第68話 王子は悪役令嬢に使われる
「ところで、あんた、何でまた来てるの?ストーカー?」
アンジェリカの酒場のカウンターに、アロハと短パン姿のサンシールが座っている。
その前に、アンジェリカはドンと水の入ったグラスを置いた。
サンシールは、引きつった笑いを浮かべると、アンジェリカに軽く手を振った。
『それで、くだけてるつもりなの?』
アンジェリカは心の中で、あきれた。
「聞いてくれ、アンジェリカ。俺は、もう君の前で負けない。だから、もう一度俺に、ついてきてくれ」
サンシールは、立ち上がると、アンジェリカの手を取って言った。
「はーい、アウト!」
アンジェリカは、その手を振りほどくと、後ろの貼り紙を指さした。
『店主を口説いた者は、店の客全員に奢る事』
そこには、そう書いてあった。
「おおー、ゴチになります!さすが英雄様!」
「やるねえ、兄ちゃん!」
店中の客が、サンシールに拍手を送る。
「あーもう!いつから、そんな決まりが」
サンシールは、頭を抱えた。
「昨日からでーす。変なストーカーが現れたから」
アンジェリカは、横を向いて言った。
「ぐぬぬ、この国の通貨は、あまり手持ちが…」
サンシールは、懐から少しばかりの小銭を出して言った。
「全然足りないわね。もういいわ、私が何とかするから、さっさと帰りなさい」
アンジェリカは、ため息をついた。
「いや、騎士として店の決まりを破るわけにはいなかい。後日かならず、持ってくる」
サンシールは、そう言った。
「仕方ない、あんた明日、私に付き合いなさい。足りない分は働いてもらうわ」
アンジェリカは、サンシールを指さしてニヤリと笑った。
次の日、サンシールは、アンジェリカの買い物に付き合っていた。
沢山の荷物を持たされている。
『おほほほ、美形の王子様を、こき使うのは最高に気持ちいいわ!』
赤い半そでのワンピース姿のアンジェリカは、サンシールを連れまわし、満足気に笑った。
「ちょっと待って下さい。もうサンシール様を、もて遊ぶのはやめて下さい!ただではおきませんよ!」
街を練り歩く2人の前に、可愛い熊の絵の描かれたTシャツ姿のウェリオが現れた。
「ぶっ!何それ、いい歳した貴族の娘なら、もうちょっとマシな恰好をしなさいよ」
アンジェリカは、ウェリオの服装を笑った。
「こ、これは、お父様から貰った、子供時代から愛用の夏服です!安くないんですよ」
ウェリオは、頬を膨らませて抗議した。
「いいわ、あなたの服も探しに行きましょうね」
アンジェリカは、ウェリオの手を引いて歩き出した。
「ちょ、ちょっと待って」
ウェリオは、そのまま強引に付き合わされる事になる。
充分な買い物を終えたアンジェリカとウェリオは、喫茶店のテラス席で、お茶をしていた。
アンジェリカとウェリオは、向かい合って座る。
「も、もう持てない。インベントリに入れていいかな?」
二人の買い物で、より沢山の荷物を持たされ、立たされたままのサンシールは、そう訴えた。
「駄目よ!これは、罰ゲームなんですからね!しばらく、そうしてなさい」
アンジェリカは、拒否した。
「それにしても、あなた、どうしてこんなのがいいの?」
アンジェリカは、ウェリオに言った。
「あなたが、それ言いますか?随分、ご執心だったじゃないですか」
ウェリオは、顔を赤くして言う。
「んーまあ、凄い力を持ってると思ったんだけど、種を明かしてみれば、イマジンのスキルでも防げるし大した事なかったんだけど、やっぱりイケメンだし、憎めないところもあるし…」
アンジェリカは、とりとめもなく話した。
「サンシール様は、誰よりも優しく誠実な方です。不器用ですが、悪気は一切無いのです」
ウェリオは、うつむいて言った。
「まあ、とにかく短い夏を楽しまないとね。次は海よ!」
アンジェリカは、ウェリオの手をとって立ち上がった。




