第64話 戦功褒賞
ノドの城の大広間、王座にモリガン王が座っている。
その横には幻魔斎が、特別に用意された同格の来客用椅子に座っていた。
その前には、ガンスミス、イラド、アールブが膝まづいて頭を下げている。
「ガンスミス、イラド、アールブ、予定通りの働き、見事であった。ボイオカッセ国は滅亡。ほとんどの領土をノドの支配地域に加える事が出来た。我々の大勝利だ…」
モリガンが、静かに口を開く。
「はっ!」
3人が、頭を下げたまま返事をする。
「さて、問題はこれだ」
モリガン王は、インベントリから水晶の中に武将の首が封印された宝珠を取り出した。
「そ、それは!我がギルドのコンソールアイテム!」
幻魔斎が、思わず声を出す。
「次は、もっと厳重に保管した方がよいぞ」
モリガンは、特に表情を変えず、それを幻魔斎に差し出した。
「ああ、これで、我々は自由だ。この礼は必ず」
幻魔斎の目の穴から出る黒いオーラが、涙の様に見えた。
いつも笑っている黄金の仮面だが、嬉しそうなのが伝わってくる。
「さて、ガンスミス、イラド、アールブ。予定通りの見事な戦果であった」
「はっ!」
モリガン王の言葉に、3人が頭を下げたまま即座に返事する。
「ガンスミス、さらなる予算と材料を与える。新兵器の研究と増産を継続しろ」
モリガンは、言った。
「はっ!ありがたき幸せ」
ガンスミスは、満足気な顔をした。
「イラドよ、お前には望みの役職を与えるが、どうする?」
モリガンは、イラドに役職への復帰を提案する。
「いいえ、今しばらくガン殿の元での修行と強化を続けたく思います。全ては、ルイーズ一党の殲滅の為」
イラドは、固辞した。
「では、その機会があれば、優先的に参加させよう」
モリガンは、言った。
「次に、アールブ、お前は放逐する。どこぞ好きなところへ去れ…」
モリガンは、静かに言った。
「何故、この私が放逐なのです!作戦は予定通り完遂したはず!」
アールブが、思わず顔を上げて言った。
「馬鹿者め。トゥールラ撤退の一部始終は私の耳に入っている。私の元に届いたアンジェリカの、お前と幻魔斎への助命を願う手紙に応えて、命だけは助けてやるのだ。本来なら、お前と幻魔斎殿は、この場で始末するところだ。大体、お前の主人は現在、ノドを脱退している。そんな者は、既に信用に値しない。さっさと去って、主人や妹でも探すがいい」
モリガンは、そのままの口調で淡々と言った。
『ひええ、俺、ここで死ぬところだったの?』
幻魔斎は、それを聞いて震え上がった。
「くっ、了解いたしました。寛大な処置に感謝いたします」
アールブは、立ち上がると、その場を去った。
『どうせ、新しい遊びに飽きたら戻るだろう…』
モリガンは、いつも自分勝手に行動するアンジェリカに少し思いをはせた。
『最初から我々姉妹も捨て駒の一部だったというわけか。アンジェリカ様、あなたがいつも信用ならないからですよ!』
アールブは歩きながら、我が主人への恨み節を心の中で呟く。
「幻魔斎殿、コンソールアイテムが戻った以上、貴殿の信用は回復している。今後も同盟関係の維持をお願いするぞ」
アールブが去った後。
モリガンは、作り笑顔で幻魔斎に言った。
その目は、笑っていない。
「は、ははは、もちろんですとも」
幻魔斎は、しどろもどろになりながら言った。
『これ、裏切ったら絶対に死ぬやつ!』
彼は、心の中で悲鳴をあげる。
「さて、リカルド。必要ならば、姉を殺せるか?」
モリガンが、そう言うと、大広間の柱の影からリカルドが現れた。
「もちろん、即座に始末します。姉への借りは充分に返しています。さらに言えば、あの姉を始末出来る能力があるのは俺しかいません。いつでも、ご用命ください」
リカルドが、言った。
「急ぐ必要はない。確認しただけだ。今までも、あれには自由にやらせてきた。結果、毎回狙い通りになっている。新しい遊びに飽きれば、今回も戻るだろう。アンジェリカの使い方は、理解している」
モリガンは、今回の作戦も予想通りに運んだ事に満足していた。
アンジェリカへは、通常とは違う信頼の仕方をしているようだった。




