱり、酒場の主人なんかじゃ、この感覚は味わえないわ!』
水しぶきを浴びながら、アンジェリカは思った。
砂浜のパラソルの下で、水着姿でビーチチェアに寝そべるモーギスとイストルが、それを眺めていた。
ベルタとアヤは、お揃いのピンクの水着を着て、海沿いの売店で食べ歩きをしている。
「脈の無い女性を追いかけて、何を考えているんでしょうね彼は」
サングラスをずらしてサンシール達を見たモーギスは、そう言った。
「いや、そうとも限らないですよ、モーギスの旦那。旦那は相変わらず、そこんとこ頭が固いですね。若い子達の気持ちってのは、夏の空でさぁ」
イストルは、麦わら帽子を顔の上に乗せたまま、モーギスの言葉を否定した。
夕暮れが近づくまで、アンジェリカとウェリオに海につき合わされたサンシールが、へとへとになりながらモーギスとイストルのところに戻ってきた。
アンジェリカとウェリオが楽しそうに手をつなぎながら一緒に帰ってくる。
ベルタとアヤも、そこにやってくる。
「私、あなた達と一緒に行ってあげる事にしたわ。元ノドの最強盗賊だった私が仲間になれば、みんな嬉しいでしょう!」
アンジェリカは、高らかに宣言した。
「えっ!?」
サンシール達は、全員、目を丸くして驚いた。
「いやー、あそこまでお願いされたら、ついていってあげないと可哀想でしょう?」
アンジェリカは、何の躊躇も無く、サンシールを指さして言った。
サンシール達は、海辺のホテルで宿をとった。
アンジェリカは、夜の海が見えるプール横のテラス席でカクテルを傾けていた。
その横に、少し離れてサンシールが座る。
「ついてきてくれて、ありがとうアンジェリカ」
サンシールは、アンジェリカに話しかけた。
「勘違いしないで、あなたの気持ちに応えるつもりはないわ。あくまで、退屈しのぎよ」
アンジェリカは、サンシールと目を合わせず答える。
「私は好きなものを何でも手に入れるだけよ」
彼女は、サンシールに一瞥をくれると、立ち上がって去ろうとする。
「ちょっと、待ってくれ。少しだけ話をしないか?」
去ろうとする彼女の手を、サンシールが掴んで言った。
「仕方ないわね、少しだけよ」
アンジェリカは、再び腰を下ろした。
二人の夜は、まだ浅い。




